著者
西尾 友三郎 菅 修 元吉 功 加藤 伸勝 後藤 彰夫 皇 弘 立津 政順 長坂 五朗
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.688-703, 1972-08-15

西尾(司会) 本日はご多忙のところお集まり下さいましてたいへん有難く存じます。このテーマで座談会を開くについては,その主旨があるいは充分に諸先生に通じていないかとも思われますので,念のためこうなりました経緯をあらためて申し上げます。 実はこれには昨年急逝された江副先生が亡くなる少し前に「今度精神病院のあり方というような特集をしたら」という発言をされたことがあったそうなのです。私たまたまその席におりませんでしたが,亡くなられてから追悼文掲載などの話があったときに前述の江副発言が編集委員会で話題にのぼったのです。たまたま,なにしろ急逝でしたので追悼文についても,もっと何人かの人にお願いしたらというような緊急提案もあったのですが,あまり何人もの追悼文を入れてもかえって変則になるし,時機を見て江副言行録などを含めたなんらかの座談会などをやった方が有益ではないかということになり,そこで江副先生の生前の前述の提案が再び浮かび上がってまいりました。さて,そのような段階で,江副案をストレートに企画するかどうかという論議になり,結局現在の時点で「精神病院のあり方」の座談会の企画をする前に,すでにいくつかの断片的には出ています,現在までの精神病院のたどってきた経過を戦争を中心にしてまとめてみる方が先ではないかということになり,そこで表題のような変わった座談会をすることになった次第なのです。すでに昭和33年に江副・臺両氏が,昭和20年前後の松沢病院の情況報告を精神経誌に発表しておりますが,今回は松沢病院のみならず,もっと広く,そしてもっと多角的に話題を出していただくことを期待しているわけです。前に述べた江副先生の追悼文掲載などについて私も発言したりした関係上,今回の座談会の司会を私がさせられることになってしまいました。なにぶんよろしくお願い申し上げます。ご出席願った先生方は,イ)昭和20年より大分前から太平洋戦争を通して戦後混乱期あるいはその後まで精神病院で活躍されていた先生,ロ)戦争頃からおられた先生,ハ)戦後精神病院に行かれた先生方というえらび方を一つの建前といたしました。
著者
野中 猛
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.p725-733, 1987-07
被引用文献数
1
著者
織田 裕行 片上 哲也 山田 妃沙子
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.783-787, 2011-08
被引用文献数
1
著者
中塚 幹也
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.769-774, 2011-08
被引用文献数
4
著者
柴山 雅俊
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.1293-1300, 2006-12-15

抄録 夢と現実の区別困難について解離性障害の患者53名と対照群57名を対象に調査した。解離性障害にみられる夢と現実の区別困難を,①現実が夢のようである,②夢が現実のようである,③過去の記憶が事実なのか夢なのか判断しがたい,の3つに分類し,それぞれについて精神病理学的観点から論じた。解離性障害では今・ココを起点とするパースペクティヴperspectiveの成立不全が示唆される。それはまたパースペクティヴの起点・要になる私の成立不全をも意味している。同一性の拡散した私は,並立化し等質化した世界の知覚対象や記憶表象,空想表象,夢の表象との1対1の無媒介的・直接的関係を通して深く没入し,没入した世界によってあらためて私が構成されることになる。このような,知覚-表象や現実-夢などの並列化に加え,パースペクティヴの両極構造とそこにおける循環的関係は,解離性症候の基底に存在する病態構造の一つと考えられる。
著者
吉永 真理 佐々木 雄司
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.8-18, 2000-01-15

はじめに 憑依状態は狂気の歴史の中で最も古くから知られているものであり,多くの精神障害に憑依の状態像がみられることは注目すべきことである。症状発現の背景となる宗教・文化的要因への社会精神医学的な関心,特徴的な意識変容の状態像への精神病理学的な関心,あるいは分類や定義に対する診断学的な関心など,様々な視点からアプローチが行われてきた。 シリーズ「日本各地の憑依現象」は本誌「精神医学」40巻2号から41巻4号まで連載され,10編の論文が所収された。表にシリーズに掲載された全論文に関して,対象地域,憑きもの信仰の内容,著者の論点を整理した。地域は沖縄,四国,山陰,近畿,中部,北関東,北海道,および韓国と台湾である。いずれの論文においても,地域・事例固有の問題を浮き上がらせた上で,現代的な文脈における憑依現象に関して,問題提起を行っているものである。憑依の発生は世襲的に継承されて生じるか,あるいは当人の資質や状況に応じて偶発的に生じるかに分かれる。前者には当該家族や世帯,すなわち「筋」や「系」をめぐる差別や偏見の問題が起こる。後者では当人の特異的な心身状態が「病」や「障害」として精神医学をはじめとする現代科学的医療と接点を持つこととなる。そしていずれの場合にも,憑依の背景となる信仰や世界観を共有する人々が存在し,新たな「憑依」を生み出す土壌となっている。こうした問題を本論では以下の3点に整理し,それぞれ考察していく。
著者
渡辺 登 坂井 禎一郎 多田 幸司
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.26, no.10, pp.1120-1122, 1984-10-15

