著者
奥谷 孝司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.75-83, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
45

本稿の目的は,消費者視点からのオムニチャネル買物価値(Omni-Channel Shopping Value)(Huré, Picot-Coupey, & Ackermann, 2017)の理解に求められる視座を提供することにある。小売業におけるテクノロジー活用の進展により,オムニチャネル・リテイリング(Brynjolfsson, Hu, & Rahman, 2013)の実現が進んでいる。この流れを受け小売業におけるオムニチャネル戦略の研究が企業の視点から展開されているが,これらの買物体験を消費者の視点から検討する先行研究は少ない。本稿では,オムニチャネル・ショッパー研究の現状を示した上で,その消費者行動の理解に寄与すると考えられる3つの研究領域についてレビューする。具体的には,技術受容モデルに基づくモバイルアプリ受容行動研究とショールーミング・ウェブルーミング行動研究,店頭受け取りサービス(Buy Online, Pick-Up In Store)研究の3つである。最後に,オムニチャネル買物価値の理解に求められる今後の研究課題を提示する。
著者
山内 裕 佐藤 那央
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.64-74, 2016-01-08 (Released:2020-04-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本稿では既存のサービスデザインの概念を社会科学の理論的視座から再考する。その目的は既存のサービスデザインを否定することではなく,その更なる発展のため,サービスデザインの実践研究とサービスの理論の接合を試みることにある。そこで,本稿ではサービスは相互主観性レベルの事象であるという主張を元に,サービスデザインにおける基礎的な概念である,「体験」や「共創」が孕んでいる理論的矛盾点を指摘する。具体的には,これまで利用者やステークホルダーがデザインされた,あるいはされる対象を客体として観照し体験しているという主観性の概念に依拠するのではなく,これらの人々が自分の理解をどのように示し合うのかという相互主観性の水準で議論することで,従来のデザイン方法論と比較したときのサービスデザインの独自性を明確にする。従来から議論されている方法論は主観性を基礎としている限りにおいて,相互主観性の水準で議論されるべきサービスデザインの方法論として適切ではなく,独自の方法論を探究しなければならない。
著者
芳賀 宏一郎 恩藏 直人
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.80-94, 2019-03-29 (Released:2019-03-29)
参考文献数
20

プロダクト・デザインはビジネスにおける重要なテーマであり(Luchs & Swan, 2011),競争優位の重要な源泉であると言われている(Noble & Kumar, 2010)。このデザインを重視し,デザインと機能の融合により「美しい製品」の開発を行い,市場で高い評価を得ている企業がある。北九州市小倉に本社を置くTOTO株式会社である。2017年にネオレストシリーズのフラッグシップモデル「ネオレストNX」を開発し市場に展開しているが,このネオレストNXは「オブジェ」と言っても過言ではない。そこで,TOTO(株)の空間と調和するデザインと「ものづくり」におけるマーケティング展開を調査した。この結果,TOTO(株)のマーケティングの卓越性は,「デザイン・ドリブン・イノベーション」と「デザインのHolistic視点と機能の融合」の2つにあると考えられる。
著者
大井 義洋
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.29-40, 2022-09-30 (Released:2022-09-30)
参考文献数
27

2021年9月に日本初の女性プロ・サッカーリーグであるWEリーグが誕生し,初年度は11クラブが参画した。サッカーの一般的なリーグ構造である昇降格制ではなく,クローズドなリーグ構造であり,また東アジアでは初となる秋春シーズン制を採用した。このリーグではサッカー事業の成長だけでなく,女性活躍社会の実現をはじめとした社会課題解決をもその理念に掲げ取り組んでいる。リーグ経営ではリーグ,クラブ,選手,マーケティングパートナー企業,メディア等のステークホルダーが弱い繋がりの強さによって一体となるコレクティブ・インパクトを形成し,リーグの存在意義であるパーパス経営を推進することにより,WEリーグの成長・発展を達成しうる可能性があることを明らかにした。
著者
大平 修司 スタニスロスキー スミレ 日高 優一郎 水越 康介
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.19-30, 2021-01-07 (Released:2021-01-07)
参考文献数
61
被引用文献数
2

