著者
田中 耕一郎
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.82-94, 2009-05-31 (Released:2018-07-20)

本稿では,<重度知的障害者>を包摂する連帯規範の理論的探究に向かうため,(1)福祉国家の理論的基礎を支えてきたリベラリズムの規範理論において,<重度知的障害者>がなぜ,どのように,その理論的射程から放逐されてきたのかを,リベラリズムにおける市民概念の検討を通して考察し,(2)連帯規範の再検討における<重度知的障害者>という視座の意義について検討を加え,(3)<重度知的障害者>という視座における連帯規範の再検討によって,どのような理論的課題が浮上するのか,を検討した.リベラリズムがその理論的射程から放逐してきた<重度知的障害者>を連帯規範の再検討のための視座におくことには,それがリベラリズムの規範理論の限界点と課題を照射しつつ,連帯規範をめぐる新たな公共的討議の可能性を開示する,等の意義を見いだすことができる.また,この<重度知的障害者>という視座による連帯規範の問い直しの作業は,リベラリズムの市民資格の限定解除を求めつつ,現代の政治哲学における「ケアと正義」の接合,併存をめぐる理論的課題に逢着することになるだろう.
著者
野口 史緒
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.79-94, 2014-08-31

第34回社会保障審議会介護保険部会資料(2010年)によると,特別養護老人ホームの入所申請待機者は,42万人にのぼり,そのうち在宅以外で待機しているのは52.8%であった.本研究では,そのような背景から,医療機関を退院後,行き場を見つけづらい高齢者が,住宅型有料老人ホーム(以下「ホーム」)に入居している現状に注目した.そこで,ある「ホーム」の常時介護を必要とする高齢者47名の家族の聞き取り調査とそこにおける看護・介護労働者の聞き取り調査を行い,長期療養高齢者の生活問題を包括的に捉えることを試みた.入居者世帯を階層区分した結果,相対的安定層といえども,医療,介護,住宅にかかる自己負担は重く,常に経済的不安を抱えながら生活していることが確認された.また入居者は,介護保険制度によって決められた時間報酬のために,短時間で区切られたケアを受けていた.これらの調査結果から,介護問題の構造を浮き彫りにする.
著者
吉田 晴一
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.25-37, 2015-05-31

救護法は救護が市町村長の義務であることを明確に規定し,収容救護について市町村自らの救護施設への収容のほか,私設を含む他の救護施設への収容の委託を認めた.本稿の目的は,「私設の救護施設」が担う公的な救護の制度の制定過程およびその意義について検証することである.本稿では,まず,救護法制定過程における救護施設への収容の委託に係る検討状況の変遷について分析する.次に,私設の養老院を事例に,救護法制定前・施行後を比較し,私設の救護施設が担う公的な救護の意義について分析する.救護法の制定過程において,代用感化院の制度を参考に公設の「収容場舎」の設置命令とともに「私設ノ場舎」の代用が提案されるが,市町村の救護施設の設置は任意とされ,委託費(=救護費)支払による私設の救護施設への収容の委託という制度へ収斂していった.私法上の契約関係によって,民間の社会事業施設を公的な制度に取り込む仕組みが構築された.
著者
横山 登志子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.24-34, 2004-11-30

本論では,歴史的に社会防衛的色彩の強い精神保健福祉領域の「現場」で,ソーシャルワーカーがどのような援助観を醸成させているのかについてソーシャルワーカーの自己規定に着目して,以下の点について考察している.第1にソーシャルワーク理論史にみるソーシャルワーカーの自己規定では,クライエントを自らとは異なる「他者」としてとらえてきたことについて論じた.そして,専門的自己と個人的自己は分離することができないものであることを指摘した.第2にソーシャルワーカーのインタビューから「現場」に立ち会う者としての個人的自己の強いコミットメントが示唆されたことを述べた.以上の点から,静的・理想的な専門的自己のありようを示す援助関係論から,「現場」のリアリティーが失われない動的・状況密着性が高い個人的自己をも内包した援助関係論を構築する必要性が示唆されることについて述べた.
著者
口村 淳
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.163-173, 2011-02-28