I.はじめに エフェドリン(ephedrine)は気管支喘息治療薬として繁用されるphenylethylamine誘導体であり,覚醒剤(phenylaminopropaneやphenylmethylaminopropane)と化学構造や薬理作用が極めて類似している。そのため,本邦では大量のエフェドリン服用によって覚醒剤中毒と近似した精神障害を呈した症例が現在までに23例報告1〜4,6,9,10,12,13)されている。 立津11)は慢性覚醒剤中毒の精神病状態として最もよく発現するのが,1)躁うつ病様状態であり,次いで,2)分裂病様状態,3)両者の混合状態,4)無欲・疲労・脱力状と述べている。ところが,報告されたエフェドリン精神病に生じた病像のほとんどは幻覚や妄想を主体とする分裂病様状態であり,躁うつ病様状態はなかった。今回,われわれはエフェドリンを主成分とする市販喘息薬である新エスエスブロン液を乱用し躁うつ状態を呈した1症例を経験したので報告したい。
著者
香川 雅信
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1241-1244, 1998-11-15

■犬神の歴史と伝承 犬神は,中国・四国・九州地方にかけて広く信じられている憑きもので,特に四国の徳島県・高知県および九州の大分県において顕著である。一種の動物霊のようなものと考えられていることが多く,小さな犬のような姿をしているとも,鼠のようなものであるとも言われている。犬神はある特定の家筋に代々伝えられるとされ,その家筋のことを「犬神筋」「犬神統」などと呼ぶ。犬神筋(統)の家の者に恨まれたり,妬まれたりすると,犬神に取り憑かれて病気になると考えられている。そのため犬神筋(統)の者との縁組は現在でも忌み嫌われており,重大な社会問題となっている。これとよく似た「憑きもの筋」の俗信は日本の各地に存在するが,山陰地方の「人狐」や関東地方の「オサキ」など,狐系統の憑きものがその家筋に富をもたらすと考えられているのに対して,犬神の場合はそうした性格が希薄である。 歴史的に犬神についての俗信がいつ頃から存在したかは正確にはわからないが,文明4年(1472)に将軍祐筆飯尾常房(常連)から阿波国の三好式部少輔長之にあてて「犬神使い」を捜し出して処罰するよう求めた下知状が出されていることから,室町末期にはすでに存在していたようである。一方,民間には,飢えた犬の首を切ってそれを呪術に用いたのが犬神の始まりとする起源伝承が伝えられている。おそらく,共同体内における何らかの葛藤や対立を背景として,ある家筋を印づけ,あるいは排除するために,邪術師(sorcerer)的なイメージが利用された結果,犬神筋というものが形成されたのであろう。
著者
宇佐美 貴士 松本 俊彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1139-1148, 2020-08-15

抄録 わが国における10代の薬物乱用の実態を調査するために,全国の有床精神科医療施設を対象に実施した病院調査から得られた10代の薬物関連精神障害症例71例を比較検討した。危険ドラッグは2014年調査の48%から2018年調査で0%へと低下し,市販薬は2014年調査の0%から2018年調査で41.2%へと増加し,乱用薬物が危険ドラッグから市販薬へと推移していた。2014年の危険ドラッグ乱用群と2018年の市販薬乱用群を比較すると,学歴やICD-10 F1分類の下位診断カテゴリー,併存障害が異なり,臨床現場において,新たな薬物乱用層が出現していることが示唆された。得られた知見から今後のわが国の薬物乱用防止教育と精神科医療に求められることについて考察を行った。
著者
大原 健士郎 増野 肇
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.3, no.9, pp.775-783, 1961-09-15

