著者
谷口 奈穂 桂 敏樹 星野 明子 臼井 香苗
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.91-105, 2013 (Released:2013-10-09)
参考文献数
36
被引用文献数
10 2

地域在住の高齢者のQOLを健康関連及び主観的QOLの両側面から評価し,その関連要因を前期高齢者と後期高齢者で比較した。2009年,京都府K市の老人クラブの929人に質問紙調査を実施し,596人を分析対象とした。調査項目は基本属性,健康状態,生活習慣,社会的交流,QOL (PCS,MCS,LSIK) で,多変量解析等を行なった。前期高齢者において,QOLの上昇要因はPCSでは主観的健康感や外出頻度等,MCSでは性別や隣人と挨拶をする頻度,LSIKでは経済的なゆとりや睡眠時間であり,低下要因はPCSでは腰痛や隣人と手助けを依頼し合う頻度等,MCSではGDSや個人活動等,LSIKではGDSやしびれ等であった。後期高齢者において,QOLの上昇要因はPCSでは主観的健康感,MCSでは心疾患,LSIKでは経済的なゆとりであり,低下要因はPCSでは腰痛や心疾患,MCSではGDS,LSIKではGDSや腰痛等であった。高齢者のQOLを高める支援では,健康を高めること,抑うつ及び腰痛の予防的な対応や緩和を促す必要があると推察される。
著者
古賀 佳代子 木村 裕美 西尾 美登里 久木原 博子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.634, 2020 (Released:2020-03-06)
参考文献数
24
被引用文献数
3

地域包括支援センター(以下,地域包括)は,業務量の過大や職員不足,離職問題等が報告されており,保健師,社会福祉士,主任介護支援専門員それぞれの専門性が発揮できていない。保健師も保健師間相互の連携の希薄さ等を実感し今後の保健活動への懸念を感じている。本研究では,地域包括保健師の研修教育体制を確立するための基礎資料の示唆を得るために,専門性を明らかにすることを目的とした。A県内の地域包括に所属している経験年数3年以上の保健師8名を対象とし,テキストマイニングKH Coderで分析した。その結果,「相談を受け,関係性を大事にし,判断する能力」,「認知症高齢者や精神疾患,医療的知識,在宅生活を知ることが必要」,「介護予防事業の支援」,「保健師が訪問やサロンに行って皆と一緒に活動」,「地域で包括的に保健指導等の活動が求められる仕事」の5クラスターが抽出された。専門性を発揮するためには,保健師,社会福祉士,主任介護支援専門員の3職種それぞれの専門性を活かしてチームアプローチを包括的に支援することが望ましい。また,教育体制として,ビジョンを立てることや相談できる人・スーパーバイズの必要性,キャリアパスの「見える化」を整備することで,地域包括の機能がさらに発揮できると示唆を得ることができた。
著者
三ツ木 愛美 角山 智美 深谷 悠子 小林 美幸 大野 美津江
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.90-93, 2009-07-30 (Released:2009-09-18)
参考文献数
2

現在,育児環境が変化し父親の役割が重要視されている。NICUにおいても父親の愛着形成に向けて育児練習やカンガルーケアへの参加などを積極的に行なっている。しかし,NICUでは面会時間が限られているため,仕事をもつ父親は母親に比べ育児練習への参加が少ないのが現状である。今回,入院時から退院時までの父親の対児感情の変化を花沢の感情得点を用いて点数化することによって,入院中の児へのかかわりやケアへの参加の内容が,父性発達にどのような影響があるのかを明らかにすることを目的とした。その結果,全例で接近項目得点は増加しており,特に抱っこを行なうことで父親になったと実感した例が最も多く,父親実感を得る上で重要であったと考えられた。また,退院に近づくにつれて「こわい」「むずかしい」といった回避得点が増加した例もみられた。これは退院後の生活に不安を抱いた低出生体重児の父親にとって当然の感情であると思われる。 今後は個々の父親に合ったケアを取り入れ父親と児が心地よいと感じる環境を整えることが必要であると考えられた。
著者
黒部 恭史 牛山 直子 百瀬 公人
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.95-103, 2021 (Released:2021-09-16)
参考文献数
23

