著者
中村 秀郷
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.75-88, 2019

<p>本研究の目的は,保護観察所の保護観察官がソーシャルワークで直面する困難性への対処プロセスの構造・展開を明らかにし,その実態を体系的に整理することである.保護観察官23名を対象として,インタビュー調査による半構造化面接を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて逐語データの分析を行った.分析結果から15個の対処プロセス概念が生成し,概念間の関係性から〈保護観察官としてのアイデンティティーの意識〉,〈対象者との関係構築の姿勢〉,〈組織ライン・ピアによるフォロー〉,〈他機関との関係構築の姿勢〉,〈保護司との協働態勢の姿勢〉,〈処遇の展望化〉の6つのカテゴリーに収斂された.本研究では保護観察所の保護観察官に共通する困難性への対処プロセスを明らかにし,刑務所出所者等の社会内処遇の実践現場で直面すると考えられる困難性への対処方法,さらには効果的な処遇や有効なアプローチについて示唆を与えた.</p>
著者
山野 則子 梅田 直美 厨子 健一
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.82-97, 2014-02-28 (Released:2018-07-20)

本調査研究では,スクールソーシャルワーカー(SSWer)配置プログラムモデルに準拠した取り組みに関する全国調査の結果分析を通じて,まず,全国のSSWer配置プログラムの実施状況を明らかにし,そのうえで,その実施状況が期待される効果(アウトカム)に結びついているかどうかを示す.これにより,効果的SSWer配置プログラム構築に向けた示唆を得ることを目的とする.分析方法は,155自治体のSSWer 372人のデータを活用した量的分析により,SSWerによるプログラム実施状況および,その実施状況とSSWer自身が評価する効果(アウトカム)との相関をみた.結果,SSWerはかなり多くの効果につながる実践を行っていること,そして配置形態によって実践内容も効果も異なることが明らかになった.これにより,SSWer配置プログラムをより効果的にするための示唆を得た.
著者
木原 活信
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.3-16, 2005-11-30 (Released:2018-07-20)

本論文では,コンパッション(compassion)の思想を検討する.コンパッションは,これまで社会福祉界では,啓蒙的な意味のスローガンのように主張されることはあっても,十分に学術的に議論されることはなかった.本論では,感傷的主張を排して,その概念を語源的,哲学思想的に議論を展開する.まず語義およびルソーの自然感情としての議論,ニーチェの「同情の禁止」という批判を取り上げる.そのうえでキリスト教思想がコンパッションをどうとらえているのかについて,古典ギリシャ語のスプランクノンσπλαγχνον「腸がちぎれる想い」という概念にその語源を求め,特にヘンリ・ナウエンの「弱さ」とコンパッションの先駆的研究を吟味する.そして現代におけるアレントのコンパッション論を検討したうえで,最終的にコンパッションが閉じられた関係ではなく,開かれた公共空間という場所のなかで位置づけられる意義を主張する.以上により,コンパッションを福祉原理の根源として位置づけその意義を検討する.
著者
久保田 晃生 波多野 義郎
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.43-51, 2006

近年,日本ではQOLに関する研究が多くの分野で行われている.QOLは,人の生活を分析的にとらえるための枠組みが必要なときに有効であるとされる.そのため,社会福祉のように対象者の生活を援助することが多い場合,QOLを重視する考え方は,比較的受け入れやすいことと考えられる.そこで,本稿では,社会福祉学におけるQOL研究をより推進していくための基礎資料となるよう,これまでのQOLの概念と定義,QOL研究の他の学問を含めた近年の流れを解説するとともに,社会福祉学におけるQOL研究の課題についても検討を行う.
著者
斉藤 雅茂 冷水 豊 山口 麻衣 武居 幸子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.110-122, 2009-05
被引用文献数
3

本研究では,社会的孤立に関する操作的基準を設け,ひとり暮らし高齢者に占める孤立状態の発現率とその基本的特徴を記述的に分析した.調査は,東京都板橋区のひとり暮らし高齢者3,500人を対象にし,名目ひとり暮らし世帯を除いた2,907人から1,391人(47.9%)の有効回答が得られた.回答者には,家族や親戚,友人,近所の人を含めて,会って話したり,電話や手紙のやりとりをしている「親しい人」を最大10人まで挙げてもらい,その1人ひとりについて対面接触頻度と非対面接触頻度をたずねた.そのうえで,親しい人が1人もいない状態を「極端な孤立」,1人以上いてもその人々との対面接触および非対面接触頻度が少ない状態を「ほとんど孤立」に分類した.この結果,(1)ひとり暮らし高齢者のうち,10.8〜16.6%が孤立状態(極端な孤立+ほとんど孤立)に該当すること,(2)孤立状態にある高齢者には,男性の比率が高く,また男性であっても女性であっても未婚の人,子どものいない人,収入の少ない人が多いこと,(3)孤立状態の高齢者のうち,約8〜9割の人は緊急時や日常の軽微な支実援を頼める人が1人もいないことが示された.
著者
正井 佐知
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.25-36, 2019-08-31 (Released:2020-01-29)
参考文献数
22

