著者
肥前 洋一
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.137-147,257, 2003-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
13

2001年7月の第19回参議院議員選挙から,比例区選出議員の選出方法として,拘束名簿式に代わって非拘束名簿式が導入された。本論文は,ゲーム理論を用いて,これら2つの選挙方法のうち,どちらが民意をよりよく反映した選挙結果を実現するか分析する。本論文の戦略的投票モデルから得られた結果は,非拘束名簿式のもとでは政策空間の中央に位置する政策を実現する候補者の組み合わせが常に当選するが,拘束名簿式のもとでは一部の有権者に偏った政策を実現する候補者の組み合わせも当選しうるというものである。その意味で,非拘束名簿式のほうが民意をよりよく反映した選挙結果を実現するといえる。
著者
堀田 敬介
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.123-141, 2015 (Released:2018-04-06)
参考文献数
38

一票の最大格差を最小にすることを目的とした最適化モデルをつくり最適解を求めると,与えられた総定数のもとでの格差限界値が得られる。総定数295議席や73議席を47都道府県に議席配分する際の一票の限界格差は,それぞれ1.598倍,4.311倍である。議席配分時に格差が拡大する最も大きな要因は,総定数と都道府県を地域として採用していることである。この条件を緩める施策の一つとして合区や総定数の変更がある。本研究では,これらが最大要因であること,及び,最適化モデルによる限界値分析によって,これらが格差に与える影響を明らかにする。
著者
池谷 知明
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.47-57,255, 2003

本論文は2001年イタリア上下両院選挙について,選挙制度と政党システムの変容に焦点を当てて検討する。1993年に導入された現行選挙制度は,上下両院とも小選挙区と比例代表の混合制度であるが,2極化とそれによる政権交代をめざした。多くの研究者によれば,2001年選挙ではこの目的は達成されたと言える。もし選挙競合の単位を選挙連合と考えるならば,この見解は正しい。1996年選挙の勝者である中道•左翼連合が破れ,中道•右翼連合のリーダーであるシルビオ•ベルルスコーニが1994年に続き第2次内閣を組織したからである。また2大選挙連合が小選挙区のほとんどすべての議席を占めたからである。しかし,選挙競合の単位を政党とみなすならば,政党システムは2極化にはほど遠く,なお破片化が確認される。破片化はとくに小選挙区で顕著である。というのも,比例区で議席獲得が困難な小政党が選挙連合内の戦略,交渉によって,小選挙区での議席獲得が可能になっているからである。1996年選挙で選挙連合の2極化と政党の破片化が示されたが,2001年選挙はこの傾向を確認する選挙であった。
著者
鈴木 基史
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.30-41,186, 2000

本稿は制度論的な投票行動仮説を提示する。具体的には,選挙制度が政党のとる政策ポジションに影響を与え,そのポジショニング戦略が投票行動における争点と特性の相対的重要性および投票行動モデルの経験的妥当性を規定するという仮説を提示する。たとえば,相対的多数制(小選挙区制)は,諸政党の政策ポジションに中位収斂化圧力を与え,大きな選挙区規模と低い議席獲得のための最低得票率を設定した比例代表制は,そうした圧力をかけない。そのため,前者による選挙では,争点が希薄化し,投票行動は特性志向にならざるをえないが,後者による選挙では,争点は明瞭化し,争点志向の投票が促進される。本稿では,新選挙制度で行われた1996年衆議院総選挙のサーベイ•データを用いて仮説検証を行う。計量分析では,理想点モデルと特性モデルが掲げる投票決定因を兼ね備えた統合モデルを利用して,比例区と小選挙区の評価関数を同時に推定し,争点と特性の重要性を検討する。
著者
東川 浩二
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.95-104, 2008

1986年のDavis v. Bandemer 判決において,合衆国最高裁は,政治的ゲリマンダの訴えに司法判断適合性を認め,政党単位でみた得票率と議席獲得率に大きな差が見られる場合,合衆国憲法の平等保護条項に反するという判決を下した。しかしながら,どれほどの差が見られた場合に憲法違反となるかについて,裁判所が,依拠し運用できる基準について多数意見は見られず,政治的ゲリマンダに違憲判断が行われたことは一度もないのが現状である。そこで,近年,州憲法の規定の活用や,区割り権限を州議会から独立した委員会に移譲するなど,最高裁による基準確定を待たずして,ゲリマンダを防止する取り組みが行われるようになった。これらは州の憲法を拠り所としている点で共通しており,2006年にも基準の確定に失敗した最高裁よりも,州憲法とそれを解釈する州の最高裁の役割に期待が寄せられている。
著者
Masahisa ENDO Willy JOU
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.96-112, 2014 (Released:2018-01-05)
参考文献数
60
被引用文献数
2

