著者
野中 直子
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.135-149, 1998-06-30
被引用文献数
5

骨層板が積層して構築されている成熟骨では緻密質内にはコラーゲン細線維がほぼ一定の方式にかなって配列されている.すなわち, 骨層板内のコラーゲン細線維の配列の主方向は骨に作用する応力の方向と一致していて, 骨組織に加わる牽引や歪みに抵抗しうる力学的合理性をもった配列を呈すると考えられている.一方, 海綿質の骨小柱は圧迫に抵抗するように応力線に一致した配列を示しており, 骨全体としての力学的強度の支えとなっている.下顎骨においても外形の異なった骨と共通の内部構造を備えている.下顎骨には筋の作用による牽引力が他の形態の骨と同様に加わるが, 歯からの咀嚼圧も応力として加わり, 成人の下顎骨を構成している骨層板は咀嚼筋による牽引や咀嚼力に適合した構築を呈していると考えられている.本研究では下顎骨の緻密質の骨層板を構築しているコラーゲン細線維と, 下顎骨に加わる応力とについて検討する目的で, 解剖学実習用男性遺体の若年者から摘出した有歯下顎骨の基質線維構築を高分解能の走査電子顕微鏡で観察した結果を考察した.若年者の下顎骨の外基礎層板の最表層は全域が束状のコラーゲン細線維からなる基質線維束で構築されていたが, 基質線維束は下顎骨の各部では骨に加わる応力に適合した配列を呈していた.歯槽縁は密に配列された近遠心方向に走向する基質線維束からなっていたが, 基質線維束は上前方から下後方への配列に変化して歯槽部を構築する線維束に移行していた.歯槽部はほぼ上下方向または上前方から下後方に配列された基質線維束で構築されていた.歯槽部から下顎体部への移行部では上前方から下後方に走向する基質線維束は下顎体部では近遠心的な配列になる.下顎体部はほぼ近遠心方向に走向する基質線維束で構築されており, 下顎底部も下顎骨の下縁に平行な近遠心的な配列を示す基質線維束からなっていた.下顎体内側壁では顎舌骨筋線の上部は上前方から下後方に走向する基質線維束で構築されていたが, 下後方への基質線維束は顎舌骨筋線上で近遠心方向に配列された線維束に移行していた.咬筋粗面では基質線維束の間隙に咬筋の腱が数多く侵入していた.外基礎層板では最外層は基質線維束がほぼ近遠心方向に配列された約2.5μmの厚さの層板からなっており, 隣接する層板は約1μmの厚さで基質線維束はほぼ上下方向に配列されていた.外基礎層板では基質線維束の走向の異なる層板が交互に積層されていた.ハバース層板を構成する骨単位は約4μmの厚さの層板と約1μmの厚さの層板とが交互に配列されていた.骨単位を構成する厚さ約4μmの層板内の基質線維束はほぼ長軸方向に配列されており, 厚さ約1μmの層板内の基質線維束は同心円状の走向を呈していた.骨単位の各層板内では基質線維束は平行に配列されているが, 隣接した層板問では基質線維束は斜めに交叉していた.
著者
澤田 久 山縣 健佑 張 仁彦 下平 修
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.125-151, 1996-06-30
被引用文献数
9

