著者
渡邊 信夫 Nobuo Watanabe
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.151-168, 2001-03-31

この研究は,北奥州に位置する八戸藩を対象として,八戸城下町と大坂との間に都市間海運が展開したことを論証しようとするものである.近世における都市間海運は,菱垣廻船,樽廻船による海上輸送を主とする大坂・江戸間海運を典型とする.先に,江戸・仙台間の海上輸送を担った石巻穀船の運行形態,積荷などを分析し,両地間に都市間海運の展開がみられることを論証した.本稿は同じ東廻海運における八戸と江戸,八戸と大坂間の海運においても都市間海運の展開がみられることを論証し,合わせて近世海運の特性を明らかにしょうとするものである. 文政2年,八戸藩は江戸・大坂方面に移出される国産品の専売制を実施した.その担当機関として城下に国産方を設置し,藩役人のほか城下町の有力商人をその業務にあたらせ,国産品の大坂交易に乗り出した.その結果,八戸港出入津の廻船は国産方を相手とする交易となり,さらに,藩は八戸・大坂聞の国産品の移出船を藩の雇船とし定期的な海上輸送を確保した.藩は,文化11年中大坂に「大坂御国産支配元」という大坂・八戸間の交易を担当する流通機関を設置した.藩は,支配元に就任した大坂商人柳屋又八との間に「諸国規定」を締結した.この約定は,輸送船を藩の雇船とし,支配元が雇船の調達,八戸・大坂間における国産品の海上輸送,大坂での販売を一手に請負うことを基本とするものであった.幕府の御城米,藩の蔵米輸送の場合と同じく,雇船の採用,空船条項もあるが,空船確認は雇船調達地でなく,八戸港で積み出す時点での混載の有無の確認であった.空船確認が幕藩より弱いのはまだ雇船調達を大坂に依存しなければならなかった事情の反映であった.幕末期にいたると,藩の手船を主体とする大坂交易となる.しかも,八戸藩は複数のルートによる大坂交易を行なうようになり,大坂での御船調達依存も弱まり,藩の海運支配が強化されるのである.
著者
青山 昌文 Masafumi Aoyama
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.55-61, 2011-03-22

役者の演技の在り方については、対立する二つの見解が存在している。より正確に言えば、一つの意見と一つの理論が存在しているのである。その一つの意見によれば、役者は、演じている芝居の登場人物の役のなかに自己を没入させるべきであり、心で演じるべきである。その一つの理論によれば、役者は、演じている芝居の登場人物の役を、意識的・自覚的に演技するべきであり、多大な判断力をもってして、演じるべきである。 『俳優についての逆説』と題された著作において、ディドロは、この理論を見事に確立した。彼は、凡庸な、つまらない大根役者を作るのが、極度の感受性であり、無数の幾らでもいる下手な大根役者を作るのが、ほどほどの感受性であり、卓越した役者を準備するのが、感受性の絶対的欠如である、と述べているのである。 この理論は、ディドロのミーメーシス美学に基づいている。感受性の絶対的欠如の理論は、彼の理想的モデルの美学に根拠をもっているのである。 ディドロは、スタニスラフスキーの先駆者である。但し、そのスタニスラフスキーは、真のスタニスラフスキーであって、ソ連の社会主義リアリズムのスタニスラフスキーではなく、演技の実践についての演劇理論のスタニスラフスキーである。 ディドロ美学は、アリストテレス美学と同じく、創造の美学なのである。
著者
吉岡 一男
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.16, pp.211-228, 1999-03-31

