著者
伊東 祐郎
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.168, pp.3-15, 2017 (Released:2019-12-26)

本稿は,新生日本語教育学会が誕生するまでの取り組みと今後の活動内容についてまとめたものである。日本語教育学会は2013年4月1日に公益社団法人に移行した。その後4年かけて,学会の理念を問い直し,学会の事業・組織・財政のあり方について精力的な議論を重ねてきた。学会員の拠り所であり続けるとともに,日本の社会づくり,また日本と海外諸国・地域との関係づくりにおいて,社会的役割を果たす学会の基盤構築をめざしてきた。4年間の集大成としての「理念体系-使命・学会像・全体目標・2015-2019年度事業計画-」は,学会の進むべき方向性を明確にした上で,組織・財政の基盤を整備するとともに,事業の再編成を行い,中期的展望をもって事業計画を策定したものである。事業主体となる各委員会がそれぞれの目的を達成し,その役割を担えるよう,また横断的視野をもって,関連する委員会間で積極的に連携し,効率的に相乗効果が上げられるよう有 機的に機能する組織として今後の活動が期待される。 なお,本稿は『公益社団法人日本語教育学会の理念体系』(2017年3月発行版)の第1章~第3章に加筆したものであることをお断りしておく。
著者
小口 悠紀子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.166, pp.77-92, 2017 (Released:2019-04-26)
参考文献数
33

本研究は,上級学習者の談話における「は」と「が」の習得について,運用実態の調査と知識を測る課題という相互補完的なアプローチにより,日本語指導につながる新たな知見を示すものである。具体的には,談話の先行文脈に対象が未出か既出かによる「は」と「が」の使い分けについて,発話産出課題と受容性判断課題を用いて調査した。 その結果,学習者は様々なストラテジーを使いつつ標識の選択をしており,運用面では母語話者に近い使い分けが見られる部分もあるが,未出,既出という言語知識に従って標識を使い分ける段階には至っていないことが分かった。このことから日本語教育において,「は」と「が」の使い分けについて指導を行う際には,ある程度の長さがある談話教材を用いて,文脈を重視した活動を行うとともに,自動化を促すことを意識していくことが効果的であると考える。
著者
大神 智春
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.166, pp.47-61, 2017 (Released:2019-04-26)
参考文献数
21

中国語母語話者および韓国語母語話者を対象に,多義動詞「とる」で形成されるコロケーションの習得について調査した。まず(1)日本語母語話者が認識する「とる」の意味体系を整理した。次に(2)学習者が考える「とる」のプロトタイプ,(3)「とる」で形成されるコロケーションの理解について調査・分析した。その結果,(1)母語話者が考える意味体系と辞書的体系はおおよそ一致するが一部相違が見られる,(2)学習者と母語話者が考えるプロトタイプにはずれが見られ,学習者は独自の意味体系を構築していると考えられる,(3)学習者は多義性についてある程度習得するが,共起語として使用できる語の範囲は広がりに欠ける。各コロケーションの用例を「点」として習得し,習得した知識は「面」として広がりにくいことが示唆された。
著者
星(佐々木) 摩美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.165, pp.89-104, 2016 (Released:2018-12-26)
参考文献数
27

韓国中等教育日本語教師の実践とビリーフについて,変化とその要因を中心に12名の教師の質的データを分析し考察した。その結果,変化には二つの要因があることがわかった。 一つ目は教育政策が示す教科のあり方,内容,教え方などの新しい知識を,実践の中でやってみることがきっかけとなっていた。その実践化のためには,①実践の文脈に動機があること,②実践できる手段や方法の具体的イメージが作れること,③教師の持っているビリーフと親和性があり,実践化することで何らかの価値が期待できることが必要であることが考えられた。 二つ目に,授業実践は,主に学習者と,学習者によって媒介された社会との相互作用によって常に再構成されている。教師の実践の語りに現れるビリーフは,教師自身の経験や媒介された社会など異なる源泉をもっており,それが重層的に積み重ねられることが要因であった。その変化はビリーフに多声性をもたらしていると考えられる。
著者
松下 光宏
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.165, pp.57-72, 2016 (Released:2018-12-26)
参考文献数
8

