著者
川田 伸一郎 安田 雅俊
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.257-264, 2012 (Released:2013-02-06)
参考文献数
15
被引用文献数
1

The Hainan mole, Mogera hainana Thomas, 1910, was recorded to be collected by “a native employed by Mr. Alan Owston” in the original description of the species. We noticed the specimen tag of the holotype was printed and handwritten in Japanese characters. The same tag was attached to another specimen of this species deposited at the Forestory and Forest Products Research Institute (Tsukuba, Ibaraki, Japan). Those specimens were both collected in November, 1906; therefore, the Hainan mole was collected by a Japanese person who visited Hainan Island in this period. We searched for the same form of specimen tags, and found many among bird specimens from Hainan Island at the Yamashina Ornithological Institute (Abiko, Chiba, Japan). In this period, Zensaku Katsumata collected the birds in Hainan Isl. and sent them to the Lord of Lionel Walter Rothschild in England. We estimated the type series of the Hainan mole was also collected by Z. Katsumata, who was a collector employed by a merchant A. Owston, and he sent it to L. W. Rothschild in UK. L. W. Rothschild communicated with the Natural History Museum and his name was dedicated to 18 mammalian species by researchers of this museum. It is possible to consider that Rothschild’s mammalian collection was presented to the Natural History Museum and examined by mammal researchers. Although Zensaku Katsumata was an obscure person in mammalogy, we discuss his contribution to the dawn of natural history in Japan.
著者
渡邊 啓文 船越 公威
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.323-328, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
33

大分県南東部の隧道内天井は,2013年~2017年の春~夏季の調査でテングコウモリMurina hilgendorfiとノレンコウモリMyotis bombinusの活動期のねぐらとして利用されていた.テングコウモリは5月~6月に10頭前後の個体が密集した集団を形成していた.この群塊は妊娠後期から末期に入った雌の集団であり,九州では初めての発見である.群塊体表の温度は単独個体よりも高く高体温を保持しており,胎児の成長促進に寄与していることが示唆された.テングコウモリは妊娠末期に移動して,他所で出産・哺育すると考えられる.
著者
永里 歩美 船越 公威
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.181-186, 2010 (Released:2011-01-26)
参考文献数
10

ニホンテンMartes melampus の換毛を引き起こす要因および毛色の地理的変異を解明するため,毛色の季節的な変化について九州南部における自動撮影装置を用いた野外調査と飼育下での観察をあわせて行った.その結果,野外,飼育下ともに冬毛への換毛が11月から,夏毛への換毛が4月から始まっていた.飼育下での観察結果から,冬毛への換毛は,室温が28°Cから16°Cに下降し,昼時間が11.5時間から10.5時間と短縮する時期に起こった.夏毛への換毛は,室温が18°Cから25°Cに上昇し,昼時間が12.5時間から13.5時間と長くなる時期に起こった.換毛の進行過程は,夏毛への換毛と冬毛への換毛が逆向きに進んだ.冬毛の鮮やかさは低緯度のものほど薄れ,九州南部のものでは吻部や眼の周囲が周年を通じて黒かった.
著者
小寺 祐二 神崎 伸夫 石川 尚人 皆川 晶子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.279-287, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
43
被引用文献数
5

本研究は,島根県石見地方で捕獲されたイノシシ(Sus scrofa)の胃内容物を分析し,食性の季節的変化を明らかにすることを目的とした.調査では,1998年4月から1999年3月の間に島根県浜田市を中心に捕獲されたイノシシ294個体より胃内容物を採取し,ポイント枠法による食性分析を実施し,各食物項目の占有率および出現頻度を季節別(第I期:5,6月,第II期:7~9月,第III期:10~12月,第IV期:1~3月)に算出した.その結果,植物質の占有率および出現頻度は季節によらず高い値を示した.動物質の占有率でも季節的変化は確認されなかったが,最高値を示した第II期でも4.3%と低い値であった.植物質の部位別占有率については果実・種子を除く全ての部位で季節的変化が確認され,第II期は同化部,その他の季節は地下部を採食する傾向が確認された.また,地下部の内訳について見ると,第I期はタケ類(57.9%),第III期・第IV期は塊茎(それぞれ43.3%,21.3%)の占有率が高くなった.同化部は第II期の主要な食物となっており,その多くが双子葉植物で占有率は27.6%を示した.果実・種子の占有率については,堅果類が第III期・第IV期に20.0,20.4%と高い値を示し,水稲と果実は第II期にそれぞれ6.8,3.6%を示した.その他植物質の多くは繊維質であり,第I期は主にタケ類,第II期は双子葉植物,第III期・第IV期は塊茎から由来するものであった.調査個体群では第II期を除き植物質地下部が良質で重要な食糧資源になっていた可能性が示された.
著者
横山 卓志 楠田 哲士 曽根 啓子 森部 絢嗣 高橋 秀明 橋川 央 小林 弘志 織田 銑一
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.207-214, 2012-12-30
参考文献数
12

