著者
田澤 英二
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.105-112, 2014-04-01 (Released:2015-04-15)
参考文献数
2
被引用文献数
2

義肢装具の歴史,発展は必要とするニーズに関連している.紀元前の頃から,戦争と貧困は身体障害の原因であり,医学の発達とともに義肢装具に求められるものも向上してきている.長い歴史を見てみると2000年以上も義肢装具形態の大きな変化は見られないが,現在では,材料,電子工学,さらには人間工学を駆使した義肢装具が使用されるようになって切断者のQOLは健常者に近いものとなっている.1957年にドイツで開発された薬物のサリドマイドによって起こった先天性欠損児の問題のために,1968年に“動力義手実用化特別研究班”が組織され早稲田の加藤一郎研究室をはじめとして開発が行われたが,結局は不成功に終わってしまった.しかし,その加藤研究窒は工業ロボット研究開発の基盤をつくり,これから日本が対応を迫られる高齢化支援のロボテクに社会が大きな期待をしている.
著者
羽佐田 和之
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.83-89, 2013-04-01 (Released:2014-05-15)
参考文献数
7
被引用文献数
2

Ossur のバイオニック義足を例として実用化された動力義足について記述する.バイオニック義足とは複数のセンサー,人工知能を用いた CPU, モーターや磁気粘性流体などによるアクチュエーターを組み合わせた共通の動作プラットフォーム上で動作する義足部品である.本稿では歩行中に足部の底背屈動作を能動的に行うプロプリオ足部,プロプリオ足部とバイオニック膝継手リオニーとを組み合わせたシンバイオニック義足,モーターを用いた動力膝継手パワーニーについて,その機構や特徴を説明する.製品の効用については主に海外での文献紹介により説明する.動力義足はいずれも極めて高額な義足部品であり国内での適用例はごく少数であるが,安全で確実に動作する制御機構など今後の切断者リハビリテーションを革新する可能性としても期待できる.
著者
平山 史朗 島袋 公史 藤﨑 拡憲 今村 健二 高田 稔 山﨑 裕子 渡邉 英夫
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.57-61, 2020-01-01 (Released:2021-01-15)
参考文献数
6

今回,脳卒中発症後に初回に処方される短下肢装具(以下,AFO)について全国的にアンケート調査を実施した.全国の回復期リハ病棟を有する病院410病院に依頼し,回答が得られた109病院のデータを分析したところ,処方された割合が多かった順にシューホーンAFO, 両側金属支柱AFO, オルトップAFO, タマラック·ジレット継手AFO, ゲイトソリューションと続き,これらの上位5つの装具だけで全体の8割以上を占めていた.1病院で処方されるAFOの種類は平均で4.7種類であった.また,長下肢装具処方後,AFOにカットダウンした構成AFOの部分は両側金属支柱AFOが7割以上と大勢だった.今後は,有効回答率を増やす工夫を行いながら大規模に,組織的に,また定期的に全国調査することが望ましいと思われた.
著者
住谷 昌彦 緒方 徹 四津 有人 大竹 祐子 宮内 哲
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.206-211, 2013-10-01 (Released:2014-10-15)
参考文献数
13

四肢切断後に現れる幻肢痛をはじめとする神経障害性疼痛の発症には末梢神経系と脊髄での神経系の異常興奮とその可塑性に加え,大脳を中心とした中枢神経系の可塑性が関与していることが最近の脳機能画像研究から確立しつつある.幻肢の随意運動の中枢神経系における制御機構をもとに,われわれが行っている鏡を用いて幻肢の随意運動を獲得させることによる臨床治療(鏡療法)についてその有効性と限界,そして今後の幻肢痛および神経障害性疼痛に対する新規神経リハビリテーション治療の可能性について概説する.
著者
川場 康智
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.170-173, 2017-07-01 (Released:2018-07-18)
参考文献数
7

高齢者人口の増加にともない,生活期における装具使用上のトラブルも増加すると予想されるなか,我々,義肢装具士の在宅分野への参入は他の関連職種と比べて遅れがちである.在宅対応で見かける装具は,経年劣化による破損や身体状況の変化から不適合となり,危険な状態で使用が継続されているものも多い.対策として,①装具の目的を理解し正しく使用していただけるよう,装具使用者またはその家族に対し指導することと,②地域の医療·介護職とネットワークを通じて連携し,トラブルの早期発見とその後の対応を円滑化する必要がある.
著者
久米 亮一
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.151-158, 2017-07-01 (Released:2018-07-18)
参考文献数
3

我々は,退院後の装具のメンテナンスや作り替えを専門分野と位置づけ15年に渡り取り組んできた.地域には「歩容の崩れ」,「足部の変形」,「装具の不適合」が多く存在し,今までの知識や技術,考え方では解決できない問題点に気づくことができた.装具について,自宅での未使用などが引き起こす不適合,介護保険非対象者がおかれる状況,老人保健施設における必要性,在宅ケアの実情などの「環境的問題」,および制御力の小さい短下肢装具のリスク,製作の遅れのリスク,装着練習の大切さ,予備の装具の重要性などを整理する.そして現在行っているケアマネジャーやセラピストとの連携や,講演活動によって地域環境に対する直接アプローチを紹介する.
著者
山本 澄子
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.266-271, 2017-10-01 (Released:2018-10-15)
参考文献数
12

