著者
石倉 義博
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.125-141, 2010

岩手県釜石市内4高校の同窓会会員を対象とした調査において尋ねた「希望」と「誇り」に関する自由記述データについて, 自然言語処理による形態素解析処理および, それをもとにした対応分析を行ない, それぞれの世代, 性別, 移動パターン(定住者, Uターン者, 他出者)による, 回答傾向の差異を探った. 分析の結果, 希望に関しては, 市内在住者は生活志向が強く, 逆に他出者は開発を通じた発展志向が強いこと, Uターン者は市内にない生活インフラの整備を望む傾向が強いことが明らかになった. また釜石に関する誇りに関しては, 同じ「鉄」に関連する語でも, 他出者男性は「新日鐵」という近過去ヘの言及が多く, 市内在住男性は「近代製鉄発祥の地」というより長期の歴史に位置づけて語る傾向が強いこと, 女性では, 「自然」や「人間性」への言及が多いが, 他出者はそれを物品や実際の人間関係などの具象に求める傾向が強く, 市内在住者の方が抽象的な「豊かさ」に拠る傾向が強いという差異が明らかとなった.Using free description responses to questions on 'hope'and 'pride'in the Alumni Survey on Kamaishi's 4 high schools'graduates, morphological analyses by natural language processing and correspondence analyses were conducted to differentiate the tendencies of responses according to generations, genders, and patterns of migration (settlers, U-turns, out-migrants). Current residents of Kamaishi were found to be daily life oriented, while out-migrants tend to be development oriented, and those experienced U-turn wish for daily life infrastructure to be improved. When words associated with 'Steel'are used to describe their pride in Kamaishi, out-migrant males often refer to near past 'Nippon Steel', while current residents of Kamaishi tend to mention 'birthplace of modern steel industry', referring to longer history. Female often refers to 'nature'and 'humanity'. Out-migrant females tend to rely on concrete goods and human relations, while current residents tend to speak of abstract 'affluence'.
著者
永井 暁子
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.87-99, 2010

これまでは過疎地の嫁不足など, 結婚難は特定地域の問題とされていた. しかし, 現在進行している未婚化は, 特定地域の問題ではない. 釜石市の4つの高校の同窓会を対象にした調査と釜石市市民への意識調査を用いて, 本稿は結婚と地域移動の関連について検討した. さらに未婚や離婚がもたらす個人の生活への影響とその受け入れ先としての故郷に本稿では着目した. 未婚は特定の地域, 例えば釜石の問題ではない. また, 地域移動の回数やパートナーとの出会いの種類の豊富さが結婚に結び付いているわけでもない. あえていえば「還流型」のような特定の広範な地域にネットワークを持つ人々がパートナーを見つけやすい傾向がみられた. 未婚状態は, 個人の人的資源の少なさのみならず, 長期的にいえば持ち家率の低さのような個人の経済的資源の少なさと結びついていた. また, ひとたび結婚しても, 離婚経験は初婚継続者とは異なり, やはり人的資源, 経済的資源の少なさと結びついていた. そのような中で, 故郷は離別者の受け入れ先として機能していることがわかった.The current trend toward remaining single is widespread, beyond that of low marriage rates in specific communities with few women able to marry. The relationship between marriage and community relocation was examined in surveys of four high school reunions and attitudes of Kamaishi citizens, with a focus on individual lifestyles after divorce and the accepting hometown. Marriage was unrelated to the number of relocations or volume of different encounters with potential partners. Possessing broad regional "circulatory" interpersonal networks was linked to finding a partner. Being unmarried was not linked merely to the scarcity of individual personal resources, but also in the long-term to few individual economic resources such as a low rate of home ownership. Scarce personal and economic resources were found among divorcees but not among individuals remaining in their first marriage. The hometown functions to accept individuals who separate from spouses.
著者
中村 尚史
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.13-34, 2007-03-09

