著者
清宮 啓之
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.24-31, 2006 (Released:2006-08-18)
参考文献数
25
被引用文献数
1 2

染色体末端におけるテロメアの短縮は, DNA損傷応答を惹起して細胞老化を誘導することから, 発がん予防の一翼を担うと考えられている. がん細胞の無限増殖性はテロメラーゼによるテロメア長の維持に依存しているため, テロメラーゼ阻害剤は新たながん分子標的治療薬となりうる. テロメラーゼのテロメア会合を促進すると考えられるタンキラーゼ1もまた, 有望なテロメア分子標的である. テロメラーゼ阻害剤の制がん効果はテロメアの短縮に依存すると考えられてきたが, 最近ではテロメア非依存的な作用メカニズムの存在も示唆されている.
著者
小林 慶行
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.76-87, 2012-03-30 (Released:2012-06-29)
参考文献数
10

ラニナミビルオクタン酸エステル(イナビル®)(1)は吸入型インフルエンザ治療薬として第一三共で見出され、2010年10月に販売を開始した。その構造上の特徴はノイラミニダーゼ阻害剤・ラニナミビル(2)の側鎖C-9位の水酸基にオクタン酸を導入したプロドラッグという点である。このプロドラッグ化は薬効の劇的な改善を生み、"治療が1回で完結"するという大きな特徴を生み出した。本稿では、ラニナミビルオクタン酸エステル(1)の創製までの道のりと、その薬効プロファイルについて紹介する。
著者
山本 剛史 山吉 麻子
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.131-141, 2022-03-25 (Released:2022-06-25)
参考文献数
55

近年、新たな創薬モダリティとして「核酸医薬」に大きな注目が集まっている。人工核酸技術により、1)標的親和性・選択性、2)生体内安定性、3)免疫応答などの副作用などの課題が次々と克服され、適応疾患の拡大が精力的に進められている。一方で、高度に最適化された核酸医薬においても未だ副作用が認められ、広い普及には至っていない。本稿の目的は、核酸医薬と生体との物理化学的相互作用を分類・整理することで、より有効で安全な核酸医薬を開発する(核酸医薬と物質共生する)ための糸口を見つけることである。
著者
水口 裕之 立花 雅史 櫻井 文教
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.421-428, 2022-11-25 (Released:2023-02-25)
参考文献数
25

非増殖型アデノウイルスベクターは、in vivoへの直接投与において優れた遺伝子導入活性を示すことから、病原体由来の抗原タンパク質を発現させることにより、新興・再興感染症に対するワクチンベクターとして積極的な開発が進められてきた。最近では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンとして、欧米中露において迅速な実用化がなされた。本稿では、アデノウイルスベクターの特性、COVID-19に対するアデノウイルスベクターワクチンの特徴、およびアデノウイルスベクターワクチンの可能性について解説する。
著者
下田 麻子 澤田 晋一 秋吉 一成
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.108-115, 2014-03-25 (Released:2014-06-25)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

新たな細胞間コミュニケーションツールとして、細胞外ベシクルが注目されている。ベシクルの種類は、その発生機序、サイズにより大きく分けて3つに分類できる (エクソソーム:30~200nm、マイクロベシクル:100~1000nm、アポトーシス小体: 1~5μm)。特に、エクソソームに関してはその内部にタンパク質やmicro RNAを含有していることから、疾患治療や予後診断、バイオマーカーとしての応用が期待される。本稿では、細胞外ベシクルの基礎的概念、単離方法や機能評価法などを紹介する。
著者
田畑 泰彦
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.34-46, 2015-01-25 (Released:2015-04-25)
参考文献数
47

