著者
山田 勝弘
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.713-726, 2006-11-01 (Released:2011-03-18)

平成15年1月23日に代田文彦先生は63年の生涯を全うされた。それ以後の私共は、まるで主を失った迷える小羊のような3年間であった。このたび、今学術大会において先生の足跡を辿る機会を得て、先生が示された数々の教えを「鍼灸臨床の真価」として報告する。この演題を頂いた時、偉大な先生をわたくし独りの思いで語るにはあまりに-面的であると考え、26年間にわたり日産厚生会玉川病院東洋医学研修センターで先生に学んだ方々にもご協力を頂き今回の内容になった。この講演内容は、かつて日産厚生会玉川病院東洋医学研修センターに所属し先生に学んだ18名の方々の報告、先生のご著書、学会報告など基にした先生の思い、私が演題に沿うように構成した。本大会のような公の場で先生が言い切れなかった思い、臨床の場で何気なく研修生に語りかけた先生の真実の思い、そして2000年の神戸大会の先生の遺言ともいえるような講演の一部を取り上げ纏め.上げたものである。
著者
楊 應吟
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.191-195, 2006-05-01 (Released:2011-03-18)
被引用文献数
1 1

過去、台湾の鍼灸術は「師徒伝承」の個別伝授法だったが、1955年に台北市鍼灸学会が政府機関の認可を獲得した後, 研修会を介した体系的な習得法にかわった。20年のうちに鍼灸学を学習する者も増えて、一般民衆にも鍼灸に対する効果を認められ、徐々に鍼灸治療を受ける患者さんも増えてきた。1975年やっと鍼灸療法が受け入れられるようになってきた矢先に、「新医師法」が実施され、今までの鍼灸師は無資格となり、数多くの鍼灸師は台湾から国外へ流出してしまった。国外では資格試験の制度があるが、台湾には鍼灸に関する資格制度が無く「中医師」の試験に合格した者は、 “漢方薬の処方も、鍼灸師の資格と開業を許される” と言う摩詞不思議な制度が出来てしまったのである。中医師の試験に鍼灸の科目が加わったのは1989年になってからで、筆記試験だけで実技試験はない。だからこの間、中医病院の鍼灸治療はバリ専門の実技研修を受けたベテラン達が担当していて中医師ではない。この様にこの道に精通しない者が指導的な役割を担っていることは、鍼灸界の発展はおろか阻害となり、台湾における鍼灸に対する研究の遅れは、この不当な制度の為である。過去30年間も、「鍼針灸の合法化」の抗議運動を起こしてきたが、衛生署と中医師公会の反対に逢い、いまだに混沌たる時代にいる。日本に於いては、電子顕微鏡、コンピュータ等のハイテクを駆使して針灸に取り組んでいるのである。政府はいち早くこの事に目覚めて、早急に針灸の発展に切り替える政策こそが衛生署主管の急務だと思う。いまや鍼灸術は国際的になり、WFASは毎年国を変えて学術大会を行っている。もし先進国の日本に、世界各国から鍼灸の勉強が出来る環境をもつ国際的な鍼灸大学が出来れば、鍼灸を通して国際交流が出来, 若き未来の医師たちに切れ掛かった親日の絆を挽回してもらえると思う。
著者
坂井 友実 津谷 喜一郎 津嘉山 洋 中村 辰三 池内 隆治 川本 正純 粕谷 大智
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.175-184, 2001-05-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