義肢装具に関する介入研究は,使用者に対して義肢装具を使用した何らかの介入を行ってその結果を示すものである.介入研究は対象者1名のシングルケーススタディ,複数名のクロスオーバー研究,多人数のランダム化比較試験があり,それぞれに利点欠点がある.いずれの場合もある介入の効果を他の条件と比較して結果を示すものであり,介入の持ち越し効果(キャリーオーバー)や対象者のばらつきの影響を少なくするための工夫が必要である.本稿ではこれらの手法について具体例と最近の研究の紹介を交えて解説する.
著者
春名 弘一 昆 恵介 稲垣 潤 佐藤 洋一郎
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.17-23, 2019-01-01 (Released:2020-01-15)
参考文献数
15

動作の改善を目的としたリハビリテーションにおいては,運動の客観的な記録は有用である.しかし,臨床現場で三次元動作解析を実施するには経済的,空間的,時間的障壁が存在し現状では十分な臨床での普及には至っていない.本稿では,これらの障壁を解消する手法として近年注目されているマーカーレスモーションキャプチャによる三次元動作解析について活用事例もふまえて紹介する.マーカーレスモーションキャプチャによる動作解析は,従来から活用されている光学式カメラを利用したモーションキャプチャ手法やモーションセンサ手法に対して,身体に体表マーカーやモーションセンサなどの貼付が不要で,煩雑な計測準備が不要である.また,骨格認識が自動化されているためソフトウェアが扱いやすく,臨床現場での有益性が高い手法であるといえる.一方で,従来法と比較して計測精度は低いのが欠点であるが,センサや骨格認識技術の改良などにより今後はさらに計測精度が向上すると考えられる.
著者
上間 智博 松元 秀次 種田 沙織 竹下 可奈子 川平 和美
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.105-111, 2011-04-01 (Released:2013-09-15)
参考文献数
15

脳卒中片麻痺患者の歩行は非対称性を特徴としているにもかかわらず,歩行指導は対称性歩行を目指して麻痺側へ荷重を促す方法が一般的である.本研究は,片麻痺患者の歩行について,麻痺側下肢への荷重をコントロールした 3 種の歩行パターンで歩行効率の検証を行った.対象は脳卒中片麻痺患者 16 名で,短下肢装具とT字杖を使用し,少なくとも監視レベルで歩行可能な症例とした.評価は 10 m 歩行における速度とケイデンス,ビデオ画像の動作解析による歩行立脚期の側方変位距離,歩行パターンによる歩行周期の変化(健側と麻痺側の立脚期割合,単脚支持期割合,1 歩時間,歩幅の患側/健側比,重複歩時間)を行った.3 種の歩行パターンのうち非対称性歩行(健側優位歩行)に比べ,対称性歩行(麻痺側歩行)が歩行速度,歩行立脚期の側方変位距離,歩行周期の変化で歩行効率低下を示した.以上のことから,過度に麻痺側へ健側と同様に荷重することは重心移動を妨げ,歩行速度や歩行効率低下につながると推察される.
著者
笠井 史人 水間 正澄 佐藤 新介 渡辺 英靖 和田 真一 飯島 伸介 國吉 泉 吉澤 則幸
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.206-209, 2010-07-01 (Released:2013-06-19)
参考文献数
6

症例は21歳男性,AVMによる脳出血,右片麻痺・失語症.若年発症や失語症による精神的ダメージが大きく,生きがいであるギターを演奏するためにスプリントと肩装具を作製した.訓練により演奏できるようになっただけではなく,回復停止したはずの麻痺手に改善がみられたため,上肢装具装着ギター演奏による片麻痺上肢機能訓練は,脳の可塑性に効果的と推測された.音によるフィードバックが得られ,運動学習に効果的な速度・課題のバリエーションもつけることができた.補装具と音楽療法の組み合わせによる本法は,楽しみながら効果を実感でき,高いモチベーションで訓練量を稼ぐことができるため,有効な上肢機能訓練法のひとつとして期待される.
著者
前島 伸一郎 大沢 愛子 西尾 大祐 平野 恵健 木川 浩志 武田 英孝
出版者
Japanese Society of Prosthetics and Orthotics
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.46-50, 2013

医用工学の進歩に伴い,医療・福祉の領域においてもロボット技術が応用されている.なかでも,筋力が低下した高齢者や運動機能障害を有する人の自立支援や,介護支援などへの適用が期待されている装置がロボットスーツ Hybrid Assistive Limb (HAL)<sup>®</sup> である.HAL は生体電位信号を活用し,人間・機械・情報系の融合複合体技術を駆使したサイボーグ型ロボットである.脳卒中片麻痺に対するHALの効果について,現時点においてはほとんど検証されておらず,装着に手間がかかり,介助が増え,疲れやすい等の欠点も否めないが,将来性は高く,今後,装具あるいは訓練器具として,リハビリテーションへの利用が期待される.

