著者
麻里 久
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.70-77, 2023-09-29 (Released:2023-09-29)
参考文献数
61

本稿では,広範な研究領域に跨る,ソーシャルメディアを活用したマーケティング活動とソーシャルメディアによって変化したマーケティング(ソーシャルメディアマーケティング)に関連する研究成果を体系化し,次なる研究課題を明らかにするため,システマティックレビューを行った。レビューの結果,「eWOM/UGC」「Social Listening」「Community」「Communication Chanel」の4つの主要な研究領域が提示され,将来の研究可能性が示唆される。このような体系化された整理はこれまで存在しておらず,当該領域における理論的な貢献とソーシャルメディアマーケティングに取り組む実務家に対しても実践的な示唆をもたらす。
著者
高橋 史早
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.78-91, 2018-06-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
64
被引用文献数
1

従来のサービス・クオリティ研究は,主要なサービス品質測定尺度であるSERVQUALを中心として発展するとともに,サービス品質と顧客満足を仲介する知覚価値についても検討してきた。本研究は,知識的な知覚価値である教養の獲得に着目し,生涯学習施設におけるサービス品質や施設に対する総合的な評価との関係を検討する。すなわち,本研究の目的は,教養の獲得が利用者の総合評価に関係しているかを検証し,利用者の教養獲得がどのようなサービスによって促されているのかを解明することにある。公立美術館の利用者122名に対して実施した質問紙調査データを分析した結果,(1)教養の獲得は総合評価を高めること,(2)展示方法と従業員サービスの2つのサービス品質が教養の獲得を促すこと,(3)施設の快適性は総合評価を高めていることが明らかとなった。これらの発見事実は,理論的・実践的観点から検討された。
著者
太宰 潮 奥谷 孝司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.101-110, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
11

本論は登山という趣味の分野で急伸している福岡のベンチャー会社,(株)ヤマップと,そのメインツールであるスマートフォンアプリ「YAMAP」について,特に社会的意義と顧客経験に焦点を当てながら取り上げたものである。まずは同社の成長の軌跡を紹介し,山を安全に楽しむこと,地域社会に貢献するといった社会性を有した事業活動やサービスについて紹介し,顧客経験の創出や改善,顧客対応もその理念に沿って実行されていることを説明する。そしてインプリケーションとしては実務的枠組み,顧客経験の枠組み,パーパスという3つの視点から同社の成長の理由を考察した。
著者
片野 浩一 石田 実
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.88-107, 2015-06-30 (Released:2020-05-19)
参考文献数
34
被引用文献数
1

本研究では,ボーカロイド(歌声合成ソフトウェア)製品のユーザーが,音楽や作詞,イラスト等の作品を創作して投稿する連鎖について調べ,ユーザー・コミュニティの構造について考察する。「初音ミク」製品を使用してユーザーが作品を動画共有サイトや創作投稿サイトに発表し,その楽曲やイラストが人気となり,社会現象となっている。このユーザー主導で創発された作品の中からビジネスに展開されるコンテンツが増え,企業にとっても大きなビジネス機会として注目される。この現象には,売り手である企業と買い手であるユーザーとの間に高度な価値共創が見られる。本研究では,その価値共創からコンテンツが生み出される苗床ともいえるユーザー・コミュニティに着目し,作品創作の連鎖について社会ネットワーク分析を行う。そこから,創作連鎖の実際の形状が可視的に解明されるとともに,イノベーション・ユーザーの行動について探索的な発見を試みた。結論として,趣味コミュニティにおける現代のユーザーの社会参加の在り方が示唆されると同時に,企業がイノベーション成果を活用する先端的な取組みも見出した。
著者
水越 康介
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.116-125, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
3
被引用文献数
1

本稿では,アバターアプリ「ポケコロ」のサービス展開について,運営会社であるココネ株式会社の歴史とともに紹介する。インターネットの普及に合わせて注目されてきたアバターは,近年いよいよ充実したサービスを提供するようになっている。利用者からみても,アバターに対して課金し,着せ替えや模様替えを楽しむことはいまや当たり前の行動である。アバターアプリでは,ビジネスの仕組みとしてこうしたアイテムへの課金が重要になる。本稿では,デザイナーのチーム体制によるアイテム開発の仕組みとともに,利用者のコミュニケーションとアイテムの結びつきを確認する。こうしたアバターアプリの発展は,メタバースと呼ばれるようになった仮想空間の今後の可能性と強く結びついている。
著者
井上 達彦 鄭 雅方 坂井 貴之 楊 稼怡
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.29-41, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
21

ビジネスモデルというのは儲けの仕組みであり,その本質は「価値の創造と価値の獲得」にある。価値の創造と獲得についてはマーケティングでも早くから注目されており,価値創造については顧客との相互作用の視点,価値獲得については価格づけの視点でそれぞれ検討されてきた。しかし,価格づけにおいて「収益モデル」自体を見直すという発想には至らなかったし,価値創造と獲得の視点が統合されることもなかった。そこで本稿では,収益モデルや価値創造の方法に注目する。顧客との活発な相互作用によって価値創造をしている中国のショートムービーアプリを分析することで,価値創造と獲得の整合性と,マーケティング研究におけるビジネスモデル概念の意義を探る。
著者
小仲 健太郎 恩藏 直人
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.81-87, 2023-01-10 (Released:2023-01-10)
参考文献数
15