【背景】本邦での鍼に関するランダム化比較試験の試みは数少なく、対照群に鍼治療以外の治療法をおいた研究はほとんどない。本邦において、医療制度の中に鍼灸が位置付いてゆくためには、質の高い臨床研究の結果が求められている。今回の臨床試験はこのような状況を踏まえ鍼を受療することの多い「腰痛症」を対象として行われた。【目的】「腰痛症」に対する低周波鍼通電療法の有効性および安全性を経皮的電気刺激法を対照としたランダム化比較試験により検討する。本試験は1995年9月から1996年6月にかけて瀬踏み的になされた第1期の研究を引き継ぐ第2期に相当する探索的なもので, 第3期の確認的な試験へ向けてのデータ収集の意味を持つ。【対象および方法】下肢症状がなく、発症から2週間以上経過した腰痛患者を対象に低周波鍼通電療法 (A群) と経皮的電気刺激法 (T群) の多施設ランダム化比較試験とした。観察期間は2週間、治療回数は5回とした。通電は各群とも1 Hzで15分間行った。【結果】目標症例数の80例に対して71例の応募者があり、68例が封筒法によりA群とT群に割付けられ、最終的にはA群の31例とT群の33例が解析の対象となった。背景因子として、年齢、罹病期間などには両群間に有意差はみられなかったが、性別、鍼治療経験の有無、経皮的電気刺激法の経験の有無には有意差がみられた。疼痛スケール (以下「VAS」とする) は最終時でA群は5.3±3.0に、T群は5.9±3.4に軽減した。また、主要評価項目であるVASをもとにした痛み改善度の効果判定では、A群は13/31例 (41.9%) に改善がみられ、T群では10/33例 (30.3%) に改善がみられた。さらに、副次的評価項目である日本整形外科学会腰痛治療成績判定基準 (以下「JOAスコア」とする) は初診時14.5±3.0点、T群は15.0±2.8点であったが、最終時では15.9±2.0点と15.8±2.6点であった。しかし、A群とT群の両群問では、VAS及びVASをもとにした痛み改善度JOAスコアにおいて統計学的な有意差はみられなかった。【考察】プロトコールに沿ってデータの収集が行われたことは中央委員会の設立によるところが大きいと考える。目標症例数に達しなかったことは、臨床試験に対する患者の理解が低いことや参加施設のおかれている立地条件が考えられるが、患者募集の仕方にも工夫をしてみる必要があると思われる。また、鍼の効果を立証していくためには介入の方法や評価項目などについて検討していく必要があると思われた。【結論】腰痛症に対するA群とT群との間には有効性の差はみられなかった。第3期へ向けての基礎的データが収集された。
著者
大島 良雄
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.143-151, 1986-09-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
3

鍼灸に関する文献は最近10年間の方が昭和50年より前20年間より多く, 内容が抄録されている文献数も著増した。科学的にレベルの高い論文も最近着々増加しているが, なお全般的に論文の質の向上が望まれる。東洋医学技術研修センターで鍼灸治療を受けた2000例と埼玉医大東洋医学外来の465例とにつき, 臨床的検討を行った。両施設とも女性患者がやや多く, 中年以上の患者が中心で, 発症から来院まで1年以上を経過した慢性病が多い。腰痛, 肩こり, 肩腕痛, 頭痛, 下肢痛, 耳鳴り, 足の冷えなどの主訴が多かったが, これらの病状の緩解, 除去は高齢人口が急増中のわが国において Quality of life の改善, 向上に役立つものと思われる。鍼灸療法は物理療法に属する。血圧に関して物理療法の原則である Wilder の law of initial value が妥当すると思われるデータがあるが, 鍼刺激の反復からなる鍼治療に際し生体反応がどのように推移するのか, 治療回数と治効率との関係を検討し, 一部に生物リズムに従いながら, 順応が行われてゆくのではないかと思われる所見を認めた。
著者
百合野 公庸 徳富 康男 田山 文隆 無敵 剛介
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.172-177, 1986-09-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
12

健康者に, 合谷―手三里鍼通電を行ない無侵襲計測法により末梢循環動態の経時的変化を追究した。循環動態諸量は, すべて増加傾向を認めた。すなわち, 最高の変化量 (mean±SE) は, 橈側皮静脈血流量156.25±40.81(%), 指先部毛細血管血流量112.4±9.14(%), 両側手掌深部体温 (右) 100.66±1.36(%), (左) 100.60±1.25(%), 1回拍出量116.33±11.57(%) であった。各最高値を示す時点は, 鍼通電後10~30分の間に認められた。1回拍出量の変化に関しては, 3.5%修飾ゼラチン溶液0.4ml/kg/minの急速輸液時の循環動態の変化に相当することが認められた。手掌深部体温の上昇は, 鍼通電後5~10分後に認められ両側性に認められることから, その中枢性機序が示唆された。
著者
福田 晋平 江川 雅人
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.212-218, 2014 (Released:2015-08-06)
参考文献数
10