本研究の目的は,1)歩行練習開始日の総歩行距離と退院時の歩行再獲得の関連を明らかにすること,2)各要因(年齢,骨折型,術式,認知機能障害,受傷前の歩行能力)と退院時の歩行再獲得の関連を明らかにし,退院時の歩行再獲得と有意な関連があった要因間で予測精度を比較すること,3)年齢,骨折型,術式,認知機能障害,受傷前の歩行能力が歩行練習開始日の総歩行距離に違いをもたらすかを明らかとすることである。受傷前に歩行が自立していた65歳以上の高齢者を対象とした。診療録から年齢,骨折型,術式,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(The revised version of the Hasegawa Dementia Scale;HDS-R),受傷前の歩行能力,歩行練習開始日の総歩行距離,退院時の50m歩行獲得の可否を調査した。二項ロジスティック回帰分析を用いて退院時の50m歩行再獲得の可否と各要因の関連を調べた。退院時の50m歩行再獲得の可否と有意な関連が認めた要因はAUCを算出し比較した。また,各要因を2群間に分類し,歩行練習開始日の総歩行距離の比較を行なった。退院時の50m歩行再獲得の可否と有意であった要因は歩行練習開始日の総歩行距離,年齢,受傷前の歩行能力であった。予測精度は要因間で有意差はなかった。歩行練習開始日の総歩行距離の比較で群間で有意差を認めた要因は,年齢,認知機能障害,受傷前の歩行能力であった。以上より,歩行練習開始部の総歩行距離は退院時の歩行機能と関連があることが示唆された。
著者
永美 大志 八百坂 透 前島 文夫 西垣 良夫 夏川 周介
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.109-112, 2012-07-31 (Released:2012-11-21)
参考文献数
14

本学会関連の一施設から,某中学校において集団有機リン中毒発生の報告があり,患者を受け入れた地域の4医療施設を対象に調査した。 7月下旬,学校関係者がアリの駆除のため,有機リン系殺虫剤メチダチオン40%製剤の原液を,10時から11時の間に校舎近くのアリの巣に散布した。付近の教室内にガスが流入し,中学生たちが自覚症状を訴えて,昼ごろから16名が4病院に搬送された。 患者の訴えた症状は,「頭痛」13名,「吐気・嘔吐」11名,「めまい」4名などであった。うち1名は2回嘔吐した。コリンエステラーゼ活性値,瞳孔径および対光反射は,いずれも正常範囲内であった。3名が経過観察のため入院したが全員治癒し後遺症は見られず,軽症に止まったものと考えられる。 しかし,劇物である有機リン殺虫剤の原液を,そのまま中学校の教室付近で散布したことは,厳に戒められるべきであり再発防止が図られる必要がある。
著者
小林 真弓 小貫 琢哉 稲垣 雅春 西田 慈子 高木 香織 佐川 義英 中村 玲子 尾臺 珠美 藤岡 陽子 市川 麻以子 遠藤 誠一 坂本 雅恵 島袋 剛二
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.56-60, 2015 (Released:2015-07-10)
参考文献数
19

〔緒言〕月経随伴性気胸 (Catamenial Pneumothorax, 以下CP) は胸腔内子宮内膜症の一種であり, 詳細な病態や標準治療は明らかではない。診療科をまたぐ疾患であり, 呼吸器科医と婦人科医の連携が必要となる。今回, 当院で経験したCP症例の臨床経過を検討した。 〔方法〕1989年1月から2014年8月の間に当院で気胸に対して胸腔鏡下肺手術が施行された症例のうち, 病理学的に肺・胸膜・横隔膜のいずれかに子宮内膜症を認めた8例を対象とし, 臨床像,治療を後方視的に検討した。 〔結果〕発症年齢中央値は37歳。8例中7例 (87.5%) が右側発症であった。骨盤内子宮内膜症の検査をした例が6例, うち5例が骨盤内子宮内膜症を有していた。手術後からの観察期間中央値は33.5か月。8例中6例が術後気胸再発, うち2例はジエノゲスト内服後の再発であった。いずれの症例もジエノゲスト内服またはGnRHa・ジエノゲストSequential療法で再発を防ぐことができた。 〔結語〕気胸は緊急で脱気等の処置が必要であり再発防止には治療薬服用の高いコンプライアンスが求められる。GnRHa投与症例では術後再発を認めておらず, 術後薬物療法としてGnRHaまたはGnRHa・ジエノゲストSequential療法が望ましいと考える。ただし, ジエノゲストのみで再発しない症例もあり, 治療法の選択に関してさらなる症例の集積が必要である。
著者
小林 孝 阿部 栄二 阿部 利樹 菊池 一馬 木下 隼人 木村 竜太 村井 肇 小西 奈津雄 岡本 健人 井野 剛志 大屋 敬太 福井 伸
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.26-30, 2019 (Released:2019-07-20)
参考文献数
5