Both scholarly and journalistic accounts in Japan have long used the terms ‘conservative (hosyu)’ and ‘progressive (kakushin)’ to characterize political parties. However, the question of whether the general public shares a common view of party positions along the conservative-progressive spectrum has not heretofore been empirically investigated. The present study attempts to fill this vacuum by examining how different age cohorts perceive 1) overall party system polarization and 2) the positions of parties consistently identified by scholars as anchoring the two ends of the ideological scale. Analysis of surveys covering nearly three decades reveals a significant positive relationship between age and perceived polarization that has strengthened over time. Furthermore, the conventional view of parties' ideological positions widely held among political scientists is no longer shared by younger voters. These findings, which are mostly attributable to a generational effect, call for a fundamental reevaluation of the role of ideology in Japanese party politics.
著者
大山 礼子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.158-168,287, 1997

Direct elections of the Presidency after the constitutional amendment of 1962 had the effects of not only developing bipolarisation between Left and Right, but also changing campaigning styles. Presidential candidates are being forced to mediatise their candidacy in a massive scale.<br>As money becomes more important to the pursuit of election campaign, equality of opportunity declined. Since 1988, France has introduced a set of legal restrictions on campaign funds. Corporate contributions are banned by the 1995 legislation. In 1995 election, campaign expenditure is limited to 90 millions of francs (or 120 millions for the two candidates presenting the second round). Candidates must submit a statement of income and expenditure to the Consutitutional Council, which has a power to examine, correct or reject it.<br>The influence of television has been increased from election to election. The governing body of broadcasting, Conseil sup&eacute;rieur de l'audiovisuel, acts as a watchdog during election time and ensures that all candidates have equal access to television and radio channels.
著者
今井 亮佑 日野 愛郎
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.5-19, 2012

本稿は,日本の参院選の選挙サイクルが総選挙のそれと異なる点に着目し,「二次的選挙」(second-order election)モデルの視点から,参院選における投票行動について検討するものである。欧州の選挙研究は,欧州議会選挙や地方選挙等のいわゆる「二次的選挙」において,その時々の政権の業績が問われ,与党が敗れる傾向があることを示してきた。本稿では,2009年総選挙,2010年参院選前後に行った世論調査(Waseda-CASI & PAPI 2009,Waseda-CASI 2010)をもとに,政権の業績に対する評価が投票行動に及ぼす影響を探った。その結果,業績評価の影響は,「一次的選挙」(総選挙)と「二次的選挙」(参院選)の重要性に関する有権者の主観的評価によって異なることが明らかになった。
著者
名取 良太
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.66-81,213, 2008

本稿では, 2007年4月に実施された44道府県議選に, 異なるレベル・異なる時期に実施された選挙結果が及ぼした影響について, 市区町村レベルで集計されたデータを用いて検討する。<BR>米国におけるmidterm lossの議論にみられるように, 有権者は, ある選挙において異なる選挙に反応した行動を選択することがある。日本の投票行動研究においても, そうした戦略的行動が観察されてきた。そこで, 本稿では, 2007年の道府県議選における自民党得票率の変動が, 2005年衆院選の結果と知事の党派性によって説明されるという予測を立てた。OLS分析の結果, 2005年衆院選における自民党の勝利が, 2007年選挙における得票率の低下に影響を及ぼすことが明らかになった。しかし知事の党派性については, 予測とは逆に, 自民党推薦知事がいる地域ほど, 自民党が得票率を上昇させたことが明らかになった。
著者
堤 英教
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.5-20, 2012 (Released:2017-09-01)
参考文献数
31

