著者
堀内 信之 西垣 良夫 塩飽 邦憲 松永 剛 小池 且弥 佐藤 英嗣 鈴木 長男 内川 公人 村松 紘一 矢島 伸樹
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.23-37, 2004 (Released:2005-03-29)
参考文献数
13
被引用文献数
3 5

日本農村医学会の特別研究班として, 「病原媒介性マダニ類の刺咬症とその感染症の臨床疫学的調査研究班」が設置された。そこで, 日本農村医学会加盟の108医療機関にマダニ刺咬症・ライム病・日本紅斑熱について, 患者調査票を作成して送付し, 平成14年の1年間の患者を記載したものを集計した。その結果マダニ刺咬症151例 (男67例, 女84例), ライム病17例 (男13例, 女4例), 日本紅斑熱0例, が集計された。また, 平成13年以前の本症の受診状況を, 同じ108医療機関で, アンケートにて調べた。マダニ刺咬症が受診したのは24病院, しなかったのは13病院であった。ライム病は6病院が受診し31病院が受診しなかった。日本紅斑熱は, 1病院が受診し, 33病院が受診しなかった。半数以上の病院が無回答であったが, これはライム病に対する問題に病院としての対応ができていないのであろうか。この病院では本症に対する関心が少ないのかと思われる。以下, 151例のマダニ刺咬症で, 下記の項目について若干の考察を加えた。年齢別患者数, 月別患者数, 初診時の虫体の状態, マダニ虫体の除去法, 血清抗体価の測定, 組織・血液培養の評価と位置づけ, マダニの同定, 治療法など。本症の治療にとっての問題点は, 初期の状態で抗生剤の予防的投与が発症の抑制に有効かどうか, また必要かどうかである。この点に関しては, 検査法との関係もあり一定の標準が示されなければならない。抗生剤を初期に投与すると, 抗体価の上昇が見られなくなるとも言われている。ライム病の17例は, いずれも皮膚症状のみで第2・3期に進行していくものはみられなかった。
著者
田邊 翔太 矢野 彰三
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.924-931, 2017-01-31 (Released:2017-03-18)
参考文献数
28

中山間地域の中核病院におけるHAD 発症率とその危険因子を検討することを目的に公立邑智病院総合診療科の新規入院患者について入院時と退院時のADL を比較し,HAD発症率を調査した。また,入院時の栄養状態,認知機能,血液検査,介護認定の有無,在院期間を調査し,HAD 発症との関連を統計学的に解析した。 その結果,53例中8 例(15%)にHAD 発症を認めた。HAD 発症例は有意に高齢で,入院時のADL・栄養状態・認知機能が低く,血清アルブミンが低値であった。多重ロジスティック回帰分析から,栄養状態と認知機能がHAD 発症の独立した危険因子であることが示された。また,HAD 発症群は全例が介護認定を受けていた。 公立邑智病院におけるHAD 発症率は15%で,諸外国の既報に比して低値であった。認知機能と栄養状態は,年齢や入院前のADL と独立してHAD 発症の危険因子と考えられた。
著者
白石 卓也
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.725-728, 2015-11-30 (Released:2016-01-06)
参考文献数
7

病院や診療所などの医療機関から処方された残薬が高齢者宅から大量に見つかり, 社会問題として取り上げられている。その残薬の問題を解消すれば, 高齢化の進行に伴い増え続けている医療費が削減できる。そこで本研究では, 高齢化の進んだ中山間地域の診療所で残薬を調査し, 残薬問題の解消に何が必要か検討した。当診療所に定期通院する患者を対象に, 残薬を調査した。調査の参加に同意を得られた226名に,「残薬の有無」,「残薬の日数」および「残薬をどうしているか」を調査用紙に記入してもらった。また, 対象患者の年齢, 性別, 75歳以上の後期高齢者数, 処方日数,処方薬剤種類数, 飲み方および薬効から残薬発生の要因を検討した。その結果, 226名のうち38名は残薬ありと答えた。残薬を起こさないように医師は前回処方日時の確認や長期処方を少なくしていたが, 残薬は17%の患者に存在していた。検討項目と残薬発生の間に関連はなかった。「残薬をどうしているか」という質問に対しては,「保管」や「破棄」と回答した患者が多かった。残薬の保管は, 薬剤の不適正使用の危険性を高める。残薬の破棄は, 医療資源を無駄にする。本研究から, 残薬が発生しないように医師は注意し処方していても, 残薬の発生を防げない可能性が示唆された。残薬の問題を解消するためには, 残薬が発生した場合の対処方法を患者に提示する必要があると考えられた。
著者
比嘉 照夫
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.784-789, 1996-03-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
9

