著者
小野 直哉 田上 麻衣子 高澤 直美 東郷 俊宏
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.17-32, 2013 (Released:2013-06-17)
参考文献数
4

現在、 鍼灸をはじめ、 伝統医学を取り巻く国際環境は、 従来の我々の認識を超え、 急激に変化している。 近年、 極東アジアのいくつかの国々では自国の伝統医学の古典医学書や伝統医学の一部分を、 国連教育科学文化機関 (UNESCO) の世界記録遺産や無形文化遺産へ登録した。 また、 世界保健機関 (WHO) では疾病及び関連保健問題の国際統計分類 (ICD) のICD-10からICD-11への改訂に伴い、 伝統医学をICD-11に盛り込む作業が行われている。 更に、 国際標準化機構 (ISO) では極東アジアの伝統医学の国際標準化の作業が進められている。 WHOと公的関係を持つ世界鍼灸学会連合会 (WFAS) でも鍼灸の国際標準化の作業が進められている。 更に、 生物多様性条約 (CBD) では伝統医学にも関わる遺伝資源と伝統的知識の議論が行われている。 伝統医学に関する事柄は、 他にも世界知的所有権機関 (WIPO) や世界貿易機構 (WTO/TRIPS)、 国連食糧農業機関 (FAO) など、 多岐に亘る国際機関で個別に議論されている。 本パネルディスカッションでは、 最初に、 CBD及び名古屋議定書における伝統的知識の保護に関する要点を整理し、 WIPOにおける議論の状況と伝統医学に関わる伝統的知識のUNESCOでの無形文化遺産の登録の現状を明らかにし、 鍼灸の伝統的知識の保護に関する今後の課題について検討した。 次に、 WFASがWHOから委託された形で鍼灸の国際標準化を進めている現状と経過を整理し、 JSAMの立場とWFASの鍼灸の国際標準化作業における問題点を明らかにし、 WFASでの鍼灸の国際標準化作業とISOでの鍼灸の国際標準化作業の関係について検討した。 最後に、 WHOで鍼灸の国際標準化が初めてなされた1980年代から、 ISO/TC249において鍼灸の国際標準策定が進行している現在までの鍼灸の国際標準化の流れを整理し、 鍼灸の国際標準化を主に担っている国々における伝統医学の国際標準化の現況を概観し、 伝統医学の国際標準化の背後に潜む伝統医学のヘゲモニー争いの様相と今後の伝統医学の国際標準化の課題について検討した。
著者
向野 義人 荒川 規矩男 恒矢 保雄
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.279-284, 1984-01-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
5

目的と方法: 耳のツボである肺点と噴門点の効果差を検討するために, 42例の単純性肥満を無作為に肺点治療群 (L), 噴門点治療群 (C) に分け, 皮内針で2週間治療した。摂食量, 空腹感, 満腹感, 摂水量, 尿量の変化を5~7段階評価し, 体重, 血清滲透圧, 抗利尿ホルモン (ADH) の変化も比較検討した。結果: L, Cにおいて同等の摂食量減少, 空腹感減少, 満腹感亢進, 摂水量減少, 体重減少をきたした。しかしLでは尿量増加 (P<0.10) を示し, 血清滲透圧, ADHが有意に減少した (P<0.02, P<0.02)。一方, Cでは変化しなかった。結論: 噴門点, 肺点の食欲抑制効果は同等であるが, 水代謝への影響には相異があると考えられた。
著者
中村 辰三 篠原 昭二 岡本 敏男 合田 光男
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.138-144, 1983-11-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
11

眼の調節機能と経穴との関係や鍼治療による視力改善について調べることを目的とした。〔方法〕経穴への鍼刺入の前後で調節時間の変化を, Accommodo-poly-recorder で測定した。この結果から有効穴と非有効穴を選び, 視力改善に対する差異について, 10回刺鍼による前後の視力変化を検討した。〔結果〕(1) 風池・太陽両穴共に術前の平均値に比し, 術後は0.06上昇し, Ggl. Ciliare 刺鍼では0.11上昇した。(2) Ggl. Ciliare 刺鍼 (1981年) では, 無眼鏡群で, 視力が0.4上昇し, 有眼鏡群で0.15上昇した。〔結論〕視力改善について鍼治療が有効であり, 視力の悪い者ほど改善度も低く, 軽度のものほど改善度が大きく, 早期の鍼治療により良好な結果が得られる。
著者
任 公越
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3-4, pp.233-248, 1985-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
15