高速VTRシステムを用い, 顔面の運動経路を3次元解析した.画像処理装置によるオートトラッキングを行うための標点を作製し, 被検者顔面皮膚上に皮膚用粘着材で貼布した.被検者は, 上下顎無歯顎者3名, 被検音は, 短文「桜の花が咲きました」である.計測部位として, 鼻下点, 上口唇赤唇部上縁, 下口唇赤唇部下縁, モダイオラス部, オトガイおよび切歯点として下顎義歯の中切歯唇面からワイヤーを口腔外へ延長し, 標点を設けた.発音中の被検者の顔面正面と側貌を2台の高速テレビカメラ (nac社製) により高速ビデオカセットレコーダー (nac社製) で録画した.同時に, 音声を, 同一ビデオテープに録音した.得られた音声出力をDSP Sona-Graph (KAY社製Model 5500) に導入し, time-waveおよびスペクトログラム (3D Sonagram) から各音の発生および終了時点を求め, 解析対象区域を規定した.画像解析装置 (Image Data : ID-8000, nac社製) により解析対象区域間の各標点をオートトラッキングして自動解析し, 3次元座標を求め, コンピュータに転送し, 3次元運動解析ソフト (MOVIAS 3D, nac社製) を用いて立体構築した.解析項目は, (1) 空間的移動距離累計 (TL), (2) 計測区分開始点と終了点間直線距離 (SL), (3) TLとSLの比率 (TL/SL), (4) 立体移動範囲 (CR), (5) 方向変更角度 (TH) である.以上の結果, 下顎および各計測点の被検音全体の発音中の運動経路のTL, CR, THは, 無歯顎時 (A) より義歯装着時 (C) の方が小さいことが明らかになった.また, 被検音に含まれる他の母音および各子音の中で, /s/, /∫/, /m/発音中には, 特異の運動経路を示すことが認められた.
著者
松本 光吉 富永 明彦 斎藤 祐一 若林 始
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.233-236, 1993
被引用文献数
7

1954年, Nelsonらによって開発されたタービンが世に出て, 約40年の歳月が流れたが, 依然として, タービンによる歯質切削時の不快音, 象牙質切削時の麻酔の必要性は完壁には改善されていない.これらの諸問題を前進させるために開発された酸化アルミニウム粉末噴射法について, 噴射時のエナメル質, 象牙質切削面の形態学的変化を検討するために本実験を行った.被験歯として, 人の抜去歯20本を使用した.酸化アルミニウムの粉末粒子の径は約27μmと約50μのものを使用した.また, 噴射装置は, American Dental Laser社のKCP-2000を使用した.噴射速度はSlowが80 psi (5.6) kg/cm<SUB>2</SUB>, Mediumが120 psi (8.4kg/cm<SUB>2</SUB>), Highが160 psi (11.2kg/cm<SUB>2</SUB>) であった.切削法は粒子の大きさと切削速度を組み合わせて, 約1-2mmの距離より粉末を歯質表面に噴射した.なお, チップの直径は約0.34mmで, 噴射時に生じる切削片や粉末は付属のバキューム装置で吸引した.切削而の観察は, 肉眼的, 実体顕微鏡, 走査型電子顕微鏡によって行った.その結果, 酸化アルミニウムの粉末の粒子の大きさ, 切削速度の差によって, 切削面の形態学的差はなく, 滑沢な, 砂丘状を示した.酸化アルミニウムの粉末および切削歯質は噴射時に大方は飛散してバキュームにより吸引されたが, 一部は歯表面に残存していた.特に象死質では, 躯細管内に圧入されていた.歯融象頒の切削時に, 周囲と明らかに区別される物質が観察された.なお, 以上の観察所見には炭化や溶解.嫉凝固などの変化は観察されず歯質の本来の色調を示していた.
著者
奥津 朋彦 小林 誠 小出 容子 高田 貴虎 滝口 尚 山本 松男
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.165-172, 2007-09-30
被引用文献数
1

近年, 培養歯根膜細胞やそこから分取した組織幹細胞の歯周組織再生への応用は, より確実な歯周組織再生療法を確立するための一つの戦略であると考えられている.しかし, この細胞集団はヘテロであり, 現時点では種々の問葉系細胞の前駆細胞や問葉系幹細胞がどの程度存在するかを直接的に知ることはできない.そこで本研究では, このような細胞療法を確実なものにするための第一段階として, 培養ヒト歯根膜細胞 (HPL cells) の骨, 脂肪, 軟骨への分化能を, コントロールとして使用したヒト骨髄問葉系幹細胞との比較において定性的に評価した.その結果, HPL cells中には骨芽細胞様細胞が豊富に存在しており, また脂肪細胞前駆細胞も存在するもののその数は著しく少ないこと, 一方, 軟骨細胞前駆細胞の存在の可能性は著しく低いことが明らかになった.さらに, 脂肪細胞前駆細胞はHPL cellsから分取したalkaline phosphatase陽性細胞率の低い細胞集団に多く存在していた.
著者
古川 周 山縣 健佑 金 修澤 北川 昇
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.147-163, 1992
被引用文献数
13