Chemical fertilizers, pesticides and large-size machinery characterize present-day intensive agricultural operations. Technological advances in the application of those chemicals and machinery have made a large contribution toward solving the food problem, to be sure, but with detriment to the earth's environment and endangering man's health. Such untoward consequences were also observable not in agriculture and the manufacturing industry alone but in medicine and many other branches of science as well. In 1972, I was diagnosed with pesticide poisoning. With this as a turning point, I washed my hands of modern agriculture, which had been in my line for many years, and decided to do research in microbiology in earnest with my sights set on establishing farming of the sort that is friendly to the natural environment and compatible with the laws of nature. So far, I have harvested well over 2, 000 varieties of microbes. At least two years would be required for the study of one variety thoroughly if conventional methods were employed. So, I gave up all the old ways and resorted to my own method of eliminating harmful bugs and unpleasant odors using pH values and activated water. As a result, a symbiotic group of colonies made up of more than 80 kinds of “effective microorganisms”(EMs) has been formed.Without reliance on chemical fertilizers and pesticides, it has become possible to produce more than twice as much crops of high quality only by dint of EMs. Not only that, those microscopic organisms have proved to be surprisingly helpful in the improvement as well as conservation of the environment. Agricultural, livestock and fishery products produced through the use of EMs are rated high as healthy foods today. Now that it has been made clear that the favorable effects of EMs are due to the antioxidizing substances synthesized by EMs, the scope of their application is being expanded from the above-mentioned sectors to medicine, manufacturing industry, environmental protection, energy resource development and so on. Thus, the EM technology is hailed as something that will bring about a new industrial revolution.The principle of the technology is very simple: Oxidation breaks down everything on earth, but is prevented by the work of antioxidizing substances formed in EMs. The application of this principle could not have been thought of no matter how much the knowledge of modern science as based on the law of entropy was extended. A good idea occurs when you get your thinking on a different track, see the natural phenomena as they are and study them multidimensionally.
著者
佐々木 一希 新明 美佳
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.487-493, 2017-11-30 (Released:2017-12-20)
参考文献数
4

右変形性股関節症の治療のため入院となった81歳の女性に,人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty:以下THA)が施行された。術後は順調に回復し,T 字杖歩行が可能となった。術後9 病日で地域包括ケア病床へ転棟し,午前と午後の2 回(計4 単位)のリハビリテーション(以下リハ)を実施。術後22病日に右膝鵞足部痛が出現。リハビリテーション栄養(以下リハ栄養)アセスメントを実施し,加齢と摂取エネルギー不足によるサルコペニアを認めた。栄養管理と体重増加後のレジスタンストレーニング(以下RT)を実施し,鵞足部痛消失とT 字杖歩行を再獲得することができた。患者の病棟内の活動量,体重,食事摂取量などの栄養管理を含め,多職種との関わりを密にすることは,患者のADL の拡大や生活の質(Quality of Life:以下QOL)の向上に必要だと考える。
著者
岩月 奈都 久保田 勝俊 山本 喜之 中根 久美子 粕谷 法仁 植田 祐介 鈴木 和人 花之内 基夫
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.41-44, 2015 (Released:2015-07-10)
参考文献数
3

近年, HBs抗原陰性, HBs抗体もしくはHBc抗体陽性者のB型肝炎ウイルスが, 再活性化されることにより引き起こされるdenovoB型肝炎の重症化の報告がなされている。免疫抑制・化学療法患者が発症するdenovoB型肝炎は, 医療訴訟にまで発展することもあり, その対策として, 2009年1月に厚生労働省より『免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン』が公表され, 2013年には日本肝臓病学会より『免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン (改定版)』(以下ガイドライン) が公表され, 各施設での対応が急務とされている。当院でも, 化学療法委員会で協議され, 医療の安心・安全及び迅速化を提供するためHBc抗体の院内測定を実施することとなった。 調査期間中, HBc抗体が測定された理由は, 化学療法対象患者並びに免疫抑制剤使用患者, 輸血前感染症検査, ウイルス性肝炎検査であった。当院においても, ガイドラインに適応する症例は218例中15例あり, 通常の感染症スクリーニングでは見つけることの出来ないHBs抗原陰性かつHBc抗体陽性の患者は決して少なくない結果となった。 今後も免疫抑制・化学療法の対象患者は増加することが予想されるなか, 安心・安全な医療の提供の為にもガイドライン遵守の必要性が示唆された。
著者
竹増 まゆみ 梶谷 真也 徳本 和哉 要田 芳代 川上 恵子 只佐 宣子 堀川 俊二 福原 和秀
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.904-908, 2013-03-31
被引用文献数
1