本論では, 日露戦後期の電鉄企業による不動産事業の展開過程を, 小林一三がひきいる箕面有馬電気軌道の事例に注目しながら検討した.日本における電鉄企業の不動産事業の特徴は, 線路用地買収と前後して停車場建設予定地付近に広大な土地を取得しておき, 鉄道開業後に宅地造成と住宅建設を行って分譲するという点にある.このビジネス・モデルが成功するためには, (1)住宅用地の買収能力と(2)分譲住宅の販売能力に加えて, (3)広大な未開発地を長期間寝かせておける資金力が必要である.箕面有馬電気軌道は, このうち(1)については沿線地域の有力者を代理人する共有地や民有地の買収で, (2)についてはPR誌等を活用した沿線地域のイメージ・アップ戦略と月賦販売による新中間層への売り込みによって, さらに(3)については電鉄業の社会的信用と株式現物商の機動力を活用した低利の社債募集によって, それぞれ解決することに成功する.こうして同社は, 電鉄企業による不動産経営の開拓者となった.
著者
興津 征雄
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.57-88, 2014-03-31

グローバル行政法は,集権的な統治機構の存在しない世界において,国境を超えた諸課題に対応するための諸々の主体の相互作用の過程ないし枠組みとしてのグローバル・ガヴァナンスを,行政法の対象である行政と捉え,アカウンタビリティを基軸とする手続的な法原理によって規律しようとする規範構想である。ここでいうアカウンタビリティは,日本で情報公開法制と結びつけて理解された説明責任(責務)とは異なり,答責者(行為者)が自らの行為・決定について問責者に対し説明・正当化をすべき義務と理解される。行政法におけるアカウンタビリティは,政治的・行政的手段によって正統性を,法的手段によって合法性を確保することに資する。しかし,グローバル行政空間においては,グローバル行政主体が誰に対して,何を基準としてアカウンタビリティを負うかが自明ではない。グローバル行政法の主唱者のうち,キングズベリーは,(公)法の概念に公共性の要請を埋め込むことで,合法性と正統性の問題に同時に答えようとし,クリシュは,多元主義の秩序構想を唱えて動態的な秩序形成過程を描き出した。Global administrative law is the body of rules and principles that assure the accountability of global governance, considered as administration, where regulatory functions are carried out by various public, private, and hybrid public-private organizations and networks without a centralized government. The concept of accountability is defined as the relationship between an account holder and an accounter, in which the latter has the obligation to explain and justify his or her action to the former. When applied to administration, political and administrative accountability ensures its legitimacy by referring in fine to the public and legal accountability its legality by referring to law. In global governance, however, it is unclear to whom or to what global administrative bodies should be accountable because of the absence of a global public and a unified legal order. While Benedict Kingsbury, one of the founders of global administrative law, tries to solve the problem of both legitimacy and legality by adding the normative element of publicness to the concept of (public) law, Nico Krisch, another of its advocates, describes a dynamic process of establishing a pluralist order of global governance.特集 「グローバル化と公法・私法の再編」
著者
横溝 大
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 = Journal of social science (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.47-64, 2017-04-10

特集 家族・財産・法本稿は、個人の死亡時における相続以外の財産移転制度(「相続代替制度」)の国際的側面に関する抵触法上の問題を検討することにある。近時では、とりわけ情報通信手段の発達により、個人が複数国に資産を保有したり、外国の相続代替制度を利用したりする事例が増加しており、今後、我が国も含め、これらの制度の受益者と相続人との間で国際民事紛争の益々の増加が予想される。相続代替制度の利用を巡る国際的紛争を予防・解決するためには、当該制度の有効性や第三者に対する効力等、関連する法的諸問題に関する準拠法選択が適切且つ明確になされる必要がある。そこで、本稿では、この点について検討する。相続代替制度のために新たな準拠法選択規則を構想する必要はなく、現状では従来の準拠法選択規則の何れかに法的問題を性質決定すれば足りる、但し、例外的処理を行う可能性については、今後さらに検討が必要である、というのが本稿の結論である。This paper examines conflict-of-laws issues with regard to international aspects of succession substitutes (institutions for the transfer of properties at the death of an individual other than succession). Particularly through the development of telecommunication means, people can more easily hold their properties in different countries and make use of succession substitutes in a foreign country. Thus, it is expected that disputes will increase between a beneficiary of these institutions and a successor worldwide, including in Japan. A proper and predictable choice of law relating to relevant issues such as the validity of a succession substitute and its effect against the third party is important in order to prevent or resolve international disputes with regard to the use of succession substitutes. Thus, this article deals with this choice-of-law issues.
著者
石田 雄
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.112-145, 1970-10-20
著者
大瀧 雅之
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.141-159, 2006-01-31

