著者
渡邉 智之 佐藤 早織 山本 俊昭 熊代 永
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.961-968, 2010-10-01

知的能力に遅れのない広汎性発達障害の子どもは,その障害の存在が気づかれず見過ごされがちである.しかし,社会性に欠け対人関係も苦手であることからさまざまな困難を抱えやすい.今回,幼少期から不登校を呈していたが,発達障害の視点で支援した結果,改善がみられた症例を報告する.自己洞察を促すサポートよりも支持的対応を基本として共感性を促し,対人関係の促進を目指した.また,認知行動療法を基本とした問題解決技能や個別での対人スキル訓練のアプローチも行った.母親に対しては障害特性と本人の行動を結びつけて説明し障害理解を促した.その結果,不登校という不適応状態が改善した.子どもが示す不適応状態を発達という視点からとらえ,発達歴の聴取や行動観察などのていねいなアセスメント,障害特性に配慮した対応をしていくことが重要である.
著者
大林 正博 井出 雅弘 久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.37, no.8, pp.591-598, 1997-12-01
被引用文献数
6

アレキシシミアを伴う書痙患者に対して, 5年余り(200回余り)のフォーカシングによる面接を行った。面接第30回くらいまでの話題の大半は, 右手の違和感など症状に関するものであった。しかし, 「日常の問題が出ないこと」の指摘などの直面化をしたり, 面接140回頃よりコーネルによる方法を取り入れたこともあり, しだいにアレキシシミアとしての印象は薄らぎ, さまざまな「気がかり」なことに触れたり, 神経症的な葛藤や不安を表現するようになった。一方, 書痙症状は徐々に軽快し, 去勢不安とも取れる事柄を語るようになった第170回頃よりほとんど完全に消失した。フォーカシングは心身症に対しても試みる価値がある治療技法であると思われた。
著者
瀧井 正人 小牧 元 久保 千春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.443-451, 1999-08-01
被引用文献数
7

症例は29歳, 女性.自発的な治療動機を得させることに重点を置いた外来治療を行い(第1報参照), 入院治療は行動制限を用いた認知行動療法を基本とした.患者は, (1)入院初期には, 治療の主導権を得ようと無理な要求や治療者への非難を繰り返し, (2)次いで, 病的な習癖・考え方に執着する一方, 体重増加を過度に追求し, (3)治療終盤では, 制限解除に対し強い不安を訴えるなど, 変化への不安・抵抗ともいえるさまざまな反応を示した.それらに対する治療介入と, 変化の受け入れの過程を紹介し, 考察した.また, 神経性食欲不振症の治療において非常に有用である反面, 機械的に用いれば副作用も少なくない行動制限について考察し, その活用の仕方を述べた.
著者
宮岡 等
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.675-678, 2005-09-01
被引用文献数
1

日本心身医学会が学会として心理士を認定する方向で動いているなか, (1)医師は心理士に何を求めるか, (2)本学会認定医療心理士制度が抱える問題を論じた.医療現場の心理士に対しては, 向精神薬療法が必要という判断, 身体疾患や薬物の副作用としての精神症状, 心理検査や心理療法の副作用などに関する知識を求めたい.医療心理士制度について, 医療現場で働く心理士に資格が必要であるという意見に異論はない.しかし, さまざまな心理士資格の中における位置づけ, 心身医学が対象とする範囲, 心身医学は心理士が関係しうる医療の中の限られた一分野に過ぎないこと, 申請者の経済面の負担, 国家資格との関係などを考えると, 本学会が現時点で独自に認定心理士を設けることには大きな疑問を感じる.会員全体を巻き込んだ精緻な議論がなされることを願う.(本稿は2004年6月4日のパネルディスカッションにおける発表をもとに執筆した)
著者
野村 吉宣 阪尾 学 江村 成就 黒田 健治 宮崎 真一良
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.325-330, 1996-04-01