本研究の目的は,高齢者ショートステイにおける相談援助に関するカテゴリを生成し,その特徴について検討することである.特養併設型ショートステイを利用した236人のケース記録を,帰納的アプローチによる質的研究法で分析を行った.その結果25個のカテゴリからなる,【援助困難ケースへの対応】【施設での生活支援】【外部機関への情報提供】【施設利用に関する相談】【家族との連絡調整】【利用者に関する情報収集】【円滑な在宅介護の支援】【苦情対応】という8個の上位カテゴリが生成された.さらにそれらは,「利用期間中の業務」と「利用期間外の業務」に分類することができた.先行研究の多くは長期入所施設を調査対象としているため,本研究のカテゴリとはいくつかの相違点がみられた.たとえば,ショートステイでは利用中の援助にも家族の意向が反映される傾向があるため,【家族との連絡・調整】が重要な機能として位置づけられる点などである.
著者
須田 木綿子 浅川 典子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.46-55, 2004-11-30
被引用文献数
1

特別養護老人ホーム(「特養」と略称)の施設長4人を対象に探索的質的調査を行い,介護保険制度による環境の変化をいかに認識し,どのような対応を試みているのかを検討した.その結果,環境の変化は「ケアの対象」「特養の機能」「現場の理念」「入居者との関係」「歳入と人員配置」の5点から,対応は「人件費節約」「職員の質とモラールの確保」「経営感覚の醸成」「オプショナル・プログラム」「苦情処理制度と第三者評価制度-の対応」「独立した価値の維持」の6点から把握された.対応のあり方は,技術核-管理核の分離を図るか否かによって異なり,プロフェッショナリズムとの関係性も示唆された.またテクノロジーと組織構造の改編は,目的に応じて使い分けられているようすがうかがわれた.今後は,本研究で得られた知見を一般化が可能な方法で検証することが必要とされ,そのための課題が整理された.
著者
倉田 康路
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.101-113, 2001-08-31

本研究においては,実践現場でサービス計画(全体計画)が実現されるためにはどのような条件や方策が必要か,介護老人福祉施設(特養)の場合を通して検討することを目的とする。研究方法として同種施設に所属する職員を対象にアンケート調査(自由回答法)を実施し,全国の155の施設から822票の回答を得ることができた。K. Krippendorffによるメッセージ分析法を用いて分析を行った結果,実現化に作用する条件や方策に関して5つのカテゴリーから28の項目が抽出された。同計画の実現に向けては,これら各項目やカテゴリーについて一連のつながりをもって関連させながら方策を展開していくことが大切かと考えられる。また,計画の実現に職員自身が自信を持てるような条件づくりを進め,サービス計画をよりよいものに改善していくという使命を一人ひとりの職員が担っていることの認識がもてる体制をいかにして創りだしていくかを検討し,確立していくことが求められる。
著者
浅井 純二
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.13-25, 2015-08-31

本論は,伊勢湾台風被災地である名古屋市南区に設置されたヤジエセツルメント保育所を中心にして救援活動の展開を整理し,被災から復旧・復興に向けた学生・保母・父母・支援者の役割と活動要素,評価を明らかにしている.役割と活動要素は,学生の人道性・開拓性,保母の専門性・継続性,父母の自発性,支援者の協同・連帯性である.保育要求は災害によって顕在化した生活問題とともに働く親の願いと捉えており,保育活動は子どもの利益を守り,地域を組織化するものである.活動の特徴は,被災と貧困という二重の条件を踏まえ,保育活動が,救援から発達保障を求める活動へ変化し,保育活動の多面的な発展のうえで歴史的な起点となったことである.
著者
木下 麗子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 = Japanese journal of social welfare (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.37-51, 2016-02

本研究の目的は,地域包括ケアシステムの構築に向けて潜在化が懸念される外国籍住民の福祉的課題を検討し実践課題を明らかにすることである.また,当事者と協働するCBPR (Community Based Participatory Research)を用いてリサーチと実践の循環過程によるコミュニティ・エンパワメントの可能性を考察する.調査は,大阪市生野区A地域において実施し社会福祉サービスの認知状況等に関して,在日コリアン高齢者126人,日本人高齢者104人より回答を得た.分析は文化的背景の相違による変数について把握するために「在日コリアン高齢者」と「日本人高齢者」の集団を目的変数とし,質問項目を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った.分析の結果「集い場への関心」「社会福祉サービスの認知度」「介護保険サービス利用不安度」「地域包括支援センター認知度」「生計」「年齢」について関連がみられた.本調査を通じて集い場を活用した福祉アクセシビリティ向上への取り組みが展開されることになった.
著者
岩永 理恵
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.40-51, 2009