本稿では日本政策投資銀行(以下政投銀と略)を例として公的金融の役割と民営化問題について考察した.特に政投銀の情報生産能力に注目した.これについては,多くの実証研究が.政投銀が民間銀行の融資を引出すという,いわゆる「カウベル効果」の存在を認めている.すなわち政投銀の審査情報を利用し民間銀行も協調融資すると考えられている.政投銀の情報生産能力の淵源は日本政策投資銀行法にある「中立性」と「公共性」にあると考えられる.どの企業グループにも属さないという「中立性」は,借り手に安心感を与え,融資に当たっての情報収集を容易にする.ところで協調融資は,「クラブ財」と見なせる.融資に関する情報を生産提供するのが政投銀(クラブ)であってこれを共有し使用するのが民間銀行であると考えるわけである.そして政投銀の利潤を「クラブ」の使用料と捉える.このとき利潤極大化ではなく収支相償を前提とする「公共性」は,情報生産の本来の目的である民間銀行(「クラブ員」)の共同利潤を最大化できるという意味で優れている.
著者
大堀 研
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.143-158, 2010

地域再生の文脈で使用される「ローカル・アイデンティティ」という用語は, これまで複数の意味・水準で使われてきた. 明確な概念規定抜きで使用すると, 現場に混乱をもたらしかねない. これまでの使用例は, 個人レベル(個人の地域に対する帰属意識)と, 集合レベル(地域関係者の多くに共有されている地域内の要素), の二通りに大別できる. 現場では, 語義を明示して使用する必要があり, コミュニケーション・コストは高い. だが「アイデンティティ」という語は「自己認識」の意識を喚起する利点がある. ただし正負の両側面の複合的な自己認識が求められる. また「アイデンティティ」の語が誘発する本質化の危険性を避けるために, 「ローカル・アイデンティティ」を, 変化し得るものと把握することが必要である. 一方で「アイデンティティ」と言う以上, 保持すべき要素の弁別も欠かせない. ここでも複合的な認識が求められる. 地域の複合性を捉えるツールとすることに, 「ローカル・アイデンティティ」の語を用いる意義を見出すことができる.The term "local identity" is used to mean a number of different things. Its meanings can be classified into two broad categories: the individual level (an individual's sense of belonging to a community) and the collective level (elements within a community that are shared by many people within it). At the community level, there is a need to clarify this definition, and it is a complicated process. Here, the word "identity" is advantageous in that it triggers an awareness of the "recognition of the self." However, both positive and negative aspects should be recognized in a composite way. Also, in order to avoid the risk of falling into essentialism, "local identity" should be understood as changeable, and should be understood in a complex way, along with the elements that ought to be preserved.
著者
村西 良太
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.35-56, 2014-03-31

特集 「グローバル化と公法・私法の再編」多国間の政策決定に際して、その民主的正統性を確保するために、国内議会に事前の承認権を留保するしくみが考えられる(議会留保)。こうして「議会」に付与された決定権は、常に「本会議」じしんによって行使されなければならないか、それとも「委員会」にゆだねる手法も一考に値するのか。いわゆるグローバル化の進展にともなって、政策決定の迅速性または秘匿性がいっそう強く求められるなかで、この問題は現実的な意義を獲得しつつあるように思われる。ドイツの議論―なかんずく連邦憲法裁判所の判決―に範を求めるならば、一方には全国民の代表たる全ての議員に等しく認められるべき議事参画権、もう一方には議事手続や内部組織の自律的な形成を内容とする議会の自己組織権が位置しており、両者の要請をいかに両立させるかが問われることとなる。本稿は、委員会に対する決定権の移譲を例外的場合に留めようとする連邦憲法裁判所の構想を原則的に共有しつつも、「本会議」と「委員会」それぞれの構造的特性に即した両者の協働可能性を探る試みである。In diesem Beitrag geht es um die Arbeitsverteilung innerhalb des Parlaments. Es handelt sich namlich um die Zulassigkeit und Grenze der Ubertragung der Parlamentsbefugnisse von Plenum auf Ausschusse. In Deutschland vor allem bei eilbedurftigen oder vertraulichen Entscheidungen, die oft mit Globalisierung verbunden sind, kommt dieser Frage eine erhebliche Bedeutung zu. Das Bundesverfassungsgericht geht einerseits davon aus, dass plenarersetzende Entscheidungen durch Ausschusse nur in begrenzten Ausnahmefallen moglich sind. Den Grund dafur bilden die Statusrechte jedes Volksvertreters. Andererseits ist das Parlament aber befugt, innere Teilorgane selbst zu gestalten, um seine Arbeitsfahigkeit sicherzustellen. Im Rahmen dieses Selbstorganisationsrechts raumt dem Parlament das Bundesverfassungsgericht einen weiten Ermessensraum ein. Hier stellt sich eine Frage nach der Ausgleichung zwischen der parlamentarischen Geschaftsordnungsautonomie und dem Prinzip der Beteiligung aller Abgeordneten an den Entscheidungen des Parlaments. Es scheint mir angebracht zu sein, ein zusammenwirkendes Verhaltnis von Plenum und Ausschusse mit Rucksicht auf ihre Organisation, Zusammensetzung, Funktion und Verfahrensweise zu suchen.
著者
林 秀弥
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.29-65, 2010

