著者
北小路 博司
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.29-37, 2012 (Released:2012-07-05)
参考文献数
10

明治以降の鍼灸に関する医療制度・教育・研究の三分野について歴史的経過を俯瞰し、 日本鍼灸の特質を検証することとした。 鍼灸に関する医療制度と鍼灸教育は、 明治維新を契機として西洋化による富国強兵の施策のもとに制定されたものであった。 すなわち、 西洋医学を日本の正統医学としたことから、 伝統医学である鍼灸は医療制度外に位置づけられる一方、 鍼灸教育においては西洋医学を基盤とすることが義務付けられた。 こうした制度上の矛盾を抱えたまま現代に至っているが、 教育においては、 西洋医学を基盤としたことから東西医学両医学による鍼灸教育が展開され、 このことが多様性を特質とする独自な日本鍼灸の形成をはかる土壌となった。 鍼灸研究は、 鍼麻酔以降飛躍的に活発化し、 特に機序解明に向けた基礎的研究は大きく進展した。 加えて大凡20年前から教育研究、 調査研究、 東洋医学に関する研究も増え、 鍼灸に関する広い分野にわたり学術研究は確実に進展している。 こうした鍼灸学研究の進展は、 鍼灸高等教育化、 鍼灸のグローバル化等の要因によるものであるが、 学会の学術活動の牽引も強く寄与したと思われた。 日本鍼灸の特質を更に向上させ、 発展させるには、 今一度、 鍼灸の歴史的変遷を俯瞰し、 長所と短所を明らかにし、 将来に向けた課題を明確化し、 すべての鍼灸師が共有することこそが、 新たな第一歩を踏み出すことに繋がるものと確信する。
著者
雨貝 孝
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.13-31, 2008 (Released:2008-05-27)
参考文献数
8

日常的なスポーツ:運動はその生理的効果としての循環系の活性化、 代謝系の活性化、 ストレスの解消を通して、 免疫系に対して(1)バリアーシステムの強化、 (2)防御系細胞の増加、 (3)細胞移動能力の亢進、 (4)サイトカイン産生能の亢進などにより増強効果を示す。 その結果として、 スポーツの感染症予防効果、 体質改善効果、 老化に伴う免疫低下の改善が示されている。 他方、 強度の運動ことにオーバー・トレーニングの免疫系への急性障害として、 過度の運動や無酸素運動がストレスとなり視床下部―下垂体―副腎軸の活性化にともなう副腎皮質ホルモンの効果として免疫抑制作用を示すこと、 運動に伴う組織障害による炎症性サイトカインの産生により急性炎症が起こること、 局所での疲労に伴う障害因子による粘膜等のバリアーシステムへの障害などがある。 体調に合った適度の運動の持続が免疫系にもプラスの効果を示すといえよう。
著者
高橋 則人 鶴 浩幸 江川 雅人 松本 勅 川喜田 健司
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.706-715, 2005-11-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
10
被引用文献数
1

【目的】施設入所高齢者の風邪症状に及ぼす間接灸の効果を、少数例においても臨床試験が可能な単一被験者研究法 (n-of-1 デザイン) を用いて検討した。【方法】老人保健施設入所中の高齢者2名に対し、16週間にわたって試験を行なった。試験は介入期間8週と対照期間8週をランダムに割付けるn-of-1無作為化比較試験 (n-of-1RCT) デザインで行なった。介入期間の間接灸は週3回、大椎穴と左右風門穴に各3壮ずつ行なった。評価は風邪の有無および風邪症状に関する項目を4ないし5段階評価にて行なった。【結果】風邪の有無に関する項目では介入期間と対照期間との間に有意な差を認めなかった。また風邪症状に関する項目においても、介入期間と対照期間との間に有意な差を認めなかった。【考察・結語】今回の試験では間接灸の風邪症状に対する効果は認められなかった。その要因としては、治療 (刺激) 部位や刺激量の不足、および被験者の生活環境の影響、さらに今回のような風邪症状等の研究に対するn-of-1 RCTデザインの適性の問題などが考えられた。
著者
ミヒェル ヴォルフガング
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.150-163, 2011 (Released:2011-08-11)
参考文献数
59
被引用文献数
1