著者は鍼灸を情報療法の1つの形であると考えている。情報療法とは最適な情報注入点 (経穴) から変調した経絡にネガティブ・フィードバック (負帰還) 情報を与えることによって治療するものである。情報療法, 理学療法, 化学療法の間には本質的な違いがある。情報療法は施術者 (あるいは情報療法のための機器) と自律神経系の間の交信あるいは対話である。鍼, 灸, 吸角, 膏薬貼付, マッサージ療法などは広義鍼療法であり, 狭義情報療法でもある。この論文ではこれらと共に気功 (深呼吸運動法), バイオフィードバック, 催眠, 暗示療法などを含む広義情報療法についても簡単に解説する。この論文で論じられるのは, 陰陽の経絡, 表裏の経絡, 経絡の左右, 手と足の経絡, 腹募穴と背兪穴などの関係, さらに五行の相生相剋, 等位穴, バイオホログラフィ法則など, 経絡の虚実, 入力情報の補瀉, 経絡における情報処理の基本法則についてである。また5種類の巨刺法 (反対側刺鍼法) と準巨刺法を紹介する。著者はサイバネティクスの視点から鍼を取り扱う。彼は情報療法の研究が発展すれば, 将来まったく新しい科学技術の分野―経絡サイバネティクスが形成されると考えている。それは人工知能やコンピュータ科学に重要な影響を与えるであろう。
著者
楊 應吟
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.191-195, 2006-05-01
被引用文献数
1

過去、台湾の鍼灸術は「師徒伝承」の個別伝授法だったが、1955年に台北市鍼灸学会が政府機関の認可を獲得した後, 研修会を介した体系的な習得法にかわった。20年のうちに鍼灸学を学習する者も増えて、一般民衆にも鍼灸に対する効果を認められ、徐々に鍼灸治療を受ける患者さんも増えてきた。<BR>1975年やっと鍼灸療法が受け入れられるようになってきた矢先に、「新医師法」が実施され、今までの鍼灸師は無資格となり、数多くの鍼灸師は台湾から国外へ流出してしまった。<BR>国外では資格試験の制度があるが、台湾には鍼灸に関する資格制度が無く「中医師」の試験に合格した者は、 "漢方薬の処方も、鍼灸師の資格と開業を許される" と言う摩詞不思議な制度が出来てしまったのである。<BR>中医師の試験に鍼灸の科目が加わったのは1989年になってからで、筆記試験だけで実技試験はない。だからこの間、中医病院の鍼灸治療はバリ専門の実技研修を受けたベテラン達が担当していて中医師ではない。<BR>この様にこの道に精通しない者が指導的な役割を担っていることは、鍼灸界の発展はおろか阻害となり、台湾における鍼灸に対する研究の遅れは、この不当な制度の為である。<BR>過去30年間も、「鍼針灸の合法化」の抗議運動を起こしてきたが、衛生署と中医師公会の反対に逢い、いまだに混沌たる時代にいる。<BR>日本に於いては、電子顕微鏡、コンピュータ等のハイテクを駆使して針灸に取り組んでいるのである。政府はいち早くこの事に目覚めて、早急に針灸の発展に切り替える政策こそが衛生署主管の急務だと思う。<BR>いまや鍼灸術は国際的になり、WFASは毎年国を変えて学術大会を行っている。<BR>もし先進国の日本に、世界各国から鍼灸の勉強が出来る環境をもつ国際的な鍼灸大学が出来れば、鍼灸を通して国際交流が出来, 若き未来の医師たちに切れ掛かった親日の絆を挽回してもらえると思う。
著者
向野 義人
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.67-74, 1981
被引用文献数
1 1