症例は24歳男性, 会社員。元来宵型人間。23歳頃より過眠傾向となり, 昼過ぎまで覚醒できず, 遅刻欠勤が目立ち, 1992年7月末H病院受診。精査目的のため入院となった。睡眠日誌, 終夜ポリグラフィー検査, MSLT, 直腸温測定により睡眠相遅延症候群と診断された。VB12の経口投与とともに, 院内の生活に合わせて就床起床時刻を一定とし, さらにその後の1週間は高照度光療法も併用した。治療開始2週間後に再度諸検査を施行したところ睡眠相は前進し, 入眠起床時刻も午後10時と午前7時に固定した。退院後は起床時刻を守ること, できる限り規則的な生活を行うことを目的として寮生活をしたところ, 週末には一時的な入眠起床時刻の遅延があるが, ほぼ固定した生活を送ることが可能となった。本症例にみられた睡眠相の遅延に関しては, 単身生活による不規則な生活, 残業が続くことによる入眠時刻の遅延といったライフスタイルの変化が, 概日リズムヘの同調を困難とし, 睡眠相遅延症候群の発症に関与したと考えられた。
著者
中川 哲也
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.281-291, 2006-04-01
被引用文献数
2

日本心身医学会は1959年に設立され,その第1回大会が1960年に開催された.今回で第46回を迎え,現在その会員数は約3,700人に達する.この間,1970年には「心身症の治療指針」を作成した.また1979年には,本学会の日本医学会への加入が認められ,1985年には,本学会の認定医制度が発足した.1991年には新しい「心身医学の診療指針」を作成した.1996年には「心療内科」という標榜科名が認可され,2005年には,本学会の認定による「医療心理士」の制度が設けられた.私は,特に日本心身医学会の草創期前後における種々のエピソードや思い出,先駆者たちの活動状況などを中心に紹介し,以来,今日に至るまでわが国の心身医学の歩みを振り返りつつ,心身医学,心身医療に関する私の意見や感想を述べる.
著者
大場 眞理子 安藤 哲也 宮崎 隆穂 川村 則行 濱田 孝 大野 貴子 龍田 直子 苅部 正巳 近喰 ふじ子 吾郷 晋浩 小牧 元 石川 俊男
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.315-324, 2002-05-01
被引用文献数
5

家族環境からみた摂食障害の危険因子について調べるために,「先行体験」「患者からみた親の養育態度」について,患者からよく聞かれるキーワードを用いて質問表を作成し,健常対照群と比較検討した.その結果,「母親に甘えられずさびしい」がどの病型でも危険因子として抽出された.また患者群全体で「父親との接点が乏しい」も抽出され父親の役割との関連性も見直す必要性があると思われた.さらにANbpとBNにおいては,「両親間の不和」「両親の別居・離婚」といった先行体験の項目も抽出され,"むちゃ食い"が家庭内のストレス状況に対する対処行動としての意味合いをもつのではないかと考えられた.
著者
芦田 明 村田 卓士 田中 英高 玉井 浩
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.443-448, 1998-08-01

大阪府堺市で発生した病原性大腸菌O157 : H7集団食中毒では, 続発して100名を超える患者が溶血性尿毒症症候群に罹患した.当科に搬送された患者の両親に対しアンケート調査を, 看護婦に対し聞き取り調査を実施し, 入院中の治療環境に対する認知を検討した.その結果, (1)病院転送時に, 患者側に病院を選択する余裕はなく, 家族は自宅より病院まで遠くても仕方がないと考えていた.(2)同一疾患患者を一大部屋に収容したことは, 患者間および保護者間ともに連帯感が生じ, 心理的サポートが得られた.(3)他疾患で入院している患者および家族からの感染に対する不安は少なく, 適切な感染防止処置がとられていれば, 一般病棟内で治療を行っても, 大きな混乱には陥らないことが明らかとなった.
著者
中野 弘一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.407-413, 2004-06-01

男性更年期における問題は,生物・心理・社会にわたる多次元評価理解が必要である.社会的にはライフサイクル的評価の視点が有力である.仕事中毒は中年期に陥りやすい対処様式であるが,破綻しやすいスタイルでもあり修正が必要であることが多い.仕事中毒の成立の背景には戦後の日本の経済成長を支えた利益共同体的価値観が深く関わっていると考えられる.仕事中毒の破綻の一つの形が中年発症の出社困難である.中年期に発生する生活習慣病である肥満,アルコール性肝障害,高脂血症などの中で心理社会的問題と密接に関連しているケースは容易には修正できない.中年期危機には心理社会的価値観の再構築と,ソーシャルサポートの構築が有力な対策となる.