著者
松崎 茂 牧野 駿一 伊東 充宏 内田 広夫 野首 光弘 松本 清一
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.809-813, 1995-08-20 (Released:2017-01-01)
参考文献数
11

不完全型精巣性女性化症候群を呈した男性仮性半陰陽の1例を経験した.主訴は,学童期になり気付かれた陰核肥大と鼠径部腫瘤であった.染色体は46, XY であった.内分泌検査では testosterone(T)と FSH が高値であった. dihydrotestosterone(DHT) はやや低値であった. T:DHT 比は22であった. hCG 負荷での反応は T, DHT 共に良好であり,T:DHT 比は17となった.女児として養育する方針とし手術を施行した.鼠径部腫瘤は精巣であり.これに連なる精巣上体と輸巣管も存在した、精巣,精巣上体,輸巣管を切除した、腹腔内検索では Muller 管由来の臓器や卵巣は存在しなかった.陰核には subtunical total reduction clitoroplasty を施行した、摘出精巣の病理学的検索では,精子形成細胞は存在せず, Sertoli 細胞と Leydig 細胞の増加がみられた.術後はホルモン補充療法を行なっている.
著者
奥村 健児 山本 裕俊
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.33-39, 2018-02-20 (Released:2018-02-20)
参考文献数
23

【目的】無脾症候群および多脾症候群(以下本疾患群)は,多様な心血管系の奇形を合併することが多く重症度が高い疾患である.腹腔内臓器の奇形など小児外科疾患を合併することも多い.今回我々は当院で経験した本疾患群における小児外科疾患の治療戦略について検討した.【方法】2000年から2015年に当院で経験した44例(無脾症候群32例,多脾症候群12例)について,在胎週数,出生体重,合併心疾患,小児外科疾患と予後について後方視的に検討した.【結果】無脾症候群は全例心奇形を合併しており,単心室が28例(87.5%)で最多であった.小児外科疾患は14例(43.8%)に合併しており,腸回転異常症2例,胃軸捻転3例(1例に腸回転異常症合併),壊死性腸炎1例,先天性十二指腸閉鎖症1例,腸回転異常症を伴う食道裂孔ヘルニア1例の計8例に手術を施行した.多脾症候群も全例に心奇形を合併しており,下大静脈欠損が6例(50%)で最多であった.小児外科疾患は1例(8.3%)に腸回転異常症と先天性十二指腸閉鎖症を合併しており,手術を施行した.最終的な予後は無脾症候群が生存率46.9%,多脾症候群が75%であった.小児外科疾患が予後に関連したと考えられる症例は中腸軸捻転症合併の1例のみであった.【結論】本疾患群は重症心奇形を合併することが多く予後の悪い疾患グループである.合併する小児外科疾患に関しては消化管検査が望ましい.予定手術の際の手術時期は,個々の心疾患の重症度および進行度に応じて慎重に検討する必要がある.
著者
長嵜 彰 川名 隆司 住友 健三 生野 猛
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.7, pp.1242-1247, 1990-12-20 (Released:2017-01-01)

直腸内に生理食塩水を注入しつつ, 直腸肛門内圧を測定した.正常児では生理食塩水注入後3分以内で肛門内圧が下降し, 直腸と同じ波形を示すか, 小さな収縮波を示した.便意は87%に認められた.生理食塩水を500ml保持できたのは38%であった.一方, 特発性便秘症では生理食塩水注入後3分以内に肛門内圧が下降したのは1例のみで, 他は8分以後に下降するか, 全く下降しなかった.肛門内圧の波形も大半は弛緩を示した.便意を示したのは25%で, 生理食塩水500ml保持できたのは76%であった.以上のことより, 特発性便秘症では直腸は容積が大きく, 感受性に乏しいとともに, 直腸と肛門の協調機能にも問題があることが示唆された.
著者
狩野 元宏 小森 広嗣 下島 直樹 山本 裕輝 緒方 さつき 広部 誠一
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.1015-1019, 2016-08-20 (Released:2016-08-20)
参考文献数
16