本稿は,障害者入所施設における投票支援の実態について明らかにすることを目的とする.現在日本は脱施設化の流れにあるが,障害者入所施設の利用者は約18.2万人と未だ多い.こうした入所施設利用者の政治的参加の実態は現在まで十分に明らかにされてこなかった.そこで2017年10月,近畿圏にあるすべての入所施設を対象として第48回衆議院議員総選挙に関するアンケート調査を行った.アンケートの返送数は179施設で回収率は53.9%であった.分析の結果,施設により投票支援の程度の差が大きいこと,そして,投票支援の手厚さと利用者の投票行動との間には関連性があるということが明らかになった.また,施設では政治的中立性の問題が支援のジレンマとなっているが,自治体や選挙管理委員会の介入によりこの問題が低減されうることも明らかとなった.
著者
杉山 博昭
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.50-65, 1996-11-20 (Released:2018-07-20)

This paper deals with the relationship between Gunpei Yamamuro and leprosy relief policy and points out the relationship between the quarantine policy to leprosy patients and social work. In the beginning, Salvation Army managed the day nursery for patients' children. On the other hand, Salvation Army thought out a leprosy relief in earnest. But leprosy relief didn't come out because the government carried out leprosy relief and that Salvation Army had the financial problem. This paper examines how Salvation Army thought about Lepra and leprosy relief policy through the writings of Gunpei Yamamuro he was a leader of Salvation Army. Yamamuro understood Lepra as a symbol of sin according to the Bible. He was sure to agree to the quarantine policy. His thinking was a kind of common sense at that time but resulted in follower of the quarantine policy. From the fact mentioned above, this paper points out Gunpei Yamamuro didn't see through the problems of the policy, even though had excellent practices, also this paper discusses the limit of social work before World WarII.
著者
北場 勉
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.3-15, 2013-02-28

市制町村制と窮民救助法案との関係は,ドイツ人モッセに始まる.当時の内務卿山縣有朋がドイツ式地方制度の導入を決断した.彼は,モッセをドイツから招聘して起草させ,1888(明治21)年に市制町村制が制定された.その後,モッセは,母国ドイツの救貧法に倣い,日本でも救貧を市町村の公共事務とする救貧法の制定を要請した.なお,ドイツ式地方制度の導入の背景には,不平等条約改正の条件として,西洋流の法律の制定が求められたことがある.同法案の作成に関わったのは,カール・ルードルフ,アルバート・モッセ,荒井邦蔵参事官を中心とする内務官僚,そして山縣有朋である可能性が高いと思われる.窮民救助法案は,被災厄者の救済,市町村の救済義務規定,扶助籍の創設,救済費用に関する争いの調停方法等にドイツ救貧法の影響が色濃くみられるが,日本の従来の救済制度に関わる独自規定も織り込まれていた.
著者
平野 寛弥
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.74-85, 2005-07-31 (Released:2018-07-20)

本稿では,社会主義体制における福祉制度の体系的・包括的把握を日的とし,社会政策と経済政策,およびこの二者から構成される社会創造政策の3つの分析概念を用い,福祉制度の構成を福祉システムという一種の社会経済システムとして考察した.その結果,全人民の福祉の実現を目指し,社会の構造それ自体を改変するという壮大な目的をもった社会創造政策が,その構成要素である経済政策と社会政策の対立により機能不全に陥ったことが明らかとなった.すなわち福祉システムの崩壊である.これに伴い,福祉の実現という目的は一政策領域にすぎない社会政策に縮減されて,社会主義体制での絶対的な地位を喪失することになった.当初社会主義体制の理念であり目的であるとされた全人民の福祉の実現は,その実現化の最中で放棄されたのである.
著者
池埜 聡
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.54-66, 2002-03-31 (Released:2018-07-20)