増え続ける高齢者肺炎の過重な負担で疲弊していく呼吸器内科医師の負担を減らすため,当院では2010年2月より高齢者肺炎症例を全科で分担して診療している。今回,このような状況で整形外科医が行なった肺炎治療の成績を他科での治療成績と比較し,当院のシステムの検証を行なった。2017年11月1日から2018年10月30日までに当院に肺炎のため入院した70歳以上の症例を対象とした。データベースから肺炎の患者を抽出し,これらの症例の転帰,入院日数を科別に比較・検討した。上記期間内に当院に入院した372例を対象とした。年齢は平均85.6歳(70歳~100歳),男214人,女158人,平均在院日数は20.7日(1~107日),288例が軽快して退院したが,84例(29.2%)が死亡退院していた。CAPは143人,NHCAPは229人で診療科間で差はなく(ピアソンカイ二乗検定,p=0.19),A-DROPで評価した重症度にも診療科間で有意差は認めなかった(ピアソンカイ二乗検定,p=0.25)。整形外科入院患者数は30人,年齢は平均86.1歳(71歳~99歳),在院日数は平均19.1日(1~107日)で,27人は軽快して退院したが3人(10.0%)が死亡退院していた。平均在院日数を診療科間で比較すると有意差を認め(ANOVA,p=0.0001),t‒テストを用いたペアワイズ比較では,循環器内科と外科(p=0.03),腎臟内科と脳神経外科(p=0.01),腎臟内科と外科(p=0.0005)の間で有意差を認めた。転帰を診療科間で比較したが有意差を認めなかった(ピアソンカイ二乗検定,p=0.15)。医師の偏在と医師不足の状況下で増え続ける高齢者肺炎に立ち向かうため,専門外の全科が連携して肺炎治療にあたることが重要である。
著者
西川 真太郎 関村 敦 楠 弘充 佐藤 圭樹 横山 敏之
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.101-107, 2022 (Released:2022-08-26)
参考文献数
14

新型コロナウイルス感染症は,その変異株により病原性に変化があるとされている。当院に入院した患者208例を対象とし,その重症度や治療方法,転帰などから,変異株の病原性の変化について検討した。入院中の最大重症度は,第4波,第5波において中等症Ⅰ,Ⅱが増加し,重症は減少する傾向にあった。傾向スコアマッチングでの比較においても,やはり中等症Ⅰ,Ⅱは有意に増加していた。
著者
白石 卓也 千村 洋
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.285-290, 2016-07-31 (Released:2016-09-24)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

ウォーキングに関しては高齢者においても健康増進につながる目標値が明らかとなっているが,高齢者は加齢に伴う身体機能の低下や基礎疾患等の理由のため目標を達成できない場合がある。しかし,目標達成有無における高齢者の心理機能への影響を報告した研究はほとんどない。今回,高齢者を対象に,歩数と活動量を指標として目標設定したウォーキングによる運動介入を行ない,その介入が高齢者にどのような心理機能の変化を及ぼしたのか検討した。対象は,平成27年7月から24週間継続してウォーキングによる運動介入をうけた高齢者14名(男性5名,女性9名)とした。1日平均歩数8,000歩かつ1日平均中強度活動時間20分という目標を設定し,運動介入を行なった。運動介入前と介入後24週目に心理機能の評価を行ない,その変化を比較検討した。さらに,設定した目標を達成できた群(達成群)8名および達成できなかった群(未達成群)6名に分け,さらに比較検討した。その結果,全対象者,達成群および未達成群の心理機能に介入前後で有意な変化はなかったものの,達成群では心理機能は向上する傾向があり,未達成群では主観的健康感および生活満足度は低下し,うつ評価は悪化する傾向があった。目標設定した運動介入は,目標達成できれば心理機能は向上しうるが,目標達成できなければ心理機能の低下を引き起こし健康増進の阻害因子となりうる可能性が示唆された。
著者
渡邊 正樹
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.383-390, 2023 (Released:2023-03-05)
参考文献数
24