急性薬物中毒患者が搬入された際には,薬剤師が中毒原因物質に関する情報を迅速に収集し,個々の症例にあった適切な情報と治療方法を医師,看護師に提案する必要がある。 今回,ジフェンヒドラミン(以下,DPH)含有軟膏を大量に誤飲した99歳女性の救命治療に対して,胃洗浄を含めた治療方法と,患者の血中DPH濃度を経時的に測定することを提案した。その結果,血中DPH濃度の低下とともに臨床症状の改善が認められ,DPH含有軟膏誤飲例に対して胃洗浄を施行したこと,および血中濃度測定の臨床における有用性が示唆された。
著者
川原田 康
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.515-522, 2022 (Released:2022-02-20)
参考文献数
9

我々は分類不能癌と微小浸潤型腺癌,上皮内腺癌の異なる病理像の三重多発肺癌を経験したので報告する。症例は71歳男性。S状結腸癌術前の胸部CTで両肺の結節およびすりガラス結節(ground glass nodule:GGN)を指摘されていた。増大がなく経過観察されていたが,7年目のCTで左肺下葉の空洞性結節が壁肥厚を来たし悪性の可能性が否定できず。2か月後のCTで急速に増大あり,また左肺門リンパ節も急速に増大し,cT2aN1M0,stage ⅡBと判断した。手術を施行したが,左肺門リンパ節が気管分岐部および左主肺動脈まで浸潤しており,左肺全摘術を行なったが完全切除はできなかった。病理結果から左肺門部腫瘤は分類不能癌,左肺下葉の空洞性病変は微小浸潤型腺癌,左肺上葉のGGNは上皮内癌の結果であり,同時性三重多発肺癌と判断した。本症例では手術が予後の延長には寄与しなかったが,文献的には同時性多発肺癌に対して根治切除を行なうことで良好な予後が得られた症例も報告されている。画像所見から安易に多発肺転移と判断せずに,同時性多発肺癌である可能性も考慮した治療選択が必要であると考える。
著者
永美 大志
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.681-697, 2009-01-30 (Released:2009-04-08)
参考文献数
76

農薬による慢性的人体影響は,神経・精神障害,臓器障害,発癌,出生障害,発達障害など多岐に渡る。今回筆者は,出生障害について,近年の内外の文献を収集し,総括した。 出生障害については,出生児欠損,流産,死産,早産,出生体格の低下,出生性比異常について近年の農業用農薬使用,住居近傍での農薬散布,住居内での農薬曝露,有機塩素農薬残留との関係を検討した報告が欧米を中心に多数あった。それぞれの影響について過半数の報告が関係を認めていた。出生時欠損については,全般について関係が認められた報告が多く,無脳症など特定の欠損についても報告があった。尿道下裂・停留精巣については,DDT類よりはむしろ,クロルデン類,農薬暴露全般との関係が認められていた。 一方,東南アジア,南アフリカで行なわれた,2つの地域における研究からは,農業農薬暴露と出生時欠損,流産との間に強い関係が見出されていた。熱帯・亜熱帯地域の発展途上国では,農薬用防護具の使用が,気候的にまた経済的に困難であり,農薬暴露が多いことも推察され,これらの知見を検証する疫学研究が求められる。同時に,低毒性農薬への移行,農薬暴露の低減のための施策,活動も求められよう。さらには,欧米でも都市部および農村部の低所得マイノリティーについて,有意な危険度がみられているようで,農薬による人体影響についても社会経済的な因子が重要と推測された。 残念ながら日本国内では疫学的研究が極めて少ないのが現状である。出生障害は,農薬のヒトへの影響の中でも重要な位置を占めると考えられ,農村医学会として取り組むべき課題の一つといえよう。また,東南アジア地域における農薬曝露と慢性影響の疫学調査,低毒性農薬への移行,農薬暴露を低減させる活動が推進されるために,日本農村医学会も貢献すべきであろう。
著者
萬田 芙美
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.1045-1052, 1991-01-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