(目的と方法) 耳に食欲を抑制するツボがあるかどうかを検討するために, 50例の単純性肥満 (18歳~45歳) を無作為に神門治療群, 肺治療群に分け, 皮内針で2週間治療した。摂食量, 満腹感, 空腹感の変化を5または4段階評価により検討し, 各症例における有効・無効を判定した。また空腹時 Glucose, FFA, Insulin, Gastrin, Secretin の変化及び水300ml負荷時の Gastrin 分泌の変化を比較検討した。(結果) 両群の有効率には差 (p<0.005) があった。肺点治療により, 摂食量の減少 (p<0.05), 満腹感の亢進 (p<0.01), 空腹感の減少 (p<0.05) をきたし, また Insulin の減少 (p<0.05), 水負荷時の Gastrin 分泌が亢進 (p<0.05) した。(結論) 耳に食欲を抑制するツボがあり, その刺激により Insulin 分泌が低下し, Gastrin 分泌が亢進する。
著者
江口 和子 岡田 武史 高士 将典 佐野 節夫 進藤 篤信
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.253-257, 1995-03-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
6

難治性アトピー性皮膚炎に対して東洋医学的治療を行った。症例は20例で鍼灸湯液併用治療及び湯液治療の二つに分けてその有効率を比較した。鍼灸湯液併用治療は8例中7例有効であり有効率88%, 湯液治療は12例中8例有効であり67%であった。鍼灸湯液併用治療と湯液治療が共に有効であったが鍼灸湯液治療がより有効であると考えられる。

1 0 0 0 OA 臨床のセンス

著者
祖父江 逸郎
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.466-470, 2003-08-01 (Released:2011-03-18)

臨床のセンスは臨床の実践にあたり重要である。センスの内容は幅広く、その解釈も様々である。知、技、心の3つの要素がバランスよく、渾然一体として、ダイナミックに対応可能な臨床能力であると考えられる。コミュニケーション・テクニック、面接技法、患者心理の理解、臨床倫理、インフォームド・コンセント、告知、EBM、クリニカルパスなど、臨床で共通した基本的臨床能力といわれるものは、必須条件の一つである。さらに、それぞれの専門領域についての最新の知識、技術を熟知し、実践応用可能なことも必須条件である。知、技、心のうち、心については、かねてから主張してきたSympathy (共感) 、Sincerity (誠実) 、Service (奉仕) の3Sをとりあげたい。こうした3Sによる臨床の実践により患者との信頼はより一層深まる。臨床では、様々な問題を分析、理解し、適正な判断による的確な対応が必要である。具体的事例による修練を積み重ねることで、臨床のセンスが培われる。
著者
渡 仲三 黒野 保三 石神 龍代 平松 由江 堀 茂 中村 弘則 馬渕 良生 堀田 康明 石榑 克範
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.310-314, 1982-03-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
4

The acupuncture points are quite important in Oriental medicine. They have been known for about 3, 000 years. However, the points have not been ascertained morphologically to date.In this experiment, the acupuncture points such as Hoku (LI-4), Taichong (LV-3) and one of the auricular points, which were at first obtained morphologically using a Rydoraku point-searching apparatus (12V, DC), and then needled perpendicularly with acupuncture needle No. 30, staining the tip of the needle with carbon black ink to mark the point localizations.Small pieces of skin were marked with ink cuts and fixed with 10% neutralized formalin, and then serial paraffin sections were made for light microscopical observations.The acupuncture points seemed to be the places at which the electric resistance was usually lower than at other non-acupuncture points.Non-acupuncture points with high electric resistance were also taken for the control (Fig. 7).From the light microscopical observations of the acupuncture points, a special complex was found (Figs. 2, 3, 4, 5, 6). It was composed of a nerve fiber running horizontal to the surface of the skin, some blood and lymph vessels and a small amount of collagenous fibers.These elements seemed to be a plexus forming a complex, and the complex was usually located within the subcutaneous tissue.On the other hand, such complex had not been observed at the non-acupuncture points so far (Fig. 7).In summary, it is postulated that the acupuncture points seem to be in some way related to the nervous elements, the vascular system and collagenous fibers.Fig. 1. A schematic illustration of acupuncture points, postulated by Niboyet (1979).Fig. 2. Histological view of the acupuncture point of Hoku (LI-4) in the left foreleg of the mouse.X70Fig. 3. At the point of Hoku (LI-4) in the right foreleg of the mouse, one can also see a complex of nervous elements (N) and the vascular system (V). X70Fig. 4 This light micrograph also shows a complex of nervous elements (N) and vascular system (V) in Taichong (LV-3) of the left hind leg of the mouse. X150Fig. 5. There is also observed a complex of the nervous elements (N) and vascular system (V) in Taichong (LV-3) of the right hind leg of the mouse. X150Fig. 6. A complex of the nervous elements (N) and vascular system (V) is also observed in an acupuncture point of the mouse auricle. X150Fig. 7. A complex of the nervous elements and vascular system is not observed in the non-acupuncture point area of the mouse foreleg. X70
著者
沢井 勝三 椎野 瑞穂 木村 明彦 五味 敏明 岸 清
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.165-174, 1993
被引用文献数
1

