著者
松尾 妙子 面出 和子
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.37, no.Supplement1, pp.65-70, 2003 (Released:2010-08-25)
参考文献数
7

のぞき眼鏡とは、西洋から伝わった遠近法を用いた絵を、凸レンズをはめ込んだのぞき穴から見る装置である。こののぞき眼鏡を使って絵を見ると、鑑賞者がまるで絵の中に入り込んだかのような錯覚に陥り、あたかも三次元の世界のような奥行き感が得られるらしい。本研究では、なぜこのような視覚効果が得られるのかを、のぞき眼鏡のために描かれた眼鏡絵と呼ばれる絵を通して考察する。そして私はのぞき穴の位置とこの眼鏡絵の視心の位置が関係していると考えそれぞれの絵を分析した。つまり、のぞき眼鏡の箱ののぞき穴に合うように、視心Vcが画面の中心に近いほど、のぞく人が絵の中に入ったかのような臨場感が味わえるはずである。対象とした眼鏡絵は、円山応挙、司馬江漢、亜欧堂田善の3人の画家の7作品である。分析の結果、描かれた絵の風景の視心Vcが、画面の中心にある絵は1枚もなかった。この分析から果たして当時の眼鏡絵にどれほどの臨場感があったのか疑問をいだいた。彼らは、視心Vcに向かって線が集まって奥行きをあらわす遠近法を経験的に知っていたが、視心Vcが絵の中心に一致しないことから、視点の位置を理論的に考えるまでには至らず、西洋の遠近法を正確に理解していなかったことがうかがえる。
著者
岩田 亮 平野 重雄
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.3-10, 2009-03-01
参考文献数
12
被引用文献数
2 2

設計におけるアイデアは手描き(スケッチ)によって創出されるといっても過言ではない.この考え方を仮に肯定するならば,設計者に要求される能力とは,思考しながら線を引ける能力である.定規や二次元・三次元CAD などポインティングデバイスを介して線を引いている時,手描きに比べ,人の頭脳が働いていないことは感覚的にわかる.考えながら線を引く作業を大局的に捉えれば,工業的な判断力と思考力を培う助けとなる. 一方,三次元CAD の利便性も顕著なことは事実であり,利用しない理由は見つからない.そこで,三次元CAD を設計ツールとして,アイデアを具現化する際の手描きの重要性について考察した. 本論では,1)CAD の有用性とほころび,2)手描きの利便性,3)図面としての手描きの文化,4)直感的な線と色が創りだす独創性,5)教育における基礎とツールの連関について述べる.
著者
長島 忍
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.22, no.Supplement, pp.II1-II4, 1988 (Released:2010-08-25)
参考文献数
3
著者
今間 俊博 青山 もも 斎藤 隆文
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.3-11, 2012 (Released:2017-08-01)
参考文献数
7

3次元 CG は,実写写真のようなフォトリアルな画像を生 成するために発達してきた技術である.一方,2次元のセル アニメ調アニメーションの生成に用いられるトゥーンシェー ディングは,3次元 CG の中の一手法ではあるが,フォトリ アルな画像を生成するという本来の目的を軌道修正した事に より,セルアニメ的な画像生成に一定の効果を上げている. しかし,トゥーンシェーディングは,3次元 CG による元々 のシェーディングの目的とは異なる,ノンフォトな画像生成 を目的とするため,その生成結果の画像に様々な不都合を生 じる事がある.その中の1つの例が,光源によって生じる キャラクタの影や陰影の形状である.セルアニメーションの 画像は制作効率の事を考慮するために,常にシンプルな形状 の影や陰影を適応している.しかし,トゥーンシェーディン グによって生成される影や陰影は,モデルの形態によって は,必ずしもシンプルな形状にはならない場合がある.本論 文の目的は,セルアニメのようなキャラクタを,トゥーン シェディングを用いて描く際に,アニメーターはキャラクタ に対して,どういった光源を設定したら良いのか最適解を求 める事である.実写撮影と同じ手法で,キャラクタに対して ライティングを行い,その陰影がセルアニメにどれほど近づ けるかについて試みた.そして,2灯のライトのみでセルア ニメには不要な陰影を消し去る事に成功した.
著者
吉田 勝行 吉田 将行
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.127-132, 2001

