著者
斉藤 宗則 和辻 直 篠原 昭二
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.31-46, 2007-02-01 (Released:2008-05-23)
参考文献数
6

【目的】五更泄は寅卯時 (朝3~7時) にのみ出現する慢性の泄瀉であるが、その時間的概念や病機については諸説があり、その定義や概念は統一されていない。そこでこれらを明確にするため文献調査を行った。【方法】『中華医典』を用いて「五更泄」「五更瀉」「腎泄」「腎瀉」をキーワードとして検索し、書籍でその記述内容を確認したものを時代ごとに並べた。次に、五更や時辰という時間の概念、五更泄の病機と証候、五更泄の発症時間と病機、五更泄の名称、五更泄と痢疾、五更泄と現代医学といった視点から考察を行った。【結果】その結果、「五更泄」は31冊37件、「五更瀉」は12冊14件、「腎泄」は91冊216件、「腎瀉」は38冊74件であった。五更泄は12世紀中頃に腎の病とされた「腎泄」を源とし、その後病機が漸増し、「腎泄」の時間が子時 (23時~) まで拡大された。病機には腎陽虚、酒積、寒積、食積、肝乗脾土、少陽気虚、?血などがあった。【考察】五更泄と腎泄は共通する部分が多いが、その主たる病機の違いを述べると、五更泄は五更に肝・少陽の旺盛や火が生じることによって生じ、腎泄は子時に腎水が旺盛になることで子時から卯時に泄瀉が起きると考えられる。これらの症状の発現と時間帯との関連には疑問が残った。一方、名称については16世紀後半には五更という時間帯が強調されているが、腎泄の発症時間が亥子まで含まれたため、五更泄という名称が主とならなかった可能性がある。
著者
妻木 充法
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.684-689, 2008-08-01
被引用文献数
2 1

クラブワールドカップは、 6大陸のクラブ王者が世界一を決める大会であり、 その審判もアジア、 アフリカ、 南米、 北中米カリブ、 オセアニア、 ヨーロッパより選出される。 今回、 世界サッカー連盟 (FIFA)、 日本サッカー協会より依頼を受け、 鍼灸師が審判団のメディカルサポートを行った。 業務は、 練習及びフィットネステスト時のトレーナー活動、 試合帯同、 トリートメント業務 (鍼治療、 マッサージなど) であった。 16日間で59回の鍼治療、 63回のマッサージを行った。 大会期間中の外傷はハムストリングス肉離れ2名、 障害は、 腰痛、 アキレス腱周囲炎、 頚部痛などがあり鍼治療を行い改善した。 しかし2度の肉離れを起こした1名は、 帰国した。 鍼を知らない審判もいて、 日本の鍼治療を理解してもらう工夫が必要であった。 今後は、 感染防止の対策、 鍼の効果や傷害についての英語での説明法、 各国の食事やサプリメントの正確な知識を持つことの必要性を痛感した。
著者
山下 仁 津嘉山 洋 若山 育郎 川喜田 健司
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.136-140, 2009 (Released:2009-09-15)
参考文献数
9

来る2009年6月12日、 "腰痛症に対する鍼灸治療効果のエビデンスの現状"と題して、 埼玉で第2回JSAM鍼灸国際シンポジウムが開催される。 このシンポジウムのテーマの背景と、 議論になると予想されるポイントについて概説する。 シンポジウムでは、 (1)腰痛に対するRCTの現状、 (2)日中韓におけるデータベースに基づいた腰痛治療法の紹介、 (3)Sham鍼、 という3つのセッションが設けられている。 EBMの枠組みの中で鍼灸の腰痛に対する有効性を検討する場合、 次のような議論が予想される。 1) 偽鍼の治療的効果:プラセボ効果は区別できるのか? 2) 偽鍼によるマスキング:ダブルブラインドは可能か? 3) 具体的な治療テクニック:鍼灸施術の優劣に影響する因子は何か? 招待発表者の多くは、 RCTや偽鍼開発で世界のトップジャーナルに鍼の論文を掲載している。 今回のシンポジウムで、 EBMの時代における他の医療職種との連携や医療政策への反映など、 今後の鍼灸の発展ために取り組むべき課題がより明確になることを望んでいる。
著者
直本 美知
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.636-641, 2004-08-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
4

