著者
三隅 譲二
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.17-31, 1991-06-30 (Released:2009-11-11)
参考文献数
18

近年、都市伝説と呼ばれるタイプの流言が注目を集めている。そして、こうした都市伝説は、流言を一時的で道具的なコミュニケーション過程であると見なす、従来の流言理論の枠組からみると、様々な点において逆説的な社会現象であるといえるのである。そこで本稿では、次のような順序で都市伝説としての流言を考察する。第一に、G・W・オルポートとL・J・ポストマン、T・シブタニ等に代表される従来の集合行動論における研究が、流言をどのような社会的コミュニケーションであると暗黙裡に仮定していたのか、これを検討する。その結果、都市伝説が従来の流言理論からみると、いかに逆説的な現象であるのかを明らかにする。第二に民俗学の概念を借りながら、筆者のイメージする都市伝説を民話型・伝説型・神話型の三つに類型化し、それぞれの都市伝説の特徴やバリエーションについて解説する。第三に都市伝説の生成・伝播・変容に関わる社会的機能やコミュニケーション機能についての定性的な分析を遂行する。この作業の過程で、災害時流言等の従来型の流言を “自己手段的流言” 、都市伝説を “自己目的的流言” と行為論の観点から形式的に位置づけることによって、ダイナミックスの次元における両者のタイプの異同について議論する。
著者
毛塚 和宏
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.194-212, 2017 (Released:2018-09-30)
参考文献数
23

本稿の目的は「個人主義の浸透により恋愛結婚が普及した」という個人主義仮説を, フォーマル・アプローチによって検討することで, 新たな理論的説明を提示することである.個人主義仮説は, 「家」や「分」を重視するような集団主義的な人々は見合い結婚を選択し, 自分の意思を尊重する個人主義的な個人は恋愛結婚を選択する, と仮定する. これに対して, 個人主義への志向と恋愛結婚の選択は必ずしも直結しない, という意識と行為の関連について批判がなされている.そこで, 本稿では「選好の進化」によるアプローチを用いることで, 意識と行為をそれぞれ独立に扱い, その単純ならざる関係を分析する. 個人主義の浸透プロセスを考慮した恋愛結婚の普及モデルを構築し, 意識と行為の時系列変化を捉える.その結果, 先行研究では想定されていなかった「慎重な個人主義」という行為パターン (選好) が析出した. 慎重な個人主義はある程度の階層維持を考慮に入れ, 見合い結婚・恋愛結婚を選択する. 恋愛結婚の普及に際して, この慎重な個人主義が, 見合い結婚中心的な社会の中で恋愛結婚を志向する選好を社会に涵養する, という重要な役割を果たすことが示唆された.
著者
西澤 晃彦
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.248-260, 1990
被引用文献数
1 1

日本の大都市においては、旦雇い労働者が集まり仕事口を得る場、「寄せ場」が形成されている。そしてまた彼ら-「寄せ場労働者」は、都市社会において排除の対象とされている。この論文では、東京の寄せ場・山谷に集う寄せ場労働者の寄せ場における社会生活の記述が目指される。その際、彼らの社会あるいは「集まり」の状態を、寄せ場労働者の社会関係を規制する規範から生じた一つの「社会秩序」として把握を試みる。さらには、そのような社会秩序の下での寄せ場労働者相互の関係、そして寄せ場を取り巻く外部社会との関係の中で彼らが見いだすアイデンティティについて述べられる。即ち、居住集団としての寄せ場・山谷における道徳秩序とそこでの寄せ場労働者のアイテンティティの内容が、具体的な社会関係の諸相の解釈を通じて導き出されるのである。
著者
福武 直
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.94-96, 1950-11-30 (Released:2009-10-20)
著者
山田 唐波里
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.128-145, 2019 (Released:2020-11-13)
参考文献数
45

本稿の課題は,現代の日本社会において人口政策を規定している規範を取り上げ,その編成過程を政治権力との関連のなかで検討することである.特に,ミシェル・フーコーの「統治性研究」を参考に,これまでの研究では扱われてこなかった近代的人口論に基づく人口政策規範に注目した.現代の人口政策論では,人口と諸要素間の均衡が破られた際に人口問題が生じるとされており,均衡の維持/回復を目指すことが人口政策を導く規範となっている.本稿ではこの規範を〈均衡化〉と呼ぶことにした.〈均衡化〉は,1918 年の米騒動を契機として隆盛した過剰人口をめぐる議論のなかで編成された.人口と食糧の不均衡によって米騒動が生じたと考えられたからである.しかし,そうした人口と食糧の関係を主題化したマルサス的な人口論に対抗する形で,人口に関連する他の諸要素を主題化した人口論が登場してくる.このいわゆる「大正昭和初期の人口論争」を通じて,最終的にそれぞれの人口論を総合する形で「人口方程式」が定式化された.さらに,この人口方程式の均衡という枠組みは,論壇における抽象的な議論で終わることはなく,政策論の理論的基盤に据えられることになる.米騒動に代表される秩序問題への対応として,政策論の領域に,暴力による抑圧や監視による規律化とは異なる,人口の水準に作用することで人びとのふるまいを導く統治性に基づいた戦略が導入されたことを意味している.
著者
関根 政美
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.329-346, 2005-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
48
被引用文献数
2 2

現在, 経済グローバリゼーションを促進する「新自由主義経済イデオロギー」が国境の開放・自由化を求めている.他方で, 国民国家政府は, 人の自由な移動を厳しく制限・管理しようとしている.本稿ではこれを「移民 (入国管理) 政策のジレンマ」として考察する.そのためまず, 近代の人口移動のグローバリゼーションの歴史を探り, 次に, 入国管理規制の変遷について概観し, 最後に, 近年先進諸国では新自由主義経済イデオロギーのもとで移民制度の整備と入国管理規制強化が進められ, 管理能力を一段と高めていることを明らかにする.その影響としてまず第1に, 下積み職種労働者・家族呼寄せ移民の入国が困難になり, 逆説的な結果として, 難民申請者や非合法入国者が増大していることを明らかにする.また第2に, 非合法滞在者・外国人犯罪増加による社会的不安が先進諸国に醸成されるとともに, 戦後の大量移民が先進諸国の多文化社会化を促進した結果生まれた「文化戦争」状況を, 極右政党の台頭を例にみる.最後に, こうした社会・文化変動のなかで「多文化主義」の変容が進み, 新自由主義経済イデオロギーにより合致した移民政策と多文化主義が登場し, 社会的弱者の多い移民・難民は, 一度は人道主義観点から入国を許可され社会に包摂されるが, 結果的には, 社会的に排除・周辺化される傾向にあることを指摘する.