著者
久保木 富房 久保 千春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, 2005-04-01

第45回日本心身医学会総会の最終日に永田頌史会長の発案で,「心身医学が進むべき方向」と題してシンポジウムが開催された.シンポジストとしては東京大学心療内科の熊野宏昭氏,九州大学心療内科の久保千春氏,関西医科大学心療内科の中井吉英氏,琉球大学精神衛生学教室の石津宏氏,そして指定発言に鹿児島大学心身医療科の成尾鉄朗氏が指名され,座長は筆者と久保千春氏が務めた.まず,熊野氏より「東京大学心療内科から」と題して,その研究方法論と臨床活動について述べられた.研究方法論としては,Ecological Momentary Assessment(EMA),大脳機能検査,神経内分泌学の3つを中心に据えた具体的な説明と現在までに得られているエビデンスが紹介され,今後の心身医学の研究方向が示された.また,臨床活動においては,心身症,摂食障害,パニック障害,軽症うつ病などが中心であること,精神科とは自ずから守備範囲が重なってくるが,心療内科はあくまでも身体や行動の側から眺めていくという特徴と,コミュニケーションの観点からは,「話せばわかる」という立場を堅持することが述べられた.次に,久保氏より,「九州大学心療内科から」というテーマで,臨床活動においては東京大学心療内科とほぼ同様のデータが,研究面ではストレス研究の新しい動物モデルなどが提示され,多くの研究グループの具体的な研究成果が発表された.臨床面,そして研究面においてevidence based medicineを追求しているスタンスが強調された.東京大学と九州大学がほぼ同様の方向へ研究を展開していることが確認されたことは,今回のシンポジウムにおける大きな産物の一つとして挙げることができよう.3番目は,中井氏より,「全人的医療学の臨床,教育,研究を通して」と題する発表があった.30年以上前より心身医学の中心に据えられてきたbio-psycho-socio-ecologicalモデルに基づく,関西医科大学における臨床,教育,研究の実際と今後の展望が述べられたが,心身医学がもつnarrative based medicineとしてのよさが遺憾なく発揮された発表であるという印象を強くもった.4番目に石津氏より「精神医学的視点と課題」と題して,精神医学と心身医学の近似点や相違点に関して具体的な例を挙げて説明が示された.また,研究面ではゲノムレベルに及ぶ近年のbiological psychiatryは,心身医学に多大なresourseを提供し,心身相関の脳内機序やPsychoneuroendocrinoimmunomodulationメカニズム,器官選択性や個体のストレス耐性の解明などに新しい展開が期待できると述べた.一方,心身医学のbio-psycho-socio-ethics-ecologicalな考え方は,精神医学に人間学的な新展開を加えることが期待されると結んだ.最後に,成尾氏は指定発言として,「大学での教育,臨床,研究で果たすべき役割」と題して述べた.成尾氏は,「現時点で考えられる問題と方針としては,まずは学部教育と卒後教育段階での心身医学的知識や診療,研究スタンスへの啓蒙を充実させることと,リエゾン的役割をより積極的に発揮するとともに,臨床各科における心身医学的問題症例への能動的関与の機会を増やすことが重要と考える」と結ばれた.発表後,フロアの先生方を交えた討論も活発に展開し,今後の心身医学の進むべき方向に関して有意義なシンポジウムとなった.
著者
佐々木 惠雲
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.232-233, 2005-03-01

日本仏教は「葬式仏教」と化していると批判されて久しい.しかし最近,一般の人々の間で「葬式仏教」のイメージと葬儀や中陰,年忌法要のもつ重要性が混同されているように感じられる.確かに,いわゆる「葬式仏教」は仏教の本質とはまったくかけ離れたもので,仏教の教えそのものを人々に伝えることが大切であることはいうまでもない.しかし葬儀や法要を単なる儀式ととらえ,意味がないと捨て去るのではなく,これらのもつ新たな可能性や重要性を見直す時期に来ているのではないだろうか.最近,グリーフケアが世界中で注目されている.グリーフとは,愛する人や近しい間柄の人との死別に対する反応である.しばしば悲しみのあまり,不眠や食欲不振,不安感などの症状が現れることもあるが,この反応は誰にでも起こりうる正常な反応で,普通は自然に消滅していくものである.ところが長期間経過しても悲しみから抜け出せずうつ病になる場合や,喪失直後はそれほど深いグリーフを示さず,何年か経てうつ病を発症することもある.
著者
芝山 幸久 滝井 英治 加藤 明子 松村 純子 島田 涼子 坪井 康次 中野 弘一 筒井 末春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.547-551, 1999-10-01

