著者
菊池 晏那 西 千秋 出口 善隆
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.201-207, 2015

動物の分散は生息地への定住や定住先の個体群における遺伝的多様性に影響を与えるため,リスの保全を考えるうえでその把握が必要である.そこで,岩手県盛岡市の都市孤立林に生息するニホンリス(<i>Sciurus lis</i>)の幼獣の分散様式について2013年7月~2014年6月に調査を行った.調査はラジオトラッキングにより夜間にねぐらとして使用している場所(以下,「巣」とする)を特定した.分散過程(分散前,分散中,定住後)および幼獣と成獣の違いによる巣の変更距離(変更前後の巣間の直線距離)を比較した.その結果,リス類の主な分散期間である夏の巣の変更距離は成獣よりも幼獣のほうが有意に長かった.幼獣の巣の変更距離は分散前または定住後よりも分散中の期間が有意に長かった.また,幼獣における分散中の期間の行動範囲は分散前または定住後よりも拡大していた.これらのことからニホンリスの幼獣は分散中の期間に複数の巣を使い,行動範囲とともに巣間の変更距離を伸ばし,徐々に行動範囲を移動させることによって分散を行っていると考えられる.
著者
船越 公威 坂田 拓司 河合 久仁子 荒井 秋晴
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.351-357, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
16

クロホオヒゲコウモリMyotis pruinosusの九州における生息分布は,これまで宮崎県綾町照葉樹林における捕獲記録だけであった.今回,熊本県でも生息が確認されたので報告する.確認場所は熊本県東部の山都町内大臣渓谷にある隧道トンネルの天井の窪みで2007年9月30日,2008年7月27日および8月24日に成獣雄各1頭が確認された.また,2011年11月27日に同トンネルで成獣雌1頭が確認された.背面の体毛は灰黒褐色または黒褐色でクロホオヒゲコウモリの特徴である差し毛に銀色の光沢がない個体もみられた.しかし,側膜がモモジロコウモリM. macrodactylusと違って外足指の付け根に着いていること,九州ではヒメホオヒゲコウモリM. ikonnikoviが分布せず尾膜の血管走行が曲線型でなかったことを考慮して,クロホオヒゲコウモリと判定した.また,熊本県産2個体のミトコンドリアDNA(cytochrome b遺伝子1140 bp)を解析した結果,クロホオヒゲコウモリであることが支持されたが,種内の遺伝的変異が比較的大きく地理的変異があることが認められた.前腕長や下腿長は九州産の方が本州・四国産よりも大きかった.頭骨の形状についても,九州産では本州・四国産のものに比べて頭骨基底全長が短く,眼窩間幅や脳函幅が広かった.頭骨計測8項目を基に主成分分析を行った結果,九州産は本州・四国産との間で明瞭に分離された.

1 0 0 0 OA クマ類

著者
高柳 敦
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.143-144, 2007 (Released:2007-08-21)
被引用文献数
3 3
著者
浅利 裕伸
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.53-57, 2015 (Released:2015-07-04)
参考文献数
18

これまでのタイリクモモンガ(Pteromys volans)の研究では,個体の捕獲に巣箱が活用されてきたが,本種は厳冬期に巣箱を利用しないため通年の調査が困難であった.そこで,通年にわたって個体データを収集するための効果的な捕獲方法の確立を目的として,新たな樹洞トラップを開発し,タイリクモモンガが使用している樹洞の入り口にこれを設置した.トラップ内にはプラスティック板の返しを装着することにより,一度入ると樹洞に戻ることができない工夫を施した.北海道帯広市の樹林において,2006年1月~2008年4月に38個体の捕獲を試みた結果,33個体を捕獲することに成功した.残りの5個体は同居するグループの一部の個体であり,厳冬期に出巣しなかったために捕獲ができなかった.厳冬期はタイリクモモンガの活動が低下し,活動時間も不規則になることから,樹洞トラップを用いても樹洞内の全個体を捕獲することは困難であると考えられる.しかし,確認された個体の7割以上を捕獲することが可能であり,それ以外の季節では幼獣を含むすべての個体を捕獲することができたため,巣箱を用いた捕獲と比べて定期的な個体データの収集に,より有効な手法であると考えられる.
著者
福井 大 前田 喜四雄 佐藤 雅彦 河合 久仁子
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.39-43, 2003-06-30
被引用文献数
3

北海道函館市において,これまで青森県以北には分布しないとされていたアブラコウモリ Pipistrellus abramus を捕獲した.捕獲個体は妊娠しており,本種が北海道内で繁殖をしていることも確認された.また,外部形態やエコロケーションコールの構造は本州産の本種とほぼ同じであった.今後,本種の北海道内における分布の拡大が注目される.
著者
出羽 寛
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.139-151, 2002 (Released:2008-07-23)
参考文献数
27
被引用文献数
2