【目的】待機的虫垂切除術(以下IA と略す)は,周術期リスクを低減することができ有用であるとの報告が散見され,特に膿瘍形成性虫垂炎に対するIA は広く受け入れられているが,それ以外の症例群に対する適応は未だ議論がつきない.今回我々は,当院で蜂窩織炎性または壊疽性虫垂炎と診断された症例のうちIA の適応とした症例を緊急手術症例と比較し,その安全性,妥当性を検討したので報告する.【方法】当院では発症から48 時間以上経過した蜂窩織炎性または壊疽性虫垂炎と診断された症例に対し,2012 年は緊急手術(以下E 群)を,2013 年はIA(IA 群)をそれぞれ選択し治療した.2012 年1 月1 日から2013 年12 月31 日に当院で治療した上記虫垂炎2 症例群について,年齢,性別,疼痛コントロール,血液データ所見,手術時間,出血量,入院期間や合併症の有無を後方視的に検討した.【結果】対象は20 例で,IA 群,E 群ともに10 例であった.手術時間はIA 群58.6 分,E 群96.7 分で,IA 群はE 群に比べ有意に短かった.手術合併症はE 群で2 例あり,IA 群では0 例であった.IA 群の保存的加療期間は8.8 日で,退院後待機中に症状の再燃は認めなかった.総入院日数はIA 群12.8 日,E 群10.2 日で有意差はなかった.【結論】発症から48 時間を経過した症例に対するIA により,周術期リスクの高い症例を緊急手術に劣らぬ総入院日数で,安全に治療し得た.発症から一定の時間が経過した症例に対してもIA を適応拡大しうることが示唆された.
著者
渡邉 高士 瀧藤 克也 三谷 泰之 窪田 昭男 山上 裕機
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.802-807, 2014-06-20 (Released:2014-06-20)
参考文献数
27

症例は在胎35 週3 日2,202 g で出生した男児.出生後より非胆汁性嘔吐を繰り返し,腹部単純レントゲン上拡張した胃泡を認めるのみでそれより肛門側の消化管ガスは認めず,上部消化管造影でも造影剤の胃からの流出を認めなかったため,先天性幽門閉鎖症の診断にて生後3 日目に手術を行った.幽門部の外観は棒状閉鎖であったが,筋層を切開すると筋性肥厚を伴った膜様閉鎖であったため,膜切除を行いHeineke-Mikulicz 法で幽門形成を施行した.先天性幽門閉鎖症の病型分類には膜様閉鎖,索状閉鎖,盲囊状閉鎖,棒状閉鎖が報告されているが,棒状閉鎖と筋性肥厚を伴う膜様閉鎖は外観上分類が困難であり手術術式を選択する上で注意が必要であると考えられる.
著者
小沼 邦男 野崎 外茂次 北谷 秀樹 川中 武司 宮本 正俊 梶本 照穂
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.223-231, 1984-02-20 (Released:2017-01-01)

Case 1. A full term male infant was admitted on the day of birth with an associated omphalocele, spina bifida, extrophy of the bladder, imperforate anus and cecal fistula. 3 months after birth, a colostomy was created at the perineal portion. At 3 years of age, the patient underwent a total cystectomy and ileocutaneous ureterostomy. This 7 years old boy is now healthy and is leading active life. Case 2. A premature male infant was admitted on the day of his birth with an omphalocele, extrophy of the bladder, imperforate anus and cecal fistula. An intravenous pyelogram revealed bilateral double pelvis and double ureter. 4 months after birth, a colostomy was created at the perineal portion. At 2 years of age, an ileocutaneous ureterostomy was created at the left lower abdomen. This patient is now 5 years old and is healthy and active. The use of extrophied colon is contributory for the success. Colostomy was created at the perineum, in spite of all the defect of muscles in that place. Iliac osteotomies are not necessary in order to close the abdominal wall. It may be stressed that successful surgical management was achieved by employment of staged procedure.
著者
吉田 真理子 内田 広夫 川嶋 寛 五藤 周 佐藤 かおり 菊地 陽 岸本 宏志 北野 良博
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.759-764, 2010-06-20 (Released:2017-01-01)
参考文献数
26