在宅で生活することを望む高次脳機能障害者および家族が,安心して暮らすことができるように,高次脳機能障害者および家族への支援の実態を明らかにし,保健師としての支援の方向性を考察することを目的に本研究を行なった。医学中央雑誌Web(以下,医中誌)により,1983年から2021年において,「高次脳機能障害」「家族」「地域」「支援」をキーワードにそれぞれ組み合わせて検索を行ない,研究目的および「家族」「支援」に着目し,目的に一致した文献16件を対象に分析を行なった。高次脳機能障害者を支える家族の研究は,社会保障制度の不十分さや,支援する関係機関・関連職種の連携の重要性などに関する研究が多く,看護師による研究は,回復期病棟における援助の検討や看護師の困難感,セルフケアを高めるための取り組み,在宅における家族の介護負担感,主介護者である家族亡き後の支援の構築の必要性などの研究が行なわれていた。今後は,市町村保健師による高次脳機能障害者および家族の支援として,介護者である家族の亡き後への不安をはじめとする日常生活における相談窓口としての役割を担うことや,定期的に家庭訪問を実施することによる心配・不安への早期対応,地域に在職する関係職種と連携・協働などの体制を構築するためのコーディネーターとしての役割を担い,その状況に応じて支援できるように支援の全容を把握し,支援体制を整える必要があると考える。
著者
大野 恵美子 高橋 尚見 浅野 晶子 吉田 弥生
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.134-136, 2002-08-05 (Released:2011-08-11)
参考文献数
4

小児は発熱した場合でも, 母親に抱かれていたり活発に遊んでいたりして, ベッドに横になれずクーリングも行えない事が多い。そこで, 横になれなくても行えるクーリング方法につき検討をした。1歳から3歳を対象に, 背部クーリングを目的にリュックサックとベスト, 腋下クーリングを目的にぬいぐるみ型で保冷剤カバーを作成した。これらを母親に選択してもらい実際に使用した結果, リュックサックとベストの背部クーリングが, 嫌がらず長時問行え, 解熱効果も65%の患児にみられたなど, 有効であるという結果となった。母親からも行動を妨げない, 患児の目に見える所に何もないから良いなど好評であった。
著者
藤川 君江 林 真紀 上里 彰仁
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.344-353, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
20

本研究は,総務省が指定する過疎地域のうち東北地方,関東地方,四国地方,九州地方,の5町村で暮らす,75歳以上の1人暮らし男性を支えている心理・社会的要因を明らかにすることを目的とした。調査対象者は,自己選択・自己決定が可能でコミュニケーションに障がいのない,1人暮らし男性21人であり,調査方法として半構成的面接を行なった。分析は,内容分析の手法を用いた。分析の結果,1人暮らしを支えている心理的要因は,【生活のなかで見つけた生きがい】,【時間に捉われない気ままな生活】,【根付いた土地での生活】の3つのコアカテゴリーが抽出された。社会的要因は,【子との関係性変化を受容】,【地域コミュニティの絆】の2つのコアカテゴリーが抽出された。 調査地域は,人口減少と高齢化率の上昇によりコミュニティが縮小している。そのため,地域住民で支えあうことは限界があり,社会的に孤立する可能性がある。対象者が身体的衰えを自覚し,老いと向き合わなければならないとき,メンタルヘルスを維持することが,1人暮らしの継続に大きく影響すると考える。本人が望む地域で最期まで暮らし続けるためには,こころのケアができる専門職と行政が連携し,メンタルヘルスを支えるサポート体制の構築の必要性が示唆される。
著者
安藤 満
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.55-63, 1990-07-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
10