おうし座RV型星は,主極小と副極小を交互にくり返す光度変化に特徴がある半規則的な脈動変光星である.この変光星は,光度変化をもとに,RVa型とRVb型に細分類されており,RVb型は脈動周期の光度変化に重なって長周期の光度変化が見られるのに対して,RVa型ではそのような長周期変化は見られない. われわれは,国立天文台堂平観測所の91cm反射望遠鏡の多色偏光測光装置を用いて,この星の多色偏光測光観測を行っている. その結果,現在までに観測された17個のおうし座RV型星の中で,ふたご座SU星,いっかくじゅう座U星,おうし座RV星の3個の星で,偏光が長周期の時間変動をしていることを検出した.これら3個の星はすべてRVb型である.そして,観測された偏光の長周期時間変動は周期的で,その周期は長周期光度変化の周期と大体一致しているようである.この長周期の時間変動はおうし座RV星のほうが,いっかくじゅう座U星よりも顕著である.一方,観測誤差が大きいので,ふたご座SU星に対しては,長周期時間変動の大きさについては,明確な結論は下せない.さらに,偏光の長周期時間変動の特徴から判断すると,RVb現象の説明の1つとして提案されてる星周圏ダスト殻を伴う伴星による単純な掩蔽によっては,この時間変動が引き起こされてはいないようである.
著者
吉岡 一男
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.79-88, 2005

おうし座RV型星は、主極小と副極小を交互にくり返す光度変化が特徴の半規則的な変光星である。この変光星は、光度曲線をもとにRVa型とRVb型に細分類されており、RVb型が脈動周期に重なって長周期の光度変化を示すのに対して、RVa型はそのような長周期変化を示さない。またこの変光星は可視域のスペクトルをもとに、酸素過剰なAグループと炭素過剰なB,Cグループに細分類されている。われわれは、国立天文台の堂平観測観測所と岡山天体物理観測所の91cm反射望遠鏡に偏光分光装置(HBS)を取り付けて、明るい5個のおうし座RV型星の偏光分光観測を行った。そして次の結果を得た。(1)ふたご座SS星といっかくじゅう座U星とおうし座RV星では、偏光度の波長依存性に時間変動が見られる。とくにふたご座SS星の時間変動は、この星には星周圏ダスト層がないとの、われわれのMCP観測から得られた結果を覆す。(2)上記の時間変動の多くには脈動の位相との相関が見られないが、長周期光度変化と相関がありそうな星がある。(3)いっかくじゅう座U星のいくつかの観測では、その偏光度にいくつかの波長でピークが見られ、ピークの波長が放射の吸収帯に一致している。この結果を確認するために、さらなる観測を要する。(4)おうし座RV星以外では、偏光位置角に波長依存性は見られない。おうし座RV星では、長周期光度変化の増光期に5500Å付近よりも短波長域で偏光位置角が波長とともに減少している。この波長依存性は、たて座R星の過去の偏光分光観測で観測されたものと似ている。
著者
吉岡 一男 Kazuo Yoshioka
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.12, pp.137-150, 1995-03-30

おうし座RV型変光星は,F型からK型にわたるスペクトル型をもつ超巨星の脈動変光星で,その変光はセファイドほど規則的ではなく,しばしば変光周期や変光の振幅が変化している.この変光星の特徴は,深い極小光度と浅い極小光度を交互に示すことで,相次ぐ2つの主極小光度の間の変光周期は,30日から150日の範囲にある. この変光星の可視域のスペクトルに基づいた分類によれば,A,B,Cの3つのグループに分類されている.A,Bグループはそれぞれ酸素過剰と炭素過剰のスペクトルを示し,CグループはCH,CN等の吸収帯が見えない点を除き,Bグループと似たスペクトルを示している.一方,星周圏の放つ赤外放射のエネルギー分布により,この変光星は酸素過剰および炭素過剰な星周圏ダストの放射を示す2種類に大別されている.ところが,Bグループの星の中に,酸素過剰な赤外放射の分布の特徴を示すものが観測されている. そこで,両分類の関係を調べるために,国立天文台堂平観測所の91cm反射望遠鏡の多色偏光測光装置を用いて,13個のおうし座RV型変光星を観測した.ここでは,その内の7個の星の解析結果を報告する.得られた主な結論は,次のとおりである.1)多くのおうし座RV型変光星は,固有の偏光成分を示す.2)観測された偏光度は,極大光度時よりも極小光度時の方が大きい傾向を示す.3)B,Cグループでは、観測された偏光度が,とくに極小光度時近くで0.6μmあたりで極大になる傾向を示す.4)Aグループに属するふたご座SS星では,固有の偏光度や偏光位置角が,極小光度時近くで波長とともに増す傾向がわずかに見られる.
著者
吉岡 一男
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.127-136, 2007