原因・理由を表す接続辞「ものだから」は,これまで「PものだからQ」のPとQが表す事態の特徴や機能からとらえた意味や用法が説明されてきた。本稿では,「PものだからQ」文より前や後の文脈に表される事態も分析し,「ものだから」の使用文脈の特徴を明らかにする。その特徴は次のとおりである。 「PものだからQ」は,話し手の認識において,本来・通常の事態とは異なる,異質・例外の事態Qとそれを引き起こす異質・例外の理由Pを表し,本来・通常の事態と対比的に示す文脈で用いられる。 そして,この使用文脈の特徴から,当該事態が本来・通常の事態と異なる,異質・例外の事態であるという話し手の判断が使用条件になり,さらにこの使用条件が予想や期待と異なる都合の悪い事態に対して理由を述べる「言い訳・弁解」の用法に結びつくことを述べる。
著者
深江 新太郎
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.170, pp.122-129, 2018

<p> 本研究の目的は「生活者としての外国人」を対象にした日本語教育の目的を再提案することである。方法は教室活動の目的を実践者自身が問い直す実践研究の立場から,「生活者としての外国人」事業における筆者自身の実践を基に「標準的なカリキュラム案」の目的を批判的に考察することを採用した。結果として,「標準的なカリキュラム案」の目的である日本語で意思疎通を図り生活ができるようになることには日常生活における自己実現という視座が欠けていることが分かった。考察では「生活者としての外国人」に対する日本語教育の目的に関し,生涯における自己実現について指摘した先行研究に対し,日々の日常生活における自己実現という視座があることを論じた。まとめにおいて,生涯における自己実現と日常生活における自己実現を組み込んだ「生活者としての外国人」に対する日本語教育の目的の再提案を行い,今後の課題を明示した。</p>
著者
金 蘭美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.102-112, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
14

本稿では,母語話者と学習者の複合助詞「にとって」の使用実態を比較することで,学習者の誤用の原因を調べた。その結果,学習者の誤用の原因として,①「xにとってAはB」における「x」が「B」の「主体」ではなく「受け手」であることへの無理解,②「AはB」という意味づけ・位置づけを行う意義が見出せない場合の「にとって」の使用,③「x」と「A」がコミットしていることへの無理解,が主な原因であることが明らかになった。特に①の「x」を「主体」と捉えることによって起こる誤用の場合,その多くが「B」に動詞述語を使用しているものが多く,結果として「A」が欠如している文が多いことを確認した。③に関しては,「私にとって……」と「私は~と思う」との混同という形で現れており,「x(私)」と解釈の対象である「A」が直接関わりのある事柄でなければ「にとって」が生起しない,という成立条件を理解していないことが原因であることが明らかになった。
著者
稲垣 俊史
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.91-101, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
16

中国語話者による目的を表すタメニとヨウニの区別(日本語教師になるためた勉強している/日本語教師になれるようた勉強している)の習得を調査した。主節の主体が目的節の表す行為をコントロール可能な場合はタメニが用いられ,そうでない場合はヨウニが用いられることが知られている。日本語と中国語の比較ならびに母語の転移とインプットの観点から,中国語話者はタメニを過剰般化し,この過剰般化は上級レベルでも消えにくいであろうと予測できる。タメニを含む文とヨウニを含む文を比べる優先度タスクを用い,上級レベルの中国語話者と日本語話者を比較したところ,この予測が支持された。本研究は,目標言語と母語における目標構造の特性を踏まえ,主に印欧語の習得データを基に第二言語習得研究で議論されてきた母語の転移と肯定証拠の観点から,非印欧語(中国語)話者による非印欧語(日本語)の習得データを提示し,説明した点で意義深いと言える。
著者
小河原 義朗
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.36-46, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
8

