著者
北島 康雄
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.424-432, 2007 (Released:2007-10-02)
参考文献数
27
被引用文献数
4 2

皮膚の水・空気環境バリア機能に関して最も重要な構造は,角質細胞間にある脂質多重層構造である.これを恒常的に構築する細胞が表皮ケラチノサイトであり,その最終分化細胞の角質細胞は強靱な細胞シート構造を保ち,脂質多重層を柔軟に強く保持している.そのために,ケラチノサイトは細胞内にはケラチン中間径線維とデスモソーム,アドヘレンスジャンクション(Jnc),タイトJnc,ギャップJncなどの細胞接着構造を発達させている.その分子変異や機能異常は角化異常とバリア機能不全をきたす.これらの分子の制御はDDSの制御につながる.
著者
Shuya Yoshida Fumiyoshi Yamashita
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.417-425, 2014-11-25 (Released:2015-02-27)
参考文献数
39

薬物代謝酵素は医薬品の体内からの消失を決定する重要な因子であり、その個体間あるいは個体内での変動が臨床での薬物療法において大きな問題となる。薬物代謝酵素の誘導はリガンド結合型転写因子すなわち核内受容体によって制御され、薬物間相互作用の原因の1つとされている。したがって、臨床では誘導剤と基質薬物の併用の回避、創薬では誘導剤とならない医薬品化合物の創成が必要であり、これらを未然に予測できるシステム開発が現在求められている。本稿では、Cytochrome P450(CYP)、なかでも最も重要な分子種であるCYP3A4を中心に、酵素誘導に係る核内受容体と化合物との相互作用に関する構造活性相関および臨床での薬物間相互作用のin vitro-in vivo補外について紹介する。
著者
田端 祐二 長田 裕之
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.336-342, 2003-07-10 (Released:2008-12-26)
参考文献数
27

Estrogen and progesterone, female sex hormones, are known to play important roles in female reproductive health via their nuclear receptors. Some cancers and tumors show these female sex hormones(especially estrogen)dependent growth and development. Therefore, various types of drugs, which modulate these hormonal effects, have been developed and used for treatment of estrogen receptor(ER) and/or progesterone receptor(PR) positive cancers since 1960 s. In this decade. the researches on structures and functions of ER and PR isoforms have rapidly been promoted by the progress of molecular biology. The researches and developments of new drugs against ER and/or PR positive cancers(e.g. pure antiestrogen, progesterone receptor modulators) are also in progress. In this review, we will introduce the functions of ER and PR, endocrine therapy for ER and/or PR positive cancers, and recent researches on new compounds and natural products which show antitumor effects against ER and/or PR positive cancers.
著者
鳥澤 勇介
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.268-277, 2019-09-25 (Released:2019-12-25)
参考文献数
56

マイクロデバイス技術を細胞培養・組織工学に応用することで、Organ-on-a-chipと呼ばれる生体模倣デバイスが開発されている。これは、生体内の環境を模倣し、組織の立体的な構造や化学的・力学的な微小環境を忠実に再現することで、臓器レベルの細胞機能保持を行う技術である。Organ-on-a-chipの開発において、血管ネットワークの構築が重要な技術となっている。血管ネットワークは、体内のすべての臓器に存在しており、臓器の機能や構造を模倣するうえで、また臓器間の相互作用を再現するうえで必要不可欠である。本稿では、マイクロ流体デバイスを用いた血管ネットワークの形成、および血管構造の導入により構築可能となった生体模倣デバイスに関して紹介する。
著者
畠山 浩人 原島 秀吉
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.293-299, 2016-07-25 (Released:2016-12-25)
参考文献数
30
被引用文献数
2

核酸医薬のがん治療への応用にはDDSが必要不可欠である。血中投与後のがんへの送達には、DDSへのPEG修飾による血中滞留性向上とEPR効果が重要であるが、これは同時に標的細胞における著しい活性の低下を引き起こす。この体内動態と細胞内動態に対する相反するPEGの性質を「PEGのジレンマ」として提唱し、この問題の解決が、効率的なDDS開発にとって最も重要な課題であると考えている。本稿ではこのPEGのジレンマの解決にむけた筆者らの戦略や取り組みについて紹介したい。
著者
羽場 宏光
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.114-120, 2020

筆者らの研究グループでは、理研RIビームファクトリー(RIBF)の重イオン加速器を用いて、応用研究用ラジオアイソトープ(RI)の製造技術開発を進めている。RIBFのAVFサイクロトロン、理研重イオン線形加速器、理研リングサイクロトロンを用いて100種以上のRIを製造し、物理学、化学、生物学、工学、医学、薬学、環境科学の応用研究を展開している。本稿では、将来、核医学治療に期待される銅67とアスタチン211の製造法について紹介する。また、日本アイソトープ協会や科研費「短寿命RI供給プラットフォーム」事業を通じた理研のRI頒布について紹介する。
著者
兵頭 健治 浅野 誠 山本 栄一 菊池 寛
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.402-410, 2017-11-25 (Released:2018-02-25)
参考文献数
13
被引用文献数
4 3