症例は初診時18歳女性で, 身長163cm, 体重37kg, 無月経と体重減少を主訴に来院した. 自己嘔吐や過食のエピソードはなく, 治療経過中に心窩部痛が出現したため内視鏡検査施行したところ, GradeBの逆流性食道炎を認めた. さらに約1年後胸のつかえ感, 心窩部痛が出現したため内視鏡検査再検したところ, GradeDの重症逆流食道炎を呈してした, プロトンポンプ阻害薬(PPI)のランソプラゾール投与にて1カ月後には著明に改善していた. 発症機序として, 低栄養状態に伴う胃排出能低下によりTLESRが増加し, 逆流性食道炎を発症したと考えられた. BNに逆流性食道炎が合併することは知られているが, ANでも胸やけや心窩部痛は胃食道逆流症を想定すべきである. 自覚症状は摂食不良の一因にもなるため, 早期に内視鏡検査を施行して, PPIなどの投与を考慮すべきである.
著者
小林 伸行 濱川 文彦 松尾 雄三 高野 正博
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.1201-1207, 2009-11-01

初診時の問診や質問紙が治療中の自傷行為の予測に有用かを検討した.対象と方法:2000〜2005年に初診した1,665名を対象とした.(男性605名,女性1,060名,年齢36.4±18.6歳).カルテ記載から精神科・心療内科受診歴(受診歴),希死念慮,自傷行為の既往(自傷既往),受診直前の自傷行為(直前自傷),治療経過中の自傷行為(治療中自傷)などを調べた.初診時にGHQ28を行った.結果:全対象の22.6%に受診歴,24.7%に希死念慮,5.1%に自傷既往,1.5%に直前自傷を認めた.初診以降も治療を継続した1,132名中,治療中自傷は4.3%にみられ,非自傷者より低年齢で,受診歴,希死念慮,自傷既往が多く,GHQ28の重症抑うつ尺度が高く,診断別では摂食障害,うつ病に多かった.多変量解析では年齢,希死念慮,自傷既往が治療中自傷予測に有意な変数だが,自傷者の正分類率は4%だった.結語:初診時の希死念慮と自傷行為の既往が治療中自傷の予測に最も有用だが,十分ではない.
著者
江頭 洋祐
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.283-289, 2007-04-01

東洋医学/漢方診療は検査技術のない時代に中国や日本で発達した医療体系である.そこでは患者との対話を中心として診療方針が決定されていた.最近,現代医学のあまりにも自然科学的なEBM(evidence based medicine)への偏りに対して改めてNBM(narrative based medicine: ナラティブ・アプローチ)の重要性が提唱されている.昔の中国医学の古典(素問,他)を検討してみると,NBMとしての診療記録が数多く発見される.具体的には素問にある移精変気法の記述や,戦国時代の名医文摯が斎の国王を怒らせて治癒せしめたとの記録などがある.日本でも江戸時代後期の和田東郭や,現代の漢方のエキスパートである大塚敬節らも,NBMとしての診療を実践しているいくつかの診療録がある.この研究を通じて,東洋医学/漢方診療こそ昔からNBM的アプローチによって心身医学的診療を実践していたことが確認できた.
著者
大隈 紘子
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.195-201, 2005-03-01

わが国では近年社会的ひきこもりが増加し問題になっている.大分県精神保健福祉センターでは,2002年から「社会的引きこもり対策推進事業」を3ヵ年計画で進めている.2002年度の大分県の「ひきこもり」実態調査の結果,社会的ひきこもり件数は211名であった.このうち,30歳以上のひきこもり者が31%あり,「高年齢化したひきこもり者」が相当数いることを明らかにした.また,ひきこもり継続年数が5〜9年の者が約30%,さらに,ひきこもり継続年数が10年以上の者が約20%あり,「長期化するひきこもり者」が多数いることが判明した.本稿では2症例のひきこもり者の症例報告をした.この治療経験から,対人関係の問題を補う支援の必要性と,どんな職に向いているのかがわからない悩みには具体的な職業相談や就労支援が効果的であることがわかった.これらの悩みは現代の青年やフリーターにも共通する悩みであり,現在は青年から大人になるのが困難な時代であると感じた.