英国には、医師を除いておよそ2,400人が鍼治療を行っている (5,100人が医師、看護師、理学療法士として鍼治療を行っている) 。また、約1,300人が専門の団体に所属しながら、各種ハーブ療法を行っている。現在、鍼治療とハーブ療法は法的に規制されていない。ということは、資格の有無に関わらず、誰でも鍼治療やハーブ療法を行うことが可能である。しかし、多くの治療家は自主的に専門団体に所属している。専門団体は、治療家の資格や治療の技術のレベルなどの基準を設定すると共に、その維持と向上に努めているが、団体によってその基準にばらつきがあり一定でないのが現状である。その結果、患者や医療関係者にとって、何を基準にして鍼やハーブ療法の治療家を選べばよいかが明確ではないという問題がある。これらの問題を反映して、2004年3月保健省から鍼治療とハーブ療法を法律で規制する案が提出された。保健省は、無資格の治療家から患者を守ることが必要であると判断し、法律規制案を通して鍼とハーブ療法の治療家たちの意見を募ることになった。
著者
大西 基代 戸田 静男 菅田 良仁 東家 一雄 黒岩 共一 木村 通郎
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.420-422, 1988-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
7

隔物灸は, その温熱刺激と隔物の作用を生体に与え, 治療効果を得ていると考えられている。そこで, 隔物の灸により溶出する含有成分の検出を thin layer chromatography を用いて行った。その結果, 隔物として用いた生姜, 大蒜より各々の含有成分の溶出が確認された。このことは, 隔物から溶出する成分の薬理作用が, 温熱刺激とともに重要な役割を持つことを示唆している。
著者
今井 絹子
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.352-359, 1994-12-01 (Released:2011-05-30)

人間として小さな生命が誕生しても, 脳に何らかの病変が生じ, 脳性麻痺による心身障害児になったらその生涯は苦難の道を歩まなければならない。本院に来院した障害児は約9年間で55名である。そのうち重症児は40名, 中等度の障害のもの15名であった。重度心身障害児では著しい症状の改善判定は難しいが, 中等症児の軽症化, 健常児化への改善は著しかった。心身障害児の治療は早期発見, 適切なる早期教育と治療永続性が成績改善への重要なポイントと思う。治療穴は身柱穴 (第2胸椎棘突起の下に取った) と私自身が身体障害者で, 体験の中から発見した新穴・股I穴 (下肢外側面大転子中央上部直上腸骨稜との線上中点) と股II穴 (上前腸骨棘の下方にあって縫工筋と大腿筋膜張筋の間陥凹部大腿直筋上) 等を使用した。現代医学的治療に於いて得られない治療効果を鍼治療において示すことにより, 障害児の自立へ向けて教育, 啓蒙してきた。小児の鍼治療分野は複雑で困難だが, 計り知れない小児の生命力に大きな可能性を賭け, 挑戦する機会を得られた事に感謝致します。
著者
粕谷 大智 山本 一彦 戸島 均 坂井 友実
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.32-42, 2002-02-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
29
被引用文献数
1 4

末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療の効果を検討するため、日本顔面神経研究会治療効果判定委員会の提唱する基準に基づき、対象の選択を発症して2~3週間以内の新鮮例で, 電気生理学的検査 (Electroneurography : ENoG) による神経変性の程度を診断した上で、顔面運動スコアを用いて、薬物療法と鍼治療の比較、また薬物療法に鍼治療を併用した際の薬物単独療法との回復の違い等について111例の症例に対しretrospective study により治療効果を検討した。その結果、 (1) 鍼治療と薬物療法の回復の比較では、ENoG値41%以上の群で鍼単独療法群はステロイド経口投与療法群と比べ有意に麻痺の回復が劣った。 (2) ENoG値21%以上の群でステロイド経口投与療法群と鍼併用群群では特に有意差は認められず、鍼を併用しても薬物療法単独群と比べ麻痺の回復は変わらなかった。 (3) ENoG値1~20%の群ではステロイド大量投与群とステロイド大量投与に鍼治療を併用した群と比べると回復に有意差は認められず、ステロイド大量投与群とステロイド大量投与に鍼治療を併用した群と比べると、ステロイド経口投与に鍼治療を併用した群は明らかに回復が劣った。 (4) 薬物療法単独群と鍼治療を併用した群において、特に鍼を併用することで回復を早めるといった効果は認められないが、逆に回復を遅延させるといった逆効果も認められなかった。以上より、急性期末梢性顔面神経麻痺に対する治療は、発症して7日以内に適切な治療が求められており、鍼治療よりもステロイドなどの薬物療法が第一選択として重要であると考える。
著者
黒野 保三 石神 龍代 堀 茂 渡 仲三 松本 美富士
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.95-101, 1986-06-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
18

