著者
菅原 祥
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.20-36, 2013 (Released:2014-09-10)
参考文献数
26

本稿は, ポーランドのクラクフ市・ノヴァ・フータ地区を研究対象として, 社会主義ポーランドにおけるノヴァ・フータがかつてそこの住民にとってどのように体験され, また現在ポーランドの言説空間の中でどのように扱われているか, また, ポスト社会主義と言われる現在において, 社会主義的「ユートピア」建設という過去とどのように向き合いうるかを検討することを目的としている. かつて「社会主義のユートピア」として讃えられ, 現在では社会主義の負のイメージを全面的に背負わされているノヴァ・フータという場所は, 当時の社会主義体制がめざした「ユートピア」像に対して実際にそこに住む住民たちはどのように反応・対処したのかを考え, さらに, ポスト社会主義の現在において, 社会主義の「過去」の経験がどのようなアクチュアルな意味をもちうるのかを考える際に格好のフィールドである. 本稿は, 雑誌資料や出版物などの二次資料をおもに扱いつつも, 適宜筆者が行ったインタビュー調査を参照しつつ, ポスト社会主義の「現在」における生の中でかつての社会主義的「ユートピア」の記憶と体験がもつ意味と, そうした過去を今あらためてアクチュアルなものとして問い直すことがもつ可能性を探求することをめざしている.
著者
山本 英弘 渡辺 勉
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.147-162, 2001-06-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

政治的機会構造論は, 現在の社会運動論において主流をなす理論の 1 つだといえるが, いくつかの問題点がみられる.本稿では, 政治的機会構造論の修正を試みたうえで, 1986~1997年の宮城県における社会運動イベントのデータを用いて計量的に検証する.分析から, 以下の2点を示唆することができる. (1) 社会運動に対する政治的機会構造の影響は, 運動の類型によって異なる.したがって, 政治的機会構造がそれぞれの社会運動の類型に対してどのように影響するのかを考慮しなければならない.従来の研究ではこの点が看過されていた. (2) 社会運動の類型によっては, 運動に対する政治的機会構造が機会として影響するのではなく, 政治体による政策が運動を誘発するという影響を及ぼす.そのため, 政治体と社会運動体の相互作用をより重視する必要がある.
著者
牛島 千尋
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.266-282, 2001-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

「女中不足」は性別分業によって特徴づけられる「近代家族」誕生の背景の一つと見なされる.女中不足は, 戦間期の東京における新中間層の増加とどのように関連していたのであろうか.女中の雇用は新中間層の郊外化とどのように結びつき, そして, 東京郊外にどのような意味をもたらしたのであろうか.本稿は, これらのテーマを国勢調査と女中に関する調査データによって検討することを目的とする.第二次世界大戦以前, 女工とならんで女中は多くの若い女性が従事した典型的な仕事であった.女中不足は, 「女中奉公」の目的が行儀見習いから収入の獲得に変わった明治末からすでにあった.地域的に分断されていた労働市場が戦間期に統一されると, 東京は地方から大量の労働力を吸収した.女中は, 農村からの出稼ぎ労働者によるこの流れの一端を担った.戦間期には女中の実数は増加したが, それを上回る新中間層の増加は, 求人側と求職側の間の思惑の不一致を引き起こし, 女中不足をいっそう深刻化させた.新中間層の多くは一人の女中しか雇うことができなかったので, 妻も家事に従事しなければならなかった.結果として, 世帯内の夫と妻の間に明確な性別分業を引き起こした.このようにして, 戦間期に新中間層が増加した東京の西・西南部の郊外は, 産業化の過渡期に生まれた「女中」と近代家族の誕生とともに生まれた「主婦」からなる「二重構造」を呈する都市空間になった.
著者
長松 奈美江
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.476-492, 2006-12-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
21
被引用文献数
1

近年, 雇用調整や労働強化などにみられるように, 被雇用者の管理のあり方が変化している.被雇用者がもつ仕事の自律性の「水準」と, 被雇用者間での仕事の自律性の「規定構造」の変化に注目することで, 近年の雇用関係の変化を検証した.被雇用者がもつ仕事の自律性の「水準」は, 業務遂行において, 被雇用者と雇用主のどちらの意思がより貫徹されやすいかを表す.仕事の自律性の「規定構造」は, どのような特性をもつ被雇用者が, 雇用主との関係においてより有利な立場にあるかを表す.1979年の「職業と人間」調査, 2001~02年の「情報化社会に関する全国調査」を用いて, 仕事の自律性の「水準」と「規定構造」が変化したのかどうかを, 仕事の自律性の多母集団同時解析による検証的因子分析と, パス解析によって確認した.その結果, 男性被雇用者の仕事の自律性の「水準」は低下し, 「規定構造」に関しては, 学歴の効果の低下, 職業威信と年齢の効果の増大がみいだされた.職業威信の仕事の自律性への効果は, 職業威信による技能 (仕事の非単調性) の違いと, 解雇されやすい立場を表すパート・アルバイト率の違いによって媒介されていた.被雇用者の管理のあり方が変化し, 被雇用者の仕事の自律性の水準が低下するなかで, より解雇されにくく, 専門性の高い仕事をする被雇用者が, 仕事の自律性を奪われない有利性をもつようになったといえる.
著者
藤田 結子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.519-535, 2013-03-31 (Released:2014-03-31)
参考文献数
35