調音動作のスムースさを判定するためには, 音発生中のみならず, それ以前の口腔の動態を観察することが重要である.そこで, 正常者10名について [sa, ma] の発音前後を含めて, (1) 切歯点, (2) オトガイ点, (3) オトガイ中間点, (4) 下口唇, (5) 上口唇の運動経路を解析した.MKGによる切歯点または顔面側貌上の標点とリアルタイム音声周波数分析表示装置 (SSD) による声紋の両画面をハイスピード・ビデオ装置によって同一テープに記録する.テープを低速再生し, モニター上で声紋像を参照して子音発音時点を求め, 調音運動開始から子音発音終了後までを4時限に区分して標点の座標を入力する.運動経路の複雑さを表現するため, 直線距離 (SL), 移動距離累計 (TL), 迂回度 (T/S), 移動範囲面積 (AR), 方向変更角度 (TH), 速度 (V) を演算処理するソフトを開発し, 比較したところ以下の結果を得た.1.調音運動開始時から子音発音開始時までは複雑な動きをするが, 特に子音発音開始時点の400msec前から200msec前までの間は移動が少ない.2.上口唇以外では, 子音発音開始前より子音産生中の方が直線距離と移動範囲面積, 速度は大きく, 迂回度と変更角度の値が小さく, 子音発音中には直線的に早い速度で移動している.3. [sa] では, 切歯点では音産生前にいったん開口し, 子音開始位で再び咬頭嵌合位に接近する.子音発音開始位では, ほとんど静止状態になるが, 子音発音中央位では開口し, 速度も大きい.したがって, 子音発音開始位で [s] 音の固有の構えになる.4. [ma] では, 下口唇とオトガイ点が子音開始位で [m] 音特有の構えになる.切歯点は子音発音開始時点の200msec前から子音発音開始位までの動きが小さく, むしろ子音産生に先だって一定の構えになる.5.このように単音節の発音時には, 発音中央位よりも子音開始位あるいはその直前の位置が重要と思われる.
著者
佐野 恒吉 江川 薫 野中 直子 滝口 励司
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.343-352, 1999-12-30
被引用文献数
1

硬組織の形成部位のカルシウム (Ca) やリン (P) の含有量を定量分析する方法ではエネルギー分散型X線検出器 (EDX) を用いる方法が分析例の多さ, 試料の扱い, そして分析精度の点で現在のところ最も優れた方法である.しかし, 歯科領域の分析ではCaとP濃度は同時に測定されることが多く, EDXの通常の設定では, 硬組織, 特に歯の象牙質における管間及び管周象牙質などのように, 分析したい部位が必ずしもCaやPのX線発生領域よりも広くない場合が多い.本研究では, このEDXが据付られた走査電子顕微鏡S-2500CX (日立) で, 硬組織上にどの程度まで小さな分析領域を取ることができるかを, 加速電圧の変化に伴う試料中のX線発生領域の変動と試料の分析面を傾斜させることにより分析値の変化を観察した.そして, これらの結果を基に, 走査電子顕微鏡 (SEM) の分析仕様の限界の7kVの加速電圧で, ラットの下顎の切歯断面の象牙質の表面をX線検出器に向かって角度27.5°に傾斜させてX線分析領域を最小にして, CaとPを分析できた.最初は, 象牙質の唇側の管間及び管周象牙質でSEMの加速電圧の違いによる分析値の変化を観察するため, 加速電圧が7と10kVそして15kVでCaとPの含有量の分析を行った.この唇側の結果から加速電圧が7kVで最も正確な濃度が得られたが, 10kVのときの値に対して有意な違いがなかった.次に, 加速電圧7kVの唇側の結果に合わせて舌側とその中間の近心側と遠心側の管間及び管周象牙質も同様に分析した.その結果, 管周象牙質のCa及びP濃度に有意差が見られず, エナメル質に関連する唇側の管周象牙質のCa含有量は舌側管周象牙質より高かった.
著者
鈴木 利彦 藤森 伸也
出版者
昭和大学・昭和歯学会
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.134-146, 1992-06-30 (Released:2012-08-27)
参考文献数
50
被引用文献数
8