おうし座RV型星は、主極小と副極小を交互にくり返す光度変化に特徴がある半規則的な変光星である。この変光星は、光度曲線をもとにRVa型とRVb型に細分類されており、RVb型が脈動周期に重なって長周期の光度変化を示すのに対して、RVa型はそのような長周期変化を示さない。またこの変光星は可視域のスペクトルをもとに、酸素過剰なAグループと炭素過剰なBグループとCグループに細分類されている。われわれは、国立天文台の堂平観測所と岡山天体物理観測所の91cm反射望遠鏡に偏光分光測光装置(HBS)を取り付けて、明るい5個のおうし座RV型星の偏光分光観測を行った。そして、それぞれの星に対して星間偏光を差し引いて固有偏光を求め、次の結果を得た。ふたご座SS星といっかくじゅう座U星とおうし座RV星では、固有偏光度の波長依存性に時間変動が見られる。上記の時間変動の多くには脈動の位相との相関が見られないが、長周期光度変化と相関がありそうな星がある。いっかくじゅう座U星のいくつかの観測では、その固有偏光度にいくつかの波長でピークが見られ、ピークの波長が放射の吸収帯に一致している。ふたご座SS星とヘルクレス座AC星とおうし座RV星では、固有偏光位置角にも波長依存性が見られる。とくにおうし座RV星では、長周期光度変化の増光期に5500Å付近よりも短波長側で固有偏光位置角が波長とともに減少している。この波長依存性は、たて座R星の過去の偏光分光観測で観測されたものに似ている。
著者
吉岡 一男 Kazuo Yoshioka
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.117-126, 2010-03-23

おうし座RV型星は、主極小と副極小を交互にくり返す光度変化に特徴がある半規則的な変光星である。この変光星は、光度曲線をもとにRVa型とRVb型に細分類されており、RVb型が脈動周期に重なって長周期の光度変化を示すのに対して、RVa型はそのような長周期変化を示さない。またこの変光星は可視域のスペクトルをもとに、酸素過剰なAグループと炭素過剰なB,Cグループに細分類されている。 われわれは、岡山天体物理観測所の188cm反射望遠鏡に偏光分光測光装置(HBS)を取り付けて、明るい4個のおうし座RV型星の偏光分光観測を行った。そして、それぞれの星に対して星間偏光を差し引いて固有偏光を求め、固有偏光の波長依存性に関して次の結果を得た。(1)HBSで求めたふたご座SS星の固有偏光の波長依存性には3つのタイプがある。それらは脈動変光の位相の違いによると思われる。(2)HBSで求めたいっかくじゅう座U星の固有偏光の波長依存性には4つのタイプがある。それらは長周期光度変化の位相の違いによると思われる。(3)HBSで求めたオリオン座CT星の固有偏光の波長依存性は、多色偏光測光装置(MCP)で求めた結果に等しい。したがって、オリオン座CT星の固有偏光は時間的に一定と思われる。(4)HBSで求めたおうし座座TV星の固有偏光の波長依存性には4つのタイプがある。それらは長周期光度変化の位相の違いによると思われる。ただし、MCPで求めた両者の相関関係とは異なっている。
著者
橋本 裕蔵
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.35-59, 1997

