著者
市川 貴大 深澤 文貴 高橋 輝昌 浅野 義人
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.23-29, 2002-12-25 (Released:2017-04-03)
参考文献数
34
被引用文献数
6

ヒノキおよびスギ人工林化による土壌の養分特性の変化を明らかにすることを目的に,落葉広葉樹天然林伐採後に人工造林されたヒノキおよびスギ林と,天然更新した広葉樹林が同一斜面上に成立する調査地において,A_0層の乾重および養分含有量,鉱質土壌の化学的性質を調査した。針葉樹林の斜面上部にはヒノキが(ヒノキ林),斜面下部にはスギが(スギ林)それぞれ植栽されている。本研究では,斜面位置ごとに調査結果を広葉樹林と針葉樹林において比較した。ヒノキ人工林化によって土壌深0-30cmにおける交換性塩基量に違いは見られなかった。スギ人工林化によって土壌深0-30cmにおける交換性塩基量は隣接する広葉樹林に比べて多く,特に交換性Ca量は約1.9倍であった。土壌深0-30cmにおける全C,N量,CECは斜面上部のヒノキ林では広葉樹林に比べそれぞれ約0.6,0.6,0.8倍であったが,斜面下部のスギ林では広葉樹林とほぼ同じであった。A_0層量は斜面位置にかかわらず,広葉樹林で約7.1Mg/ha,ヒノキ林とスギ林では共に約9.5Mg/haであった。本調査地のA_0層のC/N比は広葉樹林に比べて針葉樹林で高かった。各調査区のA_0層中の元素含有量と土壌深0-30cmの全C,N量および交換性K,Ca,Mg,Na量の関係について検討したところ,Caについてのみ有意な正の相関関係がみられた。スギ人工林化によってA_0層中に蓄積されたCaの影響を受けて交換性Ca量が増加していると推察された。
著者
小谷 二郎 高田 兼太
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.9-15, 2000
参考文献数
19
被引用文献数
1

冷温帯下部のスギ人工林内に侵入した広葉樹53種の葉数の季節変化やシュートと葉の伸長様式を調べた。出現樹種の伸長パターンは,順次伸長タイプと一斉伸長タイプに分けられた。高木性のオニグルミ・ホオノキ,小高木や低木性のニワトコ・イボタノキなどはシュート当りの葉数が多く,葉の寿命も短く,伸長期間の長い顕著な順次伸長パターンを示した。このタイプは,ギャップ内で成長を拡大するのに有利な伸長様式を備えているようである。逆に,高木性のヤマモミジ・ミズナラ,小高木や低木性のエゾユズリハ・ツリバナなどは,シュート当りの葉数が少なく,葉の寿命が長く,伸長期間の短い顕著な一斉伸長パターンを示した。このタイプは,被陰ストレスに対し耐性的な性質を備えているようである。順次伸長を持つヒメアオキを除く常緑樹は,一斉伸長タイプに属した。一斉伸長を持つコマユミを除く半常緑樹は,順次伸長タイプに属した。以上のことから,スギ人工林内での樹種によるフェノロジーの違いは,ギャップに対する依存性の違いを反映しているものと思われた。
著者
谷口 真吾 尾崎 真也
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-6, 2003
参考文献数
26
被引用文献数
4

兵庫県氷ノ山山系におけるブナ・ミズナラの結実変動と氷ノ山山系周辺地域の人里におけるツキノワグマ目撃頭数の関係を検討した。ブナ・ミズナラ堅果の結実は、ブナまたミズナラのどちらか、あるいは両者がともに良好な年は、ツキノワグマの目撃頭数は調査期間の5カ年月年の平均値よりも少なく、逆にブナ、ミズナラ堅果の結実が不良な年は、目撃頭数が多い傾向であった。このことは、ツキノワグマの秋の人里への出没回数は、ブナ・ミズナラの結実変動に大きく左右されることを示しているといえる。
著者
中村 克典
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.21-26, 2014-06-25

