著者
廣瀬 俊司 建林 学 斎藤 久美 吉川 悟
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.864-872, 2015-07-01 (Released:2017-08-01)

目的:The American Academy of Orofacial Painの用語集において,ブラキシズムは,「歯のグラインディング,喰いしばり,噛みしめなど昼間や夜間の異常機能であり,無意識下で起こり,咀嚼に因らない歯面磨滅より診断される」と定義されている.機能障害ではないが,その行動の頻度と強さによる影響が生体の耐性を超えたとき,顎口腔系に破壊的な影響を及ぼすため,適切な治療が必要とされる.しかしながら,その原因がはっきりしないため,対症療法として,主にスプリント療法が行われている.そのため本稿では,ブラキシズムによる顎口腔系の崩壊を予防するために,歯科診療室でブラキシズム患者のストレス状態を自己評価に基づき数値化する質問紙(Stress Self Evaluation Check List:ストレス・チェック)と自我状態の機能を測定するためのエゴグラムを用いて,ブラキシズムに関連する心理的要因について明らかにすることを目的とした.対象と方法:対象は327名(男149名,女178名)で平均年齢は(±標準偏差)50.5歳±17.3であった.歯科医師の診断により110名のnon-bruxer群と217名のbruxer群に分類された.自我状態の5因子(批判的な親;CP,保護的な親;NP,大人;A,自由な子ども;FC,順応した子ども;AC)とストレス度を独立変数として,ブラキシズムの有無を従属変数として,多重ロジスティック回帰分析を行った.結果:ブラキシズムの有無に対して有意な関連因子は,CP(オッズ比は1.081〔p<0.05〕),NP(オッズ比は0.929〔p<0.05〕),AC(オッズ比は1.103〔p<0.01〕)およびStress(平均値のオッズ比は2.687〔p<0.01〕)の4項目であった.AとFCについては,統計学的には有意な関連は認められなかった(n.s.).結論:ブラキシズムのリスク要因として,ストレス得点とエゴグラムの5因子(CP,NP,A,FC,AC)について,関連性を探求したが,A,FCは統計学的に有意な関連性は認められなかった.一方,Stress,CP,ACの得点が高い人にはブラキシズム(をしている人)が多く,NPの得点が高い人ではブラキシズムをしない人が多いことがわかった.
著者
金子 宏
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.104-112, 2016 (Released:2016-02-29)
参考文献数
24

2014年4月,代表的な心身症である機能性ディスペプシアの診療ガイドライン2014が日本消化器病学会から刊行された.診療を左右する重要なクリニカルクエスチョン (CQ) を63個とし,概念・定義・疫学,病態,診断,治療,予後・合併症について実地臨床に即してステートメントと推奨レベルが示された.ガイドライン2014の診断と治療のフローチャートでは,酸分泌抑制薬,運動機能改善薬を初期治療に使用し,抗不安薬,抗うつ薬は第2段階の薬剤選択とされ,治療抵抗性で心理社会的因子の評価のうえで専門治療として心身医学的治療 (自律訓練法,認知行動療法,催眠療法など) などが位置づけられている.心身医学的治療を実践できる体制作りが求められている.
著者
假野 隆司
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.1171-1176, 2009-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
7

女性は心身状況不良時に妊娠すると,その後の妊娠経過に異常をきたし,流産や病的分娩によって母児の生命リスクが高まるため,そのような病況下では妊娠が成立しないように妊孕機能をマイナス制御する生体機構として,自律的に起動する自己防衛反応としての母性保護作用が存在する.心身症は現代の不妊症にとって重要な要因となった.不妊症と心身症との関連を自律神経失調症とうつ病との関連から,自院例におけるKupperman更年期不定愁訴とSRQ-Dとの相関から検討した.この結果,両症と卵巣機能不全不妊症には相関関係があることが明らかになった.このため現代の不妊症治療では心身症に対する対応が重要になり,薬物治療は漢方療法が主体的役割を担うと思慮された.
著者
榊原 雅人 佐藤 譲 竹内 聡 Park Suin 及川 欧
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.613-621, 2019 (Released:2019-10-01)
参考文献数
40