チタンは表面に不動態被膜 (酸化物被膜) を生成するので, 耐食性及び生体親和性に優れていることが認められてきたが, 生体材料の用途としては, コントロールされた方法で酸化物被膜を付与し, なおかつ, 硬さ, 耐摩耗性, 耐食性などをさらに向上させることが望ましい.そこで本研究では, 電解液中でチタン板を陽極にして陰極と試作のパルス電源で接続し, 火花放電開始電圧以上の電圧を印加して陽極近傍で液中放電を発生させ, この現象を利用してチタン板へ酸化物被膜の生成を行う新しい方法 (放電陽極酸化処理) を開発した.放電陽極酸化処理では, 供給エネルギーをコントロールして, 通常の陽極酸化処理よりもはるかに厚い (μmオーダ) 酸化物被膜の生成が可能であった.被膜の母材への密着性は良好で, 硬さや耐摩耗性が向上し, 耐食性についても改善されていた.放電陽極酸化処理面には微小な小孔が生成していたが, この小孔の大きさも, 供給エネルギーでコントロールすることが可能であった.培養細胞を用いた細胞培養実験の結果, 放電陽極酸化処理面は, 母材のチタンと同等以上の良好な生体適合性を有していることが認められた.これらの所見から放電陽極酸化処理はチタンを生体材料として用いる場合の有効な処理になると考えられる.
著者
梅澤 正樹 今泉 薫 樋口 大輔 丸山 淳 本村 一朗 吉野 智子 胡田 由美子 船登 雅彦 川和 忠治
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.195-203, 1996-09-30
被引用文献数
12 7

本研究は, 平成5年度に昭和大学歯科病院第一補綴科で装着されたクラウンおよびブリッジに関して, その総製作数, 種類および割合, 支台歯の有髄, 無髄等を統計的に調査し, 歯冠補綴治療の現状を把握することを目的として行われ, 以下の結果が得られた.1.クラウンとブリッジの総数は1,202個で, クラウンが1,022個 (85.1%), ブリッジが180個 (14.9%) であった.2.クラウンにおいて最も多いのは全部鋳造冠572個 (56.0%) であった.次いで陶材焼付鋳造冠183個 (17.9%) とレジン前装鋳造冠183個 (17.9%) で, 陶材焼付鋳造冠は平成4年度の288個と比較して大幅に滅少した.また平成3年度に一例も装着されなかったレジン前装鋳造冠が平成4年度では110個 (10.2%), 平成5年度では183個 (17.9%) と大幅な増加を示した.3.クラウンは前歯部ではレジン前装鋳造冠が約50%, 小臼歯部では全部鋳造冠が約70%を占め, 大臼歯部では約90%が全部鋳造冠であった.4.ブリッジは臼歯部に約60%, 前歯部および前歯部から臼歯部にわたるものが, それぞれ約20%ずつ装着されていた.5.ブリッジは前歯部, 臼歯部において1歯欠損2本支台歯が最も多かった.前歯部から臼歯部にわたるものにおいては, 2歯欠損3本支台歯が多かった.6.クラウンにおける保険診療は74.3%であり, ブリッジにおいては76.7%であった.7.クラウンの支台歯における無髄歯は88.8%, インプラント支台0.9%であり, ブリッジにおいては無髄歯が75.4%であった.
著者
村上 正治
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.148-167, 1993
被引用文献数
6

