著者
南田 勝也
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.382-384, 2007-12-31 (Released:2010-04-01)
著者
小川 博司
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.17-30, 1980-12-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
42
被引用文献数
1

匿名性は、社会と個人の問題を、根源的に提示する概念である。何故ならば、社会とは、固有名をもった個人が、匿名的な存在となるところに存立すると考えられるからである。A・シュッツの匿名性の概念は、この問題を考える際に、示唆に富んでいる。シュッツは匿名性の様々な程度を照射する虚の光源としてわれわれ関係を想定する。われわれ関係は、相互的な汝志向を基盤とし、そこでは他者は、時間・空間の直接性のうちに経験される。シュッツによれば、他者を間接的に経験すればするほど、他者の匿名性の程度はより高くなるとされる。尚、時間・空間の直接性は、われわれ関係の成立のための必要条件ではあるが、十分条件ではない。シュッツの匿名性の概念は、次の諸相に分節化される- (1) 機能的類型として匿名性、 (2) 「知られていない」という意味の匿名性、 (3) 社会的世界の構成原理としての匿名性、 (4) 所与の社会構造のもつ匿名性。(1) (2) は、個人としての他者の経験に関連する。 (3) (4) は、社会制度、言語、道具など、匿名性の高い領域に関連する。それらは、一方では匿名化による構成物であり、他方ではわれわれ関係の舞台に配置されている諸要素でもある。シュッツの理論では、 (3) と (4) は、匿名性とわれわれ関係という二つの鍵概念により結合されている。以上の匿名性の分節化は、社会の存立の考察、また現代社会の諸問題の考察に有用であろう。匿名性 (anonymity) という概念は、社会学においては、従来、主に大衆社会論的文脈の中で、都市社会やマス・コミュニケーションにおける人間関係の特徴を表わすものとして用いられてきた (1) 。しかし、匿名性は、社会と個人、もしくは類と個の問題を、より根源的に提示する概念であるように思われる。何故ならば、社会とは、固有名をもった人間個体が匿名的な存在となるところに存立すると考えられるからである。本論文は、主にA・シュッツの匿名性の概念の検討を通して、現代社会において、個人と社会とが絡み合う諸相を解き明かすための視角を提出しようとする試みである (2) 。以下、具体的には、シュッツが匿名性の程度を示すためにあげた例示の検討を通して、順次、匿名性の諸相を抽出し、検討していくことにする。
著者
武田 尚子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.393-408, 1999

本稿はマニラへの漁業移民を送出した明治30年代の漁業部落を取り上げ, 部落内の社会構造が移民送出を継続する方向に再編成され, 地域のアイデンティティが形成されていく過程を明らかにする。従来分析されてきた漁業集落は定置漁業を営んでいる場合が多く, 村落内の機能組織を核として, 村落の再編成が進んだことが明らかにされている。しかし, この事例で分析した部落は沖合化の傾向を持っているため, そのような経過はたどらなかった。機能組織 (漁業組合) が形成されて間もないこの時期, 県レベルと村落レベルの機能組織には乖離がみられた。マニラへの移民送出は県レベルの機能組織の動きと関連していた。この部落のリーダーの保有するネットワークの性格が, 県レベルと村落レベルの機能組織の乖離を敏感にキャッチすることを可能にし, 移民送出の端緒を開くことにつながったのである。また, 村内の他部落と漁業におけるイニシアティブを争う動きもみられたが, これも漁業関係の機能組織の二元的な構成と関連している。機能組織の二元的な構成は国や県の施策の影響を受けたものであった。部落が歴史的に培ってきた漁業の伝統はこのような国や県の漁業方針と連動して独特の展開を遂げ, 地域社会を再編成するダイナミズムを生みだし, 個性的な地域社会が形成されていったのである。
著者
柳下 実
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.343-359, 2020

家事労働研究は家事労働の分析を通して,世帯内労働の男女不平等を明らかにしてきた.特に量的な家事労働研究は,料理,皿洗い,掃除などのタスクに費やす時間や頻度から家事労働を把握してきた.しかし,これらの研究は世帯員の活動を滞りなく進めるためになされる世帯のマネジメントを見落としているという批判がある.本稿は上記の批判を発展させ,世帯のマネジメントには時間の捻出である生活時間のやりくりや,やりくりの可能性を考慮してスケジュールを構成する生活時間の組み立てが含まれると論じ,さらにそれらを女性が担っていると予想する.<br>そのうえで生活時間のやりくりを量的調査から捉える試みとして,世帯の構成が変化する結婚や子どもを持つことが生活時間に与える影響に着目し,探索的な分析をおこなった.働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査を用い,固定効果モデルで結婚や子どもを持つことによって,男女の起床・家を出る・帰宅・就寝時刻にどのような変動が生じるのかを検討した.結果から,結婚により男女とも起床・帰宅・就寝が早くなっていた.子どもを持つことは男女ともに時刻へ有意な影響を与えていたが,女性への影響がより大きく,子どもを持つ女性は起床・帰宅・就寝が男性より有意に早い.本稿の知見から子どもを持つ際の活動のタイミングを動かすという労働の負担が,女性に大きいことが示唆された.
著者
小倉 敏彦
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.346-361, 1999