がん化学療法においては、がん組織ではなく、正常組織へ分布した薬物により惹起される副作用が抗がん剤の使用上の大きな問題となってくる。この問題を解決すべく、抗がん剤をDDS製剤化することで非選択的な生体内分布の抑制が期待される。特にナノ粒子化によるDDS製剤は正常組織に比して、がん組織への集積が向上するというEnhanced Permeability and Retention(EPR)効果が起こるといわれている。このEPR効果により副作用の軽減と薬効の増強が期待されている。医薬品の製剤設計においては、ヒトで最良の薬理効果を発揮できるように設計すべきであるが、臨床のがん治療における薬効と担がんマウスモデルでの薬効の間には乖離があることがしばしば問題となる。そのため、担がんマウスモデルの結果からのみではヒトで最適な処方を見出すことが難しい。実験動物から得られる薬理効果は、臨床における実態を反映できるのだろうか?本稿ではDDS製剤、特にリポソーム製剤の処方設計における留意点について紹介する。
著者
野村 暢彦 豊福 雅典
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.138-144, 2021-03-25 (Released:2021-06-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1

すべての生物において細胞外小胞の存在が確認されている。その細胞外小胞の形成機構とともにその役割や生理的機能が近年ますます注目されてきている。細菌の細胞外小胞の形成には細胞死が関わり、それにより細胞外小胞の多様性が生まれることが明らかになった。
著者
我妻 康平 横山 佳浩 仲瀬 裕志
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.414-421, 2018-11-25 (Released:2019-02-25)
参考文献数
33

炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)は、若年者に好発し、本邦においてその患者数は増加の一途をたどっている。IBDの治療には異常な免疫の制御を目的に、グルココルチコステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤などが使用されている。その治療効果は確立されているが、全身投与のため長期使用により有害事象が懸念される。また、抗炎症性サイトカインの投与による治療が期待されてきたが、半減期が短く全身投与では必ずしも効果は期待できない。全身への副作用を軽減し、腸管特異的な治療効果が期待できる方法としてDrug delivery system(DDS)がある。現在までは、抗炎症物質を産生するよう遺伝的改変された腸内細菌によるDDSを用いたIBDモデルに対する治療効果のさまざまな報告がなされている。Interleukin(IL)-10を産生する腸内細菌の報告が多いが、近年その他の抗炎症物質での報告も増えている。一方、用いる腸内細菌や抗炎症物質による効果の比較や、安全性の評価、環境への広がりのリスク評価など、今後の検討を積み重ねていく必要がある。
著者
中川 晋作 岡田 直貴
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.112-115, 2008 (Released:2008-06-18)
参考文献数
19

分子生物学の著しい発展により感染病原体の特性や細胞のがん化機構の解明が進み,それらの成果が免疫学と結びつくことで,感染症およびがんに対する新たなワクチン戦略の構築と検証が進んでいる.近年,ウイルス感染による発がんを予防するワクチンも開発された.これまでは,疾病の予防薬としてワクチンが用いられてきたが,今後は生体の免疫系の制御による治療用ワクチンも開発されてくるであろう.いまやワクチンは,感染症やがんにとどまらず,さまざまな疾病に対して開発されようとしている.本稿では,ワクチン開発の現状について紹介する.
著者
崔 吉道
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.111-118, 2006 (Released:2006-08-18)
参考文献数
59

薬物トランスポーターの詳細で包括的な情報がデータベース化されている. また遺伝子バンクの整備が進み, トランスポーター遺伝子発現系を利用することで, 開発中の化合物のトランスポーターに対する認識性を解析することが可能である. 近年, トランスポーターの発現分布や基質認識特性を考慮したドラッグデザインやプロドラッグ化が注目されている.本稿では, 薬物の体内動態制御に関わるトランスポーターについて例をあげて紹介し, トランスポーターを利用した臓器選択的DDSにおいて考慮すべき諸問題について考察する.
著者
伊関 洋
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.37-45, 2011 (Released:2011-04-25)
参考文献数
2

ナノデバイスを利用した精密ナビゲーション手術は, 物理エネルギーを利用したDDS研究とイメージング技術と手術支援ロボット技術の融合による革新的なナノ低侵襲治療システムである. ナノデバイスによって病変部位における光増感剤の濃度を特異的に高めることができ, 現行のPDTやHIFUよりも短時間(数分の一の時間)で高精度(サブミクロン)の精密誘導治療が実現される. さらに最終的には, 患者への負担の大きい外科的切除を必要としない世界初のケミカルサージェリーが実現される.
著者
藤井 郁雄 藤原 大佑 道上 雅孝
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.212-221, 2020-07-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
16