【目的】鍼治療による歩行障害の改善が携帯型歩行計 (PGR) により客観的に示されたパーキンソン病 (PD) の 1 例を報告する。 【症例】症例:72 歳女性。 主訴:歩行困難、 頸肩部の重だるさ、 大腿前面部のこわばり感。 現病歴:64 歳時に右手の振戦が出現し、 PD と診断された。 抗 PD 薬の服薬によって症状は軽減したが、 71 歳時に頸肩部の重だるさや大腿前面部のこわばり感を自覚し歩幅が狭くなったため鍼治療を開始した。 現症:歩行は小刻みですくみ足、 日に 5 回の転倒を認めた。 頸肩部の重だるさは、 頸部から肩甲上部に認め、 重だるさが増悪すると前傾姿勢となり歩幅も狭くなった。 こわばり感を自覚する両側の大腿四頭筋に筋緊張亢進を認めた。 [鍼治療]後頸部や両側の大腿部の筋強剛に伴う筋緊張の緩和を目的に、 筋緊張亢進領域で圧痛の認めた経穴 (天柱、 風池、 伏兎、 血海、 梁丘等) に鍼治療を行った。 治療頻度は 1 回/週とした。 【評価】歩行は PGR で 「歩行の力強さ」 「歩行速度」 「歩幅」 を測定した。 歩行バランス機能は TUGT で、 PD 症状は UPDRS で評価した。 評価は初診時と鍼治療期間終了時に行った。 【結果】鍼治療は 12 週間に 12 回行った。 4 診時より、 頸肩部痛や大腿部のこわばり感は軽減し、 転倒回数は 1 日 5 回 (初診) から 3 回 (4 診)、 1 回 (7 診) と減少した。 歩行の力強さは 0.15 から 0.17 (m/sec2)、 歩行速度は 49 から 53 (m/分)、 歩幅は 47 から 49 (cm) となり、 TUGT は 11.8 から 9.5 (秒) と短縮し、 歩行障害の改善が客観的に示された。 UPDRS は 41 点から 28 点と低下し、 PD 症状の改善を認めた。 【考察と結語】鍼治療により、 筋強剛に伴う筋緊張による頸肩部の重だるさの軽減が姿勢を改善させ、 下肢の筋緊張の緩和が歩行機能の改善に寄与したと考えられた。 また、 本症例は、 歩行障害以外の PD 症状に対しても改善を認めた症例であった。
著者
高橋 啓介 赤羽 秀徳 粕谷 大智 中澤 光弘
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.32-47, 2010 (Released:2010-06-07)
参考文献数
31

近年、 腰痛をめぐる環境が大きく変化し、 腰痛に対する概念が大きく転換しつつある。 それは、 腰痛を 「脊椎の障害」 という捉え方から、 「生物・心理・社会的疼痛症候群」 という概念で捉えることの重要性が認識されるようになってきたことである。 従来の椎間板の障害といった形態的異常を腰痛の病態とする考え方から目に見えない機能障害という視点からも腰痛の病態を把握しようとする考え方である。 このように疾病構造が多様化していることから、 鍼灸臨床においても適切に対応できる力量が求められている。 即ち、 病態を把握した上で適切な治療を行うという考えは医療人として身に付けておかなければならない重要な要素である。 今回のパネルディスカッション1は、 このような視点に立ち、 整形外科医、 理学療法士もパネリストに加わり、 「腰痛に対するプライマリケア」 を企画した。 まず、 腰痛に対する概念が大きく転換しつつあることを踏まえて、 病態の捉え方、 対応の仕方、 鍼灸の適応と限界、 治療方法、 評価法について、 それぞれの立場から述べて頂いた。
著者
安藤 文紀 鶴 浩幸 北小路 博司
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.308-318, 2020 (Released:2021-10-28)
参考文献数
27

【目的】先進国の鍼の利用や制度を調査し、我が国で鍼が発展する課題を検討する。 【方法】米国・韓国・日本について、pubmed.gov、scholar.google.com、google.comで acupuncture 、regulation、educationなどのキーワードを用いて英語文献と日本語文献を検索した。 【結果】日本の年間鍼灸受療率は減少傾向にあるが、米国の鍼受療者の割合は増加し、韓国は鍼灸を最も利用していた。米国では47州とコロンビア特別区で鍼の法規制が有り、43州と特別区で鍼を医師の業務範囲としていた。2020年から連邦政府は高齢者の医療保険制度で鍼の費用を補償するようになった。韓国では伝統医学である韓医学の制度が法制定され、韓医師が鍼を含む韓医学の保険診療を行っていた。米国では医師1万人が鍼の講習を受け、医師の鍼の学会会員は1,300名以上、2018年の鍼免許保有者は37,886人。2016年の韓医師は23,845人。米国連邦政府は医療保険の適用のため、鍼施術者に鍼の修士課程修了以上の学歴を求め、13州と特別区で医師が鍼を実施するには200時間以上の教育が必要。韓国では高卒後6~7年等の教育により韓医師を育成し、国家試験後4年間の専門医研修プログラムにより鍼灸科専門医を養成している。 【考察・結語】前報を含め調査した6か国の内、医療施設での医行為として鍼を提供しない制度は日本だけであった。海外に比べ日本は医療としての鍼の情報が少なく、国民から鍼が医療として認知されないことが、鍼受療率低下傾向の一因と考えられる。日本の鍼が発展するには次の4つを検討することは重要と考える。1. 医療施設でも鍼を提供し、国民に鍼が医療として認知されること。2. 医療施設で鍼が提供される未来に向けてのはり師の対応。3. 医療施設での鍼の役割。4. 医師・はり師のはり教育。
著者
飯田 藍 鮎澤 聡 櫻庭 陽
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.210-216, 2019 (Released:2020-07-13)
参考文献数
12