本稿は, 明治・大正期の小説文学に頻出する「赤面する青年」という形象を焦点に, 明治中期における「恋愛」の受容と青年意識の変容について考察する試みである。文学作品の中に描写された, 女性を前にして赤面・狼狽する男たちの姿を, ここでは, 男女間の関係性および (恋愛対象としての) 女性像の変容に対応した, 変調の表象として読解していく。<BR>従来, 近代的恋愛の成立は, 近代的個人あるいは主観性の成立と相即的に論じられてきた。しかしながら, ここで読みとられた青年たちの逸脱的な様態は, 明治期における恋愛の発見と受容が, 主観性=主体性の成立の帰結というよりは, 一次的には, 新しい生活慣習と教養を身につけた女性たちとの対峙によって解発された, コミュニケーションと自己同一性の危機であったことを物語っているのである。
著者
坂井 晃介
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.397-412, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
38

本稿の目的は,福祉国家の制度形成に関わる理念の位置価を,とくに19世紀後半ドイツにおける「連帯Solidarität」という語の政策的意義から,知識社会学的に明らかにすることである. 既往研究はこの語の階級闘争的意義を強調するが,政策形成に関わる統治実践においてこれがいかなる意味内容をもっていたのかについては十分に明らかにされてこなかった.そこで本稿では,1860 年代から構想され1880 年代に成立していく,労働者社会保険立法にかかわる政策担当者による諸言説を,制度と理念の相互連関から分析し,この語彙の同時代的布置を探った. その結果明らかとなったのは次の点である.第1 に,同時代の政策担当者は,労働者や資本家が適切に自身の利害関心を自覚せず対立しているところに,社会問題の原因を見出している.第2 に,双方がもつべき適切な利害関心を特定し,それらを調和的に充足させるために,国家介入の重要性を主張している.第3 に,そこにおいて「利害関心の連帯」というフレーズは,階級的な闘争概念としての意味を離れて,国家介入を正当化する文脈で用いられている. こうした分析により,同時代のドイツにおける統治実践において,連帯Solidarität という語が,社会集団の秩序を特定し,それを政策的に実現することで社会国家を作り上げていくための1 つの知識として動員されていることが明らかとなった.
著者
武田 尚子
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.393-408, 1999-12-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本稿はマニラへの漁業移民を送出した明治30年代の漁業部落を取り上げ, 部落内の社会構造が移民送出を継続する方向に再編成され, 地域のアイデンティティが形成されていく過程を明らかにする。従来分析されてきた漁業集落は定置漁業を営んでいる場合が多く, 村落内の機能組織を核として, 村落の再編成が進んだことが明らかにされている。しかし, この事例で分析した部落は沖合化の傾向を持っているため, そのような経過はたどらなかった。機能組織 (漁業組合) が形成されて間もないこの時期, 県レベルと村落レベルの機能組織には乖離がみられた。マニラへの移民送出は県レベルの機能組織の動きと関連していた。この部落のリーダーの保有するネットワークの性格が, 県レベルと村落レベルの機能組織の乖離を敏感にキャッチすることを可能にし, 移民送出の端緒を開くことにつながったのである。また, 村内の他部落と漁業におけるイニシアティブを争う動きもみられたが, これも漁業関係の機能組織の二元的な構成と関連している。機能組織の二元的な構成は国や県の施策の影響を受けたものであった。部落が歴史的に培ってきた漁業の伝統はこのような国や県の漁業方針と連動して独特の展開を遂げ, 地域社会を再編成するダイナミズムを生みだし, 個性的な地域社会が形成されていったのである。
著者
木下 昭
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.529-545, 2006-12-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