極小未熟児・超未熟児乳歯の形態学的特徴を客観的に明らかにすることを目的として, 本研究を行った.対象は本学小児歯科外来で管理中の, 出生体重1500g未満の小児のうち, 現在全身状態に問題のない小児50名である.資料は, これら対象児が平均4歳0か月になった時点より得られた口腔内診査記録・口腔内写真, 歯列石膏模型および交換期により脱落した抜去歯である.その結果以下の結論を得た. (1) 模型分析より, 歯の大きさの平均は歯冠近遠心幅径において, 全歯で標準値の-1SD前後小さく, 歯冠唇 (頬) 舌径では, ほぼ全歯で標準値の-1SD以内の小さい値を示した. (2) 形態異常については, 癒合歯が健常児にくらべ高い発現率 (14.0%) を示した・ (3) エナメル質形成不全は, 50名中41名に認められ, その発現率は, 82.0%であった. (4) エナメル質形成不全における減形成の発現部位は, 上顎前歯部に多く, 石灰化不全は上下顎の臼歯部に多く認められた. (5) 歯の平均微小硬度数は, エナメル質で308.4, 象牙質で42.9で, ともに健常児にくらべ低い値を示した・ (6) 光顕的観察では, エナメル質新産線の発現位置が健全歯に比較して切端寄りに認められ・Retzius線が明瞭に認められた.以上の結果から極小・超未熟児の乳歯の大きさは小さく・形態異常・形成異常が多く, 歯質の硬さは低く, 石灰化不良な状態であることが示唆された.
著者
池田 亜紀子 勝部 直人 長谷川 篤司
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.284-289, 2007-12-31
被引用文献数
7

2006年度からの臨床研修必修化と同時に, 本病院における研修医数は従来までの倍以上となり, 研修システムの改革, また, 研修施設の増加などで対処しているものの, 病院全体の患者数に変化のないことから, 臨床研修医の担当する患者が相対的に少ない状況となっている.本研究では, 今後の研修医担当患者の確保のための資料とすることを目的として2003年4月から2006年3月までの3年間に昭和大学歯科病院総合診療歯科を受診した新患患者の, 初診時年齢, 性別, 初診時医療面接により得られた疾患について調査した.さらに, 研修医が担当した患者についても同様の調査を行い, 病院全体の動向との違いについて検討し以下の結果を得た.総合診療歯科での初診医療面接を経験した患者総数のうち研修医に配当される割合は約18%であった.男女比に関しては総合診療歯科に来院した新患患者総数と研修医配当患者総数に違いはなく, 女性が男性の1.5倍多く来院しており, 女性は20代, 30代, 50代の順に, 男性では20代が一番多く来院していた.さらに月別の新患患者の割合に関して, 総合診療歯科で医療面接を行った新患患者総数では12月が1年間の新患患者の6.0%で最も少ないほかは年間を通してほぼ一定していた.一方研修医に配当された患者では5月, 6月がそれぞれ1年間の新患患者の13.5%, 12.3%を占め, 3月が4.3%と最も少ない結果となった.疾患別では, 研修医に配当された患者では, う蝕・WSDが39.6%と圧倒的に多く慢性歯周炎が19.2%, ついで有床義歯, 根尖性歯周炎の順であった.これに対して総合診療歯科に来院した新患患者総数の結果ではう蝕・WSDが23, 5%と最も多く, 慢性歯周炎が17.1%ついで根尖性歯周炎, 有床義歯の順であった.根尖性歯周炎の割合は総合診療歯科来院新患患者総数と比べて研修医に配当された患者数では明らかに低い.根尖性歯周炎を主訴として来院する患者の多くは急性症状を伴っており, 1年次研修医では急性症状を有する患者には適切な対応がしにくい場合が多い.また総合診療歯科では研修医がすべての初診患者に対し, 治療計画立案のための資料採得を行うため, 初診時に急性症状のある患者は配当しにくいという現状があるが, これらは経験すべきことであり, 急性症状に対応できる能力を有する指導医, 協力医の数の充実が望まれる.
著者
山崎 亨
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.48-67, 1983