【はじめに】慢性的な冷えを伴ったレストレスレッグス症候群 (RLS) 患者に対して鍼灸治療を行い、 良好な経過が得られたので報告する。 【症例】42歳、 女性。 主訴は入眠時に出現する下腿後面のむずむず感。 過去、 妊娠時にむずむず感が出現するも出産後は消失していた。 X年7月誘因なく入眠時に下腿後面にむずむず感が出現。 症状は徐々に増悪し、 入眠障害も伴う。 神経内科にてRLSと診断されるも、 薬物治療を希望しなかったため鍼灸治療を開始した。 【治療及び評価】治療は両側内・外側腓腹筋上に置鍼、 両側承山 (BL57)、 三陰交 (SP6) に電子温灸器を週一回実施した。 評価は国際レストレスレッグス症候群重症度評価尺度 (IRLS)、 Numerical Rating Scale (NRS) を用いた。 【結果】IRLSは初診時26点であったが治療毎に軽減がみられ、 7診目には2点にまで減少した。 NRSも初診時8点であったが、 7診目には0点と改善を認めた。 また、 RLS症状軽減に伴い慢性的に感じていた足部の冷え症状の改善が得られた。 【考察】近年RLSの病態として背後側視床下部のドパミンA11神経の機能的異常が推定されているが、 この系の障害が交感神経系の過緊張を誘発し、 微小循環を障害して冷えの原因となる可能性がある。 【結語】下腿後面のむずむず感を呈するRLSに対し、 下腿部への鍼灸治療で異常感覚の改善と共に冷えの改善が得られた一例を経験した。 RLSと冷えにはドパミン系や自律神経系と関連した共通の病態があり、 鍼灸治療がそれらに作用して症状の改善を促した可能性が示唆された。
著者
藤本 幸子 井上 基浩 中島 美和 糸井 恵
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.208-217, 2011 (Released:2011-12-09)
参考文献数
19

【目的】腰痛に対する、 より効果的な鍼治療方法の検索を目的に、 同一部位における鍼の刺入深度の違いによる治療効果の相違をランダム化比較試験により検討した。 【方法】対象:罹病期間が3ヵ月以上の腰痛を有する患者32名をコンピュータープログラム (Sample Size 2.0) を用いてランダムに、 鍼を表在へのみ刺入する浅刺群と深部まで刺入する深刺群の2群に割り付けた。 介入:施術部位は両群ともに腰部の自覚的最大痛み部位3~12ヵ所を選択した。 浅刺群 (n=16) は切皮のみ (約5mm)、 深刺群 (n=16) は約20mm刺入し、 両群とも約1mm幅での雀啄術を20秒間行い、 その後に抜鍼した。 これらの治療を計4回 (1回/週) 行った。 評価:初回治療前後、 各回の治療前、 治療終了4週経過後に痛みのVisual Analogue Scale (VAS) を記録し、 併せて、 初回治療前、 治療終了時、 治療終了4週経過後にはRoland-Morris Disability Questionnaire (RDQ)、 Pain Disability Assessment Scale (PDAS) を用いて評価した。 なお、 評価は治療内容を知らない鍼灸師が行った。 【結果】VAS、 RDQ、 PDASの経時的変化パターンに関して両群間に交互作用を認め、 深刺群で有意に良好な結果を示した (VAS:p<0.05、 RDQ:p<0.001、 PDAS:p<0.05)。 また、 初回直後、 治療終了時、 治療終了4週経過後の各時点における初回治療前に対する変化量においても、 全ての評価項目において、 深刺群は浅刺群と比較して良好な結果を示した 「(初回直後 VAS:p<0.01)、 (治療終了時 VAS:p=0.13、 RDQ:p<0.05、 PDAS:p<0.01)、 (治療終了4週経過後 VAS:p<0.05、 RDQ:p<0.01、 PDAS:p<0.05)」。 【考察】全ての評価項目において、 浅刺群と比較して深刺群では良好な結果を示した。 このことから、 腰痛に対する自覚的痛み部位への鍼治療は、 筋の存在する深部まで刺入した方がより有効性が高いと考えた。 効果の相違が出現した理由に関しては、 浅刺群と深刺群それぞれの刺激を受容する組織の違いが関与し、 局所における痛覚閾値や筋血流、 あるいは筋緊張緩和に異なった影響を与えた可能性を考えた。
著者
河内 明 豊田 住江 酒井 佳 北出 利勝 兵頭 正義
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.295-299, 1988-09-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
5