現在, 南極大陸上空を中心に成層圏オゾンの枯渇 (オゾンホール) の拡大が観察されており, 地球全域でのオゾン減少による紫外線B照射の増大が危倶されている。紫外線B照射によって, 雪盲, 白内障, 皮膚癌のような種々の障害が引き起こされる一方, ある種の感染症に対する免疫能が低下する。非黒色腫の基底細胞癌と有棘細胞癌は, 明らかに紫外線B照射量との関係が強い。悪性黒色腫も少なくとも一部は, 紫外線B照射と関係がある。アメリカ合衆国における調査では, 高緯度から低緯度になるにしたがい, 紫外線B照射が強くなり, 黒色腫を含む皮膚癌の発生率が高くなる。数量的予測は困難であるが, アメリカ合衆国の疫学データーから, UNEPとWHOは1%の成層圏オゾンの減少により白内障が0.3%から0.6%, 基底細胞癌が2.7%, 有棘細胞癌が4.6%, 悪性の黒色腫が0.6%増加すると予想している。このため, 紫外線B暴露量との関連で皮膚癌の発生率の検討を世界各国で行なう必要がある。さらに, 紫外線B照射の増大が免疫を抑制し, 感染症の発症に関与する可能性について充分な検討が必要である。
著者
八木 遥 山本 義貴 臼窪 一平 中村 友香 下山 あさ子 東 修司 田畑 裕和 稲垣 育宏 小寺 隆二 柴波 明男
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.490-495, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
9
被引用文献数
1

入院患者は睡眠障害を生じる事が多く,睡眠薬の服用が必要となる事例は少なくない。現在わが国で用いられている睡眠薬はベンゾジアゼピン受容体作動薬が多いが,筋弛緩作用や持ち越し効果などから転倒に至る危険性がある。従来の睡眠薬と異なる作用機序を持つオレキシン受容体拮抗薬(ORB)は筋弛緩作用を持たないとされており,安全面に優れていると考えられている。そこで,入院中に内服した睡眠薬の作用機序毎の転倒率を調査した。2017年4月1日~2017年12月31日で当院において転倒・転落があり,ORB,ベンゾジアゼピン系薬(BZD)及び非BZDを服用していた入院患者を対象とした。また,転倒発生前に各薬剤を服用していた患者を群分けし,転倒率を算出し比較した。対象患者のうち調査期間内の睡眠薬全処方人数は1,682人であり,全転倒件数は45件であった。睡眠薬の分類における転倒率は3群のうちORB群による転倒率が1.45%と最も低く,BZD群と比較して有意に低かった事から,ORBは転倒へ与える影響が小さい可能性が示唆された。また,非BZD群の転倒率においてBZD群と比較して有意に低かった事から,転倒予防についても考慮しBZDよりも非BZDを使用する事が望ましいと考えられた。また,転倒事例の患者に高齢者が多かった事から,転倒の危険因子を多数保有している患者が多かったと考えられ,睡眠薬を使用した事で転倒の危険性が増大した可能性がある。
著者
高橋 俊明 井根 省二 竹内 雅治 伏見 悦子 関口 展代 木村 啓二 林 雅人 斉藤 昌宏 高橋 さつき
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.749-754, 2003 (Released:2005-03-29)
参考文献数
15

1995年から2001年の6年間に4例の劇症型心筋炎 (男2例, 女2例, 年齢21~67歳) を経験した。診断は臨床症状, 心電図, 心エコー所見などから総合的に行い, 3例では病理学的に確定診断された。4例全例が発熱などの感冒症状で発症し, 1例は心肺停止で来院し, 蘇生できなかった。残り3例は初発から5~7日後にショック状態で入院し, 一時ペーシング, カテコラミン, ステロイドパルス療法, そのうち1例では経皮的心肺補助 (PCPS) を導入したが, 3例とも入院1~10日後死亡した。心電図では心室調律, 異常Q波, ST上昇, 低電位を呈した。血清酵素の著明な上昇, 代謝性アシドーシス, DICは予後不良の徴候と考えられた。劇症型心筋炎の救命のためには, まず本症を早期に的確に診断すること, そして積極的に補助循環を導入し, 急性期を乗り切ることに尽きる。
著者
立石 遥子 菅原 望 園田 浩生 藤巻 哲夫 杉山 雅也 埜村 智之
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.509-514, 2017-11-30 (Released:2017-12-20)
参考文献数
10

