著者
若林 修
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.29-35, 1968

以上申述べた事項をまとめてみますと, 新生児, 乳児, 幼児にはそれぞれの年齢層によって罹患疾患に大きな特異性があり, 実地治療に際してはこれを熟知することが, 必要な検査を実施し, 速やかに正しい診断を下す上にきわめて必要であるということができます。次に術前の状態がしばしば各年齢層によって著しく異なるので, 新生児のように患児が幼ければ幼い程, 脱水に陥り易いこと, そしてそれが生命の危険に連なることを知り, 脱水の程度の判断や, その処置が適切でなければなりません。術前処置としては脱水の矯正, 酸塩基平衡の矯正などが, 各年齢層によっていくらかその重要性に差があると考えることができます。術前, 術中, 術後の低体温や過高熱の出現についても患児の年齢によってその出現の可能性の著しく異なることも特筆に値すると考えます。術前, 術後の肺合併症の重要性は予後決定に関してはなはだその意義が大きく, とくに新生児期の重要性は注目に値するものであります。新生児期の黄疸やこれに伴う出血傾向の問題も特異的であり, 新生児の術後代謝反応の著明でないこともこの年令層の特異点ということができます。以上述べた事項は, 要するに新生児, 乳児, 幼児と称せられる小児期の各年令層の間には手術, その予後などを中心に外科的立場より見るとき, かなり多彩な差異を認めることができるということであり, もちろん, その差異は程度の問題であるともいうことができますが, 各年令層のわけ方が人為的である以上, その事実は否定できませんが, その平均値を観察して見ると明らかな差異があり, これを熟知して小児の外科診療にたずさわることが, その成績の向上に大きく影響するものであることは確信を以て述べることのできる事実であることを述べまして私の講演を終ります。会員諸賢の長時間の御静聴を感謝し, この講演の機会を与えて下さいました林田会長に厚く御礼を申し上げます。
著者
宮内 勝敏 高橋 広 上田 重春 河内 寛治
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.1126-1130, 1996
被引用文献数
1

Hirschsprung 病の父子例について報告した.父は1971年生まれ.生後8ケ月,他院にて一期的根治術を施行された.aganglionosis の範囲は S 状結腸までであった.子は1995年8月生まれの男児.生後2日目,腹満にて発症.生後6日目,右横行結腸瘻造設.生後3ケ月,Duhamel-池田変法にて根治術施行.aganglionosis の範囲は横行結腸中央部までであった.Hirschsprung 病は家族性の比較的高い疾患として知られているが,親子例の報告は比較的少ない.本邦における自験例を含めた4組7例,海外における28組51例を集計し考察した.男女比を親についてみると,父親11例 (42%),母親15例 (58%) と一般の発生率に比べ女性の比率が高い.また,aganglionosis の範囲については,子供の方が親より長い傾向にあった.
著者
富山 英紀 下竹 孝志 柳原 潤 岩井 直躬 吉野 英二
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.708-711, 1996

胸腰部脊髄破裂を合併した左横隔膜ヘルこア (Bochdalek) を経験した. 症例は在胎37週, 体重2199g で出生した女児で, 出生前に胎児超音波検査で水頭症を指摘されていた. 出生時に, さらに胸腰部脊髄破裂が診断された. 生後26時間より呼吸困難を来し, 胸腹部単純 X 線像で左先天性横隔膜ヘルニアと診断された. 生後2日目に経腹的に修復術を施行した. 更に, 生後7日目と11日目に皮弁による脊髄破裂修復術及び V-P shunt 術を施行した. 術後経過は順調で生後15日目に抜管し, 経口栄養(母乳)に移行出来た. 本症例では脊髄破裂を合併していたため, 術後の腹臥位での呼吸管理, 脊髄破裂修復術に用いる皮弁形成に配慮した皮膚切開を要した.
著者
向井 基 高松 英夫 野口 啓幸 田原 博幸 加治 建 矢野 常広 坂本 浩一
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.579-584, 2003
被引用文献数
1

