著者
田巻 松雄
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.363-380, 2005

1980年代後半以降, 東・東南アジア地域内での労働力移動が顕著になった.この現象は, 経済のグローバル化のなかでアジア経済が全体的に躍進してきたこと, およびアジア域内における国家・地域間の経済格差が拡大してきたことを反映していよう.アジア域内の労働力移動は大量の非合法移民を生み出してきた.非合法移民の発生を「法的規制を無視して入国あるいは就労する人々」が生み出す問題とみることはあまりに一面的である.本稿では, 東・東南アジアにおける非合法移民に焦点を当てた.まず, その状況を俯瞰した上で, 主に移民政策を比較する視点から, 労働力に対する需要と移民政策との乖離, あるいは移民に対する規制強化が非合法移民を生み出す関係を検討した.また, 外国人労働力の後発的な受入国に共通する特徴や論理の抽出に努めた.非合法移民は, 国益の観点から外国人労働者の効率的な利用を図る受入国の政策と, 課せられた厳しい条件のなかでよりよい仕事と生活を求める外国人労働者の抵抗のせめぎあいが生み出す1つの産物である.
著者
アルベルト マルティネリ 矢澤 修次郎 柚木 寛幸
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.13-38, 2002
被引用文献数
1

本論文において筆者は, 21世紀初頭のグローバリゼーションが急速に進行する世界において, グローバルガバナンスと権力のアカウンタビリティの問題が焦眉の課題であることを論ずる.<BR>その問題に回答をだすために, 本論文は, まずはじめに, 現代世界において進行しているグローバリゼーションを如何なるものとして把握するのかを明らかにする.筆者はグローバリゼーションを, 広い視野から, 複数の原因をもつ極めて多層的な過程と捉える.その過程から, グローバルガバナンスがもっとも重要な問題として浮上してくる.何故ならば, グローバルな舞台において, かつて国民国家や民主主義が果たした機能を担うものが形成されていないからである.筆者は, グローバルな舞台における主要な行為者を検討し, 民主的なガバナンスを担うスーパーナショナルな制度形成の重要性を指摘する.またその文脈において, 具体例をヨーロッパ連合に採り, どのようにして民主的なグローバルガバメントを形成するのかを検討する.その検討から明かになることは, そうした制度の基盤になるものは, エトスとエポスをおいて他にないということである.国際学会は, この両者を共有しており, グローバル時代においてグローバルガバナンスを確立するために少なからぬ貢献をする可能性を秘めており, より積極的な活動を展開することが期待されている.
著者
和田 仁孝
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.413-430, 2004-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
15

法は, そもそも「自律的主体」概念を要とする近代の秩序編制装置として「法主体化のプロジェクト」を推進してきた.しかし, 皮肉にもそれが可能であったのは, 法と対峙した共同的社会組織が, 法の偏頗性に起因する機能不備を補完していたからにほかならなかった.しかし, 現在, 共同的社会組織の融解にともなって, 人々の法制度への要求は過剰化し, そのことで法の機能不全も露呈してきている.法はそれが本来想定した「法主体」とは異なる, 流動的で多元的な「個人化」の波に直面せざるを得なくなっているのである.「公」「私」の境界の崩壊によって流出した「感情」や「日常的正義感覚」が, 法の個々人による「自前の解釈」への応答を要求し, もはや法は, 普遍的に妥当する実体的規範を説得的に人々の前に提示できなくなってきている.近代の「普遍的正義」という正当化原理が, 「個人化」の動きの中で, もはや有効に作動しなくなっているのである.法という, 「個人」を超越する普遍性に根拠を置く制度, 「個人化」とは対極にあるはずの制度が, 現在の, この「個人化」の流れに直面したとき, そこでは何が生じているのだろうか.ある医療事故訴訟過程の中に見られる「個人化」への対応, 司法の周縁を調整的に拡張するADRの試みなどを, ここでは検討していくことにしたい.
著者
南川 文里
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.19-32, 2004-06-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
33

本稿は, アメリカ合衆国におけるエスニシティと人種を, そのナショナルな文脈を考慮することで関係的な概念として再定義するものである.ポスト公民権期のアメリカでは, 文化多元主義と多文化主義という2つの潮流のもと, 対抗的なエスニシティ論と人種論が展開されてきた.その過程で, 社会構築物としての「人種」が, 不平等な社会構造を再生産する過程を社会学的に分析する人種編成論が登場したが, エスニシティと人種の概念的な関係を条件づけるナショナリズムの存在について十分議論してこなかった.そこで, 本稿は, アメリカの両義的なナショナリズム (市民ナショナリズム/人種ナショナリズム) が, エスニック集団の形成にどのように作用するかを考察し, 「人種エスニック編成」という枠組を提示した.人種エスニック編成における集団化とは, アメリカの市民ナショナリズムを土台として, (1) エスニック化 (「ホームランド」との結びつきにもとづく水平的な差異化), (2) 人種化 (人種ナショナリズムのルールにもとづく垂直的な序列化) という2つの過程によって条件づけられていることを示した.
著者
盛山 和夫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.92-108, 2006

