著者
古川 洋和 松岡 紘史 樋町 美華 小林 志保 庄木 晴美 本谷 亮 齊藤 正人 安彦 善裕 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.363-372, 2009-05-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
33

本研究の目的は,歯科治療恐怖に対する認知行動療法(CBT)の有効性をメタ分析によって検討することであった.(1)研究デザインとして無作為化比較試験(RCT)が用いられている,(2)CBTによる介入が行われている,(3)プラセボ群,あるいは未治療統制群との治療効果の比較検討が行われている,(4)不安・恐怖に関する評価項目の平均値と標準偏差が記載されている,(5)英語で書かれている,という5つの選定基準を満たす論文を対象にメタ分析を行った結果,CBTが実施された群の治療効果は有意に大きかった(d=2.18).したがって,CBTは歯科治療恐怖の改善に有効であることが示された.本研究の結果は,歯科治療恐怖の治療において質の高いエビデンスを示すことができた点で有益である.今後は,わが国においても歯科治療恐怖に対するCBTの効果を検討する必要性が示唆された.
著者
岩村 康子 富士見 ユキオ 石川 俊男
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1034-1046, 2012-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9

「主体の成長モデル」作成の背景:筆者らは「病態水準」と「心身医学的療法の5段階」と「M. Mahlerの発達モデル」は,「主体の成長度」を測る異なる物差しであるという見方を提案する.筆者らは心身相関を扱う治療者が,患者の病態水準や発達段階に合った介入をしやすくするため,三者を統合した包括的な治療過程モデル「主体の成長モデル」を作成した.この包括的なパラダイムに照らして妥当な治療は,三者中一つのみに照らして妥当な治療よりも効果的であることが期待された.経過中に疼痛発作が消失した症例の分析を通してこの点を検証した,ケース・スタディ:筆者らの治療が有効だった期間の治療内容は「主体の成長モデル」に照らして妥当であると考えられ,三者中一つのみに照らして妥当な仮想の介入よりも,効果的であると考えられた.対照的に筆者らの治療が無効だった期間では「主体の成長モデル」に照らして妥当な介入が行われていなかった.
著者
小澤 夏紀 富家 直明 宮野 秀市 小山 徹平 川上 祐佳里 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.7, pp.521-529, 2005-07-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

痩身記事を含む女性誌への曝露と食行動異常の関係をモデル化することを目的とし,女子学生933名を対象として調査を行った.その結果,定期的に女性誌に曝露している学生はEAT-20のカットオフポイントを超える割合が女性誌を読まない学生の7倍もあることが示された.また,彼女らは女性誌からの影響を受けやすい被影響特性が高く,痩身理想の内面化が顕著という認知的特徴をもっていた.一方,女性誌に曝露していても被影響特性が低ければ摂食障害傾向への影響は小さかった.最後に,共分散構造分析により,被影響特性,痩身理想の内面化,自己像不満,やせ願望は循環的関係を有し,食行動異常に悪影響を及ぼすことが示された.これらのことから食行動異常の予防や治療にはメディア曝露のコントロールが必要ではないかと思われた.
著者
中村 亨 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.934-938, 2017 (Released:2017-09-01)
参考文献数
2

2015年12月より実施されたストレスチェック制度の中で臨床心理士や産業カウンセラーなどの心理職の担う役割は限定的であるものの, 実務を行うにあたって, ストレスチェックにおいて高ストレスと判定された労働者に対する医師による面接指導に先立つ情報聴取を目的とした面接を, 心理職が行うことが考えられる. このため, 心理職は, 医師面接の位置づけを含むストレスチェック制度やストレスチェックの際に用いられる検査について学ぶとともに, 個人情報の保護を考慮した面接の進め方を身につける必要がある.本ワークショップではストレスチェック制度と標準項目となっている職業性ストレス簡易調査票について概説するとともに, 医師による面接指導前の情報聴取を目的とした面接のポイントを整理した.
著者
勝倉 りえこ 伊藤 義徳 児玉 和宏 安藤 治
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.139-147, 2008-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
16
被引用文献数
2

目的: 外来患者に対して,簡便で手軽なマインドフルネスに基づくストレスリダクションプログラムの効果を検討することを目的とした.方法: 外来患者8名を対象に,1カ月間,自宅での瞑想訓練の実施と,毎回の練習前後の気分状態と,ベースラインから3カ月後フォローアップまでの6段階における特性指標(心身の健康度,認知的スキル,認知スタイル,スピリチュァルな精神的態度)の測定を行った.結果と考察: 瞑想訓練による気分への即時的改善効果は認められなかった.特性指標の変化として,心配に関するネガティブな信念といったメタ認知的信念の改善が認められた.また,これらの効果の媒介要因である破局的思考を緩和させる認知的スキルの向上と,自動的処理思考が減少した.さらに訓練を十分に行えた患者のほうが,認知的スキルの獲得が促進された.本プログラムが医療現場における日常臨床を補完する可能性が示唆された.
著者
田中 英高 寺島 繁典 竹中 義人 永井 章 Borres Magnus
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.293-300, 2002-05-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10