症例は4か月男児.腹部腫瘤を主訴に紹介され,エコー上肝内に径5.7cm大の多房性嚢胞性腫瘤を認め,当初は間葉系過誤腫が疑われた.1週間後の腹部造影CTでは充実性成分を伴う多発性肝腫瘤と肝門部・後腹膜リンパ節腫大を認め,悪性腫瘍が強く疑われた.早期診断および治療のために緊急入院し,経皮針生検を行った.ラブドイド腫瘍と診断され,ICE療法を開始したが,治療に全く反応せず,腫瘍は急速に増大した.入院直後より全身状態も急速に悪化し,人工呼吸管理,持続血液透析濾過を含む集中治療を行ったが改善を得られず,初診から約1か月後に死亡した.肝ラブドイド腫瘍は非常に稀で,著しく予後不良な悪性腫瘍である.現在までの報告例は検索しえた範囲で33例のみであり,文献的考察を加えて報告する.
著者
星野 真由美 渡邉 揚介 後藤 博志 小野 賀功 加藤 廉 上瀧 悠介 九鬼 直人 上原 秀一郎 越永 従道
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.86-90, 2020

<p>症例は日齢0女児.他院にて妊娠初期に妊娠が確認されたが,その後未受診となっていた.在胎36週6日に自宅分娩となったため,母児ともに救急搬送となった.児は腹壁破裂を認め,日齢1にSilo形成を行い,脱出臓器を徐々に腹腔内に還納後,日齢10に腹壁欠損部への臍帯充填によるsutureless腹壁閉鎖法を施行した.術後敗血症などの重篤な合併症はなく日齢78に退院となった.未受診妊婦から出生した児は予後不良とされるが,腹壁破裂のように合併奇形が少なく,生存率が高い疾患の場合は,出生後の処置が適切であれば,自宅分娩であっても救命可能であると思われた.未受診妊婦の出産は非常にハイリスクであるが,腹壁破裂の母体の特徴から未受診で妊娠経過を過ごし,出生前診断されないまま,自宅分娩や飛び込み分娩にて出生することは今後も起こりうる事象であり,妊婦健診および胎児診断の重要性については女性のみならず,男性へも教育するシステムの充実が急務である.</p>
著者
新開 統子 北川 博昭 脇坂 宗親 古田 繁行 濱野 志穂 島 秀樹 長江 秀樹 青葉 剛史
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.33-37, 2012-02-20 (Released:2017-01-01)
参考文献数
22

【目的】移動性精巣は確実な診断のもと経過観察をすることが原則とされている.しかし,診断に苦慮することもあり,その手術適応に関し検討を要する.今回我々は,当院で経験した移動性精巣を手術例と非手術例に分けて経過観察期間や臨床上の問題点に関し検討した.【対象と方法】1998年1月から2009年12月までの11年間に,当院に移動性精巣として紹介された110例を対象とし後方視的に臨床経過を検討した.A群(14例):併存症がなく経過観察後に手術を施行した症例.B群(21例):併存症に対する手術時に同時手術を行った症例.C群(75例):A・B群以外の非手術例.各群で初診時月齢経過期間を検討した.A群とB群では臨床所見,手術までの期間,手術適応と手術術式を検討した.【結果】初診時月齢:A群平均25.4±159か月,B群平均43.3±29.9か月,C群平均25.9±15.9か月でA・B群間とB・C群間で有意差を認めた(p=0.0498, p=0.0006).A・C群間に有意差を認めなかった.手術時月齢:A群平均47.9±24.6か月,B群平均47.4±28.9か月で両群の平均値に有意差を認めなかった.経過期間:A群平均22.5±3.6か月,B群平均4.5±3.6か月,C群平均20.1±17.1か月であった.A・B群間とB・C群間で有意差を認めた(p=0.002, p=0.0001).A・C群間に有意差を認めなかった.臨床所見:A群では経過観察中に挙上精巣に変化した症例を6例,停留精巣が明らかになった症例を2例に認め,経過中に変化なしは4例,その他2例であった.B群の併存症の内訳は鼠径ヘルニア9例(同側6例,対側2例,両側異時発症1例),陰嚢水腫4例(同側3例,対側1例),対側停留精巣8例であった.【結論】移動性精巣のみで手術適応となる症例は少数であったが,手術適応の判断には定期的な経過観察を要した.経過中に挙上精巣や停留精巣に変化する症例の存在に注意が必要である.
著者
河原 仁守 尾藤 祐子 會田 洋輔 橘木 由美子 中井 優美子
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.935-941, 2018-06-20 (Released:2018-06-20)
参考文献数
31

