著者
後藤 悠大 増本 幸二 新開 統子 千葉 史子 小野 健太郎 坂元 直哉 五藤 周 瓜田 泰久 高安 肇
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.1155-1160, 2017-10-20 (Released:2017-10-20)
参考文献数
39

【目的】小児精巣腫瘍は全小児固形腫瘍の約1~2%とまれであり,病理組織学的特徴や生物学的特性・予後が成人症例とは異なる.今回,当科で経験した小児精巣腫瘍の臨床的特徴を検討した.【方法】当科開設以来の小児精巣腫瘍を後方視的に検討し,小児精巣腫瘍の臨床的特徴や予後,治療の妥当性について検討した.【結果】当科が開設された1979年から2016年までの37年間における15歳未満の精巣腫瘍は9例であり,内訳は成熟奇形腫4例,未熟奇形腫1例,胎児性癌1例,卵黄囊腫瘍3例であった.術前画像でリンパ節転移が疑われた症例はなく,病期は全例がI期であった.手術は術前より成熟奇形腫が疑われた1例に腫瘍核出術が行われたが,その他の症例では高位精巣摘除術が行われた.胎児性癌の1例のみ後腹膜リンパ節郭清術が施行された.いずれの症例も化学療法は施行されなかった.術後経過観察期間は平均5.2年(中央値3年)であり,全例に再発は認めていない.【結論】小児精巣腫瘍I期に対して高位精巣摘除術のみで経過観察を行い,再発・転移を認めず予後良好な結果であった.われわれの経験からは,思春期前の小児精巣腫瘍I期に対して,術後化学療法を行わず高位精巣摘除術のみとする治療法は妥当性のある治療の一つと考えられた.
著者
河崎 正裕 青山 興司 大倉 隆宏 後藤 隆文 高尾 智也 仲田 惣一 向井 亘 秋山 卓士 浅井 武 岩村 喜信
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.38-42, 2017-02-20 (Released:2017-02-20)
参考文献数
10

【目的】成人では上腹壁ヘルニアはまれとされているが,小児ではよくみかける疾患である.この違いが何に起因するのかそれぞれの臨床像に焦点をあて検証した.【方法】2005 年4 月から2015 年3 月まで関連小児外科6 施設および同施設の成人外科6 施設で手術された上腹壁ヘルニア症例を対象とし,カルテ記載から比較した.【結果】今回小児76 例,成人11 例の87 例が集計された.症例は全年齢に分布していたが,幼児期が圧倒的に多かった.性別はともに女性が多かった.症状は小児では上腹部腫瘤以外ではほとんど無症状であったが,成人では11 例のうち8 例に腹痛を認めた.多くの例が診断後1,2 年以内に手術が施行されていた.ヘルニア門径は小児では10 mm 以下,成人では20 mm 以上が多かった.ヘルニア内容は小児では腹膜前脂肪,成人では大網が多数を占めた.術式は全例単純縫合閉鎖が行われ,再発例はなかった.【結論】上腹壁ヘルニアの小児と成人の報告数の差は手術適応に起因すると考えられた.小児では整容及び将来の嵌頓リスク,成人では腹痛などの嵌頓症状である.成人の有症状例の少なさを考えると,小児において将来の嵌頓リスクを高く見積もり過ぎている可能性がある.幼児期の上腹壁ヘルニアの手術適応には議論の余地があると考える.
著者
中原 さおり 松本 順子 市瀬 茉里 畑中 玲 武山 絵里子 与田 仁志 武村 民子 石田 和夫
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.1217-1223, 2013-12-20 (Released:2013-12-20)
参考文献数
28

【目的】臍帯潰瘍は胎児上部消化管閉鎖症に合併し,ひとたび臍帯からの出血が起こると,高頻度に子宮内胎児死亡や児の重度障害を起こすことが知られている.原因として胎児の吐物による臍帯のワルトンゼリー変性の可能性が挙げられているが,詳細はいまだ不明である.胎児吐物中の膵酵素がワルトンゼリー変性に関与する可能性を探るために,羊水中の膵酵素濃度の上昇の有無を調べた.【方法】2009 年7 月から2011 年6 月までに当センターで経験した上部消化管閉鎖症6 例(A 群)とこれらを伴わない羊水過多症6 例(B 群),計12 例の羊水中の胆汁由来物質(総ビリルビン,直接ビリルビン,胆汁酸),および膵酵素(膵アミラーゼ,リパーゼ,膵フォスフォリパーゼA2,トリプシン)の濃度を測定した.【結果】A 群では膵アミラーゼを除く膵酵素の異常高値を認めた.具体的にはB 群の膵アミラーゼ9 IU/ l,リパーゼ3.5 IU/ l,膵フォスフォリパーゼA2 99 ng/dl,トリプシン170 ng/ml(それぞれ中央値)に対し,A 群6 例の中央値はそれぞれ16.5 IU/ l,4,055 IU/ l,63,050 ng/dl,30,400 ng/ml であった.【結論】限られた症例数ではあるが,臍帯潰瘍を合併することが知られている十二指腸閉鎖症および空腸閉鎖症の羊水中では,膵アミラーゼを除く膵酵素の濃度が著明に上昇していることが明らかとなった.羊水中の膵酵素濃度の上昇が臍帯潰瘍発生に関与する可能性があると考えられる.
著者
樋口 恒司 今津 正史 下竹 孝志 常盤 和明 岩井 直躬
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.7, pp.998-1002, 1999-12-20 (Released:2017-01-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1