私達は, 音楽リズムを直接パルス波に変換し, 音楽と同調する音楽リズム低周波置鍼療法について従来の低周波置鍼療法との臨床効果を「肩凝り症」に限定して比較検討した。慢性化した肩凝り症の愁訴をもつ50名の患者を対象とし, これらの同一名患者を無作為に (1) 従来の3Hz連続波低周波置鍼療法群 (C群), 音楽の聴こえない音楽リズム低周波置鍼療法 (S群), (3) 音楽リズム低周波置鍼療法 (M群) の3群に分けて, その直後効果と快適度を比較した。治療は, 主に肩背部の圧痛および硬結部を基準とし, 使用鍼30ミリ20号鍼を用い, 音楽の種類は演歌, 通電時間15分とした。治療効果を比較するとM群 (有効率76%) は, C群 (60%), S群 (58%) に比べて約20%の有効率の増加が認められた。なお, 快適度についてもM群が, やや優れている傾向が認められた。すなわち, 音楽リズム低周波置鍼療法は, 音楽を同時に聴かせることが効果上, 心理的にも必要であることが分かった。
著者
秋元 恵実 小林 博子 嶋津 秀昭 伊藤 寛志 木下 晴都
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.409-415, 1988-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
11

指動脈圧を無侵襲的かつ連続的に計測する容積補償式の血圧計を使用し, 本態性高血圧症16名を対象に, 洞刺による血圧応答について正常血圧群と比較検討した。本態性高血圧群では鍼刺激直後から収縮期・拡張期血圧は有意 (P<0.05) な下降を示した。平均では収縮期血圧で14mmHg, 拡張期血圧では9mmHgの下降であった。洞刺の効果は刺激後30分まで持続し, 洞刺後15~20分で最大の下降が認められた。脈圧および心拍数については有意な変化は認められなかった。本態性高血圧群と正常血圧群の血圧変化を比較すると両群共に類似した下降曲線が得られ, 両群には同様な反射が出現しているものと推察する。しかしながら洞刺による血圧変化には個体差が見られた。
著者
篠原 鼎
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.413-425, 1989-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
33

中国における脳血管障害の治療法に, 頭皮鍼療法, 眼窩鍼療法, 醒脳開竅法がある。3つの鍼治療法とも, 急性期から後遺症期を含めた総有効率は, 約90%と高いが, 急性期から後遺症期を含めた全癒率は, 5%~58%と開きがある。脳梗塞の全癒率は, 頭皮鍼療法では47%で, 醒脳開竅法では58%で, 約10%の差がある。脳出血の全癒率は, 頭皮鍼療法では5%で, 醒脳開竅法では47%で, 約40%の差がある。眼窩鍼療法による全癒率は, 脳梗塞と脳出血を含めて24%である。加齢による全癒率の低下傾向は特にない。脳梗塞の急性期の全癒率は, 頭皮鍼療法では65%で, 醒脳開竅法では65%で, 同じである。また3か月以内 (急性期と安定期と回復期を含めたもの) の全癒率は, 頭皮鍼療法では56%で, 醒脳開竅法では58%で, 差がない。脳梗塞の後遺症期の全癒率は, 頭皮鍼療法では39% (4か月以上~11年以上を合計したもの) で, 醒脳開竅法では46%で, やや差がある。したがって頭皮鍼療法や醒脳開竅法は, 現代の脳梗塞の後遺症治療として期待できる。しかし, あくまでも急性期に行うことが, 治療効果を引き上げる。しかも醒脳開竅法のデータは, 頭皮鍼療法のデータと比較して, データ数が1桁上位なので, より信頼性が高いと言える。脳出血の急性期の全癒率は, 醒脳開竅法では55%であり, また脳出血の3か月以内の全癒率は, 醒脳開竅法では47%であり, さらに脳出血の後遺症期の全癒率は, 醒脳開竅法では27%であり, 醒脳開竅法は, 現代の脳出血の後遺症治療としても期待できる。しかし, あくまでも急性期に行うことが, 治療効果を引き上げる。3つの鍼治療法に共通している特徴は, 四肢等の障害部位に対して直接深部を治療し, 残存機能の最大利用を狙うだけではなく, あくまでも大脳中枢の血栓部位や出血部位に対しては, 遠隔的に刺激を与え, 四肢等の障害部位に対しては, 直接的に刺激を与え, 改善する治療法である。