本研究は24-26時間という短い時間で吸収と形成が行われているウズラの骨髄骨関与細胞を超薄切片法および凍結割断レプリカ法により検索したものである・産卵期ウズラをKarnovsky液で遷流固定し10%EDTA溶液で脱灰, オスミウム酸で後固定したのち酢酸ウランでブロック染色をし, 通法に従いPoly Bed 812で包埋, 薄切した.酸フォスファターゼ反応にはGomoriの鉛法, カルシウム反応にはアソチモン酸カリウム溶液を用いた.凍結割断レプリカ法としては脱灰試料をグリセリソで浸漬置換したのち-110℃で割断し, Pt-C蒸着を行ってレプリカを作製した.超薄切片では破骨細胞に活性型, 移行型および休止型の像が観察され, なかでも活性型破骨細胞は骨面にrufned borderを伸ばし, 同部では細胞膜部に骨の吸収と関連があるといわれる "sub unit" がみられた.またその部の酸フォスファターゼ反応およびカルシウム反応でも移行型や休止型破骨細胞に比べ強い反応を示した.一方, 骨芽細胞には活性型および休止型の像がみられ, 活性型細胞は休止型細胞に比べてゴルジ装置, 粗面小胞体がより多く観察された.この細胞のカルシウム反応は細胞膜, ミトコソドリアに著明にみとめられた.さらに骨細胞では幼若型骨細胞, 成熟型骨細胞および変性型骨細胞と区別できたが, 幼若型骨細胞は骨芽細胞に類似し骨形成, 逆に成熟型骨細胞はライソゾーム穎粒やpinocytotic vesicleの所見より骨吸収機能をもつことが示唆された.以上の細胞のレプリカでの膜内粒子の1μm<SUP>2</SUP>当りの値をみると, 活性型破骨細胞ではrufHed border部が2,000/μm<SUP>2</SUP>と休止型の2倍の数を示し, 骨芽細胞も活性型は800/μm<SUP>2</SUP>と休止型の2倍の数であった.これに対し骨細胞は変性型骨細胞を除き, 他は数に大きな差はなく幼若型骨細胞, 成熟型骨細胞ともに400/μm<SUP>2</SUP>前後の数を示した.以上のことより膜内粒子の存在は, 骨組織の吸収と形成のための物質の流れ, および酵素的な働きと重要な関連をもっていることが示唆された.
著者
大城 卓寛 塩谷 あや 横谷 浩爾 佐藤 友紀 柴崎 好伸 佐々木 崇寿
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.121-129, 2002-06-30

ヒト乳歯の生理的歯根吸収の細胞機構を調べるため, 破歯細胞における液胞型H<SUP>+</SUP>-ATPase, カテプシンK, MMP-9, RANKLの免疫組織化学的発現を調べた.H<SUP>+</SUP>-ATPase, ライソゾーム性のタンパク分解酵素であるカテプシンK, MMP-9はそれぞれ, アパタイト結晶の脱灰と1型コラゲンの分解に重要な酵素群である.さらにRANKLは, 破骨細胞の形成と機能発現に重要な調節分子の一つである.破歯細胞は吸収中の歯根象牙質表面に, 波状縁と明帯を広範囲に形成した.免疫電子顕微鏡像では, 液胞型H<SUP>+</SUP>くATPaseの発現を示すコロイド金粒子の分布が破歯細胞の空胞の限界膜と波状縁の形質膜に沿って観察された.破歯細胞におけるカテプシンKは, 空胞内, ライソゾーム内, 波状縁の細胞間隙, および吸収面の象牙質表層の基質に観察された.破歯細胞におけるMMP-9の発現はカテプシンKの発現と類似していた.RANKLは象牙質吸収面に局在する単核の間質細胞と破歯細胞の両方に見出された.これらの結果から, (1) 破歯細胞はH<SUP>+</SUP>-ATPaseによるプロトンイオンの能動輸送によるアパタイト結晶の脱灰, そして (2) カテプシンKとMMP.9の両方による象牙質1型コラゲンの分解に直接関与しており, (3) 破歯細胞の分化と活性は, 少なくとも部分的には, RANKLによって調節され, さらに (4) RANKLは吸収組織において単核の間質細胞と破歯細胞自身によって生成されていることが示唆された.このように, ヒト乳歯の生理的歯根吸収における細胞機構は破骨細胞性骨吸収機構と極めて類似していることが明らかとなった.
著者
代永 裕子 島田 幸恵 井上 美津子 佐々 龍二
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.404-410, 2002-12-31
参考文献数
12
被引用文献数
7