再生医療とは、からだ本来のもつ自然治癒力を高める医療である。この自然治癒力の基である細胞の増殖、分化能力を高めることで、生体組織の再生修復を実現する。再生医療は再生治療と再生研究からなっている。細胞力を活用した先進治療が再生治療である。再生研究は次世代の治療を科学的に支える役割をもち、細胞能力を調べる細胞研究と能力の高い細胞を用いた創薬研究からなる。治療と研究のいずれに対しても、細胞能力を高める周辺環境を作り与えるためのバイオマテリアル技術が必要不可欠となっている。 本稿では、再生医療(再生治療と再生研究)におけるバイオマテリアル技術、特にDDS技術の重要性と必要性について述べる。
著者
高倉 伸幸
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.28-33, 2012-01-30 (Released:2012-04-27)
参考文献数
20

がん細胞はがん幹細胞により構築されることが明らかにされてきた。幹細胞が自己複製や未分化性を維持する領域は“幹細胞ニッチ”と呼ばれ、いわゆる幹細胞にとっての生態学的な適所を提供する。ニッチは細胞毒性のある薬剤や物質から幹細胞を防御する盾としての機能を有することから、がん幹細胞のニッチの破綻によるがん幹細胞治療法が考慮されつつある。近年、このようながん幹細胞の生態学的適所を提供する微小環境のひとつとして、血管領域が示唆されてきており、また血管領域での幹細胞性因子の探索が行われつつある。
著者
森田 孝広 山原 弘
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.426-434, 2006 (Released:2006-12-15)
参考文献数
28
被引用文献数
3 1

ペプチド医薬の注射に代わる投与ルートとして経鼻投与が注目されている. 経鼻投与は, 鼻腔の生理学的特徴ゆえに高いバイオアベイラビリティが期待できるものの, ペプチド医薬にとっては, 透過・酵素バリアーや粘液バリアーなどの障壁が存在し, 実用化のためにはこれらを克服しなければならない.最近, 筆者らは, 作用点の異なる添加剤の組合せによる吸収改善効果, および非吸水性キャリアを利用した粉末製剤化による吸収改善効果を見いだした.本稿では, 経鼻吸収製剤を開発するうえでの基礎に触れるとともに, 経鼻製剤の市場動向と実用化された製剤の形態面からの分析, さらには最近の筆者らの吸収改善研究について紹介したい.
著者
吉岡 祐亮 落谷 孝広
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.35-46, 2020-01-25 (Released:2020-04-25)
参考文献数
65
被引用文献数
2 1

現在、核酸医薬品や抗体医薬品などの分子標的医薬品の開発が盛んに行われており、その治療効果が期待されている。実際、マウスを用いた治療効果の測定では一定の評価が得られているが、それら評価は腫瘍局所に投与したりして評価している場合もあり、局所投与に限定されるのが現状である。しかし、ヒトの治療を想定したときに、局所投与可能な場合はほとんどなく、開発した医薬品を患部局所に効率的に送達するデリバリーシステムの開発が必要である。エクソソームは細胞が分泌するナノスケールの小胞であり、生体における天然の分子デリバリーシステムを担っている。このエクソソームの特徴に注目した新たなデリバリーシステムの開発が世界中で行われており、治療応用を示した実例も報告されている。しかし、技術的な問題点なども多く残っており、実用化に向けた研究段階である。本稿では、エクソソームを用いたドラッグデリバリーシステムの可能性、その利点や問題点などを述べる。
著者
髙橋 葉子 濱野 展人 根岸 洋一
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.166-174, 2021-07-25 (Released:2021-10-25)
参考文献数
37

体外からの外部刺激に応答したドラッグデリバリーは、そのエネルギーの適用エリアにより、比較的容易に標的組織特異的デリバリーが可能となる。なかでも超音波エネルギーは、その安全性の高さから注目され、マイクロバブルやナノバブルを併用することで、超音波造影効果、薬物・遺伝子・核酸デリバリー効果の増強が可能とされている。筆者らは、リポソームに超音波造影ガスを封入したナノバブルを開発し、種々の疾患モデルに対する遺伝子・核酸デリバリーを試み、その有用性を評価してきた。本稿では、医療現場における超音波利用の現状を概説するとともに、超音波を利用した薬物・遺伝子・核酸デリバリーについて、筆者らの研究成果をまじえ紹介する。
著者
楠原 洋之
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.370-380, 2012-11-30 (Released:2013-02-28)
参考文献数
44