刺鍼の深さを考察するにあたり, 局所における臓器および組織の位置関係を充分把握しておくことは大切である。そのために足の太陽膀胱経を基準とした人体横断解剖標本を作成して, 体表から何mmでどの臓器, 組織に鍼先が到達するかを検索した。前回までは大椎穴 (督脈) より胆兪穴 (足の太陽膀胱経) まで調査した結果を報告した。<br>今回は, 脾兪穴 (足の太陽膀胱経) より気海兪穴 (足の太陽膀胱経) までの5横断面について検索したのでこれを報告する。<br>脾兪穴を基準とした横断面では, 鍼を体表より刺入すると皮膚を5mmで貫き, 皮下組織を4mmで貫いて, 固有背筋群を30mmで貫き第12胸椎横突起に鍼先が達した。体表より第12胸椎横突起まで39mmを計測した。<br>胃兪穴を基準とした横断面では, 鍼を体表より刺入すると皮膚を5mmで貫き, 皮下組織を3mmで貫いて, 固有背筋群を28mmで貫き第1腰椎横突起に鍼先が達した。体表より第1腰椎横突起まで36mmを計測した。<br>三焦愈穴を基準とした横断面では,鍼を体表より刺入すると皮膚を5mmで貫き,皮下組織を5mmで貫いて, 固有背筋群を26mmで貫き第2腰椎横突起に鍼先が達した。体表より第2腰椎横突起まで36mmを計測した。<br>腎兪穴を基準とした横断面では, 鍼を体表より刺入すると皮膚を4mmで貫き, 皮下組織を5mmで貫いて, 固有背筋群を32mmで貫き第3腰椎横突起に鍼先が達した。体表より第3腰椎横突起まで41mmを計測した。<br>気海兪穴を基準とした横断面では, 鍼を体表より刺入すると皮膚を4mmで貫き, 皮下組織を5mmで貫いて, 固有背筋群を30mmで貫き第4腰椎横突起に鍼先が達した。体表より第4腰椎横突起まで39mmを計測した。<br>以上の結果を鍼灸医学臨床における深さの立場から考察した。
著者
若山 育郎 高澤 直美 東郷 俊宏 津谷 喜一郎
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.47-51, 2009-02-01
被引用文献数
1

2008年11月7日から3日間にわたって中国北京郊外の九華山荘においてWHO Congress on Traditional Medicine (WHO伝統医学会議) が開催された。 Opening ceremonyではWHO事務局長のDr. Margaret Chanが講演し、 Primary Health Careと予防医学における伝統医学・補完代替医療の重要性を訴えた。 また、 会議期間中に採択された北京宣言では、 各国政府主導による伝統医学のHealth Care Systemへの組み込みが必要であることが強調された。 <BR> 会議に並行して、 世界鍼灸学会連合会 (WFAS) をはじめ伝統医学関連の4つのサテライトシンポジウムが開催された。 WFASシンポジウムでは、 会議の主旨に従い、 各国における伝統医学・補完代替医療の現状や教育・研究・法整備などの実態に関するセッションが用意されていた。 WFAS執行理事会ではWFAS憲章の改訂などについて審議されたが、 その概要については別稿に譲る (本誌 p.52)。 昨年の北京シンポジウムにて予備的に開催されたUniversity Cooperation Working Committeeは、 今回も開催され、 当面の目標として国際的な教科書の制作を行っていきたいとの提案がなされた。
著者
高橋 徳 咲田 雅一
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.484-495, 2003-08-01
参考文献数
1
被引用文献数
2

