著者
久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.25-31, 2007-01-01
被引用文献数
1

第47回日本心身医学会総会において,「東京大学心療内科の30年」というテーマで会長講演の機会を得た.東京大学心療内科は昭和47年(1972年)に東京大学医学部附属病院分院に開設された.当時の中心人物は石川 中助教授と菊池長徳医局長の2名であった.初代教授となった石川は心身医学に5つのサイバネティックス原理を導入し,TEG(東大式エゴグラム)を作成し,サイバネーション療法を確立した.また,彼は「気づきとセルフコントロール医学」を提唱した.そのほかに日本心身医学理事,『心身医学』誌編集委員長,第4回国際心身医学会総会(会長:池見酉次郎先生,1977年,京都)の事務局長を務め,さらに日本心身医学会の日本医学会への加盟に貢献した.第三代教授となった筆者は世界保健機関(WHO)の主催する世界パニック障害研究会議(G. Klerman)と世界摂食障害研究会議(B. Liana)に委員として出席し,国内ではPsychosomatic Symposium in Tokyoを3年間主催した.また,分院と本院の統合に参画し,心療内科病棟を開設した.さらに2005年には神戸において第18回世界心身医学会議の組織委員長を務めた.最後に最近の研究の中から(1)心身相関マトリックス, (2)パニック障害患者の脳機能をPETを利用して, (3)Ecological Momentary Assessment (EMA), (4)Mild depressionの診断基準づくりの4つについて概説した.
著者
芦原 睦 大平 泰子 佐田 彰見
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.111-118, 2005-02-01
被引用文献数
3

産業医からの紹介により当科を受診した症例および当科を受診した職場ストレス症例を対象として背景調査を行い, 心療内科の立場からみた職場ストレスについて検討した. 産業医からの紹介症例ではうつ病圏が最多であり, これらが職場において事例性が高いと推察された. またその研究より産業現場と臨床現場の役割分担が明確でなく, 連携が十分とはいいがたい状況が把握できた. 当科を受診した職場ストレス症例においても, うつ病圏が最も多くみられた. 発症要因となった職場のストレッサーで最も多かったのは"仕事の質"によるものであり, 職場ストレス症例のストレッサーは仕事の質によるものが多いことが把握しえた. 今後, 産業現場と臨床現場とが休職, 復職, 再発予防教育の点などで密接な連携を図り, 勤労者に対してストレス関連疾患の予防やメンタルヘルスに関する知識の普及啓発活動を推進していく必要性が考えられる.
著者
芦原 睦 大平 泰子 佐田 彰見
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.111-118, 2005
参考文献数
9
被引用文献数
3

産業医からの紹介により当科を受診した症例および当科を受診した職場ストレス症例を対象として背景調査を行い, 心療内科の立場からみた職場ストレスについて検討した. 産業医からの紹介症例ではうつ病圏が最多であり, これらが職場において事例性が高いと推察された. またその研究より産業現場と臨床現場の役割分担が明確でなく, 連携が十分とはいいがたい状況が把握できた. 当科を受診した職場ストレス症例においても, うつ病圏が最も多くみられた. 発症要因となった職場のストレッサーで最も多かったのは"仕事の質"によるものであり, 職場ストレス症例のストレッサーは仕事の質によるものが多いことが把握しえた. 今後, 産業現場と臨床現場とが休職, 復職, 再発予防教育の点などで密接な連携を図り, 勤労者に対してストレス関連疾患の予防やメンタルヘルスに関する知識の普及啓発活動を推進していく必要性が考えられる.
著者
阿部 隆明
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.987-993, 2009-09-01

うつ病の発症,症状形成には,病前性格や環境,ライフステージが関与している.うつ病者の人格は,伏在する気分変動性と対象希求性をベースに発展する.重要人物への依存性を断念して社会規範に同一化すれぼ,壮年期以降に観察されるメランコリー親和型や執着性格に発展するし,依存性がそのまま満たされれば青年期後期から出現する逃避型抑うつ者や未熟型うつ病者となる.うつ病像もこうした病前性格を反映するため,それに見合った精神療法も必要となる.10代後半から20代前半にかけてのうつ病症例では,生来の気分変動のブレが大きく,その上に形成される人格の統合水準もより低いため,人格と気分変動の境目がはっきりしないことがある.その中には軽躁的因子を備え行動化しやすいBPD様双極II型(阿部)や,躁的要素や行動化に乏しく回避的な傾向の強いディスチミァ親和型(樽味)が含まれる.前者では気分安定薬の処方,後者では患者の生き方を再構築する援助がポイントとなる.
著者
館 雅之 野崎 剛弘 瀧井 正人 占部 宏美 高倉 修 河合 啓介 久保 千春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.803-811, 2007-09-01
被引用文献数
1

大量の下剤乱用を10年間にわたり続けていた神経性食欲不振症の遷延例である.このような症例は難治であり予後も不良とされるが,当科で行っている,「行動制限を用いた認知行動療法」が奏効し,退院後3年半経っても順調に推移しているので,報告する.「行動制限を用いた認知行動療法」では,患者が肥満恐怖に向き合い,体重増加を図っていくと同時に,行動制限中に表出してきた患者の問題行動を適宜扱う.本患者は,入院治療の過程で,現実生活でいやなことから逃げるという「葛藤回避」が自分の本質的な問題であることを認めるようになった.その結果,「葛藤」から逃げることなく,実際に体重を増やすことができ,体重のみならず家族や対人関係における認知や行動に変化がみられるようになった.本稿では,治療を通じて,患者の認知や行動が変化していった経緯と治療上の留意点について述べた.
著者
鈴木 征男 崎原 盛造 秋坂 真史 柏木 繁男 芳賀 博 兪 今 當銘 貴世美 林 聡子
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.525-532, 2000-10-01
被引用文献数
2

長寿県である沖縄の高齢者の心理的特性を把握するために, 性格5因子モデル(FFM:Five Factor Model)に基づく形容詞評定尺度を作成し, 全国の65歳以上の高齢者609名と沖縄の高齢者を比較検討した.その結果, 沖縄県高齢者の心理的特性として, OpennessとExtraversionで対照群より低く, Agreeablenessで高い結果が得られた.Agreeablenessが高いことは, 沖縄の高齢者が地域社会と強い結びつきを表していることと一致している.また, Conscientiousnessに関しては沖縄の得点は対照群よりも低かったが, これはおうようで, のんびりしているといわれている沖縄人の性格と一致している.なお, NeuroticismおよびOpennessに関しては, 両群に有意な差はみられなかった.