近時, 世界的に, 知的財産権を悪用した反競争的行為が問題となっている. 米国においては, Rambus事件やQualcomm事件, N-Data事件等において, 標準設定にからんだ特許権の不当な行使が問題となっている. また, 欧州では, Microsoft事件(2004年3月24日欧州委員会決定, 2007年9月17日第一審裁判所判決)において, Microsoft社が, ウィンドウズOSが搭載されたパソコンと, Microsoft製でないワークグループ・サーバーとの相互運用性(interoperability, なおこれに関する情報は知的財産権として保護されている)を意図的に制限することにより, また, 競争に直面していたウィンドウズ・メディア・プレイヤーをほとんどのパソコンに搭載されているウィンドウズOSにバンドル販売することにより, 同社はEUにおけるパソコンOSの独占的地位を「てこ」として用いることで市場支配的地位を濫用したとされた. その結果, 同社には, 技術情報の開示, AV再生ソフト未搭載版のWindowsの供給等, 厳しい是正措置が課されたほか, 4億9720万ユーロにも上る巨額の制裁金が課せられるに至った. 本稿は, この欧州Microsoft事件に特に焦点を当てることにより, 知的財産権を利用した市場支配力の濫用と競争法(独占禁止法)の関係について検討するものである.The European Court of First Instance ruled in 2007 (Case T-201/04) that the Commission's 2004 Decision (Commission Decision of 21/04/2004, Case no COMP/C-3/37.792) against Microsoft under Article 82 of the EC Treaty should be upheld on all substantive grounds of appeal (namely, the disclosure of interoperability information and the bundling of the Windows Media Player with the Windows PC operating system), and that the record fine of 497 Million Euros imposed on Microsoft should also stand. "Dominant companies have a special responsibility to ensure that the way they do business doesn't prevent competition on the merits and does not harm consumers and innovation" said the former European Competition Commissioner Mario Monti. "Today's decision (i.e., CFI decision on September 17 of 2007 - note by the author) restores the conditions for fair competition in the markets concerned and establishes clear principles for the future conduct of a company with such a strong dominant position," he added. Why do dominant companies have the "special responsibility"? What is "fair competition" in a rapidly changing IT industry? Focusing on the Microsoft Case in EU, this article undertakes a comparative study on anticompetitive exclusion among the United States, Japan, and EU competition law. And then, this article is trying to tackle these difficult questions above mentioned.
著者
林 秀弥
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社会科学研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.29-65, 2010

近時, 世界的に, 知的財産権を悪用した反競争的行為が問題となっている. 米国においては, Rambus事件やQualcomm事件, N-Data事件等において, 標準設定にからんだ特許権の不当な行使が問題となっている. また, 欧州では, Microsoft事件(2004年3月24日欧州委員会決定, 2007年9月17日第一審裁判所判決)において, Microsoft社が, ウィンドウズOSが搭載されたパソコンと, Microsoft製でないワークグループ・サーバーとの相互運用性(interoperability, なおこれに関する情報は知的財産権として保護されている)を意図的に制限することにより, また, 競争に直面していたウィンドウズ・メディア・プレイヤーをほとんどのパソコンに搭載されているウィンドウズOSにバンドル販売することにより, 同社はEUにおけるパソコンOSの独占的地位を「てこ」として用いることで市場支配的地位を濫用したとされた. その結果, 同社には, 技術情報の開示, AV再生ソフト未搭載版のWindowsの供給等, 厳しい是正措置が課されたほか, 4億9720万ユーロにも上る巨額の制裁金が課せられるに至った. 本稿は, この欧州Microsoft事件に特に焦点を当てることにより, 知的財産権を利用した市場支配力の濫用と競争法(独占禁止法)の関係について検討するものである.
著者
牟田 和恵
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.97-116, 2006-03-28

