著者
小林 久高
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.392-405,478, 1989-03-31 (Released:2010-05-07)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

権威主義の基本概念は、弱者に対する攻撃を意味する権威主義的攻撃と強者に対する服従を意味する権威主義的服従の結合にある。アドルノ、ロキーチ、アイゼンクの研究を検討すると、この権威主義の基本的な意味と保守主義とが密接に関係していることがわかる。この事実を説明するために、一つの図式が提出される。この図式は、概念的な観点から、権威主義と保守主義の密接な結合を明らかにしたものである。次に、シルズのいう左翼権威主義の問題が検討される。そこでは、左翼の位置する体制の違いを考慮する必要性、体制に対する態度と党派に対する態度の違いを考慮する必要性、態度とパーソナリティのレベルの違いを考慮する必要性が述べられ、自由主義・資本主義体制内の左翼は、過激主義的ではあるが、右翼に比べて権威主義的ではないという指摘がなされる。
著者
藤竹 暁
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.446-460, 1990-03-31 (Released:2010-02-19)
参考文献数
62

清水幾太郎は、「経験」を基礎にして考え、行動した思想家であり、社会学者であった。清水幾太郎の人生とその業績を明らかにするためには、清水にとって経験とは何であったのかを、探らなければならない。本稿では、清水が社会学を志望するにいたり、そして三〇歳代前半に、環境と人間に関する清水独自の理論の骨子を形成するまでの、清水の初期の経験を考察する。まず、清水が成長過程で遭遇した個人的、社会的事件を整理し、これらの事件が、清水の思想形成において、どのような経験となったかを考える。次いでマルクス主義が支配する時代状況の下で、ドイツ形式社会学に没頭し、その非現実性に飽き足らず、オーギュスト・コントの研究へたどりつき、さらにアメリカの社会学、心理学、哲学を知るにいたって、コントの人類に関する観念を、清水独自の社会学的な人間の理論へと発展させた過程をたどりながら、清水が経験の概念を確立してゆく経緯を論ずる。それはまた、思想家そして社会学者としての清水幾太郎が、人生と社会に対して示した姿勢を明らかにすることでもある。
著者
河村 望
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.431-445, 1990-03-31 (Released:2009-11-11)

日本では、社会科学は西欧からの輸入科学として、主として帝国大学のなかで成立、発展してきた。社会学も、官学アカデミズムのなかで、国家学の亜種として形成されていった。したがって、市民社会の自己認識の学としての社会学の批判性は、当初から希薄であった。そのなかで、清水幾太郎氏は、マルクス主義の立場から日本で最初にブルジョア社会学を批判した人であり、マルクス主義者から転向したのちも、アメリカ社会学、社会心理学の方法を取り入れ、戦後の日本を代表する社会学者になった。本稿はその清水氏の追悼論文であるが、ここでは主として、清水氏がマルクスおよびミードの学説を、経験的世界における生命活動、実践の見地からとらえていないこと、したがって、きわめて客観主義的にかれらの理論をとらえていることを問題にしていった。清水氏がマルクスおよびマルクス主義を理解しえなかったことは、すでに繰り返し指摘されているが、清水氏のマルクスにたいする誤解が、そのままミードにたいする氏の誤解につながっていることは、本稿において初めて明らかにされることであろう。このような事実は、清水社会学の社会学という問題だけでなく、広く日本における知識社会学の問題をも提示している。日本にあっては、人間解放の理論も、プラグマティズムも、抽象的一般理論として受けとめられ、論じられてきたのである。
著者
苅谷 剛彦
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.491-497, 1997-03-30 (Released:2009-10-13)
参考文献数
4
著者
武笠 俊一
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.53-67, 1982-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
20

目本農村の村落構造をさぐる場合、「同族団」と「親方子方関係」は、いまなお軽視できない基本的な概念であろう。それは、ふるい形態がそのまま残っているわけではないにしても、依然村落生活に強い規定力をもっているからである。本稿では、いわゆる「有賀・喜多野論争」をとりあげて、「系譜関係」概念の理論的再検討を行い、あわせて同族団と親方子方関係の異同.重複の問題を再考したい。
著者
西山 美瑳子
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.2-23,140, 1956-02-29 (Released:2009-11-11)