本稿は, 文化生産におけるナショナル・アイデンティティの構築について考察することを目的とする. 考察のため, 「欧米都市のアート・ワールドにおいて, どのような要因により『日本らしさ』の構築が促されているのか」という研究の問いを設定し, ファッション, インダストリアル・デザイン, 現代アートの各分野を対象に調査を行った. 調査方法にはマルチサイテッド・エスノグラフィーを用い, パリ, ロンドン, ニューヨーク, 東京などで参与観察とインタビューを実施した.調査の結果, 欧米都市のアート・ワールドでは異なる職業・役割をもつ人々を結びつける弱い紐帯が, さまざまな利益を生む活動に影響を及ぼしていた. しかし国境を越える人のフローが活発化し, アジア系のデザイナーやアーティストの活動が顕著になっている現在でも, バイヤーやコレクター, 記者・編集者など重要な判断や権力を行使する職業・役割においては, 白人が多数派を占めていた. この状況のもと, 白人性を「標準」とした価値観を基に, 日本出身のデザイナー, アーティストとその作品が本質的な「日本らしさ」と結びつけられていた.結論として, 制作者の「日本らしさ」への愛着によってナショナル・アイデンティティが再生産されているのではなく, アート・ワールドの職業・役割に見られる特徴的な人種関係と, その人種関係に基づく作者・作品への評価のあり方が「日本らしさ」の再構築を促していることが明らかになった.
著者
藤田 哲司
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.364-377, 1994-12-30 (Released:2009-10-13)
参考文献数
28

社会現象としての権威持続の中核は, 権威的指示の受容原理にあるものとして理解可能である。 そして, 本論文の目的は, 権威的指示の受容に関して敬意という要因を組み込んだメカニズムを想定し, 権威の安定を説明することである。権威の長期的安定 (権威的指示受容の長期的安定性) は, 1) 権威源泉の正統性にもとついて受容者個々人が自発的に受け入れるという側面と, 2) 受容者集団や社会圏内部で生ずる相互規制 (役割転換) によって受け入れを継続させられるという側面に分析できるが, いずれにおいても担い手に対する受容者の敬意が大きく関わっている。 つまり, 1) では, 二重の依存状態 (権威源泉-受容者, 担い手-受容者) の下で担い手が受容に関して何の期待もしないときに生じる敬意が, 源泉に対する正統性信念を喚起することによって, 受容を促進する要因となる。 2) では, 役割転換が受容継続を生み出すが, そこにも受容者個々人がいだく敬意がはたらいている。 受容者たちが自発的に逸脱者と敵対して受容圧力をかけるとともに, 通常時にも逸脱そのものを押さえることによって, 権威安定が結果する。 この権威の安定には, 自発性が深く関与するのに対し, 変化には源泉の優越的価値への合理的依存が関与している。 状況変化に伴う受容者期待分岐による役割転換の遅滞が, 権威現象変化の契機となる。
著者
保坂 稔
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.70-84, 2002

本稿は, 『権威主義的パーソナリティ』を踏まえて, 権威主義的性格と環境保護意識の関係について検討することを目的とする.権威主義的性格の多くの側面のうち, どのような側面が環境保護意識と関係しているのだろうか.検討にあたっては, 権威主義的性格の「過同調と潜在的破壊性との共存」といった特徴に着目する.まず「過同調」と「破壊性」が, 環境保護意識とそれぞれどのような関係にあるかを検証した.結果は「過同調」については負の, 「破壊性」については正の相関関係が, それぞれ環境保護意識と見られた.次に, 「過同調」と「破壊性」が共存した場合の権威主義的性格と, 環境保護意識の関係をみた結果, 権威主義的性格の人々が高い環境保護意識を持つことが判明した.最後に, 権威主義的性格の人々が持つ環境保護意識について, ナチズムにおける環境保護への取り組みを参考にして検討した結果, 「権威主義的な環境保護意識」が今日存在することが明らかになった.
著者
細谷 昂
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.2-15, 2005-06-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
23
被引用文献数
3 2