東日本大震災およびこれに伴う巨大津波が東北地方太平洋沿岸地域にもたらした被害については筆舌に尽くしがたい。この地域の,特に砂丘海岸地を広く覆っていたクロマツを主体とする海岸林は,風や砂,塩の害から沿岸の生活を守り続け,さらには津波に対する防災効果も期待されてきたものであるが,今回の災害では「壊滅」とも表現される激甚な被害状況を呈するに至った。この事態,というよりむしろ「壊滅」というキャッチコピーとともに伝えられたショッキングな映像の印象により,「海岸林は役に立たなかった」「そもそも,マツの植林がよくなかった」といった画一的な観念が人々の間に広まってしまったことに,長く海岸林に関わってきた研究者の多くは強い危機感を感じている。東日本大震災津波により「壊滅」したとされる海岸林であるが,実際に発生した被害の状況や形態は地域により様々であり(中村,2011),一概に壊滅・消失したわけではない。また,津波被害を受けた樹木のほとんどがクロマツ・アカマツ(東北地方太平洋沿岸では,磯浜海岸を中心にアカマツが広く分布する)であったのは事実だが,それは単に元の海岸林でのこれらの樹種の優占度を反映したものに過ぎず,マツが他樹種に比べ津波に弱いことを示しているわけではない。一方,マツであれ他の樹種であれ,被災直後には生き残ったように見えた木でも,津波に伴う海水への浸漬と土壌への塩類の付加,海砂のよ堆積,漂流物衝突による物理的損傷などで生じたストレスにより時間をかけて衰弱が進行する可能性があり,一時期での観察結果をもって津波による樹木被害のあり方を断ずることはできない。結局のところ,海岸林を構成する樹木,中でもその主体を成していたクロマツ・アカマツが津波に強かったのか,弱かったのかを判断するには,様々な条件下におかれていた木について,一定期間の継続的な調査を実施して,科学的な検討に耐えるデータを集積する必要がある。そのような観点から,筆者らは青森県から宮城県にかけての樹種,樹齢や津波被害状況の異なるクロマツ・アカマツ林に固定調査区を設置し,マツの衰弱・枯死経過に関するモニタリング調査を行った(中村ら,2012)。しかしながら,そのような科学的な検証を経た結論が示されるより前に,被災前の海岸林で主体となっていたクロマツ人工林に対する否定的な見解が広く行き渡り,反動として広葉樹を主体とした海岸林再生が主張されるようになった(磯田,2013;齋藤,2013)。あるいは,技術的に確立されたクロマツ植栽を中心に海岸林再生を考えようとする立場からも,より高い防災機能や松くい虫被害への備え,ないし多様な生物相の醸成といった観点から広葉樹の導入・活用に向けた期待は高まっている(日本海岸林学会,2011;東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会,2012)。海岸林への広葉樹導入についてはすでに相当な研究の蓄積があるが(金子,2005:宮城県森林整備課,2012),津波影響の残る海岸砂丘地や決して理想的とは言えない外来土砂による盛土面など,津波被害跡地という特殊な状況下での植栽技術については,広葉樹のみならずマツに関しても再検討されることが必要であろう。実際,すでに多くの研究機関や団体がそのような観点からの試験植栽に取り組んでおり,森林総合研究所東北支所は東北森林管理局と共同で青森県三沢市の津波被害跡地に海岸防災林植栽試験地を設定し,広葉樹を含む植栽木の活着・成長やその生育基盤である土壌環境について調査研究を行っている。本稿では,森林総合研究所東北支所が取り組んでいる上記の試験研究について,2013年3月28日~29日に開催された森林立地学会現地研究会での訪問先との関連で説明する。ただし,ここで示す内容には未公表のため詳細を示せないものや,調査継続中のため今後結論が変わる可能性のあるものが含まれる点,あらかじめご了承いただきたい。
著者
近藤 大介 加藤 正吾 小見山 章
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.9-16, 2008-06-25
被引用文献数
1