血液脳関門は静的な障壁として中枢神経系を循環血から隔てている。そのため、中枢薬の開発においては、血中滞留性を最適化するだけではなく、血液脳関門透過性も最適化する必要がある。血液脳関門には、種々トランスポーターが発現し、中枢神経系と循環血間の物質交換を促進している。これらトランスポーターは医薬品の中枢移行性を改善するための標的分子となり得る。P-gpやBcrpなど、能動的に薬物を排出するトランスポーターも発現しており、こうしたトランスポーターを回避することでも、医薬品の中枢移行性を改善することができる。本稿では、血液脳関門に発現するトランスポーター群について、これまでの知見を紹介する。
著者
高橋 有己 西川 元也 高倉 喜信
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.116-124, 2014-03-25 (Released:2014-06-25)
参考文献数
27

細胞から分泌される膜小胞であるエクソソームは、核酸・タンパク質・脂質などの内因性キャリアであることから、エクソソームを用いたDDSの開発が注目されている。エクソソームを用いたDDSの開発にはエクソソーム体内動態の制御法を開発することが必須であるが、それにはまずエクソソームの体内動態に関する情報の蓄積が必要不可欠である。しかしながら、その情報はいまだ乏しく、体系的な理解には至っていないのが現状である。本稿では、これまでに報告されたエクソソームの体内動態の特徴を整理するとともに、エクソソームの体内動態解析を目的とした我々の取り組みを紹介する。
著者
増田 智先 山本 由貴
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.397-405, 2018-11-25 (Released:2019-02-25)
参考文献数
24
被引用文献数
1

メサラジン(別名:メサラミン、5-アミノサリチル酸、5-ASA)は、潰瘍性大腸炎とクローン病からなる炎症性腸疾患の第1選択薬として使用される。5-ASAの有効性は、炎症部位への薬物送達の程度によって決定されるが、それは製剤により異なる。近年、特に潰瘍性大腸炎に対する治療薬としてdrug delivery system(DDS)技術を駆使した5-ASA製剤が次々と開発されており、治療効果向上に貢献している。そこで本稿では、それぞれの5-ASA製剤の薬物動態学的特徴に着目し、製剤の有する特徴と臨床的有用性について紹介する。
著者
戸倉 雅彦 藪内 由史
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.197-204, 2013-07-25 (Released:2013-10-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

非ホジキンリンパ腫を対象とし最初に承認された放射免疫療法薬剤のゼヴァリンは、効果が高いだけでなく、高齢者にも投与可能な患者に優しい治療薬である。本稿では、ゼヴァリンの開発と放射免疫療法(RIT)の今後について要約し、さらに我々が開発中である非小細胞肺癌を対象としたRIT製剤を紹介する。今後新規のRIT製剤ががん領域において承認を得るためには、RITに効果を示し得る患者の選択が必須になると思われる。
著者
朝倉 俊成
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.408-422, 2016-12-25 (Released:2017-02-25)
参考文献数
28
被引用文献数
2 1

日常生活において厳格に血糖をコントロールするために、インスリン療法の基本として、生理的インスリン分泌に近いbasal-bolus療法が行われている。インスリン療法には頻回インスリン療法(MDI)と持続皮下インスリン注入療法(CSII)があり、MDIではペン型注入デバイス、CSIIではポンプ式注入デバイスによって行われる。インスリンを皮下に適正に注入するには高精度で高品質な注入デバイスが必要で、同時に患者にとって操作性や認知性、快適性、そして信頼性などが得られるものでなければならない。注入デバイスの開発は、長い期間と段階を経てこれらの項目について改良が加えられてきたが、今後は患者の手技においてもより適正性が確保できるような補助機能の追加や今まで以上の携帯性の向上、患者個々の糖尿病療養生活の細部に対応したプログラム機能を有するなど、「個」に対応可能なデバイスの開発が期待される。
著者
山口 照英 内田 恵理子
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.651-659, 2007 (Released:2008-02-18)
参考文献数
17