日本における家族の歴史社会学研究の蓄積について,とくに隣接領域である家族社会学との関連においてレビューする.その際,80年代以降に若手フェミニスト研究者たちを中心的担い手として展開した「近代家族」論に注目し,それが,家族をめぐる学問領域においてもっていた意味と意義を確認する.その上で,ポストモダン・フェミニズムを経た新たなジェンダー概念の導入により,「ジェンダー家族」という概念を提起し,日本近代の天皇制と家族に関する分析を行なう.結論として,家族の歴史社会学的研究を現代に生かしていく方途を提言する.
著者
林 光
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.239-272, 2004-03-19

内戦に関与した指導者や兵士連は,内戦終結と同時に収奪機会や権力の喪失,戦争犯罪での訴追等のリスクにさらされる.このため彼らは自己保身から意図的に内戦を継続する動機を持つ.この場合たとえ秩序回復が容易であるはずの事例においても内戦は終結しにくくなり,分析におけるセレクション・バイアスを生む.本研究は,ヘックマン(Heckman)流の二段階の統計手法によってこのバイアスを補正し,国連の介入や政治体制等が与える影響について新たな知見を導いた.すなわち,国連の介入は紛争終結には有効ではないが,秩序回復には非常に有効であった.一方,国連以外の介入は逆の傾向が認められた.その他,窮地に追い込まれた政治指導者は起死回生を図ってハイリスク・ハイリターンな政策を追求しがちであるという「起死回生のギャンブル」仮説,資源収奪の誘因に注目した「強欲」仮説等も支持された.以上の分析に基づいて秩序回復の確率に関する予測も試みた.
著者
土佐 弘之
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.79-99, 2004-03-19

内戦状況や抑圧的政治体制の下における虐殺といった重大な人権侵害に対して如何なる対応を行うかといったことが,紛争後の社会をどう再建するか,平和構築を如何にして進めていくかといった課題もと絡みつつ,重要な現代的課題の一つとなっている.紛争の発生原因に遡って根本的に解決するためには,構造的な問題を一つ一つ解決していかなければならないのは言うまでもないが,そうした構造的な制約の中,過度期の正義についての的確な対応をとり続けていくことで,状況を改善していくことも可能なはずである.本稿では,赦しやアーカイブに関するジャック・デリダの議論などを補助線として使いながら,「移行期における正義(transitional justice)」の望ましい方向性について検討していった.そして,復讐へと傾斜したものについては赦しの方向へ,忘却へと傾斜したものについては記憶の方向へといったようにそれぞれ,いずれも何らかの形で不十分な対応を改めていく必要性があることを確認した上で,語りによる歴史物語の書き換えの動きの活性化,記憶再編の可動幅や共有化される記憶の地平の拡大が,沈黙を強いる抑圧的な構造的権力の解体と同時に重要であることを指摘した.
著者
中西 泰夫 山田 節夫
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.79-96, 2010-01-27

この論文の目的は, 特許の質と特許の陳腐化率および特許の価値を調べることにある. 特許の質と陳腐化率および特許の価値を実際のデータから計測して, 特許の質が陳腐化率と特許の価値をどのように規定しているか明らかにする. そして特許の価値をもとめる. また質がどれだけの価値を持つかを計測して明らかにする. この論文では, 特許の陳腐化率と初期の価値のパラメータを推定して得ることにより, 特許の価値を質を考慮して定量的に求めた. そこで特許の質についても定量的に評価額を求めることができ, 社会的にも有用である結果を得た. 推定した結果, すべてのパラメータについて有意な推定結果を得た. 化学産業と医薬品産業に関しては, 陳腐化率が高く, 初期の価値も高い値であった. 特許の質を考慮すると, 化学産業と医薬品産業では, 大きな影響があった. 特に被引用が7以上の特許については, 価値がはなはだしく大きかった.