ふるさと納税は,問題点を抱えているものの,着実にその規模が拡大している。一方で,ふるさと納税に関する研究は,その実態把握研究が大半であり,特に利用者研究は限定的な理解に留まっている。本稿では,まずふるさと納税を寄付型および報奨型クラウドファンディングとして理解し,利用者がふるさと納税を行う要因を検討する。次に寄付者が寄付を行う要因を検討する。さらにふるさと納税の返礼品を寄付つき商品と理解することでコーズ・リレーテッド・マーケティング研究を通じ,消費者が寄付つき商品を購入する要因を検討する。最後にふるさと納税の利用者を理解する枠組みを提示し,地方自治体のマーケティングへの示唆を述べる。
著者
西尾 建
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.41-53, 2022-09-30 (Released:2022-09-30)
参考文献数
28

米国では,同じ時代に生まれ育ち同じ価値観を共有している人々を対象に「世代別コホート理論」によるセグメンテーション研究が進められているが,日本ではこの分野での事例研究は少ない。本研究では,日本で開催された2019ラグビーワールドカップ日本大会の観戦者を対象に世代別にその特徴を明らかにするものである。Z世代,Y世代(ミレニアル世代),X世代,ベビーブーマー世代の「4世代」のファンのスポーツ観戦動機による満足度への影響を回帰分析によりそれぞれの特徴を明らかにし,さらにラグビーのファンマーケティングで課題になっている「女性ファン」やワールドカップで短期的に熱狂し応援した「にわかファン」についても分析した。本研究の結果から,各世代ファンの特徴を明らかにしてスポーツ観戦におけるマーケティング戦略について考える。
著者
神田 將志 日高 優一郎
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.105-114, 2022-01-07 (Released:2022-01-07)
参考文献数
9

本研究では,岡山県小田郡矢掛町におけるアルベルゴ・ディフーゾ(Albergo Diffuso,以下ADと表記)の発展プロセスを考察する。ADは,町の中に点在する空き家を一体化した宿として活用してエリア全体を活性化する試みである。人口減少が進む中で,地方活性化の手法として注目を集めており,日本では矢掛町が初めてADタウンに認定されている。本研究は,矢掛町の事例では,当初からADを念頭に活動を進めたわけでなく,活動がADとの邂逅を生み出したことを示す。当事者が,当座の「町ごとホテル」の名のもと,当地の伝統的な関係性を紐解きながらアクターを生成し,生成した各アクターが資源をやりくりして実践を積み重ねた結果,ADとの邂逅を生み出している。事業が「AD」と再定義されたことは,当事者たちの当地の魅力や活動対象エリアの認識に変化を生み出し,更なる可能性を呼び込んでいる。本研究は,矢掛町のAD認定に至る軌跡を辿り,その意義を考察する。
著者
小谷 恵子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.84-93, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
5

本ケースでは,日本のライフスタイルに大きな影響を与えたファッションブランド,ヴァン・ヂャケット(1954–1978)と,創業者の一人である石津謙介(1911–2005)に焦点を当てる。卓越した発想力で新しい顧客と価値を創造し,様々なマーケティング手法を駆使して頂点に上りつめたVANだが,その存在は顧客の高齢化に伴い失われつつある。従業員や顧客は,VANという学校に入学した順に後輩から先輩になり,OBになっていくという構造が,会社やブランドとの一体感を醸成した。当時の顧客や従業員は,今でもVANとの体験価値を自身のアイデンティティとして持ち続けている。本稿ではその軌跡をたどり,VANが創出した価値の再評価を行う。
著者
西原 彰宏 圓丸 哲麻 鈴木 和宏
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.21-31, 2020-01-11 (Released:2020-01-11)
参考文献数
22
被引用文献数
1