現代では東洋医学と西洋医学を対立するものと見る研究者は少なくないが、 近世に遡ると、 互いに理解しにくいものに対する拒絶反応はあるものの、 有用と判断された医薬品や治療法は選択的に受容されていた。 16世紀中頃から東アジアに進出した西洋勢力に対し、 中国と朝鮮が反発の姿勢を見せる一方で、 日本はいわゆる 「鎖国政策」 以降も一定の交流を保ち続けた。 19世紀初頭まで 「東洋医学」 に関する情報の大半は中国からではなく、 長崎のオランダ商館を通じて西洋に伝わり、 中国の伝統医学のほか、 管鍼法、 打鍼法など日本独特のものも日中共有の治療法として紹介された。 鍼術と灸術の観察と受容は基本的に別々に進められた。 「火のボタン」 として16世紀に紹介された灸は、 1675年に刊行されたバタビアの牧師の著書により足痛風の治療薬Moxaとして注目され、 日本での研究成果も踏まえつつ、 西洋の医学界において本格的に議論されるようになった。 ケンペルが持ち帰った 「灸所鑑」 とその詳細な説明でさらに関心が高まり、 古代ギリシャやエジプトにも類似の治療法があったことから、 医術としての灸は比較的好意的に受容された。 灸術と同様に鍼術に関する最古の記述は日葡交流時代に遡るが、 ヨーロッパでの専門家による議論は、 出島商館医テン・ライネ博士が1682年に発表した論文集から始まる。 テン・ライネは鍼術を 「acupunctura」 と名づけ、 出島の阿蘭陀通詞に説明を受けた資料を紹介したが、 「気」、 「経絡」、 「陰陽」 などの理解に至らず読者を困惑させた。 その後商館医ケンペルが疝気を 「疝痛」 (colica) と見なし、 その治療法を詳細に記したが、 西洋の医学界で 「日本人と中国人は、 胃腸に溜ったガスを抜くために腹部に針を刺す」 という誤った解釈が広まり、 18世紀末までは来日した医師達も西洋の読者も、 鍼術に対する疑問を払拭できず、 有用性を認めることに極めて消極的だった。
著者
笠原 由紀 深澤 洋滋 田原 壮平 栗林 恒一 東家 一雄
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.2-12, 2009 (Released:2009-08-11)
参考文献数
27

【目的】免疫研究委員会の活動として、 臨床に携わる鍼灸師が持つ 「鍼灸と免疫」 に対する意識の現状分析を行い、 そこから示唆される今後の課題を提言することを目的とした。 【方法】東洋療法学校協会に加盟する専門学校43校、 および国内で鍼灸師の養成課程をもつ大学6校において勤務する鍼灸師を対象に無記名アンケートによる意識調査を行い、 単純集計により解析した。 【結果】調査対象校49校に総計960件のアンケートを送付し、 32校から263件の有効票を回収した。 鍼灸治療を受けている患者は一般に感染に対する抵抗力が高まっていると考える回答は56.4%、 また、 鍼灸は免疫力を高める予防医学の一つと考える回答は83.3%であり、 鍼灸は免疫に対して効果的と考える回答が多数を占めていた。 しかしながら、 実際の臨床現場において患者の免疫力を客観的に評価しているという回答は11.0%に留まり、 大多数が患者からの主観的な申告で判定しているという結果であった。 【結論】肯定的な回答が多かった鍼灸の免疫力向上作用について科学的検証を行うためにも、 鍼灸師が臨床現場で実施可能な非侵襲性かつ客観的な免疫力の評価方法を模索し導入していくことが重要と思われた。
著者
東家 一雄 深澤 洋滋 笠原 由紀 奥田 学 田原 壮平 栗林 恒一
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.767-778, 2006-11-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