本稿では,対象となる発音が目標発音に変化する過程が現れている2つの発音指導の事例を取り上げ,その過程の中で学習者が実際に何をしているのか,その行動を教室談話に着目して分析し,比較することを試みた。学習者は単に教師から与えられる情報や指示の通りに学習しているわけではないことから,単に情報の量や質ではなく,情報をリソースとして学習者が何をするか,それを予めどのように仕掛けるかを考えることが教師の役割として示唆される。しかし,同じ目標の実践でも,成果に至る過程は異なるのが普通であり,何がどのように作用したのか,実践とその過程の詳細な分析の蓄積が不可欠である。そのための方法論として,教室談話を分析することはその結果に至る過程を見ることが可能であり,そのような実践と分析が蓄積,共有されることによって,教師自身の信念,実践だけでなく,音声教育のあり方を問い直すことにもつながることを指摘する。
著者
江田 早苗 内藤 由香 平野 絵理香
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.143, pp.48-59, 2009 (Released:2017-04-07)
参考文献数
10
被引用文献数
1

韻律(プロソディー)情報は,円滑な日本語のコミュニケーションを図る上で重要な役割を持っており,日本語学習者の韻律情報知覚のストラテジーを明らかにすることは,今後の音声教育の発展に貢献すると考えられる。本稿では,イントネーションの統語機能の知覚に焦点を当て,日本語母語話者,中級,上級学習者を比較した聴覚実験の結果を報告する。実験調査の結果から,中級・上級学習者ともに,イントネーションの「区切り」による統語機能を,文音声の意味理解の手がかりとして,予想以上に利用しようとしていることがわかった。本研究で明らかになった日本語学習者の韻律情報に対する意識の高さを利用し,複雑な統語構造を持つ発話の理解を助けるストラテジーとして,日本語音声教育の場面に積極的に取り入れることを提言したい。
著者
池上 素子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.109-120, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
9

本稿では,因果関係を表す「結果」の用法について考察した。その結果,以下の点が明らかになった。1)「によって」「ため」との比較において,①「ため」は必然的因果関係のみ表すが,「結果」「によって」は契機的因果関係をも表しうる。②「ため」は前後に状態性の語が出現可能だが,他の二語では現れにくい(ただし,「結果」には現れる場合がある)。③「結果」が経緯や時間的継起を表す傾向が強い場合,他の二語では言い換えられない。④「によって」は未確定の事柄にも使えるが,他の二語は使えない。2)「結果」の前件には(動作性で)一回性の事態を表す語も現れる。ただし,それは①時間の幅を持っている語か,②時間の幅のない語でも,その事態までに何らかのプロセスを経ていることが補われているか,または③その事態までに何らかのプロセスを経ていると推測できる語である。3)「結果」の後件には,状態性の語が後接しうる場合がある。
著者
鈴木(清水) 寿子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.85-96, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
15

共生日本語教育実習の場を,地域において日本人住民・外国人住民および日本語教師が当事者として学ぶ場と捉え,コーディネーターAの役割認識を分析した。PAC分析の結果,実習前の【実習生・支援者の実習意義の理解を促す】【実習生・支援者と共に学び協働を促す】という役割認識が実践を経て【実習生・支援者の省察的実践の体験的理解を支援する】【“管理者”として実習生・支援者・参加者をつなげる】と捉え返され,さらに【実習生・支援者・参加者と共に共生を追究する】という役割認識が新たに見出されたことがわかった。“管理者”というメタファーを得て,学び手の体験的な理解を促進するために人をつなげるというAの役割理解は進み,共生という実習テーマと省察的実践者というAのビジョンが接合した。Aの実践を通じた役割認識の深まりは,地域日本語教育におけるコーディネーターの育成を考える上でも有効であると考察した。
著者
藤森 弘子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.73-84, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
18