症例は11歳,女児.8歳頃より嘔吐を認め,10歳過ぎても食後の嘔吐が持続するため精査された.食道造影検査で造影剤の排泄遅延を認め,高解像度食道内圧検査で下部食道括約筋の積算弛緩圧が63.8 mmHgと高値を示し食道アカラシアと診断された.術前のEckardt scoreは6点であった.食道アカラシアに対する新しい治療方法で,成人領域では良好な治療成績を認めている経口内視鏡的筋層切開術(POEM)を施行した.食道体部後壁5時方向に粘膜下トンネルを作製し,次いで外縦筋は温存して,全長16 cmにわたり選択的に内輪筋の切開を行った.術後は速やかに自覚症状が消失し,Eckardt score 0点,積算弛緩圧17.7 mmHgと改善した.術後1か月間はPPIを投与した.術後3か月経過し,上部消化管内視鏡検査ではLos Angeles分類Aの軽度の食道炎を認めるが,逆流症状はなく2㎏の体重増加が得られ良好に経過している.
著者
小林 めぐみ 水野 大
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.270-274, 2016-04-20 (Released:2016-04-20)
参考文献数
19

幼児肝未分化胎児性肉腫に対し腫瘍全摘後,補助化学療法を施行し経過良好な症例について報告する.症例は3 歳の男児.発熱,嘔吐を主訴に来院し,右上腹部に小児頭大の腫瘤を触知した.α-fetoprotein(AFP)は正常範囲内であった.入院後も腫瘤は増大傾向を認め,腫瘍全摘出術の方針で肝部分切除術を行った.病理組織学診断は肝未分化胎児性肉腫で,術後補助化学療法を施行した.術後の画像検査ではCT・MRI・PET-CT のいずれも異常所見は認めなかった.近年,肝未分化胎児性肉腫の報告は散見されるようになり,その治療ならびに予後は飛躍的に向上しているが,特異的腫瘍マーカーや画像所見がなく,術後の評価法や治療法は確立されているとは言えない.本症例においても特異的所見はなく再発や転移の評価に苦慮しながら現在フォローを続けている.
著者
天江 新太郎 林 富
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.23-27, 2006-02-20 (Released:2017-01-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1

【はじめに】本邦における小児期を過ぎた先天性食道閉鎖症(以下, 本症)症例の追跡調査に関する報告は少ない.本研究では術後16年以上経過した症例について追跡調査を行い, 消化器症状, 呼吸器症状, 社会的状況について検討した.【対象と方法】対象は1967年〜1989年に当科で根治術を行い, 生存し得た42例(男児26例, 女児16例)とした.本研究では郵送による調査と外来診療録から得られた16例(男性9例, 女性7例)についての情報を検討した.【結果】調査時年齢は平均22.9歳(16歳から31歳)であった.体格は男性症例の平均BMIは21.7であり1例以外は標準であった.女性症例の平均BMIは19.4であり痩せが3例で認められた.この3例では食事に伴う症状が認められた.消化器症状は「つかえ」など食事に関しての症状が6例(男性1例, 女性5例)で認められた.GERDは確診が3例, 疑診が2例であった.呼吸器症状は4例で認められた.うち2例は気管気管支軟化症例であり治療を継続中である.就学・就職状況については16例中7例が就学しており, 8例が就職していた.結婚については3例が既婚者であった.子供の有無については3例とも子供をもうけており, 子供たちは全て健常であった.【結語】本研究の結果からは小児期を過ぎた先天性食道閉鎖症症例の社会的な予後は, 就業・就職・結婚といった観点からは良好であると考えられた.しかし, 症例によっては本症に起因する消化器症状や呼吸器症状が小児期を過ぎても継続しており, 適切な経過観察と治療が必要であると考えられた.