死刑廃止論が盛んである.実務では,最高裁判所がいわゆる保険金詐取目的殺人等被告事件に関する平成8年9月20日の第二小法廷判決(白建土木3億円保険金殺人事件上告審判決)で共謀共同正犯として第一審及び控訴審で死刑判決を受けた被告人のうち一名につき死刑判決を破棄し無期懲役刑を言い渡して自判し(判時1581号33頁),東京高等裁判所は平成9年5月12日,強制猥褻等の非行により初等少年院送致を受け2年間収容され,その後,別罪の有罪判決の執行猶予中に強姦致傷の犯行に及び刑に服した前歴を持つ被告人が,その後犯した2件の強盗強姦,強盗強姦殺人で第一審裁判所において死刑を言い渡された事件においてこの死刑判決を破棄し無期懲役刑を言い渡している(判時1613号150頁). わが国の死刑制度は寛刑の傾向にある.しかし,この傾向は,単なる寛刑傾向と評するには無理がある.上記東京高裁の事例は凄惨を極める. 他方,死刑廃止論は世界の「潮流」を背景に盛んにその主張を展開している.しかし,その死刑廃止論は「死刑」それ自体の廃止論であり,わが国の死刑制度を前提としてはいない.だが,死刑存廃の問は主権行使と文化の問に直結する. わが国の法状況を前提に,現在展開されている死刑廃止論を批判的に検討し,果たして,死刑はわが国において本当に廃止されなければならないのかどうか.この点を検討する.
著者
島内 裕子 Yuko Shimauchi
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.132(11)-119(24), 2006-03-31

江戸時代には、木版印刷によってさまざまな文学作品が刊行されたが、それらの中でも徒然草は、わかりやすく教訓的な作品として、広く親しまれた。本文だけのものから、挿絵付きのもの、頭注付きのもの、詳細な注釈書など、徒然草はさまざまなスタイルで刊行されている。けれども、徒然草は文学作品として読まれただけではない。絵巻や色紙や屏風に描かれて、美術品・調度品としても鑑賞された。 本稿では、描かれた徒然草の中から、熱田神宮献納・伝住吉如慶筆「徒然草図屏風」と、米沢市上杉博物館蔵「徒然草図屏風」の二点を取り上げる。このたび、詳細に現物調査することによって、描かれた章段を特定することができた。前者は徒然草から一連の仁和寺章段を抽き出して描いた屏風、後者は徒然草から二十八場面を描いた屏風である。 この調査を踏まえて、それぞれの屏風の抽出章段の特徴や、図柄の描き方の特徴、屏風の制作目的などについても考察を加えた。さらに、絵巻や色紙に描かれる場合との違いを通して、徒然草が屏風に描かれることの意味と意義について考えてみた。
著者
杉浦 克己 Katsumi Sugiura
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.238(1)-212(27), 2000-03-31

古語拾遺の諸本を一瞥すると、本文漢字複数字を一まとまりとして訓を充てた例が比較的多いことが目に付く。本稿ではこれらのうち特に本文漢字二文字の例を仮に「熟語」と呼んで抽出し、諸伝本に見えるその訓読を蒐集・分析した。 訓点資料に見える熟語は、元漢文の著者自身の漢字の用法によるものと、加点者の解釈の結果として熟語として読まれているものがあると考えられ、しかもこの両者は表裏の関係にあると言える。諸伝本に見える同箇所への加点を比較検討し、他の漢文文献などの例も参照しつつこの二者の関係を明らかにしょうとするのが本稿のねらいである。更にこれを手がかりとして、元漢文が一定の訓読を想定して書かれたものである可能性の有無を検証したいと考えた。当該例七七三の個々についての分析は未だ半ばなのではあるが、これに直接関係しそうないくつかの例を得ることができた。
著者
蘇 雲山 河合 明宣
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.75-91, 2009