本研究では,これまでのブランド構築を踏まえて,これから一層進展していくデジタル時代におけるブランド構築について考察し,企業と消費者との価値共創に対して,これまで見過ごされていたブランド構築に寄与する第三の主体であるBIT(Brand Incubation Third-party)を交えたブランド価値協創(collaborative creation of brand value)を提唱する。そして,3主体によるブランド価値協創においては,経済的関係性を超えた社会的関係性を示す概念であるブランド・エンゲージメント(brand engagement)が重要であることを提示する。
著者
石塚 千賀子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.95-104, 2022-01-07 (Released:2022-01-07)
参考文献数
28

本ケースでは,小柳建設株式会社がマイクロソフト社との協業で複合現実(MR)技術をもちいて展開した新たなデジタル・サービス化をとりあげる。本技術により,工事の発注者,請負の施工者,設計者などの関係者が遠隔からも一堂に会し,実物大(ヒューマンスケール)で,工事の設計から竣工までの見たい場所を安全に歩き回り,意思疎通できるようになった。通常,デジタル・サービス化の多くは,顧客ニーズへのよりよい適応のために展開される。しかし,本ケースでは,経営者の内部顧客志向によってデジタル・サービス化が展開された。この内部顧客志向は,同社の経営理念そのものである。経営者は,偶然見つけたこの技術を,まさに自分たちのための技術だと直感的に確信し,リスクを覚悟で導入を即決した。デジタル・サービス化のパラドクスの乗り越えを可能にしたのは,迅速に顧客のネガティブな反応を察知し戦術転換できる組織体制にあった。経営陣は,本DXは経営理念実現のための手段のひとつと位置づけており,顧客体験の向上はもとより,業界のあたりまえとされてきた長時間労働の改善や,3Kイメージの払拭に挑戦している。
著者
森 直也
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.72-80, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
37

企業が実施するセールス・プロモーションとして,確定インセンティブおよび不確定インセンティブは共に頻繁に用いられている。一方の確定インセンティブとは,消費者がポイントなどの報酬を必ず獲得できる形態のインセンティブであり,他方の不確定インセンティブとは,消費者がポイントなどの報酬を抽選によって獲得できる形態のインセンティブである。これまで,インセンティブに関する研究の大半は,消費者のリスク回避性に着目し,必ずしも望ましい報酬を獲得できるとは限らないというリスクと結びついている不確定インセンティブは,確定インセンティブほど選好されないと主張してきた。しかしながら,近年では,不確定インセンティブに対して肯定的な研究が増加しており,注目を集めている。インセンティブに対する実務的および学術的な関心が高まっている状況に鑑みると,これまでのインセンティブに関する研究知見を整理し,残された課題を明確化することは,有意義な試みであると言いうるであろう。そこで本論は,確定インセンティブおよび不確定インセンティブに対して肯定的な既存研究を概観する。そして,今後の研究には,新たな研究潮流の形成が求められるということを指摘する。
著者
本庄 加代子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.60-65, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
39

本稿は,消費文化論とブランド研究の架け橋とされるHoltのカルチュラルブランディングについて,問題意識,依拠する学問,ブランドの捉え方に注目し,ブランド研究に対する意義を考察する。同モデルは文化とブランドという超越的な概念とその形成の道筋を扱っている。これは,解釈主義に位置づけられるが,共約不可能とされる伝統的パラダイムを補完し,更に戦略的柔軟性と実践性を備えている。ここでは,ブランドは,強くなればなるほど社会的批判を受けやすくなることが問題として示されている。このことから,ブランドの理想形とは社会的問題の解決手段でもあり,絶対的資質のものではなく,経営目標と合致する“状態”である可能性を示している。その動態性を前提とした理論の更なる洗練が必要であることが指摘できる。
著者
森岡 耕作
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.31-42, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
21

