著者
郡 拓也 東條 正典 藤井 亮輔 野口 栄太郎 坂本 裕和 秋田 恵一
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.811-818, 2010 (Released:2011-05-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1 3

【目的】WHOにより標準経穴部位(361穴, 2006)の合意が成され、 それに伴って秩辺の取穴場所の変更が行われた。 新旧両秩辺とその周囲構造物との位置関係および腰痛に対する治療部位としての坐骨神経への刺鍼点について検討した。 【方法】東京医科歯科大学解剖学実習体3体6側を使用した。 殿部および大腿後面における太陽膀胱経に、 WHOの取穴方法に従って刺鍼を施し、 その部位を中心とした局所解剖を行った。 【結果】1.新秩辺(WHO, 2006)は、 後大腿皮神経、 下殿神経・動脈、 坐骨神経が出現する梨状筋下孔の近傍に位置した。 2.旧秩辺は上殿神経・動脈が出現する梨状筋上孔の近傍に位置した。 3.殿部および大腿後面での坐骨神経への刺鍼部位として、 (1)坐骨神経形成根部、 (2)梨状筋下孔、 (3)仙尾連結と大転子を結ぶ線上の外側1/3点、 (4)坐骨結節と大転子を結ぶ線上の中点、 (5)承扶の約1cm外側の地点、 (6)殷門の外側、 大腿二頭筋筋腹の内側半部、 が挙げられた。 【結論】1. 新旧両秩辺とも殿部および大腿後面にとって重要な神経・血管の近傍に位置し、 種々の病的症状に対する有効な刺鍼部位と考えられる。 2. 殿部および大腿後面での坐骨神経に対する刺鍼部位として、 走行経路より6カ所が示唆された。
著者
大川 祐世 川﨑 寛二 深澤 洋滋 増山 祥子 山下 仁 若山 育郎
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.225-231, 2019 (Released:2020-07-13)
参考文献数
6

日韓鍼とEBMワークショップは全日本鍼灸学会と大韓鍼灸学会との学術交流の場である。 第9・10回の日韓鍼とEBMワークショップのテーマはいずれも 「診療ガイドライン=Clinical Practice Guidelines; CPG」 であった。 第9回は大阪で開催され韓国から3名、 日本から2名が講演を行った。 第10回は韓国、 チェチョン (堤川・Jecheon) で開催され日韓双方から2名ずつ講演を行った。 韓国は韓医学診療ガイドラインをいくつも作成しており、 第9回・10回ともにそれらの作成状況および改良のためのプロトコル等が報告された。 対して日本は未だ鍼灸の診療ガイドラインは作成されていないため、 鍼灸について記載のみられる日本国内の診療ガイドラインを調査した結果とそれらの質評価を行った結果を報告した。 日本と韓国では鍼灸を取り巻く環境は異なるが、 伝統医学領域の診療ガイドライン作成において先を行く韓国と本ワークショップを通じて議論を交えることができ、 日本の鍼灸診療ガイドライン作成の参考になった。 日韓両国の伝統医学発展のために学術交流を継続する必要性を再認識した。
著者
前山 文子
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.306-314, 1990-09-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

現行慣用の経穴の名称及び位置に関する根本出典である皇甫謐:『鍼灸甲乙経』には, 鍼の刺入深度が記載されている。これを資料として原典の経穴観を立体的に探る試みを行なった。鍼刺深度を現代尺度に換算し, 深度別, 部位別, 経穴別にそれぞれ比較検討した。深度別では0.5%を占め, 1.5~2.5寸の深い経穴は3%であった。部位別では深い経穴は下腹部と仙骨部に見られ, 上肢・顔面が最も浅かった。経絡別では平均値が任脈が最も深く, 腎経・胃経に深い経穴が見られた。四肢では陰経が浅く, 陽経が深い。刺入深度が何を意味するか, その一端を探るために皮厚を測定したが, 刺入深度と皮厚と相似したパターンを示した。
著者
高野 道代 福田 文彦 石崎 直人 矢野 忠
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.562-574, 2002-11-01 (Released:2011-08-17)
参考文献数
37
被引用文献数
3 1