パーソナル・コンピューター, カラー・プリンター, ディジタル・カメラ等のハードウェアと画像処理ソフトウェアの普及により, 3次元立体や空間に関する図や写真の加工が容易となり, その結果が説明図として, 一般にも利用されるようになってきている。しかし, 図法に対する理解が無いまま3次元立体や空間に関する図に加工がなされると, 思いもよらない誤りが図中に生じ得る。しかも, 平成10年12月14日に告示の小学校及び中学校学習指導要領, および平成11年3月29日に告示の高等学校学習指導要領によれば, 高校卒業までにこうした事柄について学ぶ機会は設けられていない。身の回りの空間や立体を図として正確に美しく表現し, 誤り無く他に伝えるための素養は, 加工された図が一般に流布する時代には, 文字による正確で美しい文章の作り方等と同様に, 初中等教育の中で修得させておく必要がある重要な項目の一つである。図的表現についての許容限界を吟味して, 初等および中等教育に盛り込むべき内容を検討する。
著者
原 正敏
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.47-48, 1992 (Released:2010-08-25)
著者
橋本 創造
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.15-19, 2001-09-01
参考文献数
24

ラポスキイは、世界最初の造形用アナログ・コンピュータを発明して、それを使って1950年からコンピュータを使う造形の創作を始めた。本研究では、1950年以前にラポスキイの図学を形成する過程で大きな影響を及ぼすことになった19世紀にリサジューによって発明されたリサジューの装置とブラウンが発明して20世紀に発達したオシロスコープ、リサジュー図形、オシロスコープを利用したバーネットの柄デザインとマクラレンの抽象映画、ペンジュラム・フォトなどの歴史的役割を解明した。
著者
佐藤 紀子
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.17-26, 2007-09-01
参考文献数
15
被引用文献数
1

本研究では, 17世紀のオランダの画家フェルメールが, 構図を決め下図を作成するための補助的な道具として, カメラ・オブスクラを利用したという仮説について考察する.彼の作品に繰り返し描かれたのは, 室内空間の様子である.これらの風俗画は, 当時のオランダで描かれた同種のものよりも, かなり正確な遠近法で描写されている.本論では, 描かれた床のタイルサイズを基準として13作品から分析図と平面図・立面図を作図した.平面図から, 彼が遠近法の知識によってタイルの数を増減して様々な絵画空間を創作したことが推察できた.フェルメールの用いたキャンバスは, 似たようなサイズが数枚ずつある.分析より, そのサイズによって, 描かれた空間の大きさが類似していることがわかった.よって, いくつかの描かれた場面は, 同一の部屋のバリエーションとして, ある視点から, トリミングされたと考えられる.結論として, フェルメールは, カメラ・オブスクラの光の像を絵画空間の遠近的な整合性を画面に描写するために利用し, さらに透視図法を融合させることによって, よりリアルな空間表現を追求したといえる.
著者
西原 一嘉 西原 小百合 安富 雅典 新関 雅俊 大西 道一
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.40, no.Supplement1, pp.171-174, 2006 (Released:2010-08-25)
参考文献数
1

F.Hohenberg (1) が指摘しているように建物を二方向から撮った写真があれば、透視図を逆変換することにより建物の三次元形状を再現することができる。しかし、昔の町並みのように一枚の写真しか残されていない場合はこの方法は使えない。これまで、一枚の写真とともに残されている地図を併用することによって建物を再現する方法を検討してきた。具体的には建物の形状をデジタルカメラで撮影し、その画像から図学的手法を用いて (Auto CADを使用し) 再現するものである。なお、実際の撮影において、隣の建物や木などが邪魔をして建物の地面の位置が隠れてしまうという問題や地図上に基準となる正方形が取れない問題やさらに建物の高さの測定精度がかなり低くなる問題も生じると考えられる。そこで、本研究ではシミュレーションにより、以上の問題点を解決する方法を検討した。
著者
大西 道一
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.29-34, 1996 (Released:2010-08-25)
参考文献数
1

Tadasi Seike (1891-1974), engineer-educator of mechanical engineering, wrote several books on engineering drafting which were favorably accepted by many engineers, successively played various important roles in engineering education and industrial standardization and was decorated with an order; however, there is certain question whether he had satisfaction with his own results of endeavoring on the advancement of Japanese machine industry, because almost every entrepreneur, who would be the largest beneficiary of Seike's theory of drafting aiming at the improvement in efficiency of labor at minor factories covering the major part of the industry in the first half of the present century in Japan, showed little interest in his arguments. This paper has the purpose to solve this problem through the explanation that Seike's arguments based on the scientific thought which was very rare among Japanese were not understood by the majority thinking mythically. The difference in types of thought between Seike and others was an invisible and very hard obstacle to the attainment of his promising plan.
著者
小山 清男
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.97-102, 2007