平成16年度に発足した免疫研究委員会では、過去に国内外で発表された鍼灸と免疫に関する全ての基礎研究論文の記載内容を精査する目的でWeb上のデーターベースからキーワード検索により724論文を選び、そこから実験動物対象の原著論文52編とヒト対象の原著論文42編 (そのうち英文論文72編、邦文論文22編) を抽出した。それら94論文に記載された鍼灸刺激方法や実験対象、測定された免疫学的パラメーターなどについて詳細な検討を加えた結果、本領域の報告は極めて多様な実験条件設定の下で実施されていることが明らかとなり、今後のこの領域の基礎研究では相互に比較検討が可能な再現性の高いデータを蓄積しなければならないことが示唆された
著者
岩元 英輔 村瀬 健太郎 谷之口 真知子 本石 希美
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.176-185, 2013 (Released:2014-04-23)
参考文献数
15

【目的】通常治療・ケアに併用した異なる鍼通電療法 (Electroacupuncture: EA) の刺激部位が、 褥瘡の臨床評価に与える影響を検討したので報告する。 【方法】対象は骨盤部分の褥瘡を発生した患者 56 名を、 通常治療・ケアのみ行う対照群 (n=19)、 通常治療・ケアに褥瘡周囲への EA を併用する局所 EA 群 (n=19)、 通常治療・ケアに両側の委中穴 (BL 40)・承山穴 (BL 57) の EA を併用する遠隔 EA 群 (n=18) の 3 群間に封筒法にて無作為に割付けた。 通常治療・ケアの方法は褥瘡予防・管理ガイドラインに準拠した方法で行った。 局所 EA の方法は、 創部周囲の正常皮膚部位に 10 mm から 30 mm の深さで刺入し、 通電刺激の波形は双極性パルス波、 周波数 3 Hz、 刺激時間 10 分間を週 5 日行った。 遠隔 EA の方法は、 委中穴と承山穴に約 10 mm 刺入し、 局所 EA と同様の通電刺激を行った。 評価は DESIGN-R と創サイズを、 割付け結果を把握しえない看護師が開始時から 6 週後まで行った。 【結果】DESIGN-R と創サイズの実測値は 3 群間に有意差を認めなかった。 開始時を 100%とした変化率で比較した結果、 DESIGN-R 変化率は、 4 週後以降に対照群に比べ局所 EA 群に有意な低値を認めた (P 【結論】通常治療・ケアに併用した創部周囲への EA は、 褥瘡の早期改善に有用な方法であることが示唆された。

2 0 0 0 OA 脳活動と鍼灸

著者
梅田 雅宏 下山 一郎 木村 友昭 田中 忠蔵
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.686-697, 2004-11-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
14

中枢神経を介した鍼灸の治療効果を調べることを目的に、鍼灸刺激により生じる中枢神経の局所活動を人の脳で調べる方法について紹介する。鍼灸刺激は感覚刺激として入力され、中枢神経で処理される。この時の脳の応答を調べる方法として脳波が広く用いられてきた。しかし、脳波を利用した方法は中枢神経の活動場所を特定する点で問題があった。この問題を解決するために、神経の電気活動に伴って発生する微弱な磁場を空間的に並べられた受信コイルで捉え、磁場発生源の位置を推定するMEG法、この神経活動に伴い変化する血液中のオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンのそれぞれを、近赤外光の吸収スペクトルの差から分離して捉える赤外分光法、さらに、血液中に生じたデオキシヘモグロビンが持つ磁化率変化を信号強度に反映させた脳機能核磁気共鳴画像 (fMRI) 法を取り上げ、中枢神経における局所活動について調べる方法を紹介する。
著者
妻木 充法
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.684-689, 2008-08-01
参考文献数
6
被引用文献数
2 1

クラブワールドカップは、 6大陸のクラブ王者が世界一を決める大会であり、 その審判もアジア、 アフリカ、 南米、 北中米カリブ、 オセアニア、 ヨーロッパより選出される。 今回、 世界サッカー連盟 (FIFA)、 日本サッカー協会より依頼を受け、 鍼灸師が審判団のメディカルサポートを行った。 業務は、 練習及びフィットネステスト時のトレーナー活動、 試合帯同、 トリートメント業務 (鍼治療、 マッサージなど) であった。 16日間で59回の鍼治療、 63回のマッサージを行った。 大会期間中の外傷はハムストリングス肉離れ2名、 障害は、 腰痛、 アキレス腱周囲炎、 頚部痛などがあり鍼治療を行い改善した。 しかし2度の肉離れを起こした1名は、 帰国した。 鍼を知らない審判もいて、 日本の鍼治療を理解してもらう工夫が必要であった。 今後は、 感染防止の対策、 鍼の効果や傷害についての英語での説明法、 各国の食事やサプリメントの正確な知識を持つことの必要性を痛感した。
著者
形井 秀一 大田 美香 辻内 敬子 大塚 素子 伊田屋 幸子
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.2-13, 2015