近年、低分子化抗体がポスト抗体医薬として注目されている。筆者らは、抗体様活性をもつ中分子の創薬モダリティーとして、ヘリックス・ループ・ヘリックス構造をもつ分子標的HLHペプチド(分子量:約4k)の開発を進めている。ファージ表層や酵母表層提示ライブラリーを構築し、進化分子工学的手法により、さまざまな疾患関連タンパク質に対する分子標的ペプチドを開発している。このペプチドは、強固な立体構造をもつため生体内の酵素分解に対しても安定であり、抗体と同等の高い特異性と強い結合活性をもつ。本稿では、分子標的HLHペプチドの設計およびその生物機能について紹介する。
著者
石田 竜弘 際田 弘志
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.495-510, 2004-11-10 (Released:2008-12-09)
参考文献数
42
被引用文献数
4 8

筆者らとオランダのグループは, 最近, リポソームの頻回投与時に発現するABC現象の存在を報告した. ABC現象は, 2回目投与時のポリエチレングリコール修飾リポソームの肝移行性を亢進し, 高い血中滞留性を失わせる反応である. 最近の検討から, ABC現象の誘導·発現には, リポソームの物理化学的性質, 投与量, 種差, などが影響を与えること, また現象の発現には, 初回投与リポソームの刺激に呼応して分泌されるIgMが重要な役割を果たすことが明らかになった. 本稿では, ABC現象に関連した最近の知見について紹介する.
著者
小柳 悟 大戸 茂弘
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.418-423, 2017-11-25 (Released:2018-02-25)
参考文献数
19

ヒトを含む哺乳類動物のさまざまな生体機能には24時間を1周期とする変動(概日リズム)が認められる。このような概日リズムの本体は、時計遺伝子群によって構成される転写・翻訳のフィードバックループ機構であり、個々の細胞レベルで各臓器や組織の機能に応じたリズムを発振している。マウスやラットなどを対象にした最近の研究成果から、時計遺伝子はチトクロームP450やトランスポーターの発現にも影響を及ぼし、薬物の吸収や代謝に時刻依存的な変動を引き起こしていることが明らかになってきた。しかしながら、マウスなど夜行性の動物から得られたデータを基に、昼行性であるヒトの薬物動態の概日リズムを推測することは困難であり、この問題を解決するには両種間における制御メカニズムの相違点の解析とその体系化が重要になる。本稿では薬物代謝酵素やトランスポーターの発現における概日変動メカニズムの種差について概説し、夜行性動物と昼行性動物における制御機構の違いについて述べる。
著者
馬場 一彦
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.180-188, 2013-07-25 (Released:2013-10-25)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

アブラキサン®点滴静注用はアルブミン結合型のパクリタキセルのナノ粒子製剤である。この新製剤は界面活性剤及びアルコールを含有しないため、前投薬を行うことなく、パクリタキセルを30分間で静脈内投与することを可能とした。アブラキサンの製剤的特徴及び主要な臨床試験成績を紹介する。
著者
城 潤一郎 三島 史人 武田 真一 山本 雅哉 村垣 善浩 伊関 洋 佐保 典英 窪田 純 佐々木 明 西嶋 茂宏 田畑 泰彦
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.558-568, 2007 (Released:2007-12-13)
参考文献数
5
被引用文献数
7 6

次世代DDS型治療システムとは,従来のDDS治療効果をさらに向上させるために,外部エネルギーをDDS技術と融合させる新しい技術・方法論である.この新治療システムによって,体内の深部にある病気を治療できるであろう.本稿では,磁場とDDSとを組み合わせた,磁気誘導DDSによる次世代治療システムを実現させるために必要となる技術要素を概説するとともに,その治療ポテンシャルについて述べる.
著者
小林 久隆
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.274-284, 2014

より特異的な癌イメージングは、より正確な治療を可能にし、さらに超特異的癌治療は、癌に対しては強力でありながら、患者の体に対してはやさしい治療になりうるはずである。より良い癌の臨床を追い求める医学研究者として、さらなる「病気に厳しく、患者の体に優しい」方法の開発が、究極の目標である。この稿では、私たちの研究室で行ってきた特異性を重視した次世代のイメージング方法論、さらに造影薬剤作成と利用の基本理念と方向性を解説したい。加えて、次世代のイメージング技術の新たな進化形である、超特異的癌治療「近赤外光線癌治療」の開発理念と特徴、さらにそのさまざまな応用法についても触れたい。