近年,日本の主要政党において,公募等を用いた開放的な候補者選定が普及している。候補者となることができる者,候補者を選ぶ者の範囲の拡大は,政党組織の集権性や凝集性に大きな影響を与えることが予想される。本稿では,特に自民党において候補者選定過程の開放が進んだ2010年参院選を対象として,政党の関与の強さという観点からその実際を整理するとともに,公募等で選定された候補者のプロフィールや政策選好,政党-候補者関係観について分析を行った。その結果,民主党の公募は党本部の関与が強いものであったが,自民党は地方組織が一定程度,関与できる選定方式を採用していたこと,公募等で選ばれた候補者は政党からの自律性を志向する傾向があることなどが分かった。こうした結果からは,候補者選定過程の「開放」が必ずしも政党組織の集権性や凝集性を高める方向には作用しない可能性が示唆される。
著者
名取 良太
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.128-141,207, 2002-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
23
被引用文献数
3

中選挙区制度は,自民党の利益誘導政治の根源的な要因とされた。具体的な要因とは,第1に同士討ちが生じることによって,政策によって選挙競争が行われず個人の業績中心の選挙活動が行われることであり,第2に低い得票率で当選可能なため,一部の有権者に向けたサービスを行うという点であった。しかしながら,この2つの点には,いずれも誤りがあった。同士討ちと利益誘導の関係は,個人の業績によって「票を奪い合う」こととされたが,実際には「棲み分け」が行われることで,過剰な「奪い合い」が避けられていた。このことから,同士討ちによって利益誘導が活性化するとは必ずしも言えず,むしろ,同士討ちとは独立して,自己の政治力強化のために活性化していたことが想定される。つぎに,並立制下の小選挙区選挙においては,従来の支持基盤を抑えることにより十分当選が可能であったため,従来の選挙活動に比べ大きな変化を必要としなかった。そこで,小選挙区制の適用により,同士討ちは解消されたものの,政治力強化という政治家の目的と,実際の選挙活動に変化がみられないことから,利益誘導政治は解消されないという仮説を立てた。そして,中選挙区制下と並立制下の移転財源配分の決定要因分析を行った結果,いずれの制度下においても,都市化や財政環境を考慮してもなお,自民党の政治力が影響を与えており,選挙制度改革が利益誘導政治を変化させなかったことを明らかにした。
著者
河村 和徳
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.43-56, 2013

未曾有の大災害である東日本大震災によって,被災地自治体は深刻なマンパワー不足に陥った。選挙管理も例外ではなく,2011年4月に被災地で予定されていた統一地方選挙は延期を余儀なくされ,福島県知事選・県議選は2011年9月に,宮城県及び福島県の県議選は同年11月に延期された。本稿では,これまであまり関心を向けられなかった選挙管理者に着目し,2011年秋の地方選挙及び2012年の年末に行われた衆議院選挙を,「マンパワー不足」をキーワードに論じていく。そして,被災地における2011秋の地方選挙は多くの被災地外からの応援によって乗り切れたこと,2012年の年末に行われた衆議院選挙では被災だけではなく労働者派遣法の改正もマンパワー不足の要因となったこと等を指摘する。なお,本稿は,被災地で起こっている状況について幅広く情報を共有することを目的としており,仮説検証型のスタイルは採らない。
著者
池田 謙一
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.109-121,188, 2000

本論文は社会心理学的な二つの投票行動モデルに基づき,1998年の参院選比例区での投票行動に対して,96年の政党スキーマ,98年の政治•経済の状況に対する「ソシオトロピック」な判断•内閣業績評価が及ぼす効果を検討したものである。用いたデータは1996-98年のJEDS全国パネル調査であり,分析の結果は仮説に支持的であった。<br>ここでは,業績評価が社会心理学的な視点から持つ意味,また業績評価や投票行動の規定要因としてのソシオトロピックな判断の持つ意味を検討し,これらを踏まえて分析が行われ,業績評価が投票行動に効果を持つことが明瞭に示された。一方,ソシオトロピックな判断は内閣の業績評価に対しては米国と同様の効果を示したものの,投票行動に対しては異なる効果を持っていた。これらの結果は,個人の経済状況認知の持つ自己利害的な効果と関連させて考察された。

1 0 0 0 OA SNTVとM+1法則

著者
茨木 瞬
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.129-142, 2013 (Released:2017-12-06)
参考文献数
11