【はじめに】近年、良質な医療が求められ、その指標の1つとして、医療に対する患者の満足度が重視されている。勿論、鍼灸医療においても良質な医療を提供し、患者の満足度を重視していくことが大切である。しかしながら鍼灸医療に対する満足度について多面的な観点から調査された研究はない。そこで、我々は鍼灸院通院患者の鍼灸医療に対する満足度及び満足度に影響を与える要因について疫学的に検討したので報告する。【対象・方法】対象は、明治鍼灸大学同窓会会員の開業する鍼灸院からランダムに抽出した101軒の鍼灸院に通院した患者2,210名とした。調査期間は平成12年7月10日~同年7月23日の2週間であった。調査票は健康状態、鍼灸治療状況全般、鍼灸以外の医療機関の利用状況 (治療院、病院等) 、患者の基本情報等で構成し独自に作成したものを使用した。回答形式は、Visual Analogue Scale (VAS) 、選択式回答法、自由回答法を使用した。調査は、標本調査による配布郵送調査法にて実施した。統計解析は、t検定、信頼性分析、Pearsonの相関係数、重回帰分析 (変数増加法) を使用した。【結果】回収数は、1,319通 (59.7%) であった。満足度 (有効回答数 : 1268名) は、VASにおいて平均81.4±13.8であった。満足度と他の内容とで有意に相関を認めた内容は、治療効果、施術者の技術評価、施術者の信頼度、施術者の理解度、説明の分かりやすさ、施術者の説明度であった。さらに、重回帰分析では、治療効果、施術者の技術評価、施術者の信頼度、診療室の清潔さ、訴えの理解度、尋ねやすさが抽出された。【考察】鍼灸院通院患者の鍼灸医療に対する満足度は高値であった。それは治療効果、施術者の技術評価といった治療要因、施術者の信頼度、訴えの理解度、尋ねやすさといった施術者の人間的要因、診療室の清潔さといった環境要因の3つの要因で構成されていることが示された。
著者
形井 秀一
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.12-28, 2012 (Released:2012-07-05)
参考文献数
39

鍼灸を含む東洋医学の発祥は、 おおよそ2000年前の黄河流域の中国文明にまで遡る。 東洋医学発祥の要因は、 都市文明が発達史、 国が統一される中で国民の健康を為政者が政策の対象にしなければならなかった背景が大きな理由ではないかと考える。 鍼灸が日本に伝播されるのは、 6世紀半ばのことであり、 701年の大宝律令の制定以降明治7年の 「医制」 が公布されるまで鍼灸は国の医学の一翼を担い続けた。 奈良・平安時代は中国の鍼灸を受け入れ、 学ぶことが中心であったが、 同時に、 日本鍼灸の萌芽が見え始めた時期でもあった。 そして、 鎌倉時代を経て、 室町時代~安土桃山時代は、 日本の独自性が育ち始め、 江戸期に特徴的に発展する。 また、 特筆すべきことは、 1543年にポルトガル船が種子島に漂着し、 その後、 スペインそしてオランダが、 日本の文化に影響を与えたことである。 この影響は、 もちろん、 日本鍼灸にも及んだ。 江戸期には、 日本は緩やかな鎖国を行い、 中国、 朝鮮、 オランダとのみ交易をする政策をとった。 この貿易は、 即時的ではないにせよ、 海外の情報を日本に伝える重要な役割を果たした。 医学の分野では、 中国や朝鮮との交易から東洋医学の、 また、 オランダ交易から西洋医学の情報を入手した。 日本は、 常に世界最先端の医療情報を入手しつつ、 それを選択的に利用していたと言えよう。 その結果、 日本鍼灸は、 東洋医学の古典研究を深めながら、 中韓の医学情報を活用し、 また、 日本独特の管鍼法を発案し、 腹診法を深化させ、 さらには西洋医学の考え方をも取り込むなど、 明治期以降、 近・現代鍼灸に繋がる発展をこの江戸時代に見せている。
著者
矢野 忠
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.141-143, 2002-05-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
5
著者
坂本 裕和 藤井 亮輔 光岡 裕一 坂井 友実 秋田 恵一
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.218-225, 2011-08-01
参考文献数
20