一昨年のアメリカ社会学会会長ビュラウォイの講演以来, 「公共社会学」に対して熱心な議論が交わされている.これは現在の社会学が直面している困難な状況を「公衆に向かって発信する」という戦略で克服しようとするものだが, この戦略は間違っている.なぜなら, 今日の社会学の問題は公衆への発信がないことではなくて, 発信すべき理論的知識を生産していないことにあるからである.ビュラウォイ流の「公共社会学」の概念には, なぜ理論創造が停滞しているのかの分析が欠けており, その理由, すなわち社会的世界は意味秩序からなっており, そこでは古典的で経験的な意味での「真理」は学問にとっての共通の価値として不十分だということが理解されていない.意味世界の探究は「解釈」であるが, これには従来から, その客観的妥当性の問題がつきまとってきた.本稿は, 「よりよい」解釈とは「よりよい」意味秩序の提示であり, それは対象世界との公共的な価値を持ったコミュニケーションであって, そうした営為こそが「公共社会学」の名にふさわしいと考える.この公共社会学は, 単に経験的にとどまらず規範的に志向しており, 新しい意味秩序の理論的な構築をめざす専門的な社会学である.
著者
村瀬 洋一
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.21-40, 1999

政治的影響力は直接測定するのが困難であり, 全国レベルでの政治的影響力の格差に関する実証的研究は乏しかった。本研究は, 政治的影響力の指標として, 「政治的有力者との人間関係 (関係的資源) の保有量」という変数を用いて分析を行った。1975, 1995年の社会階層と社会移動全国調査 (SSM 調査) 男性データを分析した結果, (1) 1975年時点では地域間格差が明確に存在し, 議員との関係的資源は, 大都市部住民の保有は少ないことが分かった。 (2) 1995年時点でも, 大都市部住民の保有は少ないが, 町村や大都市よりも, 人口10万人未満の小規模な市において, とくに議員との関係的資源保有が多く, 地域とつきあい保有は凸型の関連があった。 (3) 資源保有の規定因としては, 年齢, 世帯資産, 自営業であること, などの変数が大きな規定力を持つ。 (4) 1995年では, 学歴や役職などの業績主義的変数が規定力を持つ一方, 地域の効果は縮小している。最近では, 政治的影響力の地域間格差の構造に変化が起きている。
著者
金 相集
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.175-191, 2003-09-30
被引用文献数
1 1

本稿はここ数年の間に幅広く普及し, 日常的なメディアとして頻繁に利用されるようになったインターネットと, 従来のメディアのなかで最も大きな影響力を行使してきた新聞との関係性を考察する.そのような公共圏を構成しているメディアの再編成によって, 公共圏における活動の主体はどのように変容しているかを考察し, また, そのような人々のメディア利用の変容とインターネット公共圏をどう関連付けて議論すべきかを明確にする手がかりとしたい.本稿では, 2000年韓国で起こった落選運動を事例として用い, それに関する新聞の報道内容とインターネット上での議論について主に「新聞とインターネットの相互参照の関係」, 「間メディア性による言説の変化」, 「メディア公共圏の複合化」という3つの観点から分析を行った.その結果, 新聞はインターネット空間で交わされる議論の主な情報源として用いられており, また, インターネット上での議論及び話題も新聞に影響を及ぼしているという結論が得られた.また, このようなインターネットと新聞の発する言説の相互参照関係によって, 一部新聞の報道内容に変化が生じていることが確認された.
著者
和泉 浩
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.54-69, 2002

音楽という芸術を, 合理化の視点からとらえることはできるのであろうか.もしそれが可能であるとすれば, 音楽の合理化の西欧近代における固有の特性とはいったいどのようなものなのであろうか.未完の草稿として残された『音楽社会学』においてマックス・ウェーバーが探求しようとした, この西欧近代音楽の合理化の過程を, 西欧音楽における二重の合理化という視点から読み解くことが本稿の試みである.<BR>ウェーバーが音楽を社会学の対象にしたのは, 音楽に用いられる音組織が歴史的に構築されるなかで, 理性がきわめて重要な役割をはたしてきたことを見出したためである.ウェーバーは, この音組織を歴史的に構築してきた原理を, 間隔原理と和声的分割原理という2つの原理に区別する.この2つの原理にもとづき, 音組織は間隔的に, あるいは和声的に合理化されてきたのである.この2つの合理化は互いに対立するものであり, 他方のものに非合理, 制約, 矛盾をもたらす.ウェーバーの議論は一見, 近代の西欧音楽を和声的合理化においてとらえ, それ以外の音楽を間隔的合理化において特徴づけているようにみえる.しかし, 西欧近代の音楽の合理化の特性は, この対立する2つの合理化の交錯においてかたち作られているのである.この西欧近代音楽の合理化の矛盾した関係を明らかにすることこそ, ウェーバーの音楽社会学の試みである.
著者
里村 和歌子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.325-342, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
35