オクラ栽培に起因する皮膚障害について, 鹿児島県南部のオクラ栽培地帯における実態を現地調査した。オクラ栽培作業者89名のうち48名 (53.9%) がオクラによる皮膚障害を経験している。障害部位は, 腕 (43.8%), 手背 (35.4%), 首 (33.3%), 手指 (29.2%) など皮膚の露出部位に生じやすい。症状は, 収穫作業時は主に掻痒 (85.4%), 発赤 (45.8%) であり, 袋詰作業時は掻痒 (66.7%) のほか, 手指の指紋消失 (50.0%) や亀裂 (50.0%) がみられる0これらは, 適切な予防措置を講じない場合にはほぼ全員に発症し, またその発症は作業開始後まもなく出現する。オクラ爽果成分の皮膚貼付試験では, オクラ群 (12.4%) が非オクラ群 (3.4%) に比べ陽性率が若干高い傾向がみられた。これらの成績から, オクラ栽培に伴う皮膚障害は主にオクラの一次刺激作用によるものと考えられるが, オクラ成分によるアレルギー性接触皮膚炎の可能性も示唆された。
著者
柏木 慎也 相沢 充 黒佐 義郎
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.376-380, 2006 (Released:2006-12-26)
参考文献数
6

近年,手術創管理に関して,ガーゼドレッシング以外の方法がいろいろ開発されてきている。ダーマボンド®は,シアノアクリレートモノマーが水分を重合開始剤として短期間のうちに重合し,ポリマーとなり,硬化することを利用した合成皮膚表面接着剤である。整形外科領域の手術創に対してダーマボンド®を塗布することにより創管理に良好な結果を得たので報告する。対象は当科にて2001年6月から2002年5月までに行なった20例。方法は閉創の際に皮下縫合した後,創上にダーマボンドを3層で塗布する。結果は全例において創感染,創離開,出血,発赤などは見られなかった。特に副作用は認めなかった。関節可動部に使用しても問題は生じなかった。ダーマボンド®を3層塗布することによって,通常の皮膚縫合の3分の1の強度を得られる。ダーマボンド®が硬化したあとは水分を通さないので新たな細菌感染は生じない。術後早期の入浴も可能である。単価は1本2,300円。これまでに術後出血等の問題は起きていない。最近増加傾向にあるDay Surgeryにおいて十分使用可能と思われる。今後日本の医療体制が治療費の包括医療の方向へと向かって行くと,Day Surgeryが主流となり,それに対しても有効なドレッシングの方法であると思われる。ダーマボンド®の応用例としては外科や婦人科領域における腹腔鏡下手術,甲状腺手術,顔面の手術などがある。ダーマボンド®を使用することにより整形外科領域での手術創管理に対して良好な結果を得たので報告する。
著者
吉峯 宗大 瀬山 厚司 菅 淳 村上 雅憲 林 雅規 井上 隆 松並 展輝 守田 知明
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.468-474, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
13

マムシ咬傷の治療に関するガイドラインは存在せず,臨床現場においては治療方針に迷うことが少なくないと推測される。そこで,当院で2007年から2016年までの10年間に経験した67例を用いて治療内容や予後について検討した。男女比は35:32,年齢は16歳から86歳(平均68歳)で,60歳以上が79%を占めていた。受傷時期は7月から9月に56例(84%)が集中し,受傷場所は田畑が28例,自宅が26例と多く,受傷部位は全て四肢であった。49例にマムシの目撃があり,目撃のない症例では臨床症状から診断した。受傷直後から著明な血小板減少を呈し重症化した「血小板減少型」の1例を除いた66例について検討した。全例に入院加療が行なわれ,平均入院日数は6.8日であった。腫脹範囲が大きい症例ほど入院日数が有意に長かった。3例が腎機能障害を合併し,そのうち1例が死亡した。腫脹がピ―クに達するのは平均21.8時間後,CPK値が最大となるのは平均2.6日目であり,初診時に軽症であっても数日間の経過観察は必要であると考えられた。マムシ抗毒素は28例に投与されたが,投与の有無では入院日数に差を認めなかった。しかし,より重症の症例にマムシ抗毒素が投与されていること,腎機能障害を合併した3例の中,死亡した1例を含む2例にはマムシ抗毒素が投与されていなかったことから,重症例にはマムシ抗毒素の投与が必要であると考えている。また当院で経験した非常に稀な「血小板減少型」の1例についても報告する。
著者
林 紋美 横田 素美
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.122-132, 2022 (Released:2022-08-26)
参考文献数
29