大選挙区単記非移譲式投票制(SNTV)における“候補者数”をめぐる研究に関しては,中選挙区時代の衆議院議員選挙のデータを用いて分析したReed (1990, 1997) と川人(2004)がある。しかし,中選挙区時代の衆院のデータでは,“泡沫”候補が多く存在し,“泡沫”候補を除外するための工夫が必要であるが,これまでの先行研究では,“泡沫”候補を除外する方法がやや恣意的であり,疑問が残る。そこで本論では,政令指定都市の道府県議会議員選挙のデータを活用することを提案し,先行研究における“泡沫”候補問題を回避して,SNTV におけるM+1法則の検証が行えることを示す。さらに,定数是正が国政選挙と比べて頻繁に行われている,という政令市県議選の利点を生かし,定数変更前後での候補者そのものの動きや,有効候補者数の変化等によりM+1法則の安定性を確認していく。
著者
東川 浩二
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.97-107, 2009

我が国における選挙資金規制の問題は,いわゆる事務所費問題のように金銭の不正使用との関連で議論されることが多いが,合衆国では,選挙資金規正法は,政治活動の規模と質に直接影響を与えると考えられ,憲法が保障する表現の自由との調節をどのようにはかるかが問題とされてきた。この点について1976年の Buckley 判決で献金制限=合憲, 支出制限=違憲という定式を定めたが,規制が認められる範囲は徐々に拡大され,2003年のMcConnell判決では意見広告のための支出の制限も合憲とされるに至った。しかしながら2005年に2名の最高裁裁判官が交代すると,最高裁内部で判例変更をせまる意見が多数を占めるようになり,今や政治浄化よりも表現の自由を強化する方向の判決が相次いで出されるようになってきている。
著者
渡辺 博明
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.32-43, 2010

2006年のスウェーデン選挙は,3期12年ぶりの政権交代によって注目された。その際,中道右派4党の勝利を可能にしたのは,前例のない周到な選挙協力であった。本稿では,(1)それに先立つ社民党政権期に,連立政権ではなく文書化した政策合意に基づいて多数派を確保しようとする「契約主義的議会政治」が現れたこと,(2)それが右派の結集を促し「選挙連合の政治」を生んだこと,(3)2006年での右派の勝利が今度は左派3党を次期選挙に向けた事前協力に踏み切らせたこと,を見ていく。その上で,選挙を前に左右両陣営が政権構想を固めて有権者の支持を奪い合う現在の状況は,同国の伝統的な「ブロック政治」の枠組みを越え出るものであることを指摘し,政党自身の変化や有権者の投票行動の変化にも言及しながら,この10年余りの間に同国の政党政治と選挙をめぐって構造変動が起きていると結論づける。
著者
Ikuo KABASHIMA Ryosuke IMAI
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
Japanese Journal of Electoral Studies (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.5-17,180, 2001-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
10

「神の国」をはじめ一連の発言で首相としての資質を問われた森首相に対する評価は2000年総選挙での有権者の投票行動に影響していたのか。本稿の目的は,2000年総選挙を題材に,従来あまり注目されることのなかった党首評価と投票行動の関連を明らかにし,日本の投票行動研究に新たな理論的貢献を試みることにあった。分析の結果明らかになったことは,次の3点である。第1に,投票行動に党首評価は影響を与えており,しかもその影響は小選挙区よりも比例区に顕著に見られた。第2に,党首評価は小選挙区•比例区の2票の使い方,いわゆる分割投票にも影響を与えていた。そして第3に,森首相に対する評価には内閣業績評価,「神の国」「国体」など一連の発言に対する評価,自公保という連立の枠組に対する評価が影響を与えており,中でも発言に対する評価の影響が最も大きかった。
著者
河村 和徳
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.73-83, 2011 (Released:2017-06-12)
参考文献数
12

2009年総選挙では,多くの稲作農家が民主党に投票した。本稿では,サーヴェイ・データを用い,彼らの政治意識と投票行動について分析を試みる。分析の結果,彼らの投票行動の背景には,自民党・農林水産省・農協という,これまでの自民党農政の担い手に対する負の評価と,戸別所得補償を掲げる民主党への期待があった。また減反政策の是非はもはや争点ですらなく,個別所得補償への期待の程度が自民党に投票するのか,それとも民主党に投票するのかを分かつ重要な要因であった。更に,2009年の時点で,零細兼業農家と大規模化を進めてきた専業農家の間で,民主党や自民党農政の担い手に対する感情の違いが生じており,また政治との関わり方についても意見の違いがみられた。政権交代の影響もあり,政党に対し中立の立場をとりたいという農家が多く存在し,これまでの「農家が一枚岩で自民党を支える」という見方が成り立たなくなっていることが,本稿で明らかとなった。