1980年代以降,外傷体験に起因する心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関する研究が数多く報告されるようになった。しかし,トラウマの影響はPTSDの枠組みだけではとらえきれず,とくに長期的影響に関する研究は初期段階にあるといえる。本研究は,トラウマの長期的影響のひとつとして「生存者罪悪感」の問題を取り上げる。そして筆者の臨床および調査経験を踏まえ,生存者罪悪感の概念的枠組みとソーシャルワーク実践のあり方について提言することを目的とする。具体的には,1)生存者罪悪感の概念的枠組みを形成する実存的罪悪感と実体的罪悪感の内容と分類,2)理論,実証,臨床の各側面における先行研究の整理,3)生存者罪悪感への援助方法論,そして4)考察といった項目にまとめて報告する。とくに,援助方法論では,認知療法の枠組みに加えて,1)援助関係構築,2)アセスメント法,3)援助目標の原則,4)セルフヘルプグループの形成と活用,4)ソーシャルワーカーの自己覚知,そして5)その他の留意点といったソーシャルワーク機関における実践的示唆を示す。また,考察では今後の研究課題とソーシャルワークの役割について提言をまとめる。
著者
安達 朗子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.1-15, 2020-08-31 (Released:2020-10-03)
参考文献数
19

本研究は,視覚障害者が日常生活において支援者から受ける支援に「ズレ」を感じた際,どのように意味づけ,対処してきたのか,また,その「ズレ」を是正する際に生じる困難さの要因は何かを明らかにすることを目的としている.本研究は,5名の視覚障害者のライフストーリーをもとに,半構造化インタビューを行い,定性的コーディングにより,質的機能的に分析した.その結果,調査協力者の否定的感情を生起させたネガティブな支援の「ズレ」と肯定的感情を生起させたポジティブな支援の「ズレ」に大別された.ネガティブな支援の「ズレ」は,支援者側の「視覚障害者に関する無知」,ポジティブな支援の「ズレ」は「運による」と意味づけられていた.対処は「あきらめ」という方法を採り,その「ズレ」を是正する際に生じる困難さの要因は,「自己責任」に収斂されていた.考察では,「あきらめ」ざるをえなかった状態から,五つのディスアビリティを可視化させた.
著者
望月 昭
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.64-84, 1989-11-01
被引用文献数
1

This article is a proposal for the full cooperation of the profession of "psychology" and "social welfare" for the handicapped person through the mediation of philosophy and methodology of "behavior analysis. " From the standpoint of "radical behaviorism," which is the philosophy of "behavior analysis" founded by B.F. Skinner, every term or concept on handicapped person is a description of the interaction between individual and environment. Any behavioral service for those people, therefore, is a "adjustment" between individuals and their environments. In this context, if necessary, we must change their environments including the social systems. Behavioral approach, however, has been regarded as a procedure which changes only the client in the field of social casework. The reason of the misconception might be derived both from outside and inside of the framework of behavioral approach itself. For the full cooperation of behavior analyst and social caseworker, some new directions of method of "behavioral social casework" were discussed.
著者
嶺山 敦子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.41-53, 2012

久布白落実は廃娼運動・売春防止法制定運動,それらの善後策として性教育への取り組み等を通して,性をめぐる諸問題に取り組んだ婦人運動家である.それらと関連し,久布白は占頷下において発生した「混血児問題」にも関心を寄せ,その問題に熱心に取り組んだ.久布白は「混血児」の養育に直接携わったわけではないが,その数を正確に把握することによって,問題の実態をつかんでいった.当初は「混血児」が孤児であることを問題と考えていたが,実態を把握するにつれ,政府や社会が光を当てていなかった,片親が養育している「混血児」に対する認知と扶助の必要性を認識し始めた.久布白がアメリカの宣教師モルフィと連携しその認知と扶助の斡旋を行ったことは,「混血児」の母親の権利擁護という視点から考えても意義深いものと思われる.また,混血児問題への取り組みを通して,性の問題に関する日本の戦争責任や平和への認識を深めていった.
著者
片山(高原) 優美子 山口 創生 種田 綾乃 吉田 光爾
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.28-41, 2013-05-31 (Released:2018-07-20)

本研究は,精神障害者の就労支援に有効とされる援助付き雇用と個別職業紹介とサポート(Individual Placement and Support ; 以下,IPS)の長期的な追跡調査についてのシステマティック・レビューを行い,その効果を明らかにすることを目的とした.本研究は7つのデータベースを用いて,関連する研究を模索した.検索の結果,3研究(N=103)が導入基準に合致し,追跡期間は4〜12年,すべて対照群をもたない長期介入研究であった.追跡率やアウトカムの評価方法に課題があるものの,介入としてIPSを利用した精神障害者の40〜70%が研究期間中に少なくとも一度は就労を経験していることが明らかになった(累積就業率).調査結果から,重度の精神障害者であっても,IPSモデルによる個人の希望や能力に応じたきめ細やかな支援により,長期的な視点からも当事者の競争的雇用への就労において効果を示しうることが示唆された.
著者
三島 亜紀子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.141-152, 2018-07-20