鍼刺激のヒト免疫能へ与える影響を調べるため, 単クローン性抗体によるヒトの末梢血Tリンパ球サブセットの変動について検討を行った。健康成人男子10名, 女子3名の被験者に対し, 脉診法にて2穴を選穴し, 5Hz, 2V, 5min の低周波通電鍼刺激を行った。鍼刺激前および直後に採血し, 末梢血Tリンパ球サブセットの変化をOKT, Leu シリーズの単クローン性抗体を用いて Laser Flow Cytometry によるTリンパ球サブセット自動解析を全血法で行った。末梢血Tリンパ球であるOKT 3+細胞は, 一定の変動を示さないが, Eロゼット形成細胞である OKT 11+細胞は, 鍼刺激後に増加した。免疫反応に対して helper/inducer Tリンパ球となるOKT 4+細胞は, 一定の変動をみなかったが, suppressor/cytotoxic Tリンパ球となるOKT 8+細胞は鍼刺激後増加した。また, 生体の免疫学的監視機構を担う natural killer (NK) 細胞に属する Leu 7+細胞は, 増加するが, 同じくNK細胞の一部である Leu 11+細胞は, 低下を示した。単クローン性抗体による末梢血Tリンパ球サブセットの変動は, 我々がこれまで行ってきた in vitro におけるリンパ球機能の変化をより特異的に確認するとともに, NK前駆細胞をより活性化することを示している。このように, 鍼刺激によって, ヒトの免疫反応系に変化をもたらすことがさらに示された。
著者
尾崎 朋文 森 俊豪 坂本 豊次 竹中 浩司 湯谷 達 米山 榮 松岡 憲二 巽 轍夫 吉田 篤 北村 清一郎
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.413-420, 2002-08-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

遺体解剖と、健康人生体での臨床所見・CT画像より、膏育穴刺鍼の安全深度を検討した。遺体所見では、両膏育穴への刺入鍼は第5肋間に位置し、左側の肋骨の厚さは10mm、体表-胸膜 (肋骨後面) 間距離は44mmであった。健康学生104名の膏盲穴での体表-肋骨前面間距離の最小値は肥満男女以外の体型で14mmであった。標準型・やせ型男性のCT像では、刺入鍼は1側で肋間に、3側で肋骨に達した。肋骨の厚さは各々10.9mm・9.8mm・8.8mmで、体表-胸膜間距離は各々33.6mm・28.4mm・29.4mm・31.8mmであった。以上の結果から、肋骨の厚さと体表一肋骨前面間距離の最小値より勘案すれば、極端なやせ型を除き、19mmまでの刺鍼は、外傷性気胸を起こす可能性は皆無に近く、安全と考えられる。換言すれば、19mm以上の刺鍼では、外傷性気胸を起こす可能性が高まることに留意する必要がある。
著者
尾崎 朋文 森 俊豪 坂本 豊次 于 思 湯谷 達 竹中 浩司 佐藤 正人 米山 榮 前岡 弘子 北村 清一郎
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.103-110, 2000-03-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
29

先天性胸骨裂孔 (以下胸骨裂孔) の出現状況や胸骨の厚さを遺体で調査するとともに、生体での画像所見から、胸骨裂孔の有無および〓中穴での体表から胸骨後面までの距離を調べ、〓中穴への安全刺鍼深度を検討した。その結果、51遺体中の1例に胸骨裂孔が認められた。裂孔は第4肋間の高さにあり、形状はほぼ円形、直径は胸骨外面で9mmで、固い結合組織で埋められていた。21遺体での胸骨の厚さは9-15mmの範囲で平均は11.5±2mmであった。生体31例の〓中穴での体表一胸骨後面間距離は11-31mmの範囲で、平均は18.8±5mmであった。これらの結果から、仮に胸骨裂孔が存在しても、〓中穴への刺鍼では、極端な痩せ型を除いて10mmまでは、刺入鍼が心臓に達する可能性はなく、安全と考えられた。
著者
厳 振国 張 建華 顧 洪川 毛 根金 魏 鴻煕 王 財源 吉備 登 高橋 研一 王 財源 吉備 登
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.191-195, 1997-09-01 (Released:2011-03-18)