近年,企業は様々なデータを活用し事業化を行っている。日本気象協会は,過去から巨大な気象データを扱い,気象予報事業や防災事業を展開してきた。最近のデジタル技術の進化を背景として,気象データと売上関連データ,消費者行動データを組み合わせることにより商品需要予測の事業化に成功した。防災事業というコアスペースにとらわれることなく,他業種企業との価値共創に取り組み,商品需要予測サービスのサブスクリプションを立ち上げホワイトスペースでのビジネスモデルの構築を行った。背景に唯一,物理学的手法により未来を予測できる気象予報の技術とそれを実現する気象予報士組織がある。社会課題を解決することを中心にした企業理念と,それに基づく事業展開がコアスペースからの進化を後押ししたと考えられる。
著者
速水 建吾
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.54-62, 2022-09-30 (Released:2022-09-30)
参考文献数
34
被引用文献数
1

近年,自己不一致によって生じる脅威に対する消費者の反応に着目した研究が注目を集めている。こうした自己不一致による脅威と消費者の反応は消費者行動研究の領域において,補償的消費という概念で捉えられている。本稿では,2017年から2022年の間に発表された補償的消費に着目した研究をレビューした。これにより既存研究の知見を統合し,既存研究に残された「対処方略の決定要因」に関する課題,「逐次的な補償的消費」に関する課題,企業や社会にとって「ネガティブな消費者の行動を導く対処方略を回避する方法」に関する課題の3つの課題を明らかにした。また最終節では既存研究の課題をもとに今後の研究の方向性を議論した。
著者
宮井 弘之
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.42-52, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
29

本研究では,エフェクチュエーション研究とビジネスモデル研究を体系的に関連づけ,マーケティング・インプリケーションの導出につながる視角の提案を目的とし,両研究の接続可能性を検討した。特に,企業のビジネスプロセスとシステムの階層に着眼することで両研究の接続可能性を検討できることを示した。実践型研究から得られた3人の起業家へのインタビューを用いて,起業家個人のエフェクチュエーションによる意思決定を,「バリュープロポジション,ピヴォット,プロダクトマーケットフィット」などのビジネスモデル研究やビジネスモデル開発実務で利用されているフレームワークと対応付けて整理し,企業内の個人によるエフェクチュエーションによる意思決定を集団による意思決定へと接続できる可能性を示した。
著者
久保 知一
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.17-27, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
30

マーケティング・ミックスはマーケターが最初に習うツールであるが,4つのPがどのように組み合わされているのかという問題はこれまで明確に扱われてこなかった。その理由は,社会科学で主流となった回帰分析では,3つ以上の変数の組み合わせの検討が困難だったためである。本論では,結果変数として,(1)ターゲットの価格弾力性の高低,(2)製品分類(買回品/最寄品),(3)トップ・シェアか否かの3つを設定し,それらを実現するマーケティング・ミックスについて仮説を提唱した。そして,日本の消費財メーカーから得た製品レベルのマーケティング・ミックスのデータ(n=167)を収集し,質的比較分析(QCA)を用いて,マーケティング・ミックスの組み合わせを検討した。
著者
近藤 浩之
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.6-16, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
33

消費者は購買意思決定に先立ってオンラインカスタマーレビューを製品の品質の手掛かり情報として利用するが,ブランド力が高い製品の場合にはブランドも製品の品質の有力な手掛かりとなる。このため,そうした製品についてのカスタマーレビューの影響力はブランド力が低い製品の場合と比べて弱いとされている。しかしながら,先行研究ではカスタマーレビューがブランド力の高い製品の売上成果にいかなる役割を果たすのかについて十分に考察されてきたとは言い難い。そこで本研究では我が国のヘッドセットデータにファジィ集合QCA(fsQCA)を適用し,この問題について考察した。その結果,ブランド力が高い製品は新製品期にはカスタマーレビューの評価にかかわらず売れ筋製品となり得るものの,新製品期間を超えてなお売れ筋であり続ける上で,カスタマーレビューにおける高い評価は,INUS条件として,大きな役割を果たしていることを確認した。このことは,ブランド力が高いメーカーの場合でも,高いカスタマーレビュー評価を得られるような優れた製品の開発がやはり重要であることを示すものである。
著者
張 婷婷
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.90-97, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
32

企業は消費者にメッセージを発信するとき,消費者の注意を引き付け,さらにメッセージを精緻に処理してもらうために,多彩な言葉,ビデオ,アニメーション,3Dなどの手段を利用している。これらのビビッド手段の利用によって,消費者行動にポジティブな影響を及ぼすと信じられている。しかし,ビビッドメッセージは常に消費者行動にポジティブな影響を及ぼすわけではない。そこで,本稿では,ビビッドネス効果(vividness effect)に関する既存研究を,(1)ビビッドネス効果の定義と分類,(2)ビビッドネス効果の有効性に関する研究,(3)ビビッドネス効果を有効とする媒介変数,(4)ビビッドネス効果の有効性を調整する要因という4つに分けて,レビューを実施する。また,ビビッドネス効果研究の発展のため,今後の研究課題として,(1)多感覚マーケティングにおけるビビッドネス効果に関する研究課題,(2)複数のビビッド要素の組み合わせによるビビッドネス効果に関する研究課題を提示す。
著者
河股 久司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.81-89, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
38

本論文は,2015年以降の色彩に関する研究をレビューすることによって,近年の色彩研究の潮流を把握することを目的とする。色に関する研究を,色の三属性である色相・明度・彩度それぞれの視点による研究と,モノクロとカラーの比較による研究の4つに大別してレビューを行った。その上で,色とマーケティングミックスとの関連を検討したところ,今回のレビューの範囲においては,色相に関する研究は,マーケティングミックスの各要素と関連するものが実施されていることが確認できた。一方,彩度に関してはマーケティングミックスのうち製品との関連のみ,明度に関しては製品と流通チャネルとの関連に限られた研究が実施されていることが明らかになった。また,クロスモーダル効果に着目すると,色と味覚や聴覚,触覚との関連についての研究はなされているものの,色と嗅覚との関係を検討している研究がないことが確認された。