第59回日本心身医学会総会ならびに学術講演会の企画シンポジウム 「バイオフィードバック/ニューロフィードバックの臨床応用」 において, 現在, 日本および韓国で活躍している研究者・実践家による討論が行われた. バイオフィードバックに関わる研究や実践はこれまで心身医学領域においても数多く進められてきたが, これを踏まえさらに新しいかたちで発展する可能性があるように思われる. とりわけ心拍変動バイオフィードバックはストレスに関わる臨床に応用され, 近年, 特に注目されている技法である. 一方, ニューロフィードバックに関する知識や実践は日本にまだ十分に普及しているとはいえないが, 発達障害などを中心として, 今後, 心身医学においてそのニーズが高まるのではないかと考えられる. また, 世界的な視点でバイオフィードバック/ニューロフィードバックの臨床応用を考えるとき, バイオフィードバック認定国際機構 (The Biofeedback Certification International Alliance : BCIA) が研究や教育的側面に果たす役割は大きい. このような流れを含め, 日本の心身医学領域におけるバイオフィードバック/ニューロフィードバックの具体的な展開が今後ますます期待される.
著者
笠原 嘉
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.241-249, 1990-04-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
2
著者
坪井 康次 中野 弘一 筒井 末春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.143-150, 1995-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
14
被引用文献数
2

Many patients with depression visit at the department of psychosomatic medicine. It is characteristic of these patients that their symptoms are milder than the patients in psychiatry and they have more somatic symptoms than psychological. The therapeutic approach to depression may have to be modified by the patients' psychological status, because the genesis of depression is varied and depression is a heterogeneous disorder. We studied the features of these patients and their therapeutic procedures in our department of psychosomatic medicine. Eighty percent of all first-visit patients had depressive disorders (classified by DSM-III-R), and 30.2% of them were major depression, 11.8% were dysthymia and 58% not otherwise specified (NOS). The severity of depression was milder. The recent general adaptation function (GAF) of major depression was lowest in the three subtypes of depressive disorders, even though the mean GAF score of major depression was 55.4. The comorbidity of somatic disorder shows a high rate. Forty percent of patients with depressive disorders have functional somatic disorders, such as irritable bowel syndrome, migraine, tension type headache, hypertension etc. As to pharmacotherapy, many of the patients with depressive disorders in our department of psychosomatic medicine, received plural drugs such as antidepressant, anxiolytics, sulpiride, hypnotics. Antidepressants were prescribed most frequently in the major depression group. Anxiolytics and sulpiride were used commonly in all groups. As to the reason why anxiolytic and sulpiride were prescribed frequently, we have concluded that these phenomena raised from those usual antidepressants need the long period of time before main effects appear and they have various undesirable side effects. The selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs) are developed and emerging already as a new class of antidepressant in USA and Europe. The SSRIs have equivalent efficacy to standard antidepressant treatment such as the tricyclics, but with improved safety, a more acceptable side-effect profile and reduced risks with overdosage. Treatment expectations will be raised and a broader spectrum of patients will be able to receive treatment.
著者
渋谷 信治
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.499-503, 1994-08-01 (Released:2017-08-01)

Kiko-therapy has been indicated for bronchial asthma, but its effect has never been evaluated objectively. Our case was a ten-year-old boy with severe asthma who had been undergoing long-term institutional therapy. He had a tendency to hyperventilate due to psychological factors and had been resistant to all kinds of therapy. During a four-month treatment with Kiko-therapy, both symptoms and peak expiratory flow rate (PEFR) were studied. PEFR increased significantly, strongly suggesting that Kiko-therapy contributed to the improvement of airway obstruction in this patient.
著者
市井 雅哉
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.819-827, 2012-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
12

EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)はPTSDを治療できると推奨されている実証性の高い心理療法である.EMDRは外傷記憶を処理でき,外傷記憶が関連する疾患は幅広いので,その適用範囲はPTSDにとどまらず広範囲にわたる.PTSDの診断基準はDSM-5に向け現在改訂中であるがAクライテリオンから主観性の項目が消えるようで,そこには,外傷周縁の解離がPTSDの深刻度を予測できる問題が絡んでいる.また,侵入的な症状と鈍麻性の症状の両方が含まれているのが特徴的で,幅広い症状を扱う治療法が求められているといえる.EMDRの手続きと治療モデル-適応的情報処理モデルを概略し,外傷的な記憶を出来事の肯定的な要素と結びつけることができる可能性について述べた.EMDRの適用の際には,個人がもつ外傷記憶を,生育歴全体に及んで聴取し,必要に応じて養育早期などの過去にさかのぼり処理することが大きな改善へとつながる.症例では,40代の公務員男性で,EMDRによる警察での冤罪被害記憶の処理,また養育早期の親からの虐待的記憶の処理が自殺企図や抑うつの改善につながった治療例を紹介した.
著者
小林 伸行 高野 正博
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1045-1050, 2010-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10