近年,未成年者の凶悪犯罪が注目を集めているが,その一方で子どもの自殺の増加も大きな社会問題となっている.われわれは日本とスウェーデンの公立小中学校において,心身医学的健康調査を実施した結果,日本の子どもは精神的身体的により脆弱で,疲弊していると結論づけた.その調査の中で,死にたいと思っている子どもはスウェーデンより日本で多いことを報告した.本研究では,自殺願望の心理社会的背景について前回の調査結果をさらに解析した.大阪府下公立小学校4年生〜中学校3年生(男子375名,女子367名)を対象に,新しく作成した質問紙法による健康調査を実施した.質問項目は,身体愁訴10項目,精神愁訴12項目,その他心理社会的因子30項目から成る.「わたしは,よく死にたいと思う」の質問項目に対し,「はい」「ときどき」「いいえ」の3件法で回答を得た.また「わたしは,カッとしやすい」の質問項目に対しても同様に行った.日本の小学生,中学生の「はい」の回答率はそれぞれ3.3%,6.9%,「ときどき」は12.5%,14.9%であった.一方,スウェーデンでの「はい」の回答率はおのおの1.9%,2.8%と日本に比べて有意に低かった.stepwise回帰分析からみた「わたしは,よく死にたいと思う」に関連する心理社会的因子の第1位は,日本では「自分のことで両親がよくけんかをする」であった.一方,スウェーデンでは「自分に満足していない」であり,日本と異なった結果であった.文部科学省の調査によると,日本の子どもの自殺の原因を家庭不和が第1と推定しており,今回の一般小中学生を対象とした調査結果と一致した.親が子どもを一入の人間として,いかに育んでいかねばならないのか,日本人は改めて考え直す必要があろう.
著者
和田 聡子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.8, pp.627-633, 2001-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10

2型糖尿病のように生涯にわたり治療を必要とし, 患者の生き方に深く関与している疾患に対しては, 患者の深層心理まで視野に入れた患者の全存在を対象にした治療法が必要であると考え, 患者の語りを共感をもって聴いていく臨床心理学の手法を取り入れた糖尿病治療を試みた.患者の語りを聴いていくにつれ, 患者と治療者との間の信頼関係が深まり, それとともに患者は糖尿病や治療に対するネガティブな感情を率直に話せるようになった.患者の心の内面が語られ出してから外傷の多発などが起こったが, 一方では血糖コントロールの安定化が認められ, 内面での落ち着きが示唆された.
著者
阿部 輝夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.247-257, 1998-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
48
著者
岡 孝和
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.48, no.7, pp.631-636, 2008-07-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
15

ストレスが恒温動物の深部体温に及ぼす影響に関して概説した.拘束ストレスをはじめ,多くの心理的,身体的ストレスは動物の深部体温を一過性に上昇させる.このストレス性体温上昇反応は感染,炎症によって生じる発熱反応と異なり,発熱物質である炎症性サイトカインやプロスタグランディンE_2非依存性の機序によって生じる.コミュニケーションボックスにより,連日,心理的ストレスを負荷したラットでは,非ストレスラットに比べ,昼夜ともに体温が高くなる.その一方で,強い拘束ストレスを受けたラットの体温は低下する.これらの動物実験の成果をもとに,心因性発熱,慢性ストレス状況で生じる原因不明の微熱の機序について考察した.
著者
角田 浩 内海 厚 本郷 道夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.325-329, 2007-05-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
11
被引用文献数
2

Purpose : Evidences show that strong association between mood disorder such as depression and CAD prognosis. Also, physical exercise is known to improve the hostility in patients with coronary artery disease (CAD). However, little is known on the effects of physical exercise on the mood change in healthy adults with reference to gender difference. The purpose of our study is to examine how aerobic exercise affects mood states in normal subjects. Method : 62 healthy subjects (16 males, 46 females, the mean age + / -SD was 52+ / -14 with ages ranging from 20-72) were recruited by a local public relations magazine. The subjects participated in an aerobic exercise program twice a week for three months. We assessed the pre-and post-program mood with the Profile of Mood States (POMS) and classified the subjects into two groups by T-scores (the "relatively bad mood" group was defined by T score≦50 for "Vigor" and T score≧50 for other subscales). Results : The mood states seemed to improve after the aerobic program only in those with low T-score for Vigor and high T-score for other subscales of POMS. Decrease in T-score was observed in Depression-Dejection, Tension-Anxiety, Confusion and Fatigues, and Increase in T-score in Vigor were observed in female subjects. Changes in these parameters in male were also observed in a limited umber of subjects, which may not be enough to draw conclusive comments on the effect of the aerobic program for mood status in male subjects. Conclusion : Our three month-long aerobic exercise program improved the bad moods in healthy subjects. This effect might be useful for prevention against CAD.
著者
松島 英介
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.37-44, 2014-01-01 (Released:2017-08-01)

