- 著者
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坂元 宗和
- 出版者
- The Linguistic Society of Japan
- 雑誌
- 言語研究 (ISSN:00243914)
- 巻号頁・発行日
- vol.1990, no.98, pp.27-45, 1990-12-25 (Released:2010-11-26)
- 参考文献数
- 34
上代日本語のe甲, O甲の来源は, 開口度の増加によるi甲>e甲, U>o甲であり, 母音音節の場合はそれぞれye, woに発展した。上代は短い期間なので, 古い用例が必ずしも古形とは言えず, 改新の先駆である場合がある。従って, i甲~e甲, u~o甲のダブレットの用例の新旧から変化を判定するのではなく, 別の音韻変化を伴う語例を利用した。たとえば, e甲の場合には, フキ甲 (吹き) とフ江 (笛) を結びつける中間形*ブイ, o甲の場合には, シヅ江 (下枝) の前項とシモ (下) に共通祖形*シムを推定すれば, 各一方は自然な音韻変化であるから開口度の増加が結論できる。さらに, ビアトゥス回避の法則がからむ語例と, 同音語を導く枕詞の例を補足し, 傍証とした。通説のa後接説の根拠となった完了の助動詞リは連体形にアリが付いて成立したものではなく, アリの異形態リが付いたものであることを, 他のビアトゥス回避の結果から推測した。従って, i甲+a>e甲, u+a>o甲ではない。