術後の機能性慢性疼痛(CPSP)は臨床的にあまり認識されていない問題である.数十年前には開腹術後のCPSPは明らかなイレウスの所見がない場合でも腹膜癒着による閉塞によるものと考えられていた.頻回の手術でより複雑化しポリサージャリーと呼ばれていた.不必要な手術を避けようという努力でこのような患者は減少してきた.CPSPの危険因子が調べられている.その中にはうつや不安などの術前の心理的因子が挙げられるが,報告によって結果はまちまちである.最も確かなのは術後の急性疼痛である.術直後の疼痛管理が慢性化の予防に有効と考えられている.しかし,一度CPSPが出現すると対策が困難で心身医学的配慮が必要となる.そこで,当科で経験した2症例を提示した.1例は心理的ストレスが身体化した典型的症例で,もう1例は器質的疾患を基盤に心理的因子が増悪因子となっていた症例である.しかし,患者がその相互関係を理解するのは困難であった.結論として心理的因子は必ずしもCPSPの危険因子とはされていないが,治療するには心理社会的配慮が必要なときがある.
著者
田中 正敏
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.193-202, 1999-03-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
20

諸種のストレス状況によりラットの広汎な脳部位でnoradrenaline(NA)放出が亢進する.これらの研究ではストレスの負荷時間は30分以上である.しかし, わずか1分間という, ごく短時間の拘束ストレス負荷であっても, 視床下部, 青斑核部, 通馬, 大脳皮質や中脳といった脳部位で, ストレスから解放20分後や40分後に, 45分間の連続ストレスを負荷したのと同じくらいのNA放出亢進が生じる.benzodiazepine系の代表的抗不安薬であるdiazepamは, 視床下部, 扁桃核, 青斑核部などでストレスによるNA放出亢進を有意に減弱させるが, このようなdiazepamの作用はdiazepamがストレス負荷直前に投与された時のみに出現し, ストレス負荷10分前や負荷10分後の投与では出現しなし、また脳室内投与したopioidpeptideであるMet-enkephalinも, これらの脳部位でストレスによるNA放出亢進を減弱させるが, これらの減弱作用はMet-enkephalinがストレス負荷直前に投与された時にのみ出現し, ストレス負荷5分後, 10分後に投与された時には出現しない.同様にストレス負荷直前に投与された時にのみMet-enkephalinは脱糞や体重減少などのストレス負荷中のラットの情動反応を有意に減弱させる.これらの知見から, 一度動物がストレスにさらされると, それがたとえ1分間という短時間であっても, 作動してしまうひきがね機構が存在し, その結果1分間の拘束ストレス後20分もしくは40分の回復期の後に, 広汎な脳部位でNA放出が亢進ずるものと考えられる.corticotropin-releaslngfactor(CRF)拮抗薬であるα一helicalCRFのストレス負荷直前投与により, ストレスによる脳内NA放出亢進が有意に減弱されることから, CRFが一部このひきがね機構に関与していることが示唆される.精神神経免疫連関についての最近の知見から, これらの警告機構に免疫系が関与していることも示唆される。
著者
齋藤 紀先
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.37-43, 2018 (Released:2018-01-01)
参考文献数
16

・慢性咳嗽, 慢性呼吸苦の訴えに対し, まずbiologicalな病態の鑑別を入念に行う. ・咳喘息などの慢性咳嗽患者では, 一般の気管支喘息患者よりも抑うつ・不安といったpsychologicalな因子の関与が大きいことが示唆されている. ・肺気腫などの慢性呼吸苦に対してはpsychologicalおよびsocialな問題の評価が重要である. ・Bio-psycho-socialといった視点で問題評価を行うことが, 慢性咳嗽や慢性呼吸苦のコントロールにおいて非常に重要である.