51体の新鮮な成人遺体を冷凍し、風府、〓門、風池、晴明穴における断面を作製し、断面の浅点 (その経穴の皮膚表面) と深部点 (危険臓器よりの最も近い点) の間の最短距離すなわち危険な刺入深度を測定した。その結果より刺針時の安全な刺入深度を求め、風府は40.08mm、〓門は38.10mm、風池は39.77mm、晴明は34.25mm以下であるとの結論を得た。
著者
新原 寿志 古瀬 暢達 上原 明仁 菅原 正秋 山﨑 寿也 山下 仁
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.64-78, 2015 (Released:2015-08-19)
参考文献数
83

我々、 公益社団法人 全日本鍼灸学会 研究部安全性委員会は、 同学会が主催する第 63 回 学術大会 (愛媛大会) において、 鍼灸の安全性の向上、 なかでも鍼による有害事象の防止を目的に臓器損傷および神経損傷を対象としたワークショップを開催した。 ワークショップでは 「安全性向上のための局所解剖 Q&A」 と題し、 1) 開業鍼灸師および整形外科医師を対象とした鍼の有害事象に関するアンケート調査と、 2) 国内の鍼臨床に関連した気胸や神経損傷等に関する文献を紹介すると共に、 3) 経穴の解剖学的研究を基礎とした刺鍼部の局所解剖 (上半身) について Q&A 形式による特別講義を行った。 気胸を中心とした臓器損傷や神経損傷など鍼による重篤な有害事象の発生頻度は、 国内の鍼臨床全体からみれば極めて低いと推定されるがほぼ毎年報告されていること、 また、 実際には論文等で報告されているよりも多く発生していることが示唆された。 これら有害事象の発生を防ぐためには、 人体の構造、 特に刺鍼部の解剖学的知識が極めて重要であり、 加えて安全な刺鍼技術の修得が必須である。 本ワークショップを契機に施術者自身の知識と技術を再確認し、 安全で安心な鍼治療を実践していただければ幸いである。
著者
山下 仁 形井 秀一 石崎 直人 楳田 高士 宮本 利和 江川 雅人
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.728-743, 2004-11-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
53

鍼灸臨床で行われている安全性に関する知識や手順には、科学的根拠に乏しい逸話や思い込みも含まれている。鍼灸の安全性を向上させるためには、エビデンスがどれくらい蓄積しているかを整理し、吟味し、活用することが重要である。全日本鍼灸学会研究部安全性委員会では、現在までに報告されている鍼灸の安全管理に関連する研究成果をレビューする作業を開始した。2004年度に取り上げたテーマは次のとおりである : 1. 鍼灸学校における安全性教育と損害賠償の現状2. 手洗いと手指消毒法3. 施術野の消毒法4. 刺鍼から抜鍼までの操作5. 安全な刺鍼深度6. 施術環境の衛生この作業で明らかになった知識や疑問が、学校教育、日常臨床、マニュアル作成、および研究に反映されることを望んでいる。
著者
石崎 直人 矢野 忠
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.80-89, 2013 (Released:2013-10-08)
参考文献数
20
被引用文献数
1

「患者満足度」 という概念は、 今や医療界の必須要件であるといえる。 鍼灸治療は、 患者と直接接する時間が長く、 病院の検査で明確に捉えられにくい症状や心理的な状態などに対処しようとするもので、 治療行為そのものに対して満足が得られやすい医療と考えられるが、 利用者を含めた一般市民が鍼灸治療に対してどのように感じているかという情報は十分に知られていない。 鍼灸治療に興味を持つ人はどのくらいいるのか? どのような人たちが鍼灸治療を受けているのか? 鍼灸治療に何を期待しているのか? 鍼灸師が心地よいだろうと思って施す治療を患者はどのように感じているのか? 診療費用や診療時間は適切か? どのような治療をすれば満足が得られるのか? これらの疑問に答えるために我々は東洋療法研修試験財団の研究助成を受けて一般市民を対象とした全国規模の調査を実施してきた。 2003年3月から計6回にわたって実施した調査の結果には、 様々な情報が含まれている。 今回はこれらのデータを基に、 鍼灸治療の継続的な利用者や、 鍼灸治療に興味を持ちながらも受療経験を持たない者、 あるいは鍼灸治療についての関心が少ない者など、 様々な立場から見た鍼灸治療の実態についてまとめた結果を報告する。
著者
渡邉 勝之 篠原 昭二
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.654-664, 2008 (Released:2008-11-21)
参考文献数
20
被引用文献数
2 3