症例は4歳男児.1歳半頃, 排便時に肛門より球状のウズラ卵大腫瘤の脱出を認めた.3歳頃からは排便ごとに脱出を認めるようになったため, 近医受診後直腸脱を疑われ当科紹介となった.直腸指診上, 直腸後壁に弾性軟のウズラ卵大の腫瘤を触れ, 超音波検査にて直腸後壁に嚢胞性病変を認めた.注腸造影, CT, MRIにて直腸重複症と診断し, 経肛門的腫瘤摘出術を施行した.腫瘤は径3 cm, 直腸の後壁内に存在し, 嚢胞状で内容は褐色粘液であった.組織学的には, 嚢胞は円柱上皮に覆われ, 杯細胞の散在を認めた.また, 直腸とは独立した粘膜固有層, 平滑筋層を認めた.直腸重複症は本邦では11例の文献報告を見るのみであり, 比較的まれな疾患である.本症例は経肛門的に直腸後壁粘膜を切開し, 腫瘤を摘出し得た.球状腫瘤の肛門外脱出を認める場合, 直腸重複症を鑑別診断の一つとして考慮すべきで, 鑑別診断にはCT及びMRIが有用である.
著者
高間 勇一 北山 保博 曹 英樹 棚野 博文
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.688-691, 2007
参考文献数
7
被引用文献数
2

症例は5歳男児.左鼠径部膨隆を認め来院.左鼠径ヘルニアの診断で4歳10か月時にPotts法施行.術後4日目に再発を認めた.左鼠径ヘルニア再発の診断で術後1か月時にMcVay法施行.再手術後16日目に再々発を認めた.超音波所見,MRI所見より左鼠径ヘルニア再々発,大腿ヘルニアの疑いで5歳4か月時に腹腔鏡下手術を施行.左大腿ヘルニアと診断しメッシュを使用したtension freeでの腹腔鏡下大腿ヘルニア修復術を施行した.術後3年経過し再発・合併症を認めていない.小児の大腿ヘルニアは非常に稀であり,正確な術前診断が困難な事がある.再発鼠径ヘルニアの手術に際しては,稀である大腿ヘルニアや直接鼠径ヘルニアの可能性を鑑別できる腹腔鏡下手術が有用であった.小児での腹腔鏡下大腿ヘルニア修復術の報告は本邦では初めてであり文献的考察を加えて報告する.
著者
川島 章子 漆原 直人 福本 弘二 谷 守通 鈴木 孝明 松岡 尚則 福澤 宏明 長谷川 史郎
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.760-763, 2007-10-20 (Released:2017-01-01)
参考文献数
8

症例は10歳男児.自転車で走行中転倒した際ハンドルで右下腹部を強打し,同部に膨隆が認められたため当院を受診.右下腹部に手拳大の膨隆と圧痛を認め皮下に腸管を触知した.腹部CTにて遊離ガス像や臓器損傷はなく,右傍腹直筋部の皮下に小腸の脱出を認めた.臥位安静にて右下腹部の膨隆は消失するが腹圧にて再発するため,外傷性腹壁ヘルニアの診断にて全身麻酔下に手術を行った.右傍腹直筋切開で皮切を行うと,右腹直筋鞘外縁で腹壁が断裂しておりSpigel herniaと診断した.ヘルニア門は弓状線の高さから尾側へ約7cmの長さで存在し,腹腔内臓器の損傷はなく,腹壁の修復は各層で直接縫合し得た.術後2年経過し,再発は認めていない.小児の外傷性腹壁ヘルニアは稀で,検索し得た範囲内で自験例は外傷によるSpigel herniaの本邦報告例中最年少であった.
著者
長谷川 真理子 山口 岳史 鈴木 完 山本 英輝 西 明
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.49-55, 2017-02-20 (Released:2017-02-20)
参考文献数
20

【目的】神経芽腫Stage 4S の治療と結果を後方視的に検討し,特に胎児期の無症状発見例の治療について考察する.【方法】過去33 年間に経験したStage 4S の神経芽腫9 例について,臨床的特徴,治療内容と転帰,全生存率,予後因子を検討した.【結果】症例は男児2 例,女児7 例,年齢は0 日~9 か月(中央値,1 か月)で,神経芽腫マススクリーニング発見例が4 例,胎児期発見例が2 例,有症状診断例が3 例であった.全例,副腎原発で,転移は肝8 例,皮膚2 例,骨髄1 例であった.腫瘍組織が検索された8 例では全例がfavorable histology で,3 例がdiploid,5 例がhyperdiploid,またMYCN の増幅例はなく,5 例が低リスク,3 例が中間リスクと分類された.治療は,マススクリーニング発見例では原発巣の一期的摘出と化学療法を行い,胎児期発見例では出生後に無治療経過観察を試みたが,結果的に腫瘍増大あるいは腫瘍マーカーの上昇により治療を必要とした.無症状発見例は1 例を除いて腫瘍なしで,全例が生存中である.一方,有症状発見例については積極的な治療を行い1 例のみ救命できたが,2 例が死亡した.全生存率は無症状発見例が100%,有症状診断例が33%であった.【結論】神経芽腫Stage 4S では,有症状診断例では迅速かつ積極的な対応が必須であり,一方,無症状でも胎児期発見例はマススクリーニング発見例と異なり腫瘍進展の可能性があり,厳重な監視のもとに治療の要否を判断することが極めて重要である.