【目的】経絡経穴とその周囲構造物との位置関係を形態学的に明らかにする一環として、 下肢後面における経穴について検討した。 <BR>【方法】東京医科歯科大学解剖学実習体3体6側を使用した。 下肢後面における足の太陽膀胱経に刺鍼を施し、 その部位を中心とした局所解剖を行った。 <BR>【結果】1. 承扶・殷門は、 大腿二頭筋の表層を走行する後大腿皮神経および深層を走る坐骨神経より内側に位置した。 <BR>2.浮ゲキ・委陽は、 大腿二頭筋停止腱の内側縁に沿って総腓骨神経の走路に位置した。 <BR>3.委中・合陽・承筋・承山・飛揚・フ陽・崑崙・申脈は、 内側腓腹皮神経、 腓腹神経およびは小伏在静脈に沿って位置した。 <BR>4. 委中・合陽・承筋・承山は、 深層では脛骨神経および膝窩動脈、 後脛骨動脈に沿って位置した。 <BR>【結論】1.後大腿皮神経および坐骨神経は承扶・殷門より外側を走行する傾向が強く、 これら神経への刺鍼は承扶・殷門より外側に施す必要性が示唆された。 <BR>2. 下腿後面の腓腹神経および小伏在静脈は、 末梢に向かうにつれて経穴に沿う傾向が強くなる。 <BR>3.下腿後面の深層を走る脛骨神経への刺鍼は、 委中・合陽・承筋・承山が効果的であることが示唆された。
著者
加藤 真二 東野 友寛 中村 真通
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.102-111, 2020 (Released:2020-07-31)
参考文献数
28

【目的】月経痛・月経随伴症状の成因の一つとして心理的要因が背景にあると考えられている。 本研究では月経痛・月経随伴症状と性格について関連性を検討した。 【方法】インフォームドコンセントを得た月経のある女性を対象とした。 年齢・身長・体重、 月経痛の程度、 月経随伴症状、 性格について質問紙調査を実施し、 月経痛・月経随伴症状と性格との関連についてスピアマンの相関分析を行った。 【結果】250名に質問紙を配布し166名から回答を得た。 「神経質」 は月経痛や月経随伴症状の複数因子、 「抑うつ性」 は月経随伴症状の複数因子との間に相関が見られた。 この他 「攻撃性」・「劣等感」・「非協調性」 は月経随伴症状の負の感情因子との間に相関が見られた。 【考察】「神経質」・「抑うつ性」 では、 月経時に血行障害やセロトニン不足の影響を強く受けて症状が強くなるのではないかと考えた。 また 「攻撃性」・「非協調性」・「劣等感」 における抑うつ的な側面が月経随伴症状の負の感情因子に影響を与えている可能性が考えられた。 【結語】「神経質」 は月経痛や月経随伴症状の複数因子、 「抑うつ性」 は月経随伴症状の複数因子との間に相関が見られた。
著者
前田 繁男 無敵 剛介
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.385-390, 1991-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
14

経穴部の鍼通電刺激時における電気的特性の検討を非経穴部と比較して行い, また, 鍼通電刺激中の皮膚血流変化から経絡の流注の方向と陰イオンの流れる向きとの関連について考察し以下の見解を得た。(1) 経穴部 (合谷と手三里) 及び隣接した非経穴部に刺針し電気鍼刺激を行い電気鍼施行中に針の間に流れる電流波形を分析し, 両者のインピーダンスを比較すると経穴部の方が非経穴部よりインピーダンスは小さく, またベクトルインピーダンスメーターでもこのことが確かめられた。(2) 鍼通電刺激時の電流の向きと皮膚血流量変化の関連については, 陰イオンの流れが経絡の流注と同方向の場合に有意な血流量の増加がみられた。
著者
廣田 里子 伊藤 和憲 勝見 泰和
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.68-75, 2006-02-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
14