【緒言】鍼刺激では動的経穴にイオン化傾向の異なる銅鍼と亜鉛鍼を刺鍼した時のみ、 表皮表面局所における酸化還元電位 (ORP:Oxidation-Reduction Potential) が有意に低下することを明らかにしてきた。 本実験では、 直接灸および灸頭鍼刺激前後におけるORPおよび水素イオン濃度 (pH) に及ぼす影響について検討した。 【方法】ボランティアの非経穴および独歩可能な患者の動的経穴に直接灸・灸頭鍼 (輻射熱遮断あり・なし) および燔鍼を行い、 刺激前後の測定を行った。 【結果】ORPは非経穴への全ての灸刺激で変化を示さなかったが、 動的経穴では有意(p<0.01)に低下を示した。 一方、 pHでは非経穴または動的経穴に関係なく、 直接灸では有意(p<0.01)に低下し、 灸頭鍼輻射熱遮断では逆に有意(p<0.01)に上昇する変化が認められた。 【結論】鍼灸臨床において、 我々は動的経穴の灸点[+点]には直接灸、 禁灸点[-点]には灸頭鍼を使い分けているが、 本実験により、 直接灸と灸頭鍼刺激では生体に及ぼす作用が逆であることが明らかとなった。
著者
塩見 真由美 今井 賢治 咲田 雅一
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.71-80, 2003-02-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

嘔気を主症状とするmotion sicknessを人為的に引き起こし、内関 (PC6) への鍼刺激がその症状の程度と出現率を改善させるかどうかを検討した。健常人36名を対象とし、無作為に対照群 (nd2) と置鍼群 (n=12) 、鍼通電群 (n=12) の3群に分類し、optokinetic drumを用いてmotion sicknessを誘発した。motion sicknessの評価には、自覚症状に関するスコアー (SSMS) とvisual analogue scale を用いるとともに、客観的な指標として胃電図をドラムの回転前・回転中・回転後各15分、計45分間にわたり記録した。また、置鍼群、鍼通電群ではdrum回転中に内関穴に鍼刺激を行った。置鍼群では、motion sickness に伴う胃電図の異常波形の出現が抑制され、他群に比べ早期に正常波形へと回復した。また、嘔気の出現率とその程度についても、置鍼群では対照群に比して低い傾向を認めた。内関穴に対する置鍼刺激は、胃電図の異常波形の出現を抑制し、嘔気などを中心とするmotion sickness 症状の緩和に有効であることが示された。
著者
中村 真理 高橋 涼子 坂口 俊二
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.185-193, 2019 (Released:2020-07-13)
参考文献数
15

【目的】日本での 「小児はり」 は250年の歴史ある鍼灸治療のひとつである。 近年の報告では、 その治療件数は減少傾向にあるとされるが、 本鍼灸院でのニーズや臨床の手応えとに乖離がある。 そこで今回、 夜泣き児83例について6年間診療録を振り返り、 治療効果を検討した。 【対象と方法】対象は、 2012年9月~2018年9月の間に、 初診時 「睡眠症状 (広義の夜泣き)」 の調査スコア1以上に記載のあった83名 (男児38名、 女児45名、 平均年齢2.2±2.8歳) とした。 治療は随証治療とし、 鍼は切皮しない大師流小児鍼と鍼を用いた。 灸は線香灸 (皮膚に近づける) を用いた。 評価は小児はり学会認定の自記式評価票を用いて、 大項目として 「睡眠症状 (広義の夜泣き)」、 その小項目として“(狭義の) 夜泣き”“寝付きが悪い”“途中覚醒”の3項目、 一晩の途中覚醒の回数、 小児はりきゅう治療に対する満足度を調査した。 評価時期は、 初診時と5回目治療前とし、 評価票のスコア・途中覚醒の回数変化を比較検討した。 解析にはWilcoxon符号付順位和検定を用い、 有意水準は5%とした。 【結果】大・小項目のスコア、 途中覚醒の回数に有意な改善がみられた。 90.4%が治療に満足と回答し、 不満はみられなかった。 【考察】小児はりきゅう治療は 「睡眠症状 (広義の夜泣き)」 の改善に有効であることが示唆された。 臨床研究が進みつつある小児はりの分野で、 その有効性・有用性のエビデンスを示すことで、 多くの保護者が安心して育児することに寄与できると考える。 【結語】4回の小児はりきゅう治療により、 大項目 「睡眠症状 (広義の夜泣き)」 と、 その小項目“(狭義の) 夜泣き”“寝付きが悪い”“途中覚醒”のスコア、 途中覚醒の回数が有意に改善した。 小児はりきゅう治療は 「睡眠症状 (広義の夜泣き)」 の症状改善に有効な治療方法であることが示唆された。