お灸が、 現代の日本の鍼灸治療においてどのような役割を担えるのか、 その可能性を探るために、 灸の基礎的・臨床的効果や現代における灸の有り方を検討した。 <BR> 大田美香氏は、 バイオインフォマティクスにより灸の実験対象を絞り込むことが可能である事を紹介し、 バイオインフォマティクス解析から灸の"熱"をキーワードとした研究結果を報告し、 今後、 灸の作用予測研究の発展の可能性を示した。 辻内氏は、 1980年代から、 開業鍼灸師の立場で灸の魅力を伝えるお灸の普及活動を始め、 産科領域の臨床研究に取り組み、 同領域に於ける灸の効果について、 多くの成果を明らかにしてきたことを述べた。 また、 大塚素子氏は、 灸が 「治療文化」 として愛媛で継承されてきたことの意味を明らかにし、 また、 愛媛県立中央病院漢方内科鍼灸治療室での鍼灸臨床や、 周産期母子センターでのセルフ灸指導の実践等を紹介し、 時系列分析を踏まえて、 灸が人生の途上で重要な役割を担った例を紹介した。 そして、 米国在住の伊田屋幸子氏は、 2008年にMoxafricaが、 アフリカにおいて始めた結核に対する直接灸の実践とその成果を報告し、 その成果を踏まえて、 今後、 鍼灸がさらに大きく発展する可能性があることを強調した。
著者
東郷 俊宏 矢野 忠
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.510-525, 2003-08-01
参考文献数
39
被引用文献数
1

灸療法は湯液、鍼療法とともに日本、中国の伝統医学において中心的な治療法としての位置を占めてきた。交の原料であるヨモギは菖蒲とともに、古くから毒気を祓う力を持つ植物として採集され、古代中国で成立した『四民月令』や『荊楚歳時記』等では毎年五月五日にこれらを採集する習俗が年中行事の一環として記載されるほか、『詩経』、『楚辞』においても採集したヨモギを身にまとう習俗が歌い込まれている。<BR>1973年に中国長沙馬王堆漢墓より発掘された医学書 (畠書) には、支を治療手段として扱う文献が見られる。すなわち『五十二病方』で外科的処置が施された患部の薫蒸を目的として支を用いたことが記録されるほか、『霊枢』経脈篇の原型と考えられる『陰陽十一脈灸経』『足腎十一脈灸経』は各経脈の変動に由来する症候群と治療経脈との関係を指摘する。<BR>ツボ (孔穴) と疾病を対応させて灸治の方法を体系的に記述したのは『黄帝明堂経』が最初であり、同書の記述は『鍼灸甲乙経』をはじめ、多くの医学書に採録され、鍼灸治療の基本文献とされた。孫思遡と王煮はともに唐代を代表する医家だが、孫思遡が鍼灸両方を同等に扱ったのに対し、王煮は『外台秘要方』編纂に際して灸治のみを採録し、思遡と対照的な姿勢を取ったことがしばしば指摘される。しかし子細に検討すると、孫思遡の医書 (『千金要方』『千金翼方』) においても灸治の優越性を指摘する部分があり、また予防医学、養生手段としての灸治の意義を明確にしたほか、阿是穴を紹介するなど、灸療法の可能性を広げるうえで孫思遡の医書が果たした役割は大きい。『外台秘要方』も孫思遡の医書をベースに灸治を重視する立場を展開したものと考えられる。<BR>古代から中世までの日本医学を鍼灸に限定してみると、官職として鍼博士は置かれたものの、鍼は主に患部の切開や瀉血を目的とした外科器具として用いられ、実際の臨床は灸治が中心であったこと、また人神や日月の運行に基づく灸治の禁忌が忠実に守られ、吉日の選定にあたっては陰陽師が関わっていたことなどが『玉葉』、『明月記』などの日記資料から窺われる。十世紀末に丹波康頼によって編纂された『医心方』も、その構成は『外台秘要方』に類似し、灸治の記述に重点をおいている。<BR>近世に入ると、明代までに成立した医学書の大量の舶載を背景に経穴部位や治療経穴の文献学的研究、考証が進むと同時に、中世以降はじまった日本独自の灸治法 (和方灸、家伝灸) が集大成された。また養生法の一環としての灸療法が普及し、民間向けの灸治専門書の出版を見るようになる。15世紀末に始まる大航海時代以降、イエズス会士を筆頭に多くの西洋人が日本を訪れ、灸療法の知識を西洋にもたらした。17世紀初頭に長崎で印刷された『日葡辞書』には灸に関連する用語が多く採録されるほか、元禄期にはオランダ商館医として来日したケンペルによって本格的な紹介がなされた。ハンセン氏病 (らい病) の治療に灸が用いられていたことはやはりオランダ商館医であったテン・ライネの著作に記録されているが、明治期に東大医学部教授として日本に滞在したベルツの撮影した写真の中にも多くの灸痕を有するハンセン氏病患者の写真が残されている。
著者
郡 拓也 東條 正典 藤井 亮輔 野口 栄太郎 坂本 裕和 秋田 恵一
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.811-818, 2010-11-01
参考文献数
14
被引用文献数
1 3