現在, 西海岸を中心にアメリカ各地でフィリピンの民族舞踊が行われている.この踊りのもつ意味を, その主な担い手である学生たちの組織とコミュニティの舞踊団を事例として検討するのが, 本稿の趣旨である.この芸能がアメリカで行われる意義を問うことは, これがもともと国民国家フィリピンを体現する役割を担ってきたが故に, 現代移民にとっての祖国, そしてグローバル化のなかにある国民を理解する上で重要な手がかりを与える.これら2つの場での踊りには共通するところが多い.ともにメンバーの多くは移民2世であり, フィリピンを代表する民族舞踊団の様式を踏襲し, この舞踊が彼らの抱くフィリピンと自らについての否定的なイメージの超克をもたらしている.一方で, 2つの組織の踊りの相対的な相違も明らかになった.コミュニティにおける踊りはフィリピンへの遠隔地ナショナリズムを表示しているのに対して, 大学におけるそれはアメリカ人としてのナショナル・アイデンティティを前提とした自らの独自性 (エスニシティ) を表示していると考えられる.こうした相違を生み出す要因を論じることで, 現代の「国境を越えた」現象の一面を浮き彫りにする.
著者
居安 正
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.73-85,113, 1962-01-20 (Released:2010-02-19)
参考文献数
15
著者
西阪 仰
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.58-73,122, 1992
被引用文献数
3

およそ社会的場面は身体の集合としてある。ある一定の形式のもとに配列された身体の集合は、どうじにその各身体にとって有意味ななにものかとして経験される。ここにある種の捻れがあるのは、みやすい。つまり、身体たちが自分たちの集合を有意味なものとして経験できるのは、身体が一定の形式のもとに集められているからであり、身体の集合が一定の形式のもとにあるのは、身体たち自身が、自分たちの集合を有意味なものとして経験しているからである。本稿は、身体 (=その社会的場面への参与者) たちが、この捻れを承知し利用しつつその場面を組織していく様子にたいして、ビデオ分析により積極的な記述をあたえていこうとするものである。ゴッフマンやケンドンなどの議論を参照し、その不十分な点を指摘しながら、エスノメソドロジカルに方向づけられた「会話分析」の手法に拠って、身体の配置の構造をあきらかにする。
著者
菊谷 和宏
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.172-187, 1998

本稿は, コントからデュルケームへの社会学的実証主義の系譜の背後に隠れ, これまで我が国では顧みられることの少なかった, トクヴィルからデュルケームへの社会思想の深化の系譜をたどりながら, 我々が今日当たり前のものとして用いている社会学的人間観が, どのように形成されてきたか, その一つの過程を描き出すものである。<BR>その際, 一八四八年二月革命とドレフュス事件という近代フランス史上の二つの, 時代を画する社会的事件を取り扱い, これらの歴史的事象が社会科学的認識の形成に与えたインパクトを明らかにしつつ議論を進める。<BR>その結論として, 我々の人間観 (の少なくとも一部) が, 歴史的に形成された, 超越性 (一般・普遍性) と世俗性 (個別・具体性) という相対する二つの認識視角を, その矛盾を内包しつつかろうじて融合させることによって成り立っていること, またそのような融合にはこれを支える一つの「権威」が不可欠であることが明らかとなり, またこのような人間観の分析は「コントからデュルケームへ」ではなく「トクヴィルからデュルケームへ」の社会認識の深化の過程を追うことによって有効に行われうるという可能性が提示される。<BR>またさらに, このような人間観の形成過程が, 同時に, 今日的な意味における社会観の形成過程でもあることも明らかとなろう。

1 0 0 0 OA 支配本質論

著者
池田 義祐
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.2-17,111, 1963-09-30 (Released:2009-11-11)
著者
今野 晃
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.207-223, 2011-09-30 (Released:2013-11-19)
参考文献数
36

1965年の『マルクスのために』『資本論を読む』の出版により, アルチュセールは構造主義の代表として脚光を浴びる. こうした情況の中, アルチュセールは「重層的決定」概念を提起した. この概念は, 一般に「社会は政治, イデオロギーや経済等の諸要素が絡み合って現象する」ことを意味する概念として受容された. しかし, 彼がこの概念で提起した問題は, 通俗的見解に納まらない. 本稿においては, まず彼がこの概念を提起したコンテクストを綿密に追い, その意義を明確にする. ここで重要なのは, この「重層的決定」が社会的現実の多様性をいかにして捉えようとしたかである. この考察によって彼の理論が相矛盾する解釈, 熱烈な評価と同時に激しい批判を引き起こしたか明確にできる. 次に, この重層的決定との関連において, 彼がその後提起した「徴候的読解」を考察する. しかし, この2つの概念にはあるズレがあった. このズレは, その後のアルチュセールの「理論的転回」の本質を明確にするであろう. ただし, ここで明確になるズレは, 彼の理論に固有なものというよりも, すべての社会学的な認識や理論が必然的に直面しなければならないアポリアでもある. アルチュセールの理論的転回を見ることで, 我々はこのアポリアを明確にすることができるだろう.
著者
金子 勇
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.466-467, 1990