麻酔下のラットでの実験<BR>麻酔下に、小型トランスデューサを胃の漿膜面に縫着し、鍼の胃運動に及ぼす効果を検討した。腹部への鍼刺激により胃の弛緩反応が出現した。一方、下肢の鍼刺激では、胃の収縮反応が出現した。胃の弛緩反応は迷走神経切離では影響をうけなかったが、交感神経切離により消失した。鍼による弛緩反応は、グアネシジン (カテコールアミンのプロッカー) 、プロパノール (βプロッカー) 、ヘキサメソニウム (ニコチン受容体プロッカー) の前投与でも消失した。また延髄のRVLM (rostral ventral lateral medulla) において、腹部に鍼刺激により、c-fbsで染まるニューロンの数が特異的に増えているのが観察された。以上より、腹部の鍼刺激により、筋肉及び皮膚の知覚神経が興奮し、この情報が脊髄を上行し延髄のRVMLに行き、ここからpresynapticな交感神経系ニューロンに興奮を送り、最終的にカテコールアミンが放出されて、β受容体を介してして胃が弛緩するものと考えられた。<BR>コンシャスラット (非麻酔意識下のラット) での実験<BR>タイプA (MMCが見られないラット) とタイプB (MMCが見られるラット) という2群に分けて、それぞれに対する鍼の影響を検討した。タイプAでMMCのないラットに鍼をうつとMMCが出現した。一方、タイプBでMMCが元々あるラットに鍼をうつと今度はMMCが消失した。また、タイプAのラットでの鍼による収縮作用は、アトロピン、ヘキサメソニウム、迷走神経切離で消失した。鍼刺激による収縮増強作用は3時間以上観察されたが、この持続時間は、ナロキサン (オピオイドのプロッカー) の投与により短縮した。<BR>コンシャスドッグ (非麻酔意識下の犬) での実験<BR>バソプレッシンの投与により消化管の逆蠕動がおこり、頻回の嘔吐が見られた。このバソプレッシンの催吐作用は、内関の鍼の電気刺激 (10Hz) で著明に抑制された。このバソプレッシンの催吐作用は、胃命での電気刺激では抑制されなかった。内関の鍼刺激による制吐作用は、ナロキサンの投与により消失した。以上より、内関の鍼刺激が中枢のオピオイドを刺激して、バソプレッシンで誘導される嘔吐中枢の活動を、このオピオイドが抑制する可能性が示唆された。<BR>ヒトでの実験<BR>ヒトで、内関や足三里に鍼で電気刺戟 (1Hz) をした際の胃電図の変化を検討した。内関と足三里は、それぞれ単独の刺激ではslow waveの発現頻度には影響はなく、tachygastriaの発現にも影響はみられなかった。内関と足三里を同時に刺激すると、peak dominant frequencyが低下した。また、内関の鍼刺戟はpeakdominant powerを抑制し、逆に足三里では増強した。<BR>手術後の嘔気、嘔吐に対する鍼の効果の検討<BR>乳がんの手術をした患者75人をランダムに内関に鍼をした群、sham acupuncture群、オンダンセトロン投与群に分けて、術後の嘔気、嘔吐の頻度を検討した。sham acupuncture群やオンダンセトロン投与群に比較して、内関に鍼をした患者群では、術後2時間の嘔気、嘔吐の発現頻度が著明に減少した。術後の痛みの程度も、鍼をした群では他の群に比べて、その発現頻度が非常に減少していた。内関の鍼刺激には制吐作用があるだけではなく鎮痛作用もあるということが示唆された。