1 0 0 0 OA ライナー総論

著者
中川 三吉
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.4-9, 2006-01-01 (Released:2010-02-25)
参考文献数
11
被引用文献数
2
著者
昆 恵介 春名 弘一 中井 要介 佐藤 健斗 稲垣 潤 清水 新悟 関川 伸哉
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.318-324, 2022-10-01 (Released:2023-10-15)
参考文献数
6

多くの脳卒中片麻痺者ではフォアフットロッカーが消失する.本研究では単脚支持期間中に麻痺側の踵を挙上させフォアフットロッカーを機能させるための装具(HUS-AFO)の開発と評価を目的とした.HUS-AFOは4節リンク構造を有し,MP関節より近位に位置する仮想的なロッカー軸(HUS軸)と装具側方に位置する圧縮バネによって踵挙上をアシストするものである.背屈制動機能を有する短下肢装具の靴底底面にHUSデバイスを内蔵することで,歩行中の足関節底屈モーメントを増加させ,COPの前進をアシストするとともに,MP関節より近位に位置するHUS軸を床反力作用点が超えることで,単脚支持期間中に踵を挙上させることを明らかにした.
著者
大村 優慈
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.194-198, 2022-07-01 (Released:2023-07-15)
参考文献数
31

脳卒中患者の装具療法を進める上で,歩行能力の予後予測は重要である.予後に関連する因子としては日常生活活動能力,下肢の運動麻痺,発症前の歩行能力,年齢,意識障害,合併症,脳画像所見などが示されており,最近では下肢装具の作製判断に関する研究報告もなされている.脳画像を読影する際は,病巣の大きさを把握するだけでなく,皮質脊髄路や皮質網様体路といった,歩行に関連する領域の損傷の有無を確認することが重要である.なお,脳梗塞では梗塞巣がさらに拡大する可能性を残す発症当日や,fogging effectによって梗塞巣が不明瞭になる発症2〜3週に撮影された画像は,損傷領域の同定に適さないため注意が必要である.
著者
川手 信行 中島 卓也
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.190-193, 2022-07-01 (Released:2023-07-15)
参考文献数
10

歩行は,運動エネルギーを位置エネルギーに変換し,再び運動エネルギーに再変換する連続した運動であり,これを円滑に行うための機能が,立脚期足部の3つのロッカー機能である.また,歩行における自動的な左右下肢の交互運動は,脊髄にあるといわれているCPG(central pattern generater)が関与し,交互運動の切り替えのためには,TSt時の股関節伸展による股関節屈筋群からの求心性入力が重要であるといわれている.脳卒中などの痙性麻痺においては,痙縮が持続することにより股関節拘縮,内反尖足が生じ,立脚期の股関節のTrailing Limb Angle(TLA)や足部のロッカー機能が消失し,Extension thrust pattern,Buckling knee pattern,Stiff knee patternなどの異常歩行(Qervanら)をきたす.これらの異常歩行パターンは反張膝などの合併症を誘発する可能性があるため,早期からの適切な装具療法が重要である.
著者
中谷 知生
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.210-215, 2022-07-01 (Released:2023-07-15)
参考文献数
33

脳卒中患者の歩行再建を目的とした運動療法では,課題特異的トレーニングのエビデンスに依拠するかたちで長下肢装具・短下肢装具を用いた歩行トレーニングが行われてきた.下肢装具を用いた運動療法のエビデンスは蓄積が進みつつあるが,使用開始時期や装着による身体機能の改善効果に関する報告は少なく,臨床場面では目的が不明瞭なまま使用されることも少なくない.近年ではロボティクス,あるいは非侵襲的中枢神経刺激など,新しい技術と併用する機会も増えており,下肢装具を用いた運動療法は神経科学的な観点からの治療効果も期待されている.今後はより客観的な評価を行い,明確な治療戦略に基づき使用する必要がある.
著者
青木 隆明
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.92-94, 2020-04-01 (Released:2021-04-15)

多くの先人の先生方が下肢装具について研究され,簡単なものからロボットなどに至る複雑なものまで様々存在する.その中で,ごく日常の診療でよく使用される装具で,処方後気になったことや,不思議に思ったことについて検討した.それぞれの装具には長所と短所があり,各患者の適正にあったものを選ぶことが大切である.各患者によって適正を判断するのは難しいが,より便利で簡便な治療にむすびつく方法を考えてきた.日常の何気ない装具に対する疑問や今後の患者のニーズについて開発をすすめている.車いすに乗ると意外な時に恐怖を感じるという患者もいる.脊髄損傷のレベルによっては前方への体幹の移動は体幹保持ができないと恐怖で,転倒への危険性を回避するために,思い切った走行が困難である.それに対処する装具を考案した.