本稿は,「作家さん」というハンドメイド作品を自ら売る主婦たちの労働的行為に焦点を当てながら,なぜ,どのようにハンドメイド作品を売ることができるのかについて考察する.具体的には,先行研究で論じられた,美術,家父長制,資本主義という三つ巴のイデオロギーによって無償労働の「穴」に追いやられてきた「手芸」が,なぜ,現代の「作家さん」たちにとっては稼得源となるのかについて,フィールドワークをとおして考察した.その結果わかったことは以下の3 つである.1)「作家さん」は家内領域でたまたま発見したハンドメイドという技能を資源として市場で売ることで経済的対価を得ているが,それらは総じて低価格である.2)低価格の理由は,「作家さん」という存在が作家である以上に,無償労働の担い手として期待される主婦を前提としているからである.しかし3)完全に無償にならないのは,「作家さん」の雇用されない,自律的な協働が商品の交換価値を生んでいるためである.労働者とも主婦とも定義しきれない中途半端な存在である「作家さん」は,家内領域を足場にしたつくり売るという行為によって,ジェンダーにより不均衡に配分された公共/家内領域の境界を知らず知らずのうちにはみ出している.
著者
宮原 浩二郎
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.46-59,114, 1989-06-30 (Released:2010-05-07)
参考文献数
33

一九七〇年代に注目を浴びた「社会学の社会学」は、社会的世界に関する知の獲得における社会学の役割について深刻な懐疑をもたらすとともに、「イデオロギー」や「知識人」の概念の根本的な見直しを促した。本稿は、「社会学の社会学」を代表した論者であるA・W・グールドナーの知識社会学と知識人論を手がかりとして、ハーバーマスとフーコーに代表されるような「イデオロギー」と「知識人」をめぐる議論の今日的状況に接近してみたい。グールドナーによる社会理論のリフレクシヴィティー (自己回帰性) の研究は、マンハイム流の「存在被拘束性」の理論の徹底化という経路を通って、社会理論におけるイデオロギー性の遍在と知識人の階級性を主題化した。それは、「イデオロギー」概念を、コミュニケーション合理性を鍵概念として再構築する試み (ハーバーマス) と、「真理」概念の実定化を通じて脱構築する試み (フーコー) という、二つの対照的な方向の分水嶺に位置する立場をよく示している。グールドナーの「リフレクシヴ・プロジェクト」を「補助線」として導入することで、「イデオロギー」と「知識人」をめぐる現段階での様々な議論の問題点が浮き彫りになると思われる。
著者
多喜 弘文
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.136-152, 2011-09-30 (Released:2013-11-19)
参考文献数
23
被引用文献数
3

本稿の目的は, 生徒の進学期待・職業期待と学校トラックの関連のあり方の日本的特徴を検討することである. そのための比較対象として, 学校と職業の結びつき方において典型的な特徴をもつとされてきたアメリカとドイツをとりあげる. 分析には, 各国の教育機関に通う15歳の生徒を調査対象にしたOECDのPISAデータを用いる.先行研究で使われてきた3つの指標を用いると, 3国の学校と職業の接続のあり方は以下のように整理することができる. 日本は, 学校による階層化の度合いが大きく, 国内で標準化されている度合いも大きいが, 学校と職業資格や技能との結びつきの度合いは小さい. ドイツは, 3つの指標の度合いが一貫して大きく, アメリカは一貫して小さい. 以上の指標の組み合わせから, 各国のトラックが進学期待と職業期待に対してもつ影響力に関する仮説を立て, それを検討した.分析結果は以下のとおりである. ドイツではトラックが進学期待と職業期待を強く規定しているが, アメリカではこれらに対するトラックの規定力は弱い. これに対し, 日本では所属するトラックが進学期待を強く規定するが, 職業期待とは弱い関連しかもたない. 以上の分析結果は, それぞれの国の学校と職業の結びつきに関する3つの指標のパターンと整合的に解釈できるものであり, 学校と職業の接続を背景としたトラックが生徒のアスピレーション形成に及ぼす影響の日本的特徴が明らかになった.
著者
河原 和枝
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.431-432, 2008-09-30 (Released:2010-04-01)
著者
宮島 喬
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.55-76,142, 1966-03-30 (Released:2009-11-11)
参考文献数
4
著者
梶田 孝道 野口 裕二
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.318-321, 2004-03-31 (Released:2010-04-23)
参考文献数
4
被引用文献数
2