著者
河野 通方 新岡 嵩
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.329-335, 1993-04-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
5
被引用文献数
1

無重力状態における燃焼の研究のなかで,ロウソクに関するものがわが国,米国,ヨーロッパなどで行われている.最近のスペースシャトルでの実験では約1分で消えてしまった.なぜ消えてしまったのかについて考察を行う過程において,その研究が実は拡散燃焼と呼ばれる燃焼学における重要な研究分野に貢献していることを述べる.さらに,この考察をもとにした無重力状態で長時間燃焼可能なロウソクのアイデアを紹介する.
著者
松原 崇 陳 鈺涵 谷口 隆晴
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.10, pp.629-633, 2022-10-01 (Released:2022-10-01)
参考文献数
10

近年,ニューラルネットワークなどの機械学習手法を物理現象のモデリング・シミュレーションに応用する研究が注目されている.このような研究は,支配方程式が未知の現象をモデル化する以外にも,物理シミュレーションを高速化・高精度化できる可能性があり,期待されている.本稿では,そのような研究のうち,代表的な研究であるハミルトニアンニューラルネットワークと,それを改良したニューラルシンプレクティック形式,DGNetについて説明する.
著者
寺倉 清之
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.965-970, 2000-08-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
50
被引用文献数
2

20世紀における科学技術の進歩のうちで,最もめぎましいものの一つが計算機の進歩である.計算機は理論研究における一つの道具としての巨大な算盤の役目から,計算物理という,実験と理論に並ぶ第Bの物理研究手法の基盤の役目へと昇格した.計算物理は解析的に解けない多くの問題への,客観的で近似なしの解を与えるということにより,予想外の結論へと導いてくれることがある.また,自然を解き明かすという立場から,設計し加工するという立場へと変化しっつある今後においては,計算物理がよりいっそうの重要な役割を演ずることになろう.
著者
御手洗 光祐
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.93, no.1, pp.19-23, 2024-01-01 (Released:2024-01-01)
参考文献数
23

近年目覚ましい成果を挙げて着々と社会実装が進む機械学習に,量子コンピュータが持つ計算能力を応用できれば,もっと高度なことができるようになるかもしれない.この素朴な期待から,量子コンピュータを機械学習に応用しようという試みが2010年代からスタートした.最近では量子コンピュータハードウェアの発展も相まって,特に現在あるいは近未来の量子コンピュータを念頭に置いたアルゴリズムの開発が進んでいる.本稿では,量子コンピュータを用いた機械学習について,最近の展開を概説する.
著者
三宅 隆
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.68-73, 2023-02-01 (Released:2023-02-01)
参考文献数
42

高性能永久磁石はハードディスク,電動車の駆動モータ,風力発電機などに用いられ,われわれの生活に欠かすことができない材料である.近年,小型ロボットやドローンなど用途が多様化するとともに使用量が増加し,磁石開発の世界的な競争が続いている.本稿では,まず永久磁石開発の歴史を振り返り,最強磁石であるネオジム磁石の発明を電子論の立場から再検討する.続いて,磁石材料開発に計算科学やデータ科学がどう利用されているか紹介する.
著者
山本 秀和 小山 浩
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.662-672, 1997-07-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
103
被引用文献数
7

大規模集積回路(LSI)は,シリコン単結晶基板(ウエハー)を用いて製造ざれる.これまで,デバイス特性向上の要求に対し,ウエハーの品質は充分なマージンを持ち,大きな問題は起こさなかった.しかし,近年その状況が大きく変化してきている.シリコンウエハーの製造プロセスは,結晶引ぎ上げとウエハー加工に大別されるが,両者に起因したデバイス不良が発生し始めた.そこで,これらの不良をともに改善できるエピタキシャル成長ウエハーが注目されている.ざらに,マルチメディア時代の半導体デバイスを開発する上で,一つのプレークスルーをもたらす薄膜SOIウエハーも本格的に検討され始めた.ここでは,これらデバイス不良の現状を解説し,次にその解決策としてのウエハー仕様の変更と次世代ウエハーの展望について述べる.
著者
取材執筆:藤木 信穂
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.1-4, 2014-01-10 (Released:2019-09-27)