はしがき 精神病をのぞく自殺の要因の研究は,すでに数多くの報告がなされているが,心理学的要因の中でも家庭環境的因子は,とくに重要な要因として学者の注目を集めている。すなわちE. Ringelは,精神病をのぞく650例の未遂者の生活歴を検討し,片方または両方の親を12才以前に失つた者は123例(19%)で,とくに孤児が多く,実母の欠損のほうが問題が多い,とのべ,さらに養育上の問題があつた者は92例(14%)で拒絶的態度と過保護的態度が問題として多く,また同胞間に問題が認められた者は164例(25%)であり,ことにひとり子が81例を占めていた,と報告している。L. M. Moss,D. M. Hamiltonは自殺企図例の60%が片親または両親を若いころ(大多数は青春期に,ほかの者は幼小児期)に失つている,とのべた。彼によれば,この期間に40%は父親を失い,20%は母親を失つていた。Palmerは,25例の自殺企図者について連続的に背景因子を観察し,84%の者が両親や同胞の死亡,不在に直面しており,68%の者が14才前に親を失つていた。また,近親者の死亡は25%以上において結実因子となつていた,とのべている。Teicherは統計的にこの成績を支持した。H. J. Walton,J. Mentは憂うつで自殺を企てた60例の患者と憂うつだが自殺は企てなかつた163例の患者を比較し,14才以前に親を失つた者は前者では46例であり,後者では32例であつたと報告し,自殺企図と親の欠損との関連性を強調している。Wall Jamiesonは,自殺した患者について,以前に受診していた病院で家族歴を調べ,自殺者の1/3に家族問題がかなり強く影響していることを認めた。Zilboog,Reitman,Keelerは,長じてからの自殺衝動を幼児期における両親の死に関する感情の問題としてとりあげた。Keelerは,親が死亡したさいに,11人の子供に生じた反応を研究した。すなわち,抑うつ感情は11人全部にあらわれ,両親への強い愛情を示していた。死んだ両親に再会するという空想は,8名がもち,一緒に死にたいとのべた者が7名であつたとしている。Bender, Schilderは13才以下の子供について自殺を研究し,子供にとつて自殺は,耐えがたい環境を逃がれようとするこころみであり,つねに愛情の喪失から生じている,とのべた。わが国でも加藤は,26例の未遂者中,一方または両親を12才以前に失つた者は5例,養育上の問題がある者10例,同胞間の問題が考えられる者5例を認めている。著者らの報告でも自殺企図者で17才以前に両親または片親を失つた者は対照群に比し,有意差をもつて多く,とくに実母の欠損が影響していた。養育者を調べると自殺企図者のほうに,親が小学入学までのめんどうをみなかつた者が有意差をもつて多かつた。青年層における希死念慮の理由では,家庭事情をあげた者は,大学生8.1%,高校生13.0%,中学生16.5%,未遂者13.0%,となつている。とくに年少者に家庭問題や叱責の影響していることがわかつている。最近の報告では青年層のみならず,老人の自殺においても家庭問題が強く影響をおよぼしていることが明らかにされた。 しかし一方,川畑,勝部は京大生を対象として親の欠損や養育者を調べ,自殺企図者と非企図者との間にほとんど差がないというnegative dataを報告している。Schneidman,Farberowは,対照者に自殺すると仮定して遺書を書かせ,既遂者の遺書と比較した。その結果として,いかにStressによる条件が生活史にあつたとしても,それだけについては,各群の間に差がなく,ひとり子,欠損家庭,家族内自殺などの点でも各群の間に差はなかつた,とのべているが,自殺を研究する学者の間では,家庭環境要因はもつとも重要視すべき部門の一つとされている。
著者
影山 任佐
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.551-559, 1983-05-15