ICH遺伝子治療専門家グループは,遺伝子治療薬をめぐる科学的な諸問題に柔軟に対処するために,専門家グループ会議や公開ワークショップなどを通じて得られた議論の成果を広く公開するとともに,新たな知見が得られた場合に迅速に対応していくというスタンスで活動を行っている.これまで議論が行われてきた国際標準品,ウイルスベクターの排出,X-SCID遺伝子治療における白血病発症とリスク評価,腫瘍溶解性ウイルス製品の品質・安全性確保,“生殖細胞への遺伝子治療用ベクターの意図しない組み込みリスクに対応するための基本的考え方”などについて紹介する.
著者
岡本 彩香 浅井 知浩 奥 直人
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.54-61, 2016

統計的に日本人の3人に1人以上が罹患するといわれるがんは、我が国の死因別死亡率の第1位を占めており、より有効な抗がん剤の開発が望まれている。筆者らは、低分子医薬、抗体医薬に次ぐ抗がん剤シーズとして、がんにおける異常なシグナル伝達を特異的に遮断し、がん細胞を選択的に細胞死へと導きうる核酸分子、特に低分子2本鎖RNAに着目した。2本鎖RNAの臨床応用にはDDS技術が不可欠であることが広く認識されている。筆者らはリポソームや脂質ナノ粒子を核酸のDDSに応用し、がん選択的な核酸送達および効率的なRNA干渉の誘導を示してきた。本稿では、筆者らが開発したポリカチオンリポソームや抗体修飾脂質ナノ粒子を用いたがんへの核酸送達について、近年の知見を紹介する。
著者
杉林 堅次
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.201-209, 2016-07-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
26
被引用文献数
1

経皮吸収型製剤(TDDS)を多くの薬物に応用するためには、皮膚透過促進技術の利用が必須となる。一方で、最終的な医薬品とするためには、バイオアベイラビリティや吸収速度をあらかじめ予測した値にするため、コントロールドリリースの機能も必要となる。本稿では、TDDSのこの40年の開発研究から、経皮吸収促進剤の利用研究やイオントフォレシスやマイクロニードルなどの物理的吸収促進法の研究までについて紹介する。また、これら吸収促進法との併用により、ようやく本来の意味のコントロールドリリース能を持ち、高いバイオアベイラビリティを有するTDDSの開発が可能になりつつあること、さらにはモノのインターネット(IoT)の概念を導入したTDDSについて述べ、これら新規なTDDS(TDDS-IoT)が医薬品製剤の中心を担う可能性について論述する。
著者
清水 太郎 異島 優 石田 竜弘
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.396-401, 2017-11-25 (Released:2018-02-25)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

ポリエチレングリコール(PEG)修飾リポソームなどのPEG修飾体に対するaccelerated blood clearance (ABC)現象は、これまでbio-inertと考えられてきたPEGに対する免疫反応であり、PEGに対する抗体の誘導と、この誘導された抗体がその後に投与されるPEG修飾体に結合することに端を発する血中からの速やかな排除と定義することができる。PEG修飾は、いまだ医薬品開発におけるゴールデンスタンダードであり、既存医薬品のライフサイクルマネージメントのみならず、PEG修飾によって化合物の性質を変え新薬として開発しようとする動きも出てきている。ABC現象はPEGに対する免疫反応であることから、投与する動物種によって誘導されるABC現象の程度は異なる。また、ABC現象は補体系の活性化を伴うため、アナフィラキシー様の有害事象を惹起する可能性も高いが、表現型として現れる有害事象は動物種によって大きく異なる。さらに、ヒトでの第1相試験ではdose escalation試験が行われるが、ABC現象は低投与量の場合に生じやすく、試験の進捗に悪影響を与える可能性が高い。ABC現象における動物種差の影響はこれまでほとんど報告されておらず情報が少ないのが現状である。