1 0 0 0 OA 科学史は今

著者
中山 茂
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.460-470, 1999-12-01 (Released:2011-03-18)
著者
山田 鑑照 尾崎 朋文 松岡 憲二 坂口 俊二 王 財源 森川 和宥 松下 美穂 吉田 篤
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.353-374, 2009 (Released:2010-01-20)
参考文献数
49

経穴研究委員会として3回目のワークショップを第57回全日本鍼灸学会学術大会 (京都) において開催し、 2つのテーマについて検討し報告した。 第1テーマ (日中における循経感伝現象の研究) 1) 中国における循経感伝現象の文献調査 (王):1979年以降の中国において行われた循経感伝現象の主要な研究についての文献調査。 経絡現象並びに循経感伝現象の定義、 循経感伝現象の特徴とその発現機序について報告する。 2) 良導絡よりみる循経感伝現象 (森川):腎透析患者並びに胃全摘患者における反応良導点出現及び特定部位刺激による反応良導点の出現と針響の出現例を報告し、 反応良導点と循経感伝現象の関係について検討した。 3) 循経感伝現象の発現機序 (山田):鍼灸刺激により知覚神経終末から神経伝達物質が放出される。 この神経伝達物質がリンパ管に吸収されリンパ管平滑筋を刺激して循経感伝現象が起こる。 その伝搬速度、 阻害因子などを踏まえて発現機序について検討した。 第2テーマ (経穴の部位と主治) 1) 環跳穴の解剖学的部位 (尾崎・松岡):環跳穴はWHO主導による経穴部位国際標準化において中国案並びに日本案の両案併記となった。 この両部位において体表に対して垂直方向に刺鍼したときの皮下構造から考えられる臨床効果について比較検討した。 2) 環跳穴の部位・主治の変遷 (坂口):WHO主導による経穴部位国際標準化において両案併記となった 「環跳穴」 について、 中国と日本の古典を引用し部位と主治の変遷について比較検討した。
著者
中村 真理 長崎 絵美 米山 奏 坂口 俊二
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.252-259, 2013 (Released:2014-04-23)
参考文献数
14

【目的】月経随伴症状 (以下月経症状) は月経開始直前や月経中などに発生する不快な症状の総称である。 今回、 診療録を3年間後ろ向きに調査し、 月経症状に対する鍼灸治療効果の実態を検討した。 【方法】対象は 2009 年1月から 2012 年3月に本鍼灸院に来院した月経症状を有する初診患者 203 名とした。 鍼灸治療は本治法として中医弁証論治と、 月経症状に対する標治法 (共通穴) として次リョウ (BL 32)、 会陽 (BL 35)、 腰兪 (GV2)、 関元 (CV4)、 三陰交 (SP 6) を用いた。 40 ミリ・16 号、 ステンレス鍼を次リョウに 20㎜、 三陰交に 10㎜刺入して 10 分間置鍼した。 その他には9分灸で熱感を感じてから3壮行った。 効果判定には月経随伴症状日本語版 (Menstrual Distress Questionnaire:MDQ) を用いた。 解析は対象者を婦人科疾患有りと診断されている 46 名 (以下、 あり群) と診断されていない 157 名 (以下、 なし群) に分け、 治療前と治療開始後一月経周期 (以下治療後) における月経前・中の MDQ の8尺度得点で比較した。 さらに、 あり群では三月経周期まで追跡した。 【結果】一月経周期での治療回数は平均 2.2 回であった。 月経前は両群とも6尺度で、 月経中ではあり群で3尺度、 なし群で5尺度の得点が有意に減少した。 あり群の三月経周期にわたる継続治療による効果については、 月経前では、 「痛み」、 「水分貯留」、 「集中力」 で、 月経中では、 「痛み」、 「水分貯留」、 「行動の変化」 で有意に得点が減少した。 【結論】月経症状に対する鍼灸治療は、 短期的にはなし群で効果的であるが、 あり群でも継続治療により効果のあることが示唆された。