ブナ天然林における維管束着生植物・つる植物の生育環境を明らかにするために,岐阜県白川村のブナ天然林に100m×100mの調査地を設置し,胸高直径50cm以上の樹木に着生・登攀する維管束植物の種名・着生部位を調査し,あわせて森林の上層・下層の維管束植物リストを作成した。調査地には,着生植物43種,付着根型つる植物3種,上層木4種,下層植物99種が出現し,森林全体では111種が存在した。着生植物のうち31種は上層木または下層植物に含まれる種で,調査対象樹木上のみに出現したのは12種であった。調査対象樹木上に生育する着生植物の種数・出現数は,調査対象樹木の胸高直径が大きくなるほど増加する傾向がみられた。着生位置の高さ2〜4mの範囲では積雪の沈降圧により,着生植物が少なかった。高い頻度で出現した4種の着生する高さに着目したところ,ノキシノブ・ホテイシダに比べて,オシャグジデンダ・ヤシャビシャクは調査対象樹木の低い部位に分布していた。また,ヤシャビシャクが主に大枝の分枝点に着生していたのに対して,ほかの3種は幹や枝に多く着生していた。ブナ天然林の大型樹木によって作り出される多様な樹上の構造と環境の垂直分布が,そこに生育する着生植物の空間分布に影響していた。
著者
小金澤 正昭 田村 宜格 奥田 圭 福井 えみ子
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.99-104, 2013-12-25

2011年3月に起きた東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故は,広範な地域に放射性核種を飛散させ,原発から約160 km離れた栃木県奥日光および足尾地域においても低線量ではあるが,放射性セシウムの飛散が確認された。そこで,今後,森林生態系における放射性セシウムの動態と野生動物に及ぼす影響を明らかにしていく上での基礎資料を得るため,両地域において2012年の2月と3月に個体数調整で捕獲された計80個体のニホンジカの筋肉,臓器類および消化管内容物等の計9試料と,各地域における冬季のシカの餌植物8種の放射性セシウム濃度を調べた。9試料のセシウム濃度は,両地域ともに直腸内容物が最も高く,次いで第一胃内容物,筋肉,腎臓,肝臓,心臓,肺,胎児,羊水の順となっていた。このことから,放射性セシウムは,シカの体内全体に蓄積していることが明らかとなった。また,奥日光と足尾における放射性セシウムのシカへの蓄積傾向には,明瞭な差異が認められた。これは,両地域における放射性セシウムの沈着量と冬季の餌資源の違いが反映した結果と考えられた。さらに,直腸内容物の放射性セシウム濃度は,第一胃内容物および餌植物8種よりも高濃度であった。このことから,シカは採食,消化,吸収を通じて,放射性セシウムの濃縮を招いていることが示唆された。
著者
佐藤 弘和 長谷川 昇司 長坂 有
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.47-52, 2001-02-01
被引用文献数
6

畑地の浮遊土砂発生条件を明らかにするために,畑地(麦畑,秋まき大根畑)と対照区としての林地(落葉広葉樹林)において土壌物理性(貫入抵抗,基準浸入能,飽和透水係数)を測定し比較した。また,林地での浮遊土砂の捕捉効果を定量化するために緩傾斜林地に堰を設置し,降雨時の浮遊土砂濃度を測定した。貫入抵抗の鉛直プロファイルについてみると,麦畑と秋まき大根畑では時期によりプロファイルは異なり,麦畑と秋まき大根の畝間では表層約10cm程度に硬い層が存在した。また,営農活動が進行した麦畑と秋まき大根畑では,40cm程度の深さに硬い層が形成されていた。林地の貫入抵抗プロファイルは,時期による違いが認められず,畑地より低い値を示した。基準浸入能については,麦畑地では255mm h^<-1>,秋まき大根畑の畝では1000mm h^<-1>を超え,畝間では1mm h^<-1>と極めて低い値を示した。一方,林地の基準浸入能は1000mm h^<-1>を超えた。降雨時には,畑地で濁水化した地表流がみられた。これらの土壌物理性と現地観測結果から,営農活動が畑地の畝間の土壌浸透能ならびに土壌中の透水性を低下させることにより,地表流が発生しやすい状況になることが示唆された。林地を通過した濁水は,浮遊土砂負荷量が少ない場合が多く,濁水の大部分が基準浸入能の高い林地土壌に浸透したと考えられた。これより,畑地から河川への濁水負荷に対して,林地による濁水濾過効果は有効であることが確認された。
著者
山本 進一 真鍋 徹
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.13-20, 1997-06-30
参考文献数
16
被引用文献数
3

