著者
清田 雅史 米崎 史郎 香山 薫 古田 彰 中島 将行
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.255-263, 2008-12-30
参考文献数
24
被引用文献数
2

伊豆三津シーパラダイスにおいて飼育され1988年から2005年までに死亡した,ラッコ22個体の外部形態の計測値を解析した.年齢と体長から推定した成長式は,雄が雌より速く成長して大型になる傾向を示し,体サイズの性的二型が確認された.飼育下における雌雄の成長速度は,自然界の良好な栄養条件において記録された値と同等以上であった.体各部位の体長に対する相対成長に一般線形モデルをあてはめ,相対成長のパターンと雌雄差をモデル選択により分析した.雄には優成長を示す部位はなく,体の大型化以外に二次性徴は認められなかった.一般に頭,口,前肢は劣成長を示し,後肢や尾部は等成長を示した.頭部や前肢の相対成長パターンは,本種の早成性仔獣の水中生活への適応に関係している可能性が考えられる.<br>
著者
鈴木 真理子 大海 昌平
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.241-247, 2017

<p>イエネコ<i>Felis catus</i>による在来種の捕食は,日本においても特に島嶼部において深刻な問題である.鹿児島県奄美大島と徳之島にのみ生息する遺存固有種アマミノクロウサギ<i>Pentalagus furnessi</i>の養育行動を2017年1月から3月にかけて調査していたところ,繁殖穴で離乳間近の幼獣がイエネコに捕獲される動画を自動撮影カメラによって撮影したので報告する.繁殖穴における出産は2017年1月14日~15日の夜に行われたが,幼獣(35日齢)がイエネコに捕獲されたのは2月19日1時ごろで,この前日は繁殖穴を母獣が埋め戻さずに入り口が開いたままになった初めての日であった.この動画の撮影後,幼獣は巣穴に戻っていないことから,捕食あるいは受傷等の原因で死亡した可能性が高い.イエネコは幼獣の捕獲から約30分後,および1日後と4日後に巣穴の前に出現し,一方アマミノクロウサギの母獣は1日後に巣穴を訪問していた.幼獣の捕食は,本種の個体群動態に大きな影響を与えうる.本研究により,アマミノクロウサギに対するイエネコの脅威があらためて明らかとなった.山間部で野生化したイエネコによるアマミノクロウサギ個体群への負の影響を早急に取り除く必要がある.</p>
著者
江口 祐輔
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.141-143, 2013-06-30
参考文献数
9
著者
小林 万里 石名坂 豪 角本 千治 若田部 久 小林 由美 清水 秋子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.207-214, 2007-12-30
参考文献数
12

北海道東部から襟裳岬に至るゼニガタアザラシの1970年以来の個体数減少と納沙布岬周辺で混獲され大量死亡する個体の関係を知るために,1982年と1983年に納沙布岬周辺のサケ定置網におけるアザラシ類の混獲数調査が行われた(以下,80年調査).80年調査からちょうど20年後,海洋環境の変化や北海道東部のゼニガタアザラシの個体数が増加傾向にある中,アザラシ類の混獲数や特性の変化を知るために,過去と同じ要領で納沙布岬周辺のサケ定置網におけるアザラシ類の混獲数調査を2002年と2003年に実施した(以下,00年調査).その結果,80年調査と比較して,00年調査の結果では,歯舞漁協管内の15ヶ所の定置網におけるアザラシ類の混獲数は,ほぼ同数(80年調査272頭,00年調査261頭)で,また,アザラシ類がもっとも多く混獲される定置網の位置や混獲されたアザラシ類の種構成[最多がゼニガタアザラシ(<i>Phoca vitulina stejnegeri</i>)で,次いで多いのがゴマフアザラシ(<i>Phoca largha</i>)]に違いは見られなかった.しかし,全アザラシ類の混獲数に占めるゼニガタアザラシおよびゴマフアザラシの割合(80年調査ではゼニガタアザラシおよびゴマフアザラシの割合はそれぞれ77.6%,20.6%,00年調査では91.2%,7.7%)には有意な差が見られた.また,ゼニガタアザラシの混獲時期は,80年調査では9月中旬と11月中旬に混獲数が多くなる2山型を示したのに対し,00年調査では,定置漁業の開始直後の9月上旬に混獲数が多く,定置漁業が終わるにつれ減少する傾向が見られた.千島列島全域におけるゼニガタアザラシとゴマフアザラシの分布の中心は,択捉島以南の,特に歯舞群島・色丹域に集中して分布していると考えられているため,今後の保全管理を考える上には,歯舞・色丹グループと道東グループとの関係が重要と考える.<br>
著者
石塚 譲 川井 裕史 大谷 新太郎 石井 亘 山本 隆彦 八丈 幸太郎 片山 敦司 松下 美郎
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-9, 2007 (Released:2007-08-21)
参考文献数
37
被引用文献数
4