【目的】WHOにより標準経穴部位(361穴, 2006)の合意が成され、 それに伴って秩辺の取穴場所の変更が行われた。 新旧両秩辺とその周囲構造物との位置関係および腰痛に対する治療部位としての坐骨神経への刺鍼点について検討した。 <BR>【方法】東京医科歯科大学解剖学実習体3体6側を使用した。 殿部および大腿後面における太陽膀胱経に、 WHOの取穴方法に従って刺鍼を施し、 その部位を中心とした局所解剖を行った。 <BR>【結果】1.新秩辺(WHO, 2006)は、 後大腿皮神経、 下殿神経・動脈、 坐骨神経が出現する梨状筋下孔の近傍に位置した。 <BR>2.旧秩辺は上殿神経・動脈が出現する梨状筋上孔の近傍に位置した。 <BR>3.殿部および大腿後面での坐骨神経への刺鍼部位として、 (1)坐骨神経形成根部、 (2)梨状筋下孔、 (3)仙尾連結と大転子を結ぶ線上の外側1/3点、 (4)坐骨結節と大転子を結ぶ線上の中点、 (5)承扶の約1cm外側の地点、 (6)殷門の外側、 大腿二頭筋筋腹の内側半部、 が挙げられた。 <BR>【結論】1. 新旧両秩辺とも殿部および大腿後面にとって重要な神経・血管の近傍に位置し、 種々の病的症状に対する有効な刺鍼部位と考えられる。 <BR>2. 殿部および大腿後面での坐骨神経に対する刺鍼部位として、 走行経路より6カ所が示唆された。
著者
本田 達朗 金原 正幸 酒井 梨名 張 文平 西村 甲 浦田 繁
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.104-112, 2014

【目的】労働で繰り返しの使用により発生したと思われる左肘と左膝の疼痛に対して、M-Testで身体動作をチェックし、動きの制限を改善させる1回の鍼治療で5ヵ月間継続した症状が奏効したので報告する。<BR>【症例】50歳、女性。主訴:左肘内側痛、左膝内側痛。現病歴:2013年7月下旬頃から職場で食用油の一斗缶(18リットルの油)の上げ下げを頻繁に行っていた。同年12月に左肘、左膝の痛みが強くなったため本大学附属鍼灸センターを受診した。仕事で重い物を持ち上げることを繰り返したことが原因の軟部組織疼痛と思われる症例である。<BR> この患者に対して、M-Testを用いて身体上の制限動作をチェックした。制限動作から治療すべき経絡、経穴が導き出され治療を行った。患者の労働での具体的な動作は、左手は一斗缶の金具に指を引っかけ、手関節と肘関節は軽く屈曲させ持ち上げるものであった。また、食用油を鍋に注ぐ際に左手関節は背屈させ、缶を支えていた。M-Testの結果から、(1)左肘関節屈曲・伸展、(2)左肩関節伸展、(3)左股関節内旋・外旋動作の制限動作は労働における動作と関連性があると思われたため、これらをターゲットモーションに設定しM-Test理論に基づく鍼治療を行った。<BR>【経過】初診治療前と再診治療前のVisual Analog Scale (VAS)を比較すると、左肘が90mm→18mm、左膝は80mm→15mm (初診時前→再診時前) でいずれも症状は劇的に改善した。<BR>【考察】M-Testで判明した制限動作は身体上の異常箇所や治療経穴を特定でき、鍼刺激により身体の動きが改善したとともに動作時痛が改善した可能性がある。
著者
宮崎 彰吾 萩原 明人
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.226-234, 2012
被引用文献数
1