国際保護鳥トキの保護及びトキ野生復帰(再導入)は、日本と中国だけではなく、近年、韓国でも取り上げられ、注目されている。2008年、韓国で野生復帰を視野にトキのケージ飼育が開始された。日本では、2008年第一次10羽放鳥、2009年の第二次で20羽放鳥された。トキはコウノトリ属の大型水鳥である。兵庫県豊岡市では野生コウノトリは一度絶滅したが、ハバロフスクから受贈したコウノトリの人工飼育が成功し、2005年に2羽放鳥した。その後、毎年の放鳥が続き、2007年には野外繁殖で初めての雛が誕生した。さらに2009年10月31日に2羽が放鳥され、約40羽が市内の水田、湿地、河川敷に定着し、生息を続けている。 トキ及びコウノトリの保護と野生復帰(再導入)は、農業環境の問題だけではなく、社会システムの再構築や地域の産業(特に農業)構造の調整が必要不可欠である。そのため、トキ保護及び再導入事業は、地域社会全体の合意により地域住民の参加の下で行なわれなければならない。 本稿は、トキの再導入が開始された、野生トキの生息地であった3カ国の中で野生復帰事業が先行する中国を中心に、次の課題を比較の観点から検討する。(1)3力国において、トキ再導入のために生息地である河川及び水田の生態環境の修復がどのようになされているのか。その主体と施策の異同を比較検討する。(2)主要な生息地である、里地・里山管理がどう変わったのか。農業政策と自然環境保護政策との関係を比較検討したい。
著者
蘇 雲山 河合 明宣 Yunshan Su Akinobu Kawai
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.75-91, 2010-03-23

国際保護鳥トキの保護及びトキ野生復帰(再導入)は、日本と中国だけではなく、近年、韓国でも取り上げられ、注目されている。2008年、韓国で野生復帰を視野にトキのケージ飼育が開始された。日本では、2008年第一次10羽放鳥、2009年の第二次で20羽放鳥された。トキはコウノトリ属の大型水鳥である。兵庫県豊岡市では野生コウノトリは一度絶滅したが、ハバロフスクから受贈したコウノトリの人工飼育が成功し、2005年に2羽放鳥した。その後、毎年の放鳥が続き、2007年には野外繁殖で初めての雛が誕生した。さらに2009年10月31日に2羽が放鳥され、約40羽が市内の水田、湿地、河川敷に定着し、生息を続けている。 トキ及びコウノトリの保護と野生復帰(再導入)は、農業環境の問題だけではなく、社会システムの再構築や地域の産業(特に農業)構造の調整が必要不可欠である。そのため、トキ保護及び再導入事業は、地域社会全体の合意により地域住民の参加の下で行なわれなければならない。 本稿は、トキの再導入が開始された、野生トキの生息地であった3カ国の中で野生復帰事業が先行する中国を中心に、次の課題を比較の観点から検討する。(1)3力国において、トキ再導入のために生息地である河川及び水田の生態環境の修復がどのようになされているのか。その主体と施策の異同を比較検討する。(2)主要な生息地である、里地・里山管理がどう変わったのか。農業政策と自然環境保護政策との関係を比較検討したい。
著者
蘇 雲山 河合 明宣 Yunshan Su Akinobu Kawai
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of The Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.45-67, 2016-03-25