皆さん,これから私が皆さんにお話しようとしている病人というよりも,むしろ異常者(anormaux)はその大多数が通俗的意味での精神病者にはけっして似ていない分別のある者たち(individus Iucides)である。彼らの行動を観察し,彼らと話をし,彼らの通信・文書を読んでみても,まず最初にはいかなる病的障害も発見されず,しかも長い間入院している患者にさえも,生き生きとした鋭い知性,機智や思慮深い反省を見つけ,驚かされることがしばしばある。ある者はもっともらしい請願を出して満足している。またある者はものごとの大部分を特別な角度から考えるという偏見に導びかれた極端な理屈家,誤った分別の持ち主といった印象を与えている。これらの者たちと本質的特徴は何ら異なるところはないが一部の者は逡巡することなく非常に大胆な主張をする。則ち彼らは奇妙な迫害を訴えるか,あるいは彼らは自分たちを偉大な人物と考えたりする。時間をかけた会話によって,彼らは取るに足らない偶発的なできごとを彼らの支配的傾性と関係している一面的で自分勝手な意味でたえず説明しようとしていることが明らかとなる。彼らは周囲の人々に関心を持ち,新聞を注意深く読み,ごくささいなことにも注目し,そしてここから彼らの考えに有利な数多くの論拠を取り出すすべを心得ている。常に幾分でも本当らしい,時には検討するに足るこの考えは度はずれた想像や感覚性錯覚の産物では決してなく,明敏な観察と研ぎすまされた洞察の結果として現われるものである。 理性と不条理との奇妙な混合が認められるこれらの者たちは解釈妄想病と呼ばれる慢性精神病に罹患している。この精神病を描写する前に,私は皆さんに妄想解釈症状について若干述べておきたい。
著者
志村 哲祥
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.415-426, 2020-04-15

抄録 不眠は非常に一般的な問題であるが,不眠症状が存在するとしてもただちに不眠症とは診断できず,睡眠薬による薬物療法は治療の第一選択とはならない。はじめに睡眠の状態の把握や治療要否の検討,各種疾患の鑑別が必要である。さらに,多くの睡眠障害においてベンゾジアゼピン受容体作動性の睡眠薬は適応とはならず,効果も期待できない。他の睡眠障害が否定され,不眠症であると診断し,睡眠衛生指導でも効果が乏しい場合には薬物療法が検討される。ベンゾジアゼピン受容体作動薬はさまざまな副作用や依存形成リスクが存在し,リスク・ベネフィット比が不良であるため,処方はきわめて慎重になされるべきであり,減量する際にも漸減法を実施するなどして,反跳性不眠や離脱が生じないようにする必要がある。
著者
奥村 泰之 藤田 純一 野田 寿恵 伊藤 弘人
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.79-85, 2010-01-15

はじめに 治療効果研究成果に基づいて治療ガイドラインが作成されるなど,精神科領域においても,「効果が十分に確認されている,さまざまな治療やサービス」15)である科学的根拠に基づく実践(evidence-based practice;EBP)が普及しつつある。EBPの必要性は行政機関や学会などで支持されている。 しかし,EBPは実際の診療にまで浸透していないという問題が提起されている9,11,15)。このような,EBPの普及と実施を阻害する主要な原因は,「EBPへの態度」であると指摘されている16)。たとえば,統合失調症患者への抗精神病薬の処方は単剤およびクロルプロマジン換算で1,000mg以下であることが治療ガイドラインで推奨されている13)が,EBPへの態度が不良であると,このガイドラインに従わないという研究もある10)。 このように,EBPへの態度を測定する試みはこれまでいくつかの研究でなされており,精神科医の治療ガイドラインへの態度10,19),双極性障害の臨床家の治療ガイドラインへの態度17),臨床心理士の治療ガイドラインへの態度5),物質関連障害の臨床家が特定の科学的根拠に基づいた治療を行うことへの態度12)などが測定されてきている。しかし,従来のEBPへの態度を測定する試みは,ある特定の専門家や特定の疾患を対象としており,より一般化した態度を測定することが内容的に難しいという問題があった。 Aarons1)が開発した,「科学的根拠に基づく実践を適用することへの態度尺度(evidence-based practice attitude scale;EBPAS)」は,特定の専門家や特定の疾患に限定せずにEBPへの態度を測定することが可能な,数少ない尺度である。EBPASは,15項目,5段階評定,4下位尺度から構成されている自己記入式尺度であり,探索的因子分析1)と確認的因子分析1,3)により,EBPASの下位尺度は以下の4つから構成されていることが明らかにされている。 (1) 要請(requirements):EBPを実施する要請がある時に,EBPを適用する可能性(例:あなたにとって初めての治療や介入の訓練を受けたとして,その治療や介入を上司から命じられた場合に,その治療や介入を利用する可能性を答えてください)。 (2) 魅力(appeal):EBPへの直感的な魅力(例:あなたにとって初めての治療や介入の訓練を受けたとして,その治療や介入が直観的に魅力的だと感じた場合に,その治療や介入を利用する可能性を答えてください)。 (3) 開放性(openness):新しい実践への開放性(例:クライエントを援助するために,新しいタイプの治療や介入を用いてみたい)。 (4) かい離性(divergence):研究者が開発した介入と現状の実践との間の認知のかい離(例:研究に基づいた治療や介入は,臨床的に用をなさない)。 2004年に開発されたEBPASは,2008年末までに,筆者らの知る限り,9つの論文で利用されており1~4,6~8,20,21),その応用可能性の広さのため,徐々に普及が進むことが考えられる。そこで,本研究では,EBPAS日本語版を開発し,その心理測定学的特徴を検討することを目的とした。
著者
川勝 忍 小林 良太 林 博史
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.849-856, 2015-10-15