水俣JIBP(国際生物学事業計画日本委員会)特別調査地域の常緑広葉樹二次林に1991年の大型で非常に強い台風19号によって形成されたギャップ,および台風前に形成されたギャップと,そこでの樹木置換パターンについて調査した。台風前に形成されたギャップがヘクタールあたり3.3個,その平均面積が31.2m^2であったのに対して,台風によって形成されたギャップはヘクタールあたり6.7個,その平均面積は230m^2と台風前に比べてより多くかつより大きなギャップがこの台風によって形成された。台風前のギャップ形成木は単一の林冠木の枯死であったが,台風は複数の林冠木の同時枯死をひきおこした。台風前の林冠木の枯死状態は立ち枯れが主であったが,台風によって枯死した林冠木の多くが幹折れであった。多くのシイの林冠木が台風による幹折れによって枯死したが,そのギャップ更新木はわずかであった。イスノキとウラジロガシは林冠木として出現しないか,してもわずかであったが,ギャップ更新木として頻繁に出現した。したがって,台風による攪乱はこの林の林冠層におけるシイからウラジロガシとイスノキへの優占への変化を加速させるようである。
著者
酒井 寿夫 森澤 猛 仙石 鐵也
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.21-27, 2003-06-25
被引用文献数
2

長野県の御岳山(標高2,120m)で降水および降雪のpH,ECと溶存成分濃度を測定した。7年間のpH,ECの加重平均値はそれぞれ5.04,5.7μS/cmであった。溶存成分濃度は他の山岳地域と比較して低いレベルにあった。降雪期(12〜3月)におけるECは降雨期(6〜10月)に比べて高かったが,これはすべての溶存成分の濃度が12〜1月に高いためであった。御岳において,降雨期と降雪期の溶存成分濃度を比較すると,海塩起源の比率が高いと考えられるNa^+,K^+,Ca^<2+>,Mg^<2+>,Cl^-,ss-SO_4^<2->のそれぞれの濃度は降雪期の方が明らかに高かった。一方,非海塩起源のNH_4^+,NO_3^-,nss-SO_4^<2->の濃度も高い傾向にあった。したがって,降雪期における溶存成分濃度の増加は,海塩とそれ以外のものを起源とする複合的な要因によるものと推定された。降雪期にNa^+,K^+,Ca^<2+>,Mg^<2+>,Cl^-,ss-SO_4^<2->の濃度が高い傾向は、比較した5つの観測地点(輪島,八方尾根,立山,犬山,名古屋)でも見られた。しかし,御岳におけるこれらの成分の濃度比(降雪期/降雨期)は、日本海側の輪島,八方尾根,立山ほど高くなく,太平洋側の犬山,名古屋と同程度であった。一方,御岳ではNH_4^+,NO_3^-,nss-SO_4^<2->の濃度比(降雪期/降雨期)も高くなっており,同じ傾向が日本海側の輪島と八方尾根で明らかに見られた。御岳における降雪期のNH_4^+,NO_3^-,nss-SO_4^<2->濃度増加は,藤田ら(2001)が西日本で観測した現象(降水中のnss-Ca,NH_4^+,NO_3^-,nss-SO_4^<2->濃度が10〜3月に濃度が高くなる現象)と非常に似ていた。
著者
宮國 淳 Heriyanto N. M. Heriansyah Ika Imanuddin Rinaldi 清野 嘉之
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.95-104, 2005-12-25
参考文献数
13

メルクシマツ植林地におけるバイオマス量推測を目的とする汎用性の高い係数・パラメータについて検討した。インドネシア・西ジャワ州で5,11,19,24年生の林分にプロットを設置,毎木調査の後55本を破壊調査した。(1)毎木調査データを利用したバイオマス量推定に用いられるアロメトリー式を算出した。樹高を考慮に入れた[Yn=a・(DBH^2・height)^b]の相対成長式の場合,各係数に林齢による有意差が見られなかった。(2)木材積からのバイオマス量推定に用いられる材積密度,拡大係数,根-地上部比率を算出した。その結果,既存のIPCCのLULUCF-GPGのデフォルト値と一部異なる結果が得られ,デフォルト値はさらなる検討が必要と思われた。(3)インドネシア国内20ケ所のメルクシマツ植林地の毎木調査のモニタリングデータに本研究のアロメトリー式を適用し,林分バイオマスの時系列変化を推定した。21年生時の林分バイオマスは161.75〜456.34 t ha^<-1>の範囲内にあり,重回帰分析によれば立木密度や地位指数によって有意に変化した。
著者
山口 信一 矢島 崇 渋谷 正人 高橋 邦秀
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.94-100, 1997
参考文献数
20
被引用文献数
4