本研究の目的は,糖尿病看護に携わる看護師が抱く,患者と看護師の関係に対する思いとコントロール不良な糖尿病患者に対する思いを明らかにし,その関係を探索することである。看護師10名を対象に半構成的面接を実施し,質的帰納的に分析した。患者と看護の関係に対する思いは5つ,コントロール不良な糖尿病患者に対する思いが6つ抽出された。看護師が,患者と看護師との関係に対して【看護師の指導を受け入れて欲しい】【自分が傷つく患者には関わりたくない】【患者や医療者から看護師としての自分を評価されたい】という思いを抱いていると,コントロール不良な糖尿病患者へ【糖尿病はコントロールできる】や【病状悪化は患者の責任】【コントロール不良な患者への看護は虚しい】という思いを抱いていた。また【患者を尊重したい】や【真摯な姿勢は患者に伝わる】という思いを抱いていると,コントロール不良な患者に対して【良い方向へ変化して欲しい】や【糖尿病を抱えることは大変】という思いを抱く反面,繰り返される入退院の現実を前にすると【患者の気持ちが分からない】という思いを抱いていた。看護師が患者を尊重する思いを持ち続けることが,コントロール不良な患者を看護することにおいて重要な要素になると考える。
著者
村上 穣 小松 裕和 高山 義浩
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.18-23, 2011-05-30 (Released:2011-08-18)
参考文献数
12

本邦ではいまだ感染症科のない医療機関が多く,そうした医療機関では院内感染への対応は各科の担当医師に委ねられている。とくにカンジダ血症のような重篤な感染症では必ずしも適正な診療が行なわれていないことが考えられる。我々は感染症科のない地域基幹病院である佐久総合病院において,2004年から2008年までに血液培養陽性でカンジダ血症と確定診断された全43例を対象に,カンジダの菌種,背景因子,治療の内訳,合併症,予後,米国感染症学会 (IDSA) ガイドラインの遵守率についてretrospectiveに検討した。カンジダの菌種はCandida albicansが最多であった。背景因子としては患者の84%に抗菌薬が投与され,79%に中心静脈カテーテル (CVC) が留置されていた。経験的治療としてはfosfluconazoleとmicafunginがそれぞれ35%を占めていたが,23%の患者は抗真菌剤が投与されていなかった。CVCが留置されていた34例中,診断後に抜去されたのは23例であった。カンジダ眼内炎の検索目的で眼科紹介が行なわれたのは42%であった。IDSAガイドラインの遵守率は42%で,カンジダ血症発症から28日後の死亡率は33%であった。本調査結果により当院ではカンジダ血症の診療について課題が多いことが明らかになったが,このような状況は感染症科のない地域基幹病院の一般的な現状と考えられる。今後はカンジダ血症に対するガイドラインに沿った適正な診療が行なわれる体制を,感染症科のない地域基幹病院でも定着させてゆくことが必要である。
著者
石塚 仁保 寺原 史貴 松木 有莉 櫻田 啓介 中村 裕一 鈴木 千波 小原 秀治 小原 郁司
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.48-56, 2020 (Released:2020-07-16)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

薬剤師はスペシャリストとして求められる領域が拡大しているが,認定・専門薬剤師のキャリアパスに関連する意識調査は少ない。本研究では,JA北海道厚生連札幌厚生病院の全薬剤師(37名)を対象とし,キャリア形成と資格取得・研究活動に関する意識調査を行なった。Googleフォームによる無記名,選択肢および記述回答式の調査を実施したところ,有効回答率は100%であった。キャリアパスに関する設問では,現在重視している業務と将来重視したい業務を比べた際,「幅広い経験・知識・技能を習得する」を選択した割合は前者で多く,「専門領域の経験・知識・技能を深める」と「認定・専門薬剤師の資格取得」を選択した割合は後者で多かった。このことから,現在は幅広い経験・知識・技能の習得を重視し,将来においては専門性を深めていきたいと考えていることが推測された。認定・専門薬剤師に関する設問では,資格取得を志す理由として「関連する分野への興味」が最も多く選択されており,専門分野への興味が資格取得の最も大きな動機になることが考えられた。研究活動に関する設問では,「日常業務との両立」や「研究時間の確保」,「研究メンバーとの連携」が研究活動を行なううえで困ったこととして多く選択されていた。このことから,時間の有効活用,さらに周囲との連携等も必要になることから,時間の確保とスケジュール管理が重要になることが考えられた。