本学小児歯科来院患者の実態調査は, さまざまな角度からこれまで5報まで報告してきた.今回, 最近の当科小児歯科外来患者の動向を把握する目的で, 新患来院患者を対象に年齢, 主訴, 地域, 月別, 曜日別の来院状況等について調査検討した.対象は, 平成11年 (1月~12月) の1年間の新患来院患者750名である.1) 平成11年の新患来院患者数は750名で, 開設以来年々緩やかな減少を示している.2) 来院患者の内訳としては, 健常児547名, 心身に何らかの障害を持った患児111名, 唇顎口蓋裂児92名であった.3) 平均年齢は, 健常児5歳8か月, 障害児6歳5か月, 唇顎口蓋裂児2歳3か月であった.4) 月別の来院数を比較すると, 6月に最も多く, 次いで4月, 7月と続いていた.5) 曜日別の来院数では, 月曜日に最も多く集中していた.6) 地域別来院患者においては, 周辺地域からの割合が70%以上を占めていた.7) 主訴については, 齲蝕治療を希望する患児が圧倒的に多く, 歯列不正, 外傷と続いていた.8) 健常児の一人平均df歯数は, 4歳代が最も多く, 6.25歯であった.9) 健常児において, 4歳以下の患児では60%に歯科治療経験がなかった.10) 来院患者全体のうち, 70%が治療, 定期診査と続いていた.これまでの報告と比較すると, 心身に何らかの障害を持った患児の増加, 主訴の多様化, 以上の点で特徴がみられた.
著者
菱川 健司
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.69-80, 1993

扁平上皮細胞の角質層の形成には間葉系細胞との相互作用が重要な要因となっている.そこで本研究は舌粘膜上皮より分離した上皮細胞の基質としてコラーゲン・ゲルを用い, そのゲル中に舌粘膜結合織より分離した線維芽細胞および鼠頚部皮下脂肪組織より分離した脂肪細胞をコラーゲン・ゲル中に含有させた.これらの問葉系細胞の含有の違いや上皮層の空気暴露の有無による上皮細胞の分化形態を検索した.いずれの間葉系細胞を含有しないコラーゲン・ゲル表而に上皮細胞を培養した場合では上皮細胞の空気暴露の有無に関わらず, 角質層の形成は認められなかった.また, 上皮細胞の特有な構造であるトノフィラメントの形成は少なく, 基底膜やヘミデスモゾームの形成は認められなかった.コラーゲン・ゲル中に線維芽細胞を含有させた場合, 細胞を含有しないコラーゲン・ゲルでの培養と比較し, 空気暴露の有無に関わらず, 上皮細胞の重層化を強く認めた.この上皮の重層化は空気の暴露により促進され, 上皮の表層細胞でケラチンパターンを示す角質層が部分的に形成されていた.コラーゲン・ゲル中に線維芽細胞および脂肪細胞を含有させた条件で培養し, 上皮細胞を空気に暴露しない場合では上皮細胞の重層化は3-4層を呈したが, 空気暴露した場合では10層以上の上皮の重層化を呈した.さらに, すべての上皮表層の細胞はケラチンパターンを呈する角質層が形成され, 加えて, ケラトビアリン顆粒や基底膜の形成が認められた.以上のことより, 上皮細胞の正角化の形成やケラトピアリン顆粒の形成などは間葉系細胞との相互作用および上皮細胞への空気暴露が不可欠な因子であることが示唆された.これらの因子は上皮細胞の特有な細胞構造であるデスモゾーム, トノフィラメント, 基底膜およびヘミデスモゾームなどの形成にも強く関与していることが判明し, この方法は, in-vitroの角化上皮の非常に優れた三次元的培養系となることが示唆された.