飼育下キンシコウ(<i>Rhinopithecus roxellana</i>)の新生仔における行動発達を明らかにすることを目的とし,名古屋市東山動物園で2009年4月に生まれた雌の新生仔において,8ヶ月齢までの成長に伴って観察された行動の経日変化を記録した.また,それらの結果を,中国の国立陝西周至自然保護区の半野生集団および他の飼育下個体における報告と比較した.東山動物園の新生仔は,出生後約1ヶ月間は母親に依存していたが,1ヶ月齢から周辺環境や姉に興味を示し,積極的に接近や探索の行動を開始した.2~3ヶ月齢では姉と2頭で過ごしたりグルーミングに似た行動をしたりするなど社会行動が観察された.生後60日目以降,積極的に姉に近づくようになり,姉の存在がその後の新生仔の行動発達に影響を与えたと考えられた.自然保護区と比べ,木の登り降りや餌に興味を示す行動の発現が著しく早く,また5ヶ月齢以降,腹部接着や支持,近接,接近,離反およびグルーミング受容の行動スコアがほぼ一定となったことから,5ヶ月齢が行動発達の1つの区切りであったと考えられた.東山動物園におけるキンシコウ新生仔の行動発達過程は,群れの数や環境が大きく異なる中国の自然保護区の結果と一致していた.しかし,一部の行動の開始時期には大きな差が認められ,木の登り降りや餌への興味といった行動の発達は,成育環境に影響を受けているとも考えられた.<br>
著者
中本 敦 木田 浩司 森光 亮太 小林 秀司 岸本 壽男
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.107-115, 2013 (Released:2013-08-13)
参考文献数
45

岡山県全域を対象とした小型哺乳類の捕獲調査を2010年10月~2011年12月にかけて実施した.齧歯目6種,トガリネズミ型目2種の計130個体が捕獲された.小型哺乳類の8種すべてで生息密度が非常に低かった.アカネズミApodemus speciosusの捕獲数が最も多く,捕獲場所も県内全域の様々な環境に及んだ.これに対してアカネズミ以外の種では,植生や標高などの生息環境に選択性が見られた.アカネズミの生息密度に最も大きな影響を与えたのはハビタットタイプではなく,年2回の繁殖による個体数の増加であった.岡山県では何らかの理由で小型哺乳類の生息密度が非常に低くなっていると思われるが,特にこれまで普通種と思われていたヒメネズミA. argenteusとハタネズミMicrotus montebelliの生息数の減少が懸念された.他県においても普通種を含めた小型哺乳類の生息密度の再評価が必要な時期に来ていると思われる.
著者
安田 雅俊 栗原 智昭 緒方 俊輔
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.41-45, 2012 (Released:2012-07-18)
参考文献数
11

九州において絶滅のおそれのある国の特別天然記念物カモシカCapricornis crispusの生息記録を宮崎県北部の高千穂町において収集し,1996–2011年にかけての目撃,自動撮影,死体,個体保護からなる生息記録13件を得た.それらの生息記録と地形との関係をみたところ,カモシカは標高400 m以上に分布し,最大傾斜角32度以上の急峻な地形を好むことが示唆された.カモシカ九州個体群の保全のためには,さらに広域に生息記録を収集するとともに,植生等のその他の重要な環境要素を加えた,九州における本種の潜在的なハビタットをより正確に判定するモデルを開発することが望まれる.
著者
川口 敏
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.35-39, 2006 (Released:2007-06-26)
参考文献数
9
被引用文献数
1