一九八九年になって、環境社会学や環境経済学という書物の公刊が相次いでいるが、本書はそれに先立つ二年前に環境の本格的な研究書として出版されたものである。早稲田大学グループが周到な準備と調査を踏まえてまとめあげた本書は、都市社会学的な環境パラダイムをもち、日本経済の「ひずみ」と「よどみ」と「歪み」に留意しつつ、人口集中が続く東京多摩市・多摩ニュータウン地域を分析し、その結果を人間の居住環境問題へと一般化する視点を構築している。<BR>本書の構成は次の通りである。
著者
新 睦人
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.16-36, 2008-06-30 (Released:2010-04-01)
参考文献数
173

近代市民社会は,それが形成された歴史過程から,その内部に未熟な部分をかかえこみ,解放と抑圧のアンビヴァレントな性質をおびつつ今日まで成り立ってきた.その成熟過程で生じた反近代的,脱近代的,超近代的,没近代的,前近代的など,さまざまな思想上の言説は「ポストモダン」と概括されうる1つの思想傾向として現代社会の考察にさまざまな影響を与えてきた.(全体)社会を1つのシステムとして時代診断をする,マクロ社会学の立場からは,その思想像と歴史的に実在する近代社会像とを問うことが必要である.T.パーソンズは,ヨーロッパとアメリカの近代化が産業革命と民主革命,教育革命とアソシエーションを具現したと見た.富永健一は,日本社会の近代化を論じ,「近代産業社会」のモデルを一般化した.新睦人は,前期モダンと後期モダンとを区別し,情報化,経営化,国際化,大衆化の流れに変容したととく.金子勇と長谷川公一はマクロ社会学の視点から現代の9つの流れを追究した.特殊に現代的なもっとも社会学的なテーマは,厚東洋輔が「ハイブリッドモダン」として強調する「グローバリゼーション」の現実である.さらには,モダンの1つの位相でありながら後期モダンをも超えるような〈ポストモダニゼーション〉的な兆候が見えつつある.N.ルーマンのリスク化と環境,A.ギデンズのハイモダニティと監視化,Z.バウマンの流体化の論議は,そうした兆候を説いている.
著者
林 拓也
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.334-349, 1997-12-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
28

本稿では, 現代日本において, 地域における機会の格差がどの程度個人の地位達成に影響を及ぼしているのかを分析する。データは, 1995年に実施されたSSM全国調査における25~59歳男性サンプルを用いた。方法上のアプローチとしては, (1) 地域区分に関して, 機会の多寡を反映するように, 六大都市/大都市周辺都市/地方中核都市/その他地方都市/村・町という区分を用い, (2) 地域移動の可能性も考慮に入れ, 前住地による格差を対象とし, (3) 地域移動者と非移動者とを比較する視点から分析を行った。学歴達成については, 地域格差が特に非移動者において顕著であり, 大都市およびその周辺都市の出身者が高い学歴を示す。また, 地域移動は高等学歴へのアクセス手段であることが示唆される。その変動を見るために, 出生コーホート別に分析を行った結果, 若いコーホートにおいてその格差が再び拡大していた。初職達成においては, 学歴達成の場合と異なった形の地域差が見られ, 職業威信スコアで見た場合, 教育地が大都市の者が最も低いスコア, 地方都市の者が最も高いスコアを示していた。ただし, これは地域における機会ではなく, 出身階層や教育機関の特性など他の要因によるものである。
著者
君塚 大学
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.2-16, 1981-09-30 (Released:2010-04-23)
参考文献数
35
被引用文献数
1

従来の権力構造論では、権力現象は、一元的な支配構造ではなく、その時々の争点や状況ごとに多様な形をとる多元的な構造をもつとみる見解が優越であった。しかし、最近の権力分析の傾向の一つは、こうした多様な権力現象を深部から支え、方向づける深層の構造を浮彫にしようとしている。この場合、選択し決定をくだす主体と、深層の構造という二つの要素を、理論図式の中でどう位置づけるかが重大な問題になる。S・ルークスは、構造の規定を蒙りつつもなお自由に選択しうる主体の行為として権力を想定している。これに対し、S・クレッグは、自由な選択とみられるものも深層の社会的な選択基準 (彼のいう「生活様式」) によって拘束されていると考え、しかもこの基準を一元的なものと捉えることによって主体性を排除している。この対立を架橋しうる一つの方途がM・フーコーの権力分析に見出される。彼は深層の基準 (彼のいう「知の原理」) を〈牧人型の権力〉の所産と捉え、主体性を拒んでいる。と同時に、その〈権力〉をのりこえる企てを異なった「知の原理」の体現と考えている。つまり、「知の原理」そのものに対抗的な多元性が示唆されている。そうだとするならば、権力における主体性の契機は、構造の枠内においてではなく、深層の選択基準そのものをめぐるコンフリクトの関係においてこそ成り立つ、という考え方が可能になるであろう。