著者
亀井 敬泰 森下 真莉子
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.392-402, 2010 (Released:2010-11-05)
参考文献数
23

蛋白質やペプチドなどのバイオ薬物は,消化管粘膜における透過性の低さや不安定性の問題から注射剤による投与方法に制限されている.そこで筆者らは,cell-penetrating peptides(CPPs)と総称される細胞膜透過ペプチドを利用し,これらバイオ薬物の経口製剤化の実現に向けた研究を行っている.本稿では,まずCPPsを利用した近年のDDS研究動向をアップデートし,その後,蛋白質・ペプチドの消化管吸収改善におけるCPPsの応用性について筆者らの検討結果を紹介する.さらに,鼻粘膜吸収への応用性や吸収改善メカニズムについて展開し,バイオ薬物の非侵襲的投与経路におけるバイオアベイラビリティ改善ツールとしてのCPPsの有用性について示したい.
著者
土谷 順彦 羽渕 友則
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.134-142, 2010 (Released:2010-06-15)
参考文献数
16
被引用文献数
2

進行性腎細胞がんに対する治療は,免疫療法から分子標的薬へと大きな転換期を迎えている.腎細胞がんにおける分子標的薬の作用機序は,主として血管新生の阻害であり,チロシンキナーゼ阻害薬,mTOR阻害薬,抗VEGF抗体が使用されている.分子標的薬は強力な抗腫瘍効果を示す一方,薬剤ごとに異なる副作用のスペクトルを有し,ときに予期せぬ重篤な副作用を引き起こす.これらの薬剤の効果を最大限に引き出すには,多職種にわたるチーム医療がこれまで以上に重要になってくる.
著者
Omata Daiki Maruyama Kazuo
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.456-458, 2014-11-25 (Released:2015-02-27)
参考文献数
4
著者
鈴木 亮 小俣 大樹 ウンガ ヨハン 大崎 智弘 丸山 一雄
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.115-122, 2018-03-25 (Released:2018-06-25)
参考文献数
25

近年、超音波とマイクロバブルを利用した薬物送達法の開発が行われている。これは、マイクロバブルの振動や圧壊に伴い、血管透過性が亢進することを利用した方法である。現在では、抗がん剤とマイクロバブルを投与し、がん組織に超音波照射するがん治療が臨床研究で進められている。これは超音波によるマイクロバブルの振動でがんの新生血管が押し広げられ、抗がん剤のがん組織への分布が高まったと考えられている。この現象をEPR効果の促進につなげることができれば、ナノ医薬品のがん組織集積性の向上につながると期待される。そこで本稿では、超音波とマイクロバブルによる血管透過性亢進に基づく薬物デリバリーに関して紹介するとともに、EPR効果促進への応用について解説する。
著者
大野 慎一郎 高梨 正勝 黒田 雅彦
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.134-139, 2014-03-25 (Released:2014-06-25)
参考文献数
12

各種細胞が分泌する膜小胞体の一種であるエクソソームは、RNA分解酵素に富む血液中でも安定してmRNAおよびmicroRNA(miRNA)を運搬することが明らかとなっている。一方で、核酸を用いた分子標的治療が未だ実用化に至らないのは、核酸医薬品が血液中において不安定であるため、病変部へ送達できないこと、人工的に構築されたキャリアーの抗原性が大きな問題と考えられる。このような背景のなか、生体成分で構築され、かつ体液中で安定に核酸を運搬する新規ドラッグデリバリーシステム(DDS)のキャリアーとして、エクソソームが注目されている。
著者
岩本 典子 古瀬 幹夫
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.279-286, 2013-09-25 (Released:2013-12-26)
参考文献数
39
被引用文献数
1

上皮組織は体内の恒常性を保つために、外界と体内環境を厳密に区分している。上皮細胞の細胞間接着装置であるタイトジャンクション(tight junctions: TJ)は、傍細胞経路での物質の透過を制御して上皮細胞シートのバリア機能を司る。TJの主要な構成分子は4回膜貫通タンパク質のクローディンであり、遺伝子ファミリーを形成している。血液脳関門(Blood-brain barrier: BBB)は中枢神経系のホメオスタシスを保つために重要な役割を果たしており、脳毛細血管の内皮細胞に存在するTJがそのバリア機能の要である。現在多くの神経疾患や病態においてBBBの破綻が関与することが示唆されている。さらに中枢神経系へのドラッグデリバリーの観点からBBBのTJをターゲットとして創薬につなげる試みもなされており、今後の進展が期待される。
著者
絹谷 清剛
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.294-303, 2014-09-25 (Released:2014-12-25)
参考文献数
15
被引用文献数
2