高密度に生息するエゾシカの菜食と踏圧によりほぼ無植被となった林床の潜在的な植生の回復力を検討するために,北海道洞爺湖の中島において,当年生実生の消失過程とその要因,および散布種子と埋土種子の量と種構成を調査した。当年生実生は,調査開始から20日経過時点でおよそ70〜90%が消失し,50日経過時点ではすべての調査区でほぼ90%の実生が消失した。消失要因は80%以上がシカの採食によるものであった。散布種子数は調査区によってばらつき,1995年には238〜5,820粒/m^2,1996年は21〜394粒/m^2であり,種数は1995年で11〜22種,'96年で7〜19種であった。また,活性埋土種子数も調査区によって幅があり,50〜2,700粒/m^2が抽出されて,種数は8〜20種であった。散布種子,埋土種子ともに,木本種が多くを占めていた。埋土種子数と種数および活性種子率は調査地により異なっていたが,シカの影響を排除した囲い区と放置区の比較では明らかな差は認められず,シカによる踏圧や林地の撹乱などは埋土種子の生残には大きく影響していないと考えられた。実生の消失過程および散布・埋土種子量からみて,高い採食圧のもとで植生の回復は困難ではあるが,潜在的な回復の可能性は維持されているものと考えられた。
著者
武田 宏
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.125-129, 2005-12-25
参考文献数
14
被引用文献数
1

耕作放棄水田における林地化の試みとして,1994年春に新潟県内の3調査地にハンノキとスギを植栽し,2001年まで経過を調査した。ハンノキは2調査地で1999年と2000年までに全て死亡し,残りの1調査地でも2001年には13%に低下していた。一方,スギは最低でも55%の生残率だった。ハンノキの死亡要因では,コウモリガ被害,誤伐,雪害が多かったが,その比率は3調査地で異なっていた。一方,スギの死亡要因では3調査地とも誤伐が最も多いことで共通していた。いずれの調査地もハンノキよりスギの成長が上回っていた。ハンノキは過湿な土壌環境で成育が期待できたが,耕作放棄後の時間が経過すると草本植物の繁茂によりコウモリガ被害が増加するため,草本植物が繁茂しないうちに植栽する必要があると考えられた。
著者
伊藤 哲 中村 太士
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.31-40, 1995-03-15
被引用文献数
17

森林動態における地表変動攪乱の位置づけを明確にし,森林動態研究の一つの方向性を示すことを目的として,地表変動攪乱の様式と更新過程の特徴を整理した。一般に地表変動と呼ばれる現象は,上部から下部への一連の物質流下現象であって,少なくとも洗掘(または削剥)と堆積という二つの要素からなるヘテロな空間を構成する。したがって,地表変動を林分レベルでの森林動態や植生パターン成立,種多様性などの説明原理として位置づける場合,内部にこのようなヘテロ性を包含する一連の流下現象を一つの単位として扱うには無理があり,洗掘(または削剥)・体積域の区分が地表変動の最も基本的な空間単位として重要であると考えられる。また,地表変動由来の攪乱は森林の階層構造の下層から上層へとその影響が広がるため,林冠の破壊を伴わない場合でも,林床の構造や更新基盤に大きな影響を与えうる。攪乱の性質と影響評価方法を1)物理破壊強度,2)生育・再生環境への影響度,および3)攪乱後の次期攪乱体制への影響度という視点から分類することで,他のタイプの攪乱との比較や森林動態における総合的位置づけが可能である。一つの森林内で,これらの影響度がそれぞれに異なる地表変動が発生することによって,攪乱を受けたパッチは異なる再生過程を経る。このことは,森林群集の種多様性や群集タイプの多様性をはじめとする構造的な不均質性を高める一つの原因となっていると考えられる。したがって,サイズ,強度や生育環境への影響度に関し幅広いレンジをもつ地表変動は,森林群集の多様性に大きく貢献していると考えられる。今後,地表変動攪乱を森林群集の長期的な動態や安定性の要因として位置づけるためには,個々の攪乱の影響評価とともに,攪乱によって形成される林縁の効果や地表変動の発生の時間的・空間的集中性の評価,解析が必要である。
著者
加藤 正吾 兼松 俊成 川窪 伸光 小見山 章
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-5, 2012-06-25