【目的】人々の健康増進に用いられている鍼灸療法の費用をカバーする助成金額と健康指標との関連について検討するため、 国民健康保険の保険者である各自治体が独自に設定している鍼灸療法の公的な助成金額と集団の健康状態の指標とされる平均寿命および疾病分類別の医療費との関連について検討した。 <BR>【方法】福岡県内の85市町村を対象に、 国民健康保険の保険者である各市町村が独自にその範囲を設定している助成制度から 「鍼灸療法に対する1年間当りの助成金額の上限値」 を算出し、 「健康指標 (平均寿命、 標準化死亡比)」 及び 「医療費 (疾病分類別における入院及び入院外の1人当り実績医療費)」 との関連を検討した。 <BR>【結果】鍼灸療法の公的な助成金額と平均寿命との間には有意かつ正の相関 (男性:r=0.53, P<0.001、 女性:r=0.44, P<0.001) が見られ、 標準化死亡比との間には有意かつ負の相関 (男性:r=-0.48, P<0.001、 女性:r=-0.34, P<0.005) が見られた。 更に、 鍼灸療法の公的な助成金額と医療費との間には有意かつ負の相関 (入院:r=-0.26, P<0.05、 入院外:r=-0.30, P<0.05) が見られた。 <BR>【考察及び結論】鍼灸療法を利用する多くの患者は、 主に筋骨格系の症状に対する治療目的で受診している。 助成金額が高い場合ほど平均寿命が延伸するのは、 鍼灸療法によって筋骨格系疾患が改善することにより、 日常生活動作 (ADL) や身体活動量の向上につながり、 致命的な疾患 (例えば癌、 虚血性心疾患と脳血管障害) のリスクを減少したためであると考えられる。 また、 鍼灸療法が致命的な疾患あるいはその原因となる状態に直接影響している可能性も示唆された。
著者
金子 泰久 古屋 英治 坂本 歩
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.158-165, 2006-05-01
参考文献数
17
被引用文献数
9 6

【目的】トライアスロン競技後の筋肉痛に及ぼす円皮鍼 (PTN) の効果をプラセボ (P) を対照群として検討した。<BR>【対象及び方法】トライアスロン競技に参加した選手男女合計149名を対象とした。PTNもしくはPによる刺激部位はL2-S1棘突起間外方2cmおよび第2後仙骨孔で、レース中のみの留置とした。評価はレース前、直後、翌日の腰下肢6部位 (大腿前面、大腿後面、下腿前面、下腿後面、腰部、臀部) の筋肉痛のVAS値とした。<BR>【結果】レース直後の筋肉痛は、レース前と比較して両群の全ての部位で増加しこれらは有意 (p<0.01) であった。PTN群では翌日の筋肉痛が直後と比べ臀部を除く全ての部位で減少し (p<0.Ol, p<0.05) 、レース前の状態に回復した。P群では翌日の筋肉痛は大腿後面が直後と比べて減少 (p<0.05) した。<BR>【結論】レース中の円皮鍼によって遅発性筋肉痛の発生が抑制されることが示唆された。
著者
井畑 真太朗 山口 智 菊池 友和 小内 愛 堀部 豪 伊藤 彰紀
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.53-58, 2021 (Released:2021-10-28)
参考文献数
12