1981年5月23日、中国西北地方秦嶺山脈南側に位置する洋県で絶滅寸前の野生トキ7羽が発見されてから早くも34年が過ぎ去った。この間、行政が主導し地域住民が参加した保護体制を構築して生息域内保全(in situ conservation)と生息域外保全(ex situ conservation)を同時に進めてきた。その結果、野生トキ個体群が当時の7羽から1,000羽の大台を突破した。それに伴い、トキが原生息地1の洋県から分散し生息域が周辺へ広がった。 一方、1989年、北京動物園が世界で初めてトキ人工ふ化を成功させた。その繁殖技術の普及により、分散飼育範囲の拡大を通して人工個体群が増え、かつてのトキ分布域での再導入も可能となった。2007年以降再導入計画が佐渡及び中国の寧陝、董寨、銅川、千陽、徳清などで進められてきた。再導入地での放鳥個体が自然下で繁殖に成功し、佐渡と寧陝では既に三世代が生まれている。このようにトキ絶滅危機が一段と緩和され、トキ種の保存は新しい局面を迎えている。 現在、中国のトキ分布地域、特に原生息地の洋県では社会、経済、自然等の環境に大きな変化が生じている。その背景は近年の急速な経済成長である。経済発展に伴い、地域の社会・経済・自然環境の変化が加速した。トキ再導入事業地域にファンダーペアや飼育繁殖技術を提供する役割を担う「原生息地周辺地域」(洋県及び周辺諸県)においても、交通・通信事情が改善され、地域の農業経済に構造的な変化が起こり、住民の価値観が変わりつつある。このような状況下でいかにして、一連のトキ再導入地を支える原生息地の自然環境とトキ文化を守り続け、次の世代に引き渡すかという大きな課題は、緊急性を帯びてきている。 本稿は、以上の問題意識をもって洋県を中心としたトキ原生息地におけるこれまで34年間の保全活動を振り返って、この間の自然・社会環境変化からトキ保全にもたらされた影響を考察し、トキ原生息地の生態的文化的価値を再認識し、近年各地で行われているトキ再導入の現状を把握した上で、順応的管理の観点から原生息地と再導入地の共通の課題を明らかにする。
著者
蘇 雲山 河合 明宣 Yunshan Su Akinobu Kawai
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of The Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.33, pp.45-67, 2016-03-25

1981年5月23日、中国西北地方秦嶺山脈南側に位置する洋県で絶滅寸前の野生トキ7羽が発見されてから早くも34年が過ぎ去った。この間、行政が主導し地域住民が参加した保護体制を構築して生息域内保全(in situ conservation)と生息域外保全(ex situ conservation)を同時に進めてきた。その結果、野生トキ個体群が当時の7羽から1,000羽の大台を突破した。それに伴い、トキが原生息地1の洋県から分散し生息域が周辺へ広がった。 一方、1989年、北京動物園が世界で初めてトキ人工ふ化を成功させた。その繁殖技術の普及により、分散飼育範囲の拡大を通して人工個体群が増え、かつてのトキ分布域での再導入も可能となった。2007年以降再導入計画が佐渡及び中国の寧陝、董寨、銅川、千陽、徳清などで進められてきた。再導入地での放鳥個体が自然下で繁殖に成功し、佐渡と寧陝では既に三世代が生まれている。このようにトキ絶滅危機が一段と緩和され、トキ種の保存は新しい局面を迎えている。 現在、中国のトキ分布地域、特に原生息地の洋県では社会、経済、自然等の環境に大きな変化が生じている。その背景は近年の急速な経済成長である。経済発展に伴い、地域の社会・経済・自然環境の変化が加速した。トキ再導入事業地域にファンダーペアや飼育繁殖技術を提供する役割を担う「原生息地周辺地域」(洋県及び周辺諸県)においても、交通・通信事情が改善され、地域の農業経済に構造的な変化が起こり、住民の価値観が変わりつつある。このような状況下でいかにして、一連のトキ再導入地を支える原生息地の自然環境とトキ文化を守り続け、次の世代に引き渡すかという大きな課題は、緊急性を帯びてきている。 本稿は、以上の問題意識をもって洋県を中心としたトキ原生息地におけるこれまで34年間の保全活動を振り返って、この間の自然・社会環境変化からトキ保全にもたらされた影響を考察し、トキ原生息地の生態的文化的価値を再認識し、近年各地で行われているトキ再導入の現状を把握した上で、順応的管理の観点から原生息地と再導入地の共通の課題を明らかにする。
著者
島内 裕子 Yuko Shimauchi
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.23, pp.132(11)-119(24), 2006-03-31