65歳男性。来院1か月前から咳嗽が出現し,当院内科を受診した。画像にて右多房性胸水を認め,胸水は滲出性であった。膿胸,結核性胸膜炎,入院中に関節リウマチと診断されたことからリウマチ性胸膜炎などを疑った。抗生剤投与と胸腔ドレナージを行なったが,多房性のためドレナージ効果が不十分であった。胸水所見に有意所見無く,病状も改善乏しいため治療診断目的に胸腔鏡下右胸膜剥皮術,胸膜生検を施行した。 病理では好塩基性の変性と壊死が非常に目立つ組織で,リンパ球などの単核細胞の浸潤も認められ,非特異的慢性炎症の所見であった。全身ステロイド投与にて速やかに病状が軽快した事から臨床経過と合わせてリウマチ性胸膜炎と診断した。リウマチ性胸膜炎が疑われるが,膿胸との鑑別に苦慮する場合は,胸腔鏡下胸膜生検を積極的に行なうのが望ましいと思われた。
著者
佐々木 明 山瀬 裕彦
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.41-46, 1996-05-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
9

学校管理下生徒突然死は, 毎年全国で100~150件報告されており, 人口200万人の岐阜県内では年間1~2件と推定される。人口4万人の瑞浪市では最近10年間に3件発生しており, 人口比からするとかなり多い。第1例はMarfan症候群による大動脈瘤破裂, 第2例は脳幹部出血, 第3例はWPW症候群に関連した致死的不整脈であった。突然死予防のための対策は, つぎのように要約される。(1) 学校と病院との連絡を緊密にすること。(2) 心臓疾患管理基準の見直しを行なうこと。およびUCG, ホルター心電図, トレッドミルによる心電図を検診に加えて, 危険度の高い生徒を発見すること。(3) 事例の60%は心臓疾患による。しかし40%は中枢神経系の異常や気管支喘息などによるものであり, これらにも充分注意を払うこと。
著者
若月 俊一
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.613-619, 1995-11-30 (Released:2011-08-11)

農薬の生体影響の国際的評価では, カリフォルニア州食品農業局の農薬作業による中毒事例の報告と, 日本の人口動態統計調査を対比し, 評価・検討を行なった。その結果, 従業中の中毒例はカリフォルニア州が多かったが, 死亡例は日本が多く, 重大な健康障害が発生していることが判明した。有機農法と慣行農法で生産された農産物 (ニンジン, ホウレンソウ, 米) に含まれるビタミンやミネラルを測定しその違いを調べた。その結果, ニンジンと米ではNとMnが有機農産物で有意に低く, ホウレンソウではP, Mg, Cu, Zn, Bの含有量が有意に高かった。また, 化学肥料使用の土と有機農法の土の保水力や保肥力を実験的に調査した。その結果, 有機農法の土が両方とも強かった。一般に有機農業実践者は, 緑黄野菜や有機農産物を多く摂る機会があり, その結果, ガン予防に関連の深い血中カロチンが高くなると考え, 血中カロチン濃度を農村住民約500人について測定した。男女ともカロチンを多く含む芋類や乳製品の摂取と血中カロチン濃度に明らかな相関が認められたが, 農薬散布者と非散布者では特に血中カロチン濃度に差は認められなかった。有機農業者の健康調査では, 健康や節制に気を使い, 異常なし, 心配なしが多かった。富山県の1988~92年の農薬中毒90例の検討では, パラコートによる自殺例は減少傾向にあった。また, 富山県と中国の河南省の2県の農薬中毒の実態を比較した。中国の特徴は中毒年齢が低い, 死亡率は低い, 水や食品に残留した農薬によって中毒が発生しているなどであった。農業従事者における有機リン系農薬の生体影響を血漿男コリンエステラーゼと腎尿細管機能を指標として検討した。その結果, 尿中BMGが農薬使用者に高く, また, 急性有機リン中毒患者では腎尿細管の機能障害が起こっていた。有機リン系殺虫剤の大量暴露を受ける白蟻駆除作業者では対照群よりSCE頻度が有意に増加し, 有機リン系殺虫剤の変異原性が指摘された。また, リンパ球サブセットでは, 農作業者と白蟻駆除作業者の免疫担当細胞の減少が対照群より有意に認められた。農業化学物質の有機塩素剤人体内残留は, 母乳, 血液, 脂肪組織で依然と続いており, その残留値はいずれもここ数年横這い状態である。アセフェートと他の2種農薬による相乗作用効果を動物実験で調べると, アセフェート添加群でChE活性が低下し, 病理組織学的には, 3種混合でもっとも強い変化が肝臓と腎臓に認められた。