【目的と方法】当科で経験した小腸原発消化管重複症7例の患者背景,症状,診断・治療,重複症の形態的特徴を示し,症状と形態的特徴との関連を中心に考察を加える.【結果】年齢は1ヵ月から4歳で,性別は男児4例,女児3例であった.合併異常を認めた症例はなかった.重複腸管は全例が回腸にあり,そのうち3例が回腸末端に存在した.形態は7例とも嚢腫型であった.腸間膜との位置関係は重複腸管を腸間膜側に認めた症例が4例,反腸間膜側に認めた症例が3例であった.固有筋層を共有しなかった症例は1例のみであった.異所性胃粘膜は検索可能な6例中4例でみられた.重複症の形態的特徴と,症状との関連の検討では,重複腸管が回腸を圧迫し比較的早期より通過障害を認めた2例では重複腸管と回腸の固有筋層が共有されていたが,年長時まで通過障害をきたさなかった1例では,固有筋層の共有はみられなかった.また,乳児期早期に腸重積で発症した症例では,重複腸管が反腸間膜側にみられ,回腸内腔に突出していた.【結論】消化管重複症は発生部位により臨床像が異なるが,今回の小腸原発症例のみの検討からも重複腸管の形態の違いにより,症状とその発現時期が異なることが予想された.
著者
八塚 正四 土岐 彰 鈴木 淳一 真田 裕 千葉 正博 五味 明
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.154-158, 2005

【目的】肥厚性幽門狭窄症(以下, 本症)に対するRamstedt手術は比較的若い外科医が執刀することの多い手術であるが, その術者の実態に関する報告はほとんどない.そこで, 小児外科卒後研修の観点から術者の至適開始時期について検討した.【対象・方法】過去15年間に当科で経験した本症手術91例の術者と第一助手の卒後年数や内訳, 手術時間, 術後合併症などについて調査した.当科の標準術式はRandolph法に準ずる右上腹部開腹到達法で, 術後の経口開始時期は全例翌朝としている.【結果】94件中33件(35%)は卒後5年以上の小児外科専従医, 61件(65%)が卒後5年未満の小児外科専攻医によって行われ, このうち卒後2年目が23件(38%)を占め, もっとも多かった.新生児症例においても25件中15件(60%)を卒後5年未満の小児外科専攻医が執刀し, 卒後3∿4年目が9件(60%)を占めた.第一助手は68件(72%)を日本小児外科学会認定指導医, 26件(28%)を同認定医が務めた.手術の平均時間は卒後年数とともに60分から38分に短縮していたが, 本症特有の合併症はみられなかった.【結論】本学会認定指導医またはそれに準ずる経験者による介助の下であれば, 卒後5年未満の小児外科専攻医も安全に手術を行うことができる.
著者
市川 徹 横山 隆 檜山 英三 松浦 雄一郎
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.732-738, 1995
被引用文献数
2

広島大学第一外科において経験した小児期に初回手術を受けた先天性胆道拡張症(CBD)24例を一期的分流手術後3年以上経過例14例,初回内瘻術後再手術例4例,初回外瘻術(うち3例は胆道穿孔合併)後分流手術例6例に分け術後経過,合併症を術式別に検討した.一期的分流手術例では術後短期間膵炎や胆管炎症状を認めるものや,術後数年間肝内胆管拡張を認めるものも有るが徐々に軽減しており概ね問題は無い.胆道穿孔合併例や,初回胆管炎や膵炎が内科的にコントロールできないものには,初回胆汁外瘻造詮術を行い合併症予防のために有用であった.二期的分流手術後の術後経過も一期的分流手術例に比し差を認めず良好であった,これに対し初回内瘻造般例は,その後全例重篤な胆管炎を起こし,2年から15年後に分流手術を要しており,たとえ無症状でも早期に分流手術を行うべきである. CBD の分流手術にあたっては胆汁の充分なドレナージは当然必要であるが,膵管内 protein plug や結石を認め更に膵液流出障害が考えられる場合は膵液ドレナージ術の付加も考慮すべきである.
著者
大浜 和憲 土田 敬 矢崎 潮 田中 松平 長尾 信 亀水 忠 川口 雅彦 俵矢 香苗 清水 博志
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.776-783, 1996
被引用文献数
4