異質な顧客ニーズに対応できる有効な製品戦略であるマス・カスタマイゼーション(MC)の中でも,顧客の構成負担を軽減しうるソリューション提示型カスタマイゼーション(CvSS)が注目を集めており,その有効性が吟味されている。しかしながら,このCvSSに関する既存研究は,第一に,MCについて顧客が知覚する価値のうち限られた種類の価値にしか注目しておらず,第二に,そのシステムを利用する顧客のデザイン・スキルにおける異質性を考慮していない,という問題を抱えている。そこで本論は,第一に,顧客が知覚するMC価値の構造を特定化し,第二に,その価値構造を前提に,CvSSの効果を吟味しようと試みた。サーベイ・データを利用して行った分析(分析1)の結果,享楽性と過程努力とによって構成されるMC過程価値が,選好合致と自己表現性とによって構成されるMC製品価値を高めるということを見出した。そして,実験データを利用して行った分析(分析2)の結果,デザイン・スキルの低い顧客より,デザイン・スキルの高い顧客の方が,MC過程においてソリューションが提示された時に知覚する享楽性が低いということを見出した。
著者
清水 聰
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.7-17, 2020-09-29 (Released:2020-09-29)
参考文献数
25

動線調査研究は,RFIDなどの位置情報技術により,新たな研究段階に入ってきている。本稿では,新しい位置情報システムであるQuuppaを用い,ある店舗での消費者の動線を70日間集めた。そしてその動線データと当該店舗のFSPデータと結び付け,消費者の当該店舗との関係性が動線長に与える影響と,動線長そのものを説明する要因を探った。その結果,店舗のロイヤルユーザーは,それ以外の来店者と比べて,1回の買物の動線長が短く,購買金額も高くないことが示された。また動線長を説明する要因には,週末や年末年始,各売場や通路の滞在時間,そしてロイヤルユーザーフラグが影響することが示された。動線調査を行う際に,消費者の視点を入れることの重要性が明らかになった。
著者
吉岡(小林) 徹
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.21-37, 2018-06-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
54
被引用文献数
3

デザイナーが商品開発の上流工程から関わること,とくに,デザイナーが他の職能組織の活動に積極的に関与していくことは,製品・サービスのイノベーションの実現につながるのだろうか。本研究は,デザイナーによる他の職能組織の活動への関与の一つとして,技術開発への関与が,技術開発の質を高め,かつ,製品の質を高めているのかを,市場で成功を収めた事例の分析と,国際的なデザイン賞受賞製品90製品の調査により検証した。その結果,デザイナーの技術開発の関与は,①新たな要素技術を着想し,新規な製品コンセプトを実現する,②技術的課題を設定するか,技術開発チーム内での共有を促し,技術者の開発効率を高める,③他組織の技術を橋渡しし,新たな技術を生み出す,のいずれかの形で高い質の技術を生み,かつ,製品自体の質を高めていたことが確認できた。これらはデザイナー固有の寄与とまでは断言できないが,デザイナーの強みが生きた機能組織間連携の効果であると考えられる。
著者
田中 洋 安藤 元博 髙宮 治 江森 正文 石田 実 三浦 ふみ
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.24-42, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)
参考文献数
42

本論文はCMO(チーフマーケティングオフィサー)が日本企業において企業業績にどのような貢献をしているかを実証的に分析するとともに,CMOの地位が現在どのように変化しているかを文献調査で明らかにすることを目的としている。CMOが企業業績に正の影響を与えていることが近年米国で報告されているが,日本ではまだ研究がほとんどなされていない。実証分析の結果,日本企業において,CMOを設置している企業の割合は約8–11%であり,設置率は業種によってばらつきがあった。またCMO設置企業と非設置企業とでは,前者がより規模において大きいことがわかった。また,CMO設置あり・なしは,企業の2年間売上伸張率に正の影響があり,CMO設置は4.7%の売上増収効果をもっていた。また,企業規模が小さな企業ほど,CMO設置あり条件が売上変化率により大きな影響を与えている。文献調査では米国消費財企業においてCMOに代わりCGO(チーフグロースオフィサー)が設置される傾向が2010年代に目立つようになった。CMOへの詳細インタビューを通じて,これらの結果を仮説モデルとしてまとめ,CMO/CGOの設置がどのように企業業績に影響を与えるかを考察した。