分子標的としての性質を有する放射性医薬品を投与することにより、標的組織の照射を行う治療をアイソトープ内用療法と呼ぶ。内用療法は、治療にともない画像化が可能である。治療薬と診断薬が同一である点において、理想的なtheranosticsを実践可能である。わが国は、内用療法の実践、開発の両面で、海外に比して著しく立ちおくれている。癌治療のオプションとして重要性を増しているこの分野への理解を期待する。
著者
辻 彰
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.43-47, 2007 (Released:2007-04-24)
参考文献数
5
被引用文献数
2 2

候補薬を経口投与後の消化管吸収性と動物とヒトにおけるバイオアベイラビリティー(BA)の関係の理解は,医薬品の発見・開発にとってきわめて重要である.ヒトとサルとの間の類似性にかかわらず,多くの薬物において両者におけるBAに大きな相違が認められている.低分子医薬品にあっては実験動物とヒトとの間の動態・薬効・毒性特性において乗り越えることのできない種差がある.創薬候補薬投与後のBA,組織移行,代謝・排泄など,代謝酵素やトランスポーターの機能によって制御されているヒト体内動態を予測するためにヒト組織,ヒト由来細胞,ヒト肝臓,または小腸ミクロゾームやヒト遺伝子発現系を用いたin vitroモデルや,生理学的薬物速度論を用いたin silicoモデルのようなヒト動態評価システムが医薬品開発研究に積極的に取り入れられるようになったが,予測性は必ずしもよくない. したがって,疾病治療上ヒトで有用な候補物質を適切に選択し,効率的に医薬品開発を進めるためには,マイクロドース試験を実施し,ヒトでの動態を医薬品開発の早い段階で明らかにすることがきわめて重要である.
著者
鈴本 正樹 島田 純 山中 昇
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.523-528, 2006 (Released:2006-12-15)
参考文献数
18

近年の薬剤耐性菌の急増に伴い, 従来まで経口抗菌薬により良好な経過をとっていた急性中耳炎や副鼻腔炎の難治化が臨床上の大きな問題となっている. 薬物移行が不良である中耳腔および副鼻腔における感染症に対しては, 抗菌薬の持つ殺菌作用のみでなく, 有効な抗菌薬濃度を感染局所へ到達させるdrug delivery system (DDS) の利用が鍵となる.チンチラ実験的中耳炎モデルを用い, 徐放抗菌薬製剤による治療効果についての比較検討を行った結果, 徐放抗菌薬製剤は全身投与あるいは局所点耳投与に比較して高い除菌効果を示した. 徐放製剤を用いた局所抗菌薬治療は, 感染局所へ高濃度の抗菌薬を長期間作用させることができ, 薬剤耐性菌が急増する現状においても有効な治療法の一つとなるものと期待される.
著者
池田 豊
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.268-274, 2016-07-25 (Released:2016-12-25)
参考文献数
25

PEG化技術はこれまでにさまざまな医薬品開発に用いられてきたが、その効果としては、1)薬剤の分子量が大きくなることで腎排出を抑制し、薬剤の体内動態を改善する、2)酵素による分解を防ぐ、3)不溶性化合物・タンパク質が可溶化する等があげられる。これまでに小分子薬剤・タンパク質・核酸・ナノ粒子等がPEG化され、そのうちのいくつかは医薬品として認可されている。
著者
宮川 伸 藤原 将寿 西山 道久
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug delivery system (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.534-543, 2008-09-30
参考文献数
24
被引用文献数
2

近年,RNAアプタマーが抗体医薬の次世代分子標的薬として注目されている.RNAアプタマーはSELEX法を用いて取得され,短鎖化および安定化ののちに医薬品候補品となる.PEGを付加することで体内動態特性が顕著に改善される.アプタマーはそれ自身が医薬品となりうるが,抗がん剤などを付加することでデリバリー剤としても利用可能である.本稿では,アプタマー医薬の作製方法と特性を概説するとともに,臨床試験中のvWFアプタマーとリボミック社が開発中のMKアプタマーに関して説明する.
著者
浅井 義之 安部 武志 松岡 由希子 Ghosh Samik 北野 宏明
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.386-396, 2014-11-25 (Released:2015-02-27)
参考文献数
21

システムバイオロジーとは生物のシステムレベルの原理を理解しようとする研究分野である。この研究ではウェット研究とドライ研究が連動し、精緻なモデル開発、複雑なシミュレーション、データ解析など計算科学的アプローチが重要な役割をはたす。このためソフトウェアによる強力なサポートが研究の進展には欠かすことができない。本稿では、著者らが開発を進めるソフトウェアを含め、システムバイオロジーに有用であろうソフトウェア・プラットフォームについて紹介する。
著者
佐塚 泰之 廣津 祥代 広田 貞雄 金川 麻子 森田 哲生
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.13, no.6, pp.415-421, 1998-11-10 (Released:2009-01-21)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

We prepared the liposomes, changed the entrapped amount of adriamycin (ADR) per the amount of liposome composing lipid, and after the addition of these liposomes with the same concentration of ADR(therefore