地球に降り立った瞬間,心地よい風がふわっと吹いてきて,草木のすがすがしい香りが漂ってきた—.2010年4月,15日間の宇宙滞在を終えてスペースシャトル「ディスカバリー号」で帰還した宇宙飛行士・山崎直子氏は当時の感動をこう振り返る.爽やかな香りが,地球の息吹をいっそう強く感じさせたのだろう.人間の五感の中でも,嗅覚は本能に近い直感的な感覚であるとされ,香りはときに懐かしい感情や記憶を呼び覚ます.宇宙ではどんな香りがするのだろうか.「香り」をテーマに山崎氏に話を伺った.
著者
松本 元
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.849-850, 1996-08-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
2
著者
橋本 嵩広 町田 雅武
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.9, pp.568-572, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
8

光電子分光法は物質の電子状態を直接観測する実験手法です.特に,硬X線光電子分光法(Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy: HAXPES)を用いると,電子デバイスの内部を非破壊で化学結合状態の分析ができます.近年,光源や光電子分析器の開発の進展により,実験室でのHAXPES測定が可能になりました.本稿では,光電子分光法の基礎原理に加えて,Ga線源を用いた実験室系HAXPES装置を用いた深さ分解測定や,データサイエンスを用いた深さ分布の解析手法について紹介します.
著者
前田 弘
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.524-530, 1989-04-10 (Released:2009-02-09)
参考文献数
9

1987年クリスマスイブに,新しいBi-Sr-Ca-Cu-O系高温超伝導体がこの世に現れた.この物質は,超伝導遷移温度, Tcが初めて100Kの大台を超えたため,応用的観点から多くの注目を集めた.と同時に,超伝導を支配するCu-O面を積み重ね,その枚数を増やすことによって処を上昇させることが可能となる,という高温超伝導発現機構に関する理論的展開にも新しい知見を与えたといえよう.さらにこの発見は,当時漂いかけていた「Y-Ba-Cu-O系以上の高温超伝導体はもうないのではないか」という暗雲を払いのけるとともに,「まだまだ高温超伝導体はあるよ」という希望と勇気を多くの人に与えたように思われる.本稿では,この発見に至った経緯とそれに関連して研究に対する考え方,取り組み方について私見を述べる.
著者
多氣 昌生
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.308-313, 2002-03-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
25

携帯電話の急速な普及により,世界の大多数の人々が電磁波に照射されるようになった.これに伴い,電磁波の安全性の再検討が必要になった.これまでの防護指針にはっきり疑問を投げかける研究があるわけではない.しかし,昨今のように,人体の近傍で電磁波に日常的にばく露される経験は人類の歴史上初めてのことである.工学と医学生物学の共同研究によって研究の信頼性が高まり,これまでの研究が見直されている.健康に大きなリスクはなさそうだが,しかし絶対に安全と証明することはできない.この不確かなリスクにどう対処したらよいか,さまざまな議論がある.無線通信の健全な発展のためには,このような研究も必要である.
著者
松木 征史 山本 克治
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.919-922, 1993-09-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
13

宇宙には,目に見えている物質の10倍から100倍もの,目に見えない物質が存在していることがわかっている,この,いわゆる暗黒物質(ダークマター)の正体は現在全く不明であり,素粒子・宇宙物理学に関連する大問題である.暗黒物質は,通常の物質との相互作用がきわめて弱く,その検出は著しく困難である.暗黒物質の有力な候補である宇宙由来素粒子アクシオンの探索もきわめて困難な課題であるが,量子工レクトロニクスの手法を用いて探索する方法が最近見いだされて,その検出実験が進められている.
著者
奥村 次徳
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.1054-1059, 1999-09-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
34

半導体工学における最も本質的な概念であり,最も重要な技術である不純物ドーピングについて,その基礎を講義する.ドーピングは,母体を構成ずる元素を,原子価の異なる元素で置換することにより,キャリア密度をはじめとする物性をコントロールする技術である.本稿では,不純物原子に対する水素原子様モデルについて述べ,比誘電率・有効質量との関係を論じる.さらに,高濃度ドーピングやドーパントの不活性化などの諸問題について概説する.