江戸時代には、木版印刷によってさまざまな文学作品が刊行されたが、それらの中でも徒然草は、わかりやすく教訓的な作品として、広く親しまれた。本文だけのものから、挿絵付きのもの、頭注付きのもの、詳細な注釈書など、徒然草はさまざまなスタイルで刊行されている。けれども、徒然草は文学作品として読まれただけではない。絵巻や色紙や屏風に描かれて、美術品・調度品としても鑑賞された。 本稿では、描かれた徒然草の中から、熱田神宮献納・伝住吉如慶筆「徒然草図屏風」と、米沢市上杉博物館蔵「徒然草図屏風」の二点を取り上げる。このたび、詳細に現物調査することによって、描かれた章段を特定することができた。前者は徒然草から一連の仁和寺章段を抽き出して描いた屏風、後者は徒然草から二十八場面を描いた屏風である。 この調査を踏まえて、それぞれの屏風の抽出章段の特徴や、図柄の描き方の特徴、屏風の制作目的などについても考察を加えた。さらに、絵巻や色紙に描かれる場合との違いを通して、徒然草が屏風に描かれることの意味と意義について考えてみた。
著者
三輪 眞木子 仁科 エミ 黒須 正明 高橋 秀明 柳沼 良知 廣瀬 洋子 秋光 淳生 Makiko Miwa Emi Nishina Masaaki Kurosu Hideaki Takahashi Yoshitomo Yaginuma Yoko Hirose Toshio Akimitsu
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of The Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.32, pp.101-111, 2014

本研究は、面接授業「初歩からのパソコン」の受講で習得した放送大学生のデジタル・リテラシー・スキル(以下「DLスキル」)の定着状況把握を目的に実施した。この授業を2010年度2学期から2013年度1学期の間に受講した在学生に2013年11月に郵送アンケートを実施した。調査結果は、DLスキルの種類により、定着したもの、低下したもの、向上したものがあること、DLスキルの定着には、受講生の年齢、受講生のパソコン・インターネットの利用頻度が影響を及ぼしていること、DLスキルの向上とパソコン・インターネット利用頻度の間に相関があること、DLスキルの定着には、受講生のその後の学習方法が影響を及ぼしていることを示した。受講直後から本調査の期間に低下したDLスキルについて、授業後のスキル活用の機会を増加させる必要性が示唆された。また、定着効果のあるテレビ授業「遠隔学習のためのパソコン活用」の受講と同好会等への参加を促す必要性が示唆された。
著者
吉岡 一男 Kazuo Yoshioka
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.18, pp.133-149, 2001-03-31

おうし座RV型星は,主極小と副極小を交互にくり返す光度変化に特徴がある半規則的な脈動変光星である.この変光星は,光度曲線をもとにRVa型とRVb型に細分類されており,RVb型が脈動周期の光度変化に重なって長周期の光度変化が見られるのに対して,RVa型にはそのような長周期変化は見られない.また,この変光星は可視域のスペクトルをもとに,酸素過剰なAグループと炭素過剰なB,Cグループに細分類されている. われわれは,国立天文台堂平観測所の91cm反射望遠鏡を用いて,おうし座RV型星の多色偏光観測を行った.観測された17個の星の内,4個の星に対して星間偏光成分を取り除いて固有偏光成分を求めた.星間偏光成分は,near-neighbor法で決定された.われわれが得た星間偏光成分の偏光位置角は,他の観測者の得た値に近いが,われわれが得た星間偏光成分の偏光度のいくつかは,他の観測者の値と大きく異なる.われわれの得た値は,星間偏光に対してより根拠のある仮定に基づいているので,より信頼度が高い. われわれの求めた固有偏光成分は,いっかくじゅう座U星を除き,星周圏ダストの幾何的配置が時間変動をしないことを示唆している.さらにわれわれの結果は,Aグループの星で観測された偏光度が中間の波長で極大値をとる傾向がある,というわれわれがすでに得ている結果を支持している.