Sociometry, being a scientific branch of relatively recent development, employs an experimental method quite original in itself and which has never been seen in the field of social sciences. And I am confident that the method will give in the future a benificient influence and suggestion to other methodological maneuvor of social sciences in general. In sociometry, an experiment is understood as a method par excellence and not as a mere technique. It should be noticed that sociometry aims at modelling a novel type of experimental method, considering it as a modus vivendi of methodology in social sciences rather than as a simple remodelling from experimental operations of natural science, and thus at opening a new experimental possibility for amelioration of human group. There remains, however, a problem on sociometric results. Although sociometry, by its practicability and productivity, is confident and optimistic enough to be able to create a better community, the group therapy and the adjustment of human relations actually operated by sociometry are, after all considerations, frankly to de criticized as superficial and ineffective. Such deplorable circumstance comes from the fact that sociometry arbitrarily treats its sociometric interpersonal and intergroup relations derived through individual observation as the basis of all social phenomena, so that it can not deal with the relation of global society versus individual, and also from the fact that operations of sociometry is restricted by its own narrowness of purpose. From this point of view, there are inevitably some limits in utilizing the results of sociometry. Thus the sphere where the sociometry's therapy can most effectively be practised are only those groups with homogenized social background. Nevertheless, such limitation of the product of sociometry does not obscure to the importance and value of the essential experimental method of sociometry. Its positive intention and practicability to operate and adjust human relations as well as its scientific attitude in the capacity of a science concerning human action to establish a method of experiment in substatial and unified conbination between the subject and the object will surely furnish a new problem and hope to the methodology of social sciences in general. And the science that strives to operate and control social human relations based upon such methodological consciousness can not fail to accumulate a lasting merit in its method and technique inspite of its historical restriction of the age.
著者
今井 信雄
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.412-429, 2001-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
19
被引用文献数
1

阪神・淡路大震災以後, 被災地には「震災を記念するモニュメント」が数多く建てられている.記念行為が「ひとつの世界」との結びつきを再確認したいという要求をあらわすものであるならば, それぞれのモニュメントも何らかの「ひとつの世界」を想定していると考えられる。それぞれのモニュメントの指向を分析してみると, 実際は設立主体の組織としての性格に大きく影響されるものであった.設立主体の違いが, モニュメントの性格を決定づけていたのだ.震災のモニュメントは, 設立主体が組織として担っている「職務」の範囲内にあるかにみえた.けれども, 組織を越えて, ふたつのリアリティがモニュメントとしてあらわれていた.まず, 身近な人の死を追悼するモニュメントの型式があった.言葉は少なく, ただ死を死としてのみ受け取る心性のあらわれであった.次に, 「わたしたち」という言葉が数多くみられたモニュメントがあった.「わたしたち」という言葉は, 均質な空間を前提にしたリアリティのあらわれとして考えられるであろう.どちらも, 組織を越えてモニュメントを特徴づける型式として存在していたのだが, ふたつのリアリティが重なるモニュメントはみられなかった.ふたつのリアリティはまったく異なる機制によって成り立っていることが明らかになったのである.
著者
橋本 健二
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.175-190,267, 1986-09-30 (Released:2009-11-11)

社会諸階級の概念はマクロな社会構造と諸過程の研究において基底的な位置を占めるものであるが、にもかかわらずこれまで少数の例外を除いては計量的な実証研究には適用されてこなかった。本稿ではまず社会諸階級の概念を計量的な実証研究に適用するための理論的な準備作業を行ない、その上で現代日本社会を対象に、諸個人の階級所属の決定要因、所得格差、社会意識についての分析を行なう。明らかになったのは次のような諸点である。(1) 諸個人の階級所属を決定する主要な要因は出身階級と学歴であるが、両者の相対的な重要性はそれぞれの階級によって異なる。(2) 諸個人の階級的位置の違いは学歴や職業などの違いには還元できない実質的な所得格差を生み出しており、階級構造は所得の不平等の重要な基礎になっている。(3) 社会諸階級は共通の社会意識を形成する重要な基盤になっている。