北海道旭川市に隣接する当麻町において,孤立林を含むモザイク的な生息環境である農耕地域でのネズミ類の分布,種類構成,孤立林の利用形態を明らかにするために,森林域(屏風山),3つの孤立林(親山5.1ha,子山 4.1ha,窪山 0.3ha)と農耕地(水田,ビート畑,麦畑,JR 沿線草地,農道横草地,納屋·ビニールハウス)に調査区を設定,1986年6月から1988年11月まで毎月1回(12月から4月までの積雪期間を除く),記号放逐法によるネズミ類の個体数調査を行った.森林域と孤立林ではヒメネズミApodemus argenteus, エゾアカネズミ A. supeciosus ainu, エゾヤチネズミ Clethrionomys rufocanus bedfordiae の3種が主要な構成種であり,農耕地ではエゾヤチネズミ,カラフトアカネズミA. peninsulae, ドブネズミ Rattus norvegicus, ハツカネズミ Mus musculus の4種が主要構成種であった.ネズミ類による孤立林の利用形態には次の3つのタイプが認められた.a)エゾヤチネズミは孤立林を最も主要な生息場所として利用するが,同時に農耕地も普通に利用し,孤立林と農耕地の間で移動が通年見られる.b)ヒメネズミとエゾアカネズミは孤立林だけをすみ場所として利用し,農耕地は秋の移動·分散時の経路として利用した.ただし,面積が小さい場合は孤立林も秋から冬季の一時的なすみ場所として利用した.c)カラフトアカネズミ,ドブネズミ,ハツカネズミの3種は農耕地を主要なすみ場所として利用し,孤立林には主に9月から11月に侵入し,一時的なすみ場所として利用した.
著者
南野 一博 明石 信廣
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.19-26, 2011-06-30
被引用文献数
1

北海道西部の多雪地域に生息するエゾシカ<i>Cervus nippon yesoensis</i>の冬期の食性を明らかにするために,2006年11月から2007月4月及び2007年11月から2008年4月までの2冬期間,越冬地において定期的に糞を採取し,その内容物を分析した.さらに,越冬地の積雪深を測定し,糞中の割合と積雪深との関係について解析した.糞分析の結果,無積雪期にはクマイザサ,イネ科草本などのグラミノイド,広葉草本類,落葉など多くの食物が利用されていたが,積雪後は内容物のほとんどがクマイザサ及び小枝・樹皮などの木本類の非同化部によって占められていた.越冬地の最大積雪深は2冬期間ともに100 cmを超え,2008年1月上旬には152 cmに達し,2007~2008年における100 cm以上の積雪期間は約2ヶ月半に及んでいた.糞中に占める木本類の割合は積雪の増加とともに高くなり,積雪深が100 cm以上になると大半を占めるようになった.一方,クマイザサの割合は無雪期や積雪が増加した厳冬期には低く,初冬期や融雪期など積雪が中程度のときに最も多く利用されていた.以上のことから,多雪地で越冬するエゾシカの食性は,クマイザサと木本類が主要な餌となっているが,その割合は積雪深に大きく影響を受けており,積雪が増加してクマイザサの利用が制限される期間は,餌のほとんどを木本類に依存していることが明らかとなった.<br>
著者
藪田 慎司 中田 兼介 千嶋 淳 藤井 啓 石川 慎也 刈屋 達也 川島 美生 小林 万里 小林 由美
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.195-208, 2010-12-30

哺乳類の生態や行動に関する野外調査には,しばしば複数の調査者の協力が必要となる.多くの哺乳類は寿命が長く行動範囲が広いからである.このようなチーム研究を維持するには,各メンバーのデータを集約保存し,メンバー全員で共有するシステムが必要である.本論文では,ゼニガタアザラシ(<i>Phoca vitulina stejnegeri</i>)の個体識別調査を支援するために開発したシステムについて報告する.このシステムは2つのデータベースからなる.野外で撮影された写真を管理する写真データベースと,識別された個体についての情報や観察記録を管理する個体データベースである.システムはインターネット上に置かれ,メンバーは,どこからでも新しいデータを登録でき,また登録済みデータを研究のため利用することができる.近い将来,本システムは以下のような研究に貢献すると期待される.上陸場間の移動行動の研究,生活史パラメーター(齢別死亡率,出産間隔等)の推定,個体数の推定,社会構造の研究,等である.<br>
著者
常田 邦彦
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.139-142, 2007 (Released:2007-08-21)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1