【目的】突発性難聴(以下SSNHL)は原因不明の感音性難聴である。高齢者で眩暈を伴う重度SSNHLでは、発症2週間以内に症状が改善しないと予後不良と言われている。今回、耳鼻科で予後不良と診断され発症約1ヶ月後より鍼治療を開始し聴力回復が認められた症例を経験したので報告する。 【症例】74歳女性、主訴:左難聴、既往歴:18年前右聴神経腫瘍の手術により右重度難聴、現病歴:X年10月4日から特に誘因なく左難聴を自覚、両側難聴になり、対話不能。同日耳鼻科を受診、左SSNHLと診断。鼓室内ステロイド注射を施行。X年10月13日より回転性眩暈出現、左SSNHLも改善せず、X年10月21日より当院神経耳科にて入院。重度感音難聴(grade4)を認め、同日から薬物療法、星状神経節ブロックを連日開始。X年10月30日、経過不良、また頸肩部の張り感を自覚した為、神経耳科より鍼治療の診療依頼。神経学的所見は左右難聴を認める以外は全て正常。板状筋、肩甲挙筋、僧帽筋に筋緊張。鍼治療方針は内耳の血流改善、頸肩部筋群緊張緩和を目的に天柱、風池、肩井及び左翳風に40mm16号鍼置鍼10分を入院中週3回、退院後週2回実施。評価はオージオグラムで測定。 【結果】初診時左91.3dB、右96.3dBの為、筆談で医療面接。1週間後左82.5dB右92.5dBと回復が認められ対話が可能となり、4ヶ月後の鍼治療終診時左68.8dB右86.3dBと回復した。聴力回復判定では回復(10-30dB未満改善)の値、重症度分類ではgrade4→grade3に回復した。 【考察および結語】本症例は、頸肩部の鍼治療で、内耳動脈を介して蝸牛の血流及び有毛細胞に何らかの影響を及ぼしたものと考える。以上より、今後、予後不良の重度SSNHL患者に対して西洋医学的治療に追加する治療オプションとして鍼治療は有用性が高い可能性が示唆された。
著者
曽根原 容子 谷口 博志 藤本 英樹 松浦 悠人 村越 祐介 安野 富美子 坂井 友実
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.190-202, 2022-08-01 (Released:2023-05-10)
参考文献数
26

【目的】本研究の目的は一般女性の美容鍼灸に対しての意識や認識等の現状について調査することである。 【方法】対象は国内テストマーケティング好適地といわれる静岡県に在住する一般女性1000人。 方法は質問紙法。 県内の商工会議所を介して人口比率に応じ年代別にアンケートを配布し回答を得た。 項目は①基礎情報②顔の美容上の悩みの有無、 種類③鍼灸治療の経験の有無、 美容鍼灸の認知度、 認知媒体、 効果のイメージ、 美容鍼灸の経験の有無④美容鍼灸の効果、 種類、 マイナス効果の有無、 現在の受療状況、 受療希望とその理由、 治療院に求める要素、 施術者に求める要素⑤1ヶ月の美容に対する投資の質問を設けた。 【結果】 回答率56.2%。 91.8%が顔に対する美容上の悩みを感じていた。 鍼灸治療経験者は28.8%。 美容鍼灸の認知度は42.0%。 認知媒体はテレビ45.3%が最も多く、 美容鍼灸に対する効果のイメージはリフトアップ44.8%が最も多い。 未経験者521人に対する受療希望は43.2%。 理由はなんとなく興味を持った45.3%で最も多かった。 受療を希望しない理由は痛そうが52.6%で最も多く、 美容鍼灸の経験者では効果を感じたと60.0%が回答し、 その効果は対象者が持つイメージと同じくリフトアップが62.5%と最も多い。 しかしマイナスを感じたとの回答も45.0%みられ、 さらに2度以上受けたが今は受けていないとの回答が47.5%と最も多かった。 治療院には清潔感を求める人が多く、 施術者には優れた技術を求める人が多い。 1ヶ月の美容にかける費用は3,000~5,000円未満28.5%が最も多い。 【考察・結語】多くの女性が顔に対して美容上の悩みを持っており、 その中でもリフトアップに美容鍼灸への期待を向けていることが示唆された。 認知度に対する受療率の低さや治療を継続しない理由、 美容鍼灸を展開していく上での問題点が明らかとなった。