イギリス・ケンブリッジ大学の障害資源センター(Disability Resource Centre :DRC)主催の教職員・学生を対象にした研修に参加する機会に恵まれた.同大学における全学生に占める障害学生の割合は9%(イギリス全体では8.6%),発達障害の学生の割合は4.69%であり,日本の大学で支援を受けている障害学生の割合を大きく上回っている.全障害学生のうち過半数が発達障害のある学生である点に注目しつつ,本稿では同センターにおける障害学生支援の概要およびそこで得た知見を紹介する.今後日本の大学で障害学生支援を行っていく際には,支援する学生数の目安をつけるために数値を意識すること,小規模大学であっても障害学生支援が行いやすい環境づくりの推進,差別意識の撤廃や障害学生支援に対する正しい理解を促すことの重要性を指摘した.
著者
野口 友紀子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.14-23, 2003-11-30 (Released:2018-07-20)

社会事業成立期に防貧事業が多くなされるようになる・これは主として経済保護事業のことを指しており,その対象となるのは従来の研究では低所得者といわれている.しかし,防貧概念が導入された当初は,防貧の対象者は「所得」ではなく「労働能力」でとらえられていた.さらに社会事業成立期には「低所得」という見方だけでなく,「生活」という視点でも把握されていた.その背景には時間の経過によって救済行政当局者が貧困という問題をどのように理解し,そのような問題のうちどの範囲を救済行政の対象としていくのかということを把握する視点の変化がある.防貧という考え方は所得だけでなく,多様なとらえ方があり,救済行政に防貧という枠でこれまでの救貧以外の新たな対象を取り入れる際に,防貧は変容しながらその形を整えていったといえる.
著者
村社 卓
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.32-45, 2018-02-28 (Released:2018-06-22)
参考文献数
29

本稿の研究目的は,高齢者の孤立予防に関わるボランティアの継続特性について,実証的,構造的に明らかにすることである.特に,ボランティアの「楽しさ」に焦点を当てている.研究方法は定性的研究法である.データ収集は3年以上にわたる参与観察とインタビューにより行った.データ分析には定性的コーディングを用いた.分析の結果,ボランティアの継続は推進と維持の2機能によって可能となり,両者は相補的な関係にあった.継続の推進は「双方向の体験によって生じる活動への没頭と意欲的な試み」,継続の維持は「無理のない姿勢によって生じる活動での気楽さと自己管理による改善」と定義できた.推進と維持の内容は,「要因」「感情」「行動」の視点からそれぞれ明らかにした.さらに,「フロー理論」との比較検討による継続特性も提示した.本研究の成果は,高齢者の孤立予防に関わるボランティアへの支援内容の提示および研修プログラム作成に貢献するものである.
著者
佐草 智久
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-12, 2017-05-31 (Released:2017-09-22)
参考文献数
29

本稿の目的は,家庭奉仕員制度と家政婦の対象領域の変化から日本のホームヘルプの歴史を再検討することである.国際ホームヘルプ協会の国際的定義によれば本来ホームヘルプは供給主体・対象に限定はなく,家庭奉仕員制度も家政婦も共にホームヘルプの構成要素の一つである.しかし先行研究が論じているホームヘルプは家庭奉仕員制度に限定されてきた.そこで本稿は,同協会の定義に準拠し両者の対象領域の変化に着目して,戦後から2000年までの日本のホームヘルプの歴史を検討した.その結果,日本のホームヘルプは,①1960年代初頭までは両者の対象領域は不明確であったが,②1960年代中頃より家庭奉仕員制度の法制度整備によって名実ともに分化し,③1970年代中頃以降になると高齢化社会などの社会背景の変化に伴い家政婦が在宅高齢者へ対象領域を拡大させたことに端を発し,各々が次第に再接近・同化するという3点の時代区分が存在することが明らかになった.
著者
高良 麻子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.126-140, 2015-08-31 (Released:2018-07-20)

変容している生活問題への対応が十分とは言えないなか,社会的に排除されている人々に対して地域を基盤とした総合的かつ包括的支援が展開されている.なかでも,制度の未整備などには法律・制度・サービスの改廃・創設を含む構造的変化を促す組織的活動であるソーシャル・アクションが必要だと言えるが,研究と実践ともに蓄積が乏しい状況である.そこで,本研究ではソーシャル・アクションの実践を体系的に把握することを目的とし,成果が確認された社会福祉士による42の実践事例を分析した.その結果,近年実践されているソーシャル・アクションは当事者の参加度が低く,かつ介入対象レベルが狭いことが明らかになった.実践プロセスは,制度などに関する課題に気づき,課題を把握し,課題理解促進や関係者の組織化を並行して行いながら,構造的変化を目的とする組織的活動を行っており,日頃からのネットワークや実践の蓄積などの基盤が不可欠だと考えられた.