異なる登攀様式を示す,付着根型つる植物のSchizophragma hydrangeoidesと吸盤型つる植物のParthenosissus tricuspidataの光屈性を調べた。両種に側面から光を照射し,シュートの屈曲のようすを伸長とともに観察した。両種とも,光の照射に対して,シュート長が短いと正の光屈性を示し,シュート長が長くなると負の光屈性を示した。両種の短いシュートは,充分な光合成生産を行うために,正の光屈性を示す必要性があるかもしれない。しかしながら,シュートが伸長すれば林床で相対的に暗い支持ホストの根元を探索しなければならない。したがって,正から負の光屈性に変わることは,支持ホストの平面構造を主に登攀する付着根型と吸盤型のつる植物にとって重要な性質である。
著者
加藤 正吾 山本 美香 小見山 章
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.39-44, 1999-06-25
被引用文献数
2

落葉広葉樹林において上層から下層までの樹木の葉フェノロジーを調査した。調査地は,春先の3月下旬から4月上旬に林床の雪が完全に消えており,多雪地帯のように残雪が展葉を妨げる阻害要因とはなっていなかった。最も早く展葉したのは下層木のツリバナ,チョウジザクラであった。上層木で最も早く展葉したのはシラカンバ,ウワミズザクラで,最も遅く展葉したのはクリであった。上層木の展葉時期の差は一ヶ月程度であった。上層木は5月下旬以降に展葉する樹種が多かったが,ハイイヌガヤとリョウブ以外の下層木12種は,この時点ですでに展葉を開始していた。高木性樹種において,dbhの小さな個体の中に他の個体よりいち早く展葉する個体がみられた。以上より,下層に成立している個体の多くは上層の林冠が閉鎖する前に葉を展開し,上層と下層の葉フェノロジー差によって早春に好適な光環境を得ていることが示された。
著者
黒田 吉雄 内田 煌二 佐藤 美穂
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.75-82, 2001-12-25
参考文献数
16

筑波大学演習林が所在する,八ヶ岳東山麓の野辺山ケ原は冷温帯性ミズナラを主体とした,天然生広葉樹二次林が分布している。また,カンバ類が良く発達し混生林を構成しているが,本地にはブナの自生地が確認されていない。この原因解明のため,ブナ・ミズナラの開芽時期と晩霜が発生する時期について,1993年から1998年の6年間に渡って調査した。ブナの開芽は5月2日〜5月24日の間に起こり,開芽期間に22日間の差が認められた。一方,ミズナラの開芽は5月11日〜5月31日の間に起こり,開芽時期に20日間の差が認められ,平均9日(7日〜14日)ブナより遅いことが確認された。開芽日の日平均気温は,ブナで10〜13℃およびミズナラで11〜12℃,また,積算温度(6年間の平均値)も算出した。調査年により晩霜は5月9日〜5月28日の間に発生した。この晩霜発生期間は,ブナの開芽および開葉後にあたりそれが原因でブナの葉の枯死および枯死木も発生した。一方,ミズナラでは晩霜を受けない年もあったが,晩霜を受けても開芽直後および開葉後の葉には可視被害は殆ど認められなかった。このような両樹種の樹種特性の差が分布を規定しているものと推論された。
著者
笹 賀一郎 佐藤 冬樹 藤原 滉一郎
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.22-29, 1993-06-30