国際交流基金(2008)によれば,世界における日本語教育上の一番の問題点は「適切な教材の不足」だという。教員養成における「教育実習」では,既に日本語教育の多様化に対応するための取り組みや成果に関する報告が多数なされているが,教材不足問題を解決できるような人材の養成に着目した事例はまだ少ないと思われる。本稿では,「教材研究」において協働作業とピア評価を取り入れた授業実践を紹介し,受講者のアンケート評価をもとにその意義と問題点を考察した。その結果,ペア協働作業で行った教科書分析と,日本人学生と留学生との協働作業に対する評価が最も高かった。アンケート記述の内容分析からは,互いに協働することの意義に気づき,ピア評価によってより深く教材を観察・分析する意識が高くなっていることがわかった。これらは教材研究の専門的力量の形成につながっていくと思われる。教員養成では,このような活動主体で協働作業を取り入れた授業が有効に働くのではないかと言える。
著者
朱 桂栄 砂川 有里子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.145, pp.25-36, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
13

砂川・朱(2008)は,学術的コミュニケーション能力の向上を目指して中国の大学院で実践したジグソー学習法による授業を通じ,大多数の学生に「独習型」から「協働型」へ,「受身型」から「自主型」への意識の芽生えが確認できたことを報告している。 本稿では,同じ学生に対して行ったインタビューデータを分析し,上記の意識変容が生じた要因を,活動間の有機的な連携という観点から考察する。分析の結果,以下の点が明らかとなった。①活動の過程で生じる情報差が学生の参加動機を強め,協力し合う環境作りに役立った。②活動間の有機的連携が個々の活動目的を明確にし,自主的な関わりの必要性を自覚させた。③活動中に生じた問題が次の活動の成果につながる要因として積極的な役割を果たした。すなわち,ジグソー学習法がもたらす活動間の有機的連携が,学生に自主的・協働的な研究態度の必要性を自覚させる要因となったことが判明した。
著者
佐々木 藍子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.139-153, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
19

本稿は,JSL 環境における日本語学習者の原因・理由を表す接続助詞「から」の発達過程を縦断的発話コーパス「C-JAS」を用いて明らかにし,その発達過程で見られる非規範的な使用の要因を探るものである。分析の結果,「から」の発達過程では,まず「~から」のみを接続する使用に始まり,挿入すべき助動詞「だ」を脱落させる例も見られる。次に,助動詞「だ」を伴った「~だから」の使用が始まると,「だ」の脱落が減少する。その後は「~から」「~だから」の使用とともに,過剰に「だ」を付加する使用を経て,接続助詞「から」が習得されることが明らかとなった。この発達過程で見られた規範と非規範の自由変異については拡散モデル(Diffusion Model)を用いて説明した。さらに,非規範の「だ」の脱落はその時点では「から」しか接続できず産出されること,「だ」の付加はイ形容詞の普通体の問題,「から」に前節する文法項目の習得の広がりが影響していることを指摘した。
著者
松本 剛次
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.109-123, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
31

本報告は,国内の大学における日本語教育の現状について,「学士力」との関係から検討したものである。大学数,大学進学者数が増加した現在,大学には,「質の保証」が強く求められている。そしてその際の一つの指針となっているのが「学士力」という考え方である。 国内における大学での日本語教育も,当然その例外ではない。しかし日本語教育の場合,その主な対象が日本語を母語としない留学生であるため,大学での教学マネジメントの観点からは,日本語教育を通しての学士力の育成という側面が注目されることはあまりなかった。しかし,近年では,学士力の育成につながる日本語教育の実践報告も増えてきている。本報告ではそれらの新しい動きを整理した上で,長年,大学における教学マネジメントの外に置かれていた日本語教育だからこそ,学士力の育成に関与しながらも,学士力というもの自体を批判的に再検討することが可能であるということを論じる。
著者
安部 陽子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.124-138, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
21