本稿は,生活保護制度における援助に関する議論を自立概念に注目して吟味することから,生活保護制度のゆくえに関わって検討すべき点を考察するものである.生活保護制度の在り方に関する専門委員会の論議を起点とし,自立支援という観点から制度の根本的な見直しを進めるならば,自立という概念が援助の在り方と関係して問題になると考える.専門委員会で自立支援を議論する過程には曲折がみられたが,最終報告書で自立支援を定義し決着した.この定義は,自立支援プログラムの作成を通じて具体化すると考え,一例として板橋区の自立支援プログラム作成を検討した.その結果,自立に経済的自立だけでなく日常生活自立と社会生活自立を想定することは,制度の目的変更を迫るものであると考えた.見直されていく制度は,現行制度の"保護"という考えにそぐわず,自立支援の取り組みと同時に"保護"に替わる概念を構想する必要がある.
著者
石島 健太郎 伊藤 史人
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.82-93, 2016

本研究は,意思伝達装置を用いるALS患者204人を対象に,複雑な条件組み合わせと結果の関連を明らかにすることができるファジィセット質的比較分析(fsQCA)を用いて,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者が意思伝達装置を用いる際,どのような条件がそろえば満足度が高まるのかを明らかにするとともに,社会福祉学でのfsQCAの有効性を示すことを目的とする.分析の結果,重度障害者でも意思伝達装置を満足度の高い利用方法が複数示唆され,かつ年齢や同居する家族の有無に応じて支援すべき方向性も異なってくることが明らかとなった.こうした知見は,ケースワークにおける個別性の原則を経験的に確かめるものであるとともに,実践的には支援者が患者の属性を踏まえた意志伝達装置の利用促進に示唆を与えるものである.また,無作為抽出が困難で,さまざまな条件が複雑に関連した事例の多い社会福祉学でfsQCAを用いる意義も示された.
著者
川島 ゆり子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.26-37, 2015-08-31

本研究は,生活困窮者自立支援に関わる支援ネットワークのあり方について検討を行う.生活困窮者は単に経済的な困窮にとどまらず,多様な社会的排除の状況にあり,その支援には多様な専門機関がネットワークを構築して関わる必要性が生じる.実証研究では調査対象である精神疾患を持つ母子家庭の生活状況の厳しさが明らかになった.支援の狭間に漏れ落ち,先行きが見えないまま苦しむ姿が浮き彫りになり,多くのケースは就労していないにもかかわらず,生活保護受給にも至っていなかった.複合問題を抱える当事者に対してはネットワークによる一体的な支援が求められるが,検証の結果,生活困窮者支援において二つのネットワーク分節化の課題があることが示された.一つは時間による分節化であり,もう一つは専門分野による分節化である.生活困窮当事者の生活保障を継続的に実現するためには,生活困窮者支援に携わるコミュニティソーシャルワーカーに対してネットワークのコーディネート機能を発揮する権限を制度として確立する必要がある.
著者
西村 貴直
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.14-22, 2003-03-31

今日,とくに英米を中心としたいくつかの先進資本主義諸国では,既存の福祉国家体制の,大規模な再編成のプロセスのなかで,貧困問題をめぐる社会的な構図が大きく書き換えられつつある。その背景には,貧困の問題を,一般労働者階級の失業や低賃金の問題と,あるいは一般市民が被っている社会的・経済的剥奪の問題と結びつけて把握するのではなく,一般社会とは切り離された「アンダークラス」の構成員が抱える個人的・集団的属性の問題として把握する考え方が存在している。本稿では,こうした「アンダークラス」に言及する,あるいはそれと深くかかわるいくつかの議論の検討を通じて,現代福祉国家における「貧困」をめぐる問題構成の変容の一側面を浮き彫りにしたい。こうした作業は,とくに英米の「ワークフェア」政策から多くを吸収しようとしているわが国の福祉政策の展開を占う意味でも,極めて重要な意義をもつように思われる。
著者
松宮 透高 八重樫 牧子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.123-136, 2013-02-28

メンタルヘルス問題のある親による虐待事例への支援においては,児童福祉と精神保健福祉連携が不可欠であるが,実際には不十分な状況にある.本研究は,その要因のひとつと考えられる両領域間の相談援助職の認識を明らかにすることを目的として,児童福祉施設および相談機関の相談援助職と精神科医療機関に所属する精神保健福祉士を対象に,当該事例に対する関与実態と認識についての質問紙調査を行った.その結果,当該事例について相談援助職間で認識の差異があることが明らかになった.またその背景には,精神保健福祉士の当該事例への関与機会の乏しさ,相互の領域に関する研修の乏しさなどがみられた.こうした不十分な連携と支援プログラムの乏しさのなかで,児童福祉の相談援助職は強い困難感やストレスを抱きながら当該事例への支援を多く担っていた.研修体制の拡充や適切な人員の配置により,支援環境の整備と両分野における認識の共有を図る必要があるといえる.