A total of 29 male specimens of Mustela killed by traffic accident on the road in Kagawa prefecture were identified by the relationship between head and body length (HBL) and tail length (TL), or hind foot length (HFL) and TL. However, the tail ratio (the proportion of TL to HBL), which is one of the method to distinguish between both species so far, is not adequate for the identification, because there is no difference between both the ratios (46.8% to 59.0% in M. sibirica coreana; 41.3% to 47.1% in M. itatsi). In addition, there seems to be no differences between both altitude distributions (5 m to 110 m in altitude in M. s. coreana; 5 m to 210 m in altitude in M. itatsi), according to the 29 specimens collected in this study.
著者
中本 敦 木田 浩司 森光 亮太 小林 秀司 岸本 壽男
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.107-115, 2013-06-30

岡山県全域を対象とした小型哺乳類の捕獲調査を2010年10月~2011年12月にかけて実施した.齧歯目6種,トガリネズミ型目2種の計130個体が捕獲された.小型哺乳類の8種すべてで生息密度が非常に低かった.アカネズミ<i>Apodemus speciosus</i>の捕獲数が最も多く,捕獲場所も県内全域の様々な環境に及んだ.これに対してアカネズミ以外の種では,植生や標高などの生息環境に選択性が見られた.アカネズミの生息密度に最も大きな影響を与えたのはハビタットタイプではなく,年2回の繁殖による個体数の増加であった.岡山県では何らかの理由で小型哺乳類の生息密度が非常に低くなっていると思われるが,特にこれまで普通種と思われていたヒメネズミ<i>A. argenteus</i>とハタネズミ<i>Microtus montebelli</i>の生息数の減少が懸念された.他県においても普通種を含めた小型哺乳類の生息密度の再評価が必要な時期に来ていると思われる.<br>
著者
高田 靖司 植松 康 酒井 英一 立石 隆
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.89-94, 2014

隠岐諸島をはじめ,本州から九州におけるカヤネズミ(<i>Micromys minutus</i>)の12集団について,下顎骨の計測値にもとづき,多変量解析(主成分分析,正準判別分析)をおこない,地理的変異を分析した.その結果,下顎骨について,全体的な大きさ(第1主成分)には集団間で差は認められなかったが,形(第2–第3主成分)には集団間で有意な差が認められた.特に,第2主成分は島の面積との間に有意な相関が認められたので,何らかの要因が形態変異に作用した可能性がある.正準判別分析では,隠岐諸島の集団間で形態変異が認められた.この変異には島の隔離に伴う遺伝的浮動が働いたと考えられた.しかし,下顎骨の大きさ(第1主成分)について集団間で差がみられず,また,遠く離れた地域の集団間で形態的な違いがみられなかった.これは,Yasuda et al.(2005)が明らかにしたように,日本列島におけるカヤネズミの低い遺伝的多様性を反映しているかもしれない.
著者
田悟 和巳 荒井 秋晴 松村 弘 中村 匡聡 足立 高行 桑原 佳子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.311-320, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1

森林性の中型食肉類であるテンMartes melampusを対象に,糞から抽出したDNAを用いて,個体数の推定を試みた.調査は熊本県阿蘇郡(以下,阿蘇)および佐賀県佐賀市(以下,佐賀)で行った.調査地域内で採集した糞のDNA分析の結果,阿蘇で95個体,佐賀で50個体を個体識別できた.各個体の確認期間から,定着個体と非定着個体に分けたところ,定着個体は阿蘇が13個体,佐賀が10個体であった.阿蘇では非定着個体が秋季に増加する特徴が見られたが,これは調査地の地形的な特徴から,移動路として利用する個体が多く確認されたためと考えられた.個体群密度は,阿蘇で0.14~0.19個体/ha,佐賀で0.09~0.13個体/haであった.これはこれまで知られているテン属の中では特出して高い数値であった.また,親子ではない同性間の成獣において,利用地域が重複する場合があることが確認され,必ずしもテンが排他的ではないことが示唆された.