はじめに 1994年,LundとManchesterのグループにより16),前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)の臨床的および神経病理学的診断特徴が発表されて以降,その臨床研究や病態解明に関する研究が大きく進展し,現在では進行性非流暢性失語(progressive nonfluent aphasia;PNFA)と意味性認知症(semantic dementia;SD),前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration;FTLD)として全体の概念がまとめられている4)。それ以前より,我が国では,FTDの原型であるピック病について,ドイツ精神医学の流れを汲む神経病理を専門とする精神科医が,アルツハイマー病との対比を含めて注目してきた。2006年のtransactive response DNA-binding protein 43kDa(TDP-43)の発見により,FTLDは,蓄積する異常蛋白の種類によって,疾患分類が明確化され,タウ蛋白が蓄積するタイプ(FTLD-tau)とユビキチンのちにTDP-43が蓄積するタイプ(FTLD-UまたはFTLD-TDP)の2つが大部分を占めることが分かってきた。そして,TDP-43は,FTLDと筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)とに共通して蓄積する蛋白であり,これらの疾患が連続する1つのスペクトラムをなしており2),運動ニューロン疾患(motor neuron disease;MND)を伴う前頭側頭型認知症(FTD-MND)はその中心に位置する重要な疾患であり,日本の研究者がその病態解明に果たした役割が大きい。FTD-MNDは,臨床的にも精神医学と神経内科学に跨がる境界領域であり早期診断が難しい疾患である。認知機能障害や行動異常に目を奪われている間に,筋萎縮,嚥下障害へと急速に進行してから初めて気付かされることも多い。予後としてもいずれ呼吸筋麻痺にて死に至るため,正しい診断が不可欠である。また,FTDの場合と同様に,FTD-MNDでもFTD症状が,うつ状態,躁状態,心気症状などとして扱われてしまう可能性もある。ここでは,FTD-MNDについて現在の知見を概説し,典型例を呈示して診断の注意点について述べたい。
著者
今村 幸嗣 大塚 祐司 川副 泰成 青木 勉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1037-1040, 2018-09-15

抄録 症例はパニック障害の25歳,女性。初診時血清ヘモグロビン12.4g/dl,血清フェリチン11ng/mlと貧血のない鉄欠乏であった。鉄剤補充のみで,鉄欠乏とパニック症状が改善した。鉄欠乏と抑うつ気分との関連性について多数の報告があり,鉄剤補充による抑うつ気分の改善が示されているが,パニック症状に対する効果の報告は少ない。本症例では,パニック障害に対する鉄剤補充の有効性を示唆する結果となった。精神科の診療場面において,鉄欠乏は看過されることが多い。我々精神科医は,わが国の女性の約半数が,鉄不足による精神障害予備軍であるという現状を認識し,適切に鉄欠乏を評価することで,診断・治療につなげる必要がある。
著者
千丈 雅徳 佐藤 友香 中島 公博 坂岡 ウメ子 林 裕 田中 稜一
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.1061-1068, 2002-10-15

【抄録】 解離性同一性障害患者の主人格および交代人格に風景構成法とPCエゴグラムを施行し,人格の成長・変化を認めるとともに寛解に至った1例を報告した。失恋を契機にαが出現し,αが成長して全体をまとめるδとなった。また,陰性感情は持続していくつかの交代人格が所有したが,最終的には主人格も陰性感情を引き受けることでまとまるに至った。すなわち,交代人格には固定化した感情状態を持続する者と,そうでなく成長する者が存在することが示唆された。また,名を持たぬ不気味な存在に名を付与することで具体的な対応が可能となり治療的に大きな転機となった。風景構成法およびPCエゴグラムは人格特性を簡便に把握し,人格の推移を知る有効な手段であることが示された。
著者
長井 真理
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.p465-472, 1981-05
被引用文献数
1