【目的】慢性腰痛に対してトリガーポイント治療が有用であるとする報告はあるが、圧痛点治療との効果の違いは詳細に検討されていない。そこでトリガーポイント治療と圧痛点治療の効果の違いを明らかにするために慢性腰痛患者9例を対象に比較試験を行った。【方法】6か月以上の腰痛を訴える65歳以上の患者を対象とした。患者を組み入れ順にトリガーポイント治療群と疼痛局所に存在する圧痛点への治療 (圧痛点治療群) に振り分け、5回 (週1回) の治療を行い、1か月後に追跡調査を行った。評価項目は腰部の主観的な痛み (Visual Analogue Scale : VAS) 及びquaity of life (QOL) の把握 (Roland-Morris Disability Questionnaire : RDQ) とした。【結果】トリガーポイント治療群ではVAS・RDQともに有意な改善を認めた。圧痛点治療群では改善は有意ではなく、トリガーポイント治療群の改善のほうが顕著であった。【考察と結語】圧痛点治療よりトリガーポイント治療の方が顕著にVAS・RDQの改善がみられ、治療効果に相違がみられた。このことからトリガーポイントは治療効果の点からも単なる圧痛点とは異なるものと考える。
著者
大場 雄二 小島 孝昭 白石 武昌
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.429-437, 2000-08-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
25

腰痛治療点として臨床的に良く用いられる「委中」は「遠位取穴・遠位経穴刺鍼」として知られている。その「委中」刺鍼刺激の意義を検討した。経穴の応答性を腎兪で被験者一人につき両側で、300回以上にも及ぶ電気刺激で得られた「強さ一時間曲線」から時値を求め、それに対する「委中」刺鍼刺激の影響を健康成人健常者 (男性6名、女性6名) と中等度腰痛患者 (男性6名、女性4名) で比較観察した。・健常者群では腎兪での応答性は、男の時値は女より低く、応答性は高いといえる。「委中」刺鍼により腎兪での応答性は男女とも大きな変化はなかった。・腰痛患者群の腎兪での応答性は、健常者群と比し、著明な上昇 (痛み・過敏) が認めらた。その反応は、遠位経穴「委中」刺鍼により、明らかな時値の上昇即ち応答性の低下が認められ、「遠位経穴・委中刺鍼」に依る鎮痛効果が示唆された。・臨床上の「委中」刺鍼による腰痛に対する治療効果とその意義を考察した。
著者
呉 孟達 Huang LAWRENCE C-L
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.626-641, 2008 (Released:2008-11-21)
参考文献数
19

今回われわれは西洋医学的に"迷路性耳鳴"と診断された65例の耳鳴症例に対して、 中医学的虚実弁証の理論を導入することによって、 新たに耳鳴を三つの、 西洋医学と中医学両方法論を加味した類型、 すなわち実証型迷路性耳鳴、 虚証型迷路性耳鳴および中間証型迷路性耳鳴に分類した。 次いで、 これらのそれぞれの病態証候に応じて、 中医学的"治病求本"の原則に基づき、 鍼治療を行った。 耳鳴治療効果の判定は主に治療前後の自覚的な 「耳鳴表現スコア」 と他覚的な 「耳鳴ラウドネス」 という二つの耳鳴パラメータの変化を用いて比較検討した。 治療後の 「耳鳴表現スコア」 もしくは 「耳鳴ラウドネス」 が有効を示した65症例全体の「粗有効率 (GER)」は72.3%、 両者がともに有効を示した 「自他覚的有効率 (BER)」、 つまりより厳密な有効率としては47.7%であった。 三つの中医学的病証型のうち、 実証型の有効率が最も高く、 そのBERは66.7%を示していた。 次は虚証型で、 そのBERは48.7%であった。 中間証型は最も悪く、 そのBERはわずか10%であった。 各病証型のBERに対し、 相互間の統計学的有意差はなかった。 一方、 治療終了2ヶ月後の効果判定では、 全体のGERは55.4%、 BERは38.5%にまで低下し、 治療効果の減少傾向が見られた。 特に虚証型のGERは統計学的有意な低下を示した。 結論として迷路性耳鳴に対する鍼治療を行うにあたって、 中医学的虚実弁証論の応用は大変重要であると考えられる。 65症例の臨床治療分析を通して、 虚証型や中間証型に比べて、 実証型耳鳴は鍼治療に最も高い反応を示すことが判明した。