せん妄は多要因からなる異種の病態の集まりと考えられ,精神運動性行動によって過活動型,低活動型および混合型の3つの亜型に分けられる.中でも低活動型せん妄は,がん患者では多く半数にみられ,その症状としては,無関心,注意減退,発語が少なく緩徐,不活発などが挙げられる.このような低活動型せん妄は,過動型せん妄と同じく,患者や家族に与える苦悩が大きいが,症状が目立ちにくいため,臨床現場では発見されないまま見過ごされることも多い.さらに,うつ状態と間違われてしまうこともある.治療には,器質要因を改善するための管理と,向精神薬を用いた薬物療法が必要であるが,終末期のせん妄では,治療目標を完全な回復ではなく,症状のコントロールにおくことも必要になる.
著者
大津 光寛 藤田 結子 苅部 洋行 軍司 さおり 若槻 聡子 羽村 章 一條 智康
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.1127-1133, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

摂食障害症例は歯科的合併症を発症し, う蝕の多発などを認めることはまれではない. そこで摂食障害患者87例を対象として, う蝕経験と, 発症要因の一端を明らかにすることを目的とした調査研究を行った. 方法は対象のう蝕経験指数 (DMFT) を平成23年歯科疾患実態調査の結果と比較し分類した, 多数群と少数群間で口腔内状況や日常習慣などについての比較を行った. 結果は多数群が有意に多く, 多数群少数群間では罹患歴, ブラッシング回数, 歯垢の残存量では有意差が認められず, 過食, 自己誘発性嘔吐や, 酸蝕の進行程度, アメやガムなどの日常摂取の有無によって有意差が認められ, これらがう蝕経験を上昇させていた. 対象のう蝕発症は基本的な予防処置の不足によるものより, 摂食障害症状に大きく関連していた. これにより摂食障害症例に対しては通常の口腔衛生指導だけではなく, 摂食障害症状を視野に入れ, 他科との綿密な連携のもと対応する必要があるといえる.
著者
富田 吉敏 菊地 裕絵 安藤 哲也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.849-855, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
6

大学受験は重要なライフイベントだが受験ストレスにより不調を訴える受験生は多い. 筆者は4年間で当科を受診した大学受験生を10例経験した. 現役高校生が9例で, そのうち7例が女性であった. 半数が頭痛を訴え, 8例が検査上で不安を認めた.治療前, 受験終了で症状は軽快すること, 受験ストレスで症状を生じた自身の特徴を把握することが将来的に重要であることを筆者は説明. その後, 受容・傾聴の姿勢で, つらい事柄を吐露させるベンチレーションをコーピングとした対応をとり, ほとんどが受験終了とともに軽快した. 受験ストレスによって心身へ影響がでる機序こそが心身相関であり, その理解を促す心身医学的治療は, 現状を受け止め, 症状の悪化を防止し, 目標を達成する一助を果たしている. 本報告は心身が消耗した予備校生たちを “受験生症候群” とした報告のように, 大学受験で心身が不調となり心療内科を受診した受験生の特徴と治療経過をまとめたものである.
著者
大谷 晃司
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.709-714, 2011-08-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
5

まず,運動器の慢性疼痛を訴えている患者に対して,器質的疾患の関与と精神医学的問題の関与を整形外科で見極める.後者のスクリーニングには,BS-POPを使用している.患者の承諾が得られ,心身医療科とのリエゾン診療が始まった患者に対して,リエゾンカンファレンスを開催して,コメディカルを含めた医療チームの情報を共有し,一貫した治療方針で治療が行われている.最近のリエゾン診療症例32例の治療成績は,有効15例,不変12例,無効5例であった.本検討の32例中22例が県外から受診した,もともと治療に難渋している患者であることを考慮すると,それなりの治療効果があったものと思われる.
著者
山口 直美 小林 純 太刀川 弘和 佐藤 晋爾 堀 正士 鈴木 利人 白石 博康
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.25-32, 2000-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
30

摂食障害患者を自殺企図の有無で2群に分類し, 2群間でParental Bonding Instrument(PBI)で測定された両親の養育態度や臨床症状などについて比較検討した.PBIの結果において, 自殺企図群では両親のoverotection(過保護)得点が有意に高かつた.また自殺企図群では虐待体験を伴う症例が有意に多かつた.一方, 発症年齢, 調査時年齢, 摂食障害の重症度, 過食, 嘔吐, 下剤乱用, 物質乱用, 抑うつ状態の有無などについては2群間に有意差を認めなかつた.摂食障害患者において自殺企図の危険因子として, PBIの高いover protection得点で示されるような, 親の支配的で過保護な養育態度や虐待体験などが重要と考えられた.