北海道北部地域を対象に,厳冬期における渓流流出と森林の影響に関する観測を行っている。本報告では,強風寒冷地の典型とされる宗谷丘陵での観測結果(1989-1990年・1990-1991年・1991-1992年の3冬期中心)をもとに,森林の流域的規模での堆雪効果と厳冬期流出に与える影響について報告した。観測流域は,草地70%・ササ地30%のサンナイ川と,針広混交林が70%/草地30%のオテンナイ川の源頭域である観測流域の面積は,サンナイ川10.4haとオテンナイ川11.6haである。流域の方向も同じようになるように選定し,この観測流域ではほぼ北西向きになっている。また,丘陵地帯であるため,流域の源頭部は標高85mから90mと,両流域は同じ高さにある。地質は,両流域とも第三紀層である。寒冷・強風地における積雪は,再移動もともない,沢などの地形的な低地に集中的に堆積する。したがって,尾根部の積雪は極端に少なくなる。このような堆雪傾向においても,森林は積雪を貯留する効果をもち,尾根部の森林内でも沢底と同じかそれ以上の積雪を蓄えている状況が観察された。このような状態は流域的規模においても同様であり,森林の多いオテンナイ川流域では草地化されたサンナイ川流域より,平均積雪深で2倍,積雪推量では4倍以上の積雪を蓄えていた。また,サンナイ川のように積雪の少ない流域では,60%以上の面積の表土が凍結していた。オテンナイ川のように,林内や窪地(沢底)に積雪が多く貯留される流域においては,表土の凍結が防止されていた。表土の凍結の発生域は,源頭尾根部の草地化された部分だけであり,最大でも流域の16%ほどであった。表土凍結の発生が防止されるためには,積雪移動の多発する地域においては,約50cmの積雪深が必要と判断された。50cm以上の積雪深があり,表土凍結の発生していない地域においては,積雪下面での融雪現象も観察された。また,オテンナイ川のように表土凍結面積の少ない流域の厳冬期流出量は,表土凍結面積の多いサンナイ川流域の1.5倍から3倍をこえる値になっていた。表土凍結面積の多い流域では,それだけ地表への水分供給量が少なくなることから,流出量の差は表土の凍結に影響されていると判断された。したがって,強風寒冷地における森林は,堆雪効果を発揮し,表土凍結を防止することで,厳冬期の渓流流出にも大きな影響をあたえていると考えられた。
著者
諫本 信義 高宮 立身
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.98-105, 1992-12-30
被引用文献数
4
著者
勝木 俊雄 明石 浩司 田中 智 岩本 宏二郎 田中 信行
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.25-34, 2008-06-25
被引用文献数
1

マツ科トウヒ属の樹木であるヤツガタケトウヒとヒメバラモミは本州中部にのみ分布し,個体数が少ないことから絶滅危惧植物としてリストされている。保全対策をおこなうためには,現在の詳細な分布状況を把握するとともに,分布適地を判定することが重要である。現地踏査によって2種の分布域を3次メッシュセル単位(緯度30"×経度45")で特定したところ,ヤツガタケトウヒ52セル,ヒメバラモミ74セルに出現が確認された。2種の出現セルの中部地域における気候特性を分析した結果,年平均気温が低く(ヤツガタケトウヒ出現セルの平均値5.8℃;ヒメバラモミ出現セルの平均値5.9℃以下同様),年降水量が少なく(ヤツガタケトウヒ1,635mm;ヒメバラモミ1,676mm),最深積雪が少なかった(ヤツガタケトウヒ33cm;ヒメバラモミ33cm)。各月の平均気温と降水量・最深積雪の上限値と下限値を用い,全国の3次メッシュセルに対し適合性を判別した結果,ヤツガタケトウヒで376セル,ヒメバラモミで351セルが気候適合セルとして抽出された。表層地質と2種の出現率の関係について分析した結果,最も高く出現した区分は石灰岩であり,ヤツガタケトウヒの出現率は47%,ヒメバラモミは80%であり,強い関係があることが示された。これらの結果から,南アルプス北西部の石灰岩地(ヤツガタケトウヒで33セル,ヒメバラモミで34セル)において,今後も2種の存続する可能性がもっとも高いと考えられた。