季節や時刻による行動圏の変動をみるために, 成雌ニホンジカ2頭にGPS首輪を用いて, 経時的な位置を調査した. 調査期間は, それぞれ, 392日と372日で, シカの位置は0時から3時間毎に計測した. 2頭の年間行動圏面積はともに森林域と水田周囲とを含む43.7 haおよび16.3 haであり, 行動圏の位置に季節による変動はみられなかった. 個体1の季節別コアエリアは, 四季を通して水田周囲に位置し, 個体2でも夏期以外は水田周囲に位置した. 時刻別コアエリアは, 12時および15時では森林域に, 0時および3時では水田周囲に位置した. 以上の結果から, GPS首輪を装着した2頭の成雌ニホンジカは, 大きな季節移動をせず, 日内では, 森林域 (昼) と水田周囲 (深夜) を行き来していると考えられた. また, 行動圏とコアエリアの位置から農耕地への依存度が高いことが推察された.
著者
河内 紀浩 中村 泰之 渡邉 環樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.73-77, 2018

<p>沖縄県の宮古諸島に導入されたニホンイタチ<i>Mustela itatsi</i>の糞より,同諸島固有の絶滅危惧種ミヤコカナヘビ<i>Takydromus toyamai</i>の骨及び体の一部を検出した.この結果は,同地域に生息する希少な固有種が国内外来種であるニホンイタチに捕食されていることを直接的に示す初めての証拠であり,ミヤコカナヘビの深刻な個体数減少の原因についての議論に一石を投じるものである.</p>
著者
阿部 永
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.55-66, 2010 (Released:2010-07-23)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本州中部においてコウベモグラMogera woguraがアズマモグラM. imaizumiiと競合し,分布を置換しながら前進している8地域においてトンネルのサイズ調査を行い,2009年時における前者のおよその分布先端を確定した.特に1959年に分布先端を確定してあった長野県内2河川流域のうち,木曽川上流においては上松付近において50年間に最大4.1 kmの分布拡大が認められた.他方,天竜川上流の支流小野川流域では最大2.4 km,本流域では最大16 kmの分布拡大が認められた.石川県金沢平野におけるコウベモグラの分布先端は,1998年における最初の調査以後の11年間に大きな変化はなかった.富士川流域では最上流部にある甲府盆地の下流約16 kmの峡谷に分布先端があった.静岡県・神奈川県にまたがる地域では,両県を分け南北に連なる山脈がコウベモグラの東進を妨げる障壁になっていることが明らかになった.
著者
浅田 正彦
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.207-218, 2014

千葉県内でアライグマ(<i>Procyon lotor</i>)の高密度地域において行われた捕獲記録を用い,除去法計算過程を状態空間モデルとして構成した階層ベイズモデルによる個体数推定(ベイズ除去法)を行うとともに,CPUEから生息密度へ換算する係数の推定を行った.また,この係数を用い,千葉県内の2012年度の個体数推定を行った.捕獲は,千葉県いすみ市塩田川流域(35.1 km<sup>2</sup>)において,2012年6月22日~2013年3月23日に100台の箱ワナ(平均近傍距離301 m)を用いて実施された.捕獲の結果,オス成獣53頭,メス成獣29頭,幼獣55頭の計137頭が捕獲された.ベイズ除去法による推定の結果,捕獲開始前の生息数はオス成獣が89頭,メス成獣が103頭,幼獣が130頭,計322頭と推定された.捕獲期間の3か月間で,メス成獣および幼獣の76%以上を除去することができたが,オス成獣は生息密度を維持しており,捕獲開始直後に優位オスが除去されたのち,隣接地域からの放浪個体が移入することが推測された.
著者
船越 公威 長岡 研太 竹山 光平 犬童 まどか
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.245-256, 2009 (Released:2010-01-14)
参考文献数
38
被引用文献数
6

コテングコウモリMurina ussuriensisの枯葉(アカメガシワMallotus japonicus)トラップのねぐら利用とそのトラップ法の有効性について検証した.また,その利用結果から本種の繁殖生態について調査した.さらに,トラップ利用個体を用いて発信機装着による個体追跡を試みた.主要な調査地は鹿児島県霧島市の霧島神宮周辺と宮崎県都城市の御池周辺の照葉樹林である.地域や季節を通じた捕獲率は6~19%であったが,地域や季節によって大きく変化し,10月の霧島林と御池林では36%の高率であった.非繁殖期では雄の捕獲が大半を占めていたが,7月中旬には雌が頻繁に捕獲された.捕獲した個体から,南九州では出産が6月初旬で,広島県産よりも約1ヶ月早まることが示唆された.複数の成獣雌と幼獣からなる哺育集団が形成され,離乳期は7月中旬で幼獣はその頃から独立していた.また,交尾は10月がピークであると予想された.雄や非繁殖期の雌は単独でねぐらを利用するがねぐら間の距離が短いことから,ねぐら場所に対して単独的である一方,行動域は重複していた.トラップ法とテレメトリ法による個体追跡から,ねぐらは頻繁に替えられ,個体によっては比較的狭い範囲を移動していた.また,秋季には枯死倒木内をねぐらに利用していた.コテングコウモリの繁殖生態や社会構造を知る上でアカメガシワトラップ法の有効性が実証された.