胆道穿孔を合併した先天性胆道拡張症4例を報告した.性別は男児1例,女児3例で,年齢は13日から4歳であった.形態は嚢腫状拡張3例,紡錘状拡張1例であった.主脈は腹痛,発熱と嘔吐が3例に,腹部膨満,黄疸と意識障害が1例に認められた.全例とも炎症所見はそれほど強くなかった.直接ビリルビンの上昇が1例に,高アミラーゼ血症が2例に認められた.発症から手術までの期間は2日から13日であった.初期治療として腹腔単ドレナージ術が2例に,嚢腫十二指腸吻合術と外胆瘻造設術が各1例に行われた.全例,1ヵ月から5年後に根治術を受けて生存している.自験例4例を含む本邦報告例93例の検討から,症状は嘔吐が最も多く,腹部膨満,腹痛,発熱がそれに次ぐ.小児の急性腹症で黄疸や肝胆道系酵素・膵酵素の上昇などがあれば,腹部超音波検査を必ず行い,胆管の拡張と大量の腹水貯留があれば胆道拡張症に胆道穿孔を合併したものとほぼ診断できる. 初期治療は外胆道瘻造設術が妥当である.先天性胆道拡張症で胆道穿孔をおこす原因は胆道内圧の上昇と膵液の逆流による胆管壁の荒廃の2つが考えられるが,嚢腫状拡張よりも紡錘状拡張の方が穿孔を起こしやすいことから,後者の方がより大きな因子といえる.また穿孔をおこす年齢は4歳までがほとんどで,胆道壁の未熟性も穿孔に関与していると考えられる.
著者
北爪 博文 岡田 正 金 昌雄 山下 裕 山崎 芳郎 井村 賢治 信友 政明 中尾 量保 川島 康生 山本 賢司 ヤマモト ケンジ
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.1003-1007, 1982

Total parenteral nutrition (TPN) has gained wide acceptance as valuable adjunct in the care of critically ill patients. However, the risk of catheter-related sepsis is still of continued concern. The investigation on the current state of TPN and incidence of catheter-related sepsis was performed by the questionnaire method to 1,064 general hospitals throughout Japan in 1980. Replies submitted to the questionnaire were obtained from 569 hospitals (53.5%). Catheter-related sepsis was defined as an episode of sepsis, for which no anatomic locus could be identified, that is resolved on removal of the catheter. This time, catheter-related sepsis in pediatric patients seen in 126 hospitals was especially reviewed and analyzed. Catheter-related sepsis in 1979 was associated with 16.2% of catheters and occurred in 13.0% of patients. This incidence was little higher comparing with 11.2% in adult patients. The predominant organism of catheter-tip culture was Staph. epidermidis. The aseptic technique provided at each institution was also investigated. By this analysis, futher need for a precise protocol delivered by an experienced team is emphasized to minimize the incidence of catheter-related sepsis.
著者
平田 彰業 倉科 彰夫 山田 貴子 米川 幸秀
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.7, pp.1032-1039, 2002

【目的】電子カルテを包含する統合情報システムを稼動させている総合病院の医師の立場から, 電子カルテシステムの現状と開発・導入時の問題点を検討した.あわせて, 地方在住の小児外科医として日本小児外科学会への提言を行った.【方法】当院は, 1999年に新築移転するに際して, 「医療の質の向上」, 「患者サービスの向上」, 「病院管理運営の効率化」を主目的に, ネットワークを前提として開発・実現された「統合情報システム」, 通称IIMS(Integrated Intelligent Management System)を稼動させている.既成のソフトの導入ではなく, 病院の業務を徹底的に見直し, 独自に開発したものである.稼動の現状と開発時の留意点を検討した.【結果・結論】「電子カルテシステム」の目的は医療の標準化, 質の向上である.現在, さまざまな「電子カルテ」が乱立しており, 目的実現のための障害になっている.少なくとも小児外科領域の共通する部分だけでも標準化しておくことが望ましいと考えられた.また, 日本小児外科学会には情報技術の活用を提言した.
著者
佐野 信行 仁尾 正記 佐々木 英之 小寺 厚志 大井 龍司
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.679-683, 2005
被引用文献数
1

複数磁石誤飲による小腸内瘻形成に起因した絞扼性イレウスの1例を経験した.症例は3歳4カ月の女児, 主訴は腹痛, 嘔吐.異物誤飲に関連するイレウスの疑いで, 発症36時間後に紹介となった.腹部症状は軽度で発熱はなく, CRPも陰性であった.CTで上腹部に径2cmのリング状に配列する金属片を認め, 家族からの情報で, 8個の磁石と考えられた.X線写真上, 前日と同じ部位に停滞しており, 複数磁石による腸管損傷の可能性を考慮して緊急手術を行った.腹腔鏡下に磁石カテーテルを用いて異物の位置を同定し, 臍部創から病変部腸管を体外に引き出したところ, Treitz靭帯より40cmおよび120cm肛側の空腸同士が磁石で圧挫され内瘻を形成しており, それに伴って生じたblind loopの一部が絞扼性イレウスに陥っていた.同じ創より絞扼腸管を切除した.内瘻の存在によりイレウス症状が軽減されていたものと考えられ, 稀な病態であった.術後経過は良好である.