本稿の目的は,日本企業へ就職した中国人元留学生社員4 名が日本での就労で抱いたコンフリクトやその解決要因を時系列で示し,意識や行動の変容を明らかにすることで,就労継続に至った過程を可視化することである。本研究では複線径路等至性アプローチ(TEA)を用い,最終的に4 人の就労過程を統合したTEM 図を作成した。その結果,協力者たちは入社初期のコンフリクトを,入社前の知識や情報から得られた自らの覚悟に加え,周囲のサポートを得ることで乗り越えていた。その後の径路は企業側の姿勢や方針を要因として分岐を重ね,目に見える仕事の結果とそれに対する明確な評価,意見の採用や外国人社員としての役割を職場において認識した過程を辿っていた協力者は,最終的に明確な就労継続意志を示すに至っていた。一方で,仕事遂行上における継続的なコンフリクトが確認できた協力者からは,明確な就労継続意志が得られなかった。
著者
南浦 涼介 本間 祥子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.62-76, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
48

本研究の目的は,過去40 年間の年少者日本語教育に関する研究論文を対象に研究課題の変遷を通史的に整理し,今後の展望を提起することである。また,どのような枠組みによって研究が展開されてきたのか,特に1990 年代以降の研究パラダイムの動態を意識しながら検討していくことで,今後の年少者日本語教育研究の課題と展望を示していく。そのために,6 誌の査読誌の中から,年少者日本語教育に関連する研究論文を抽出し,研究課題をカテゴリー化したうえで,それらが時代の中でどのように展開されてきたのかを分析した。結果,1980 年代以降の年少者日本語教育は,学会による状況の課題提起と事例研究による具体化,およびポストモダニズムの認識論的影響を受けて対象や視点が拡張しながら研究が積み重ねられてきたことが明らかになった。一方で,「学校」と「教育」を再構築していくという点は今後研究を進めていく際の重要な観点となることを指摘した。
著者
石 立珣
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.77-92, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
7

「スル」を伴って動詞化する名詞は動名詞(VN)と呼ばれている。VN は連体修飾語になる際に,論理的には「VN ノ N」と「VN スル/シタ N」の二種の構造が取れるはずである。しかし,「後退{*の/する}経済」の例からも分かるように,常に二種の構造が取れるとは限らない。中国語は連体修飾の場合に名詞・動詞のどちらも,一括して“的”を用いるため,中国人学習者は「*後退の経済」のような誤用を生み出しやすい。本稿では,連体節構造の分類方法の一つを「VN ノ N」に適用し,「内の関係」(意味的な格関係が想定可能:*後退の経済)と「外の関係」(意味的な格関係が想定不可:離婚の話)に分類した。これにより,外の関係の「VN ノ N」は一般に成立可能であり,内の関係の「VN ノ N」は極めて特殊な場合を除き,成立不可であると判断でき,「VN ノ N」の成立可否において指針となる基準を得られた。
著者
来嶋 洋美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.93-108, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
6

在住外国人の増加や外国人材の受入れ等に伴う学習者の多様化を背景に,外国語教育の国際基準であるCEFR が日本語教育にも導入されるようなった。これは日本語教育における大きな変化であるが,教師に求められる資質・能力や研修のあり方も見直す必要がある。そこで,教師の職能開発支援を目的として欧州で開発された5 件の継続的職能開発(CPD)の枠組みを調査した。CPD の枠組みは言語教師の資質・能力をカテゴリーと発達段階に沿って能力記述文で示している。その内容には,外国語学習の基礎理論,授業設計,学習評価など日本語教育においても一般的な項目がある一方で,言語アウェアネスと言語運用力,自律的学習,ICT の教育利用など注目したい項目も含まれている。教師がどんな資質・能力をどんな段階で持っているかを自己評価と内省を通して認識し職能開発を行っていく上で,CPD の枠組みは有効と思われる。