絵画空間が二重構造となっている絵画がある.すなわち二つの空間のモンタージュ, 空間を合成することによって形成された絵画空間による絵画作品のことである.ベン・シャーンの画集を繰ってみていくと, たとえばサッコ・ヴァンゼッティ・シリーズとか, ラッキー・ドラゴン・シリーズなど, またそのような社会的な問題から離れた日常的な情景を描いたものの中にも, 空間のモンタージュによるいくつかの作例が見出された.ここではそれらの数点を採り上げて, できるだけ具体的に, どのように空間が合成されているかを考察した.とくに透視投象からみると, 図法的にはかなり正確でありながら, モンタージュによる空間の合成がなされていることが多い.そのように二重構造となった絵画空間の造形的な効果, あるいはまた, そのことと作品の内容, 情感との関連を探ろうとした試論である.
著者
佐藤 紀子
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.17-26, 2007 (Released:2010-08-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

本研究では, 17世紀のオランダの画家フェルメールが, 構図を決め下図を作成するための補助的な道具として, カメラ・オブスクラを利用したという仮説について考察する.彼の作品に繰り返し描かれたのは, 室内空間の様子である.これらの風俗画は, 当時のオランダで描かれた同種のものよりも, かなり正確な遠近法で描写されている.本論では, 描かれた床のタイルサイズを基準として13作品から分析図と平面図・立面図を作図した.平面図から, 彼が遠近法の知識によってタイルの数を増減して様々な絵画空間を創作したことが推察できた.フェルメールの用いたキャンバスは, 似たようなサイズが数枚ずつある.分析より, そのサイズによって, 描かれた空間の大きさが類似していることがわかった.よって, いくつかの描かれた場面は, 同一の部屋のバリエーションとして, ある視点から, トリミングされたと考えられる.結論として, フェルメールは, カメラ・オブスクラの光の像を絵画空間の遠近的な整合性を画面に描写するために利用し, さらに透視図法を融合させることによって, よりリアルな空間表現を追求したといえる.
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.27-34, 1997 (Released:2010-08-25)
著者
鈴木 宏正
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.10-12, 2007 (Released:2010-08-25)
参考文献数
2
著者
加藤 千佳 太田 昇一
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.3-8, 2007 (Released:2010-08-25)
参考文献数
11

葛飾北斎は, 国際的にも有名な日本を代表する絵師の1人である.北斎の代表作である浮世絵風景版画シリーズ「冨嶽三十六景」中の作品「神奈川沖浪裏」は芸術性の高い作品として知られている.本研究において, その作品の芸術性を高めている重要な要因の1つが北斎独特の構図に因ることを幾何学的な見地から検証する.はじめに北斎が考案し, 絵手本の中で紹介した「三ツワリ法」を用いて, 題材が共通していることから原型となった作品であると推察されている「おしおくりはとうつうせんのづ」との相関性について比較考究する.さらに北斎独特の構図に潜む比の果たしている役割について考察を行い, 本研究の主要な成果である『構図の要となる黄金矩形が存在する』ことを幾何学的に立証する.
著者
浜田 真理
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.40, no.Supplement1, pp.121-126, 2006 (Released:2010-08-25)
参考文献数
4

文学作品の中にあらわれる、言葉や文章で表現された空間というものを、図学的方法で解明しようとするもので、2005年日本図学会大会で発表した論考に引き続いて研究した。村上春樹の作品から特に第1象限と第2象限の関係でそれらが顕著に表現されている『ダンス・ダンス・ダンス』を例として取りあげて空間表現を考察した。物語の進行として必要な現実界を第1象限とした場合の多様性と、現実界から異界へ移動するときの構造を象限に当てはめて解明した。
著者
大西 道一
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.147-152, 2004

日没時太陽は上下にひしゃげた疑似楕円形になる。太陽からの光線は水平線に近づくほど上方に大きく曲がる。これを大気差というが、その数値はラドー、ベッセルなどにより研究されている。本論文ではラドーの大気差の実験式を使用して水平線近くの太陽の形状を作図する大気差曲線線図を開発し、この線図を使用して太陽が水平線に没するまでの形状の変化を追跡した。<BR>また日没時、大気の異常によりダルマ型、Ω型などの変形太陽が出現する。このときの大気差曲線がどうなっているかを、変形太陽から大気差曲線を逆に求める方法を開発した。これにより変形太陽の経時変化を追跡でき、よく出現する形状をシミュレートすることができた。<BR>古来北欧の伝説にもなっているグリーン・フラッシュの現象もこの大気差曲線線図で解明することができた。1992年、バード隊が南極観測基地リトル・アメリカでグリーン・フラッシュを35分間観測したという記録があるがこれを図学的に解明した。<BR>この研究のために日没時の連続写真を撮影した。狭い瀬戸内海で対岸の山脈に邪魔されなく太陽が完全に水平線に水没するという写真が得られた。常識で考えられないこの理由を天文航法で用いる視地平距離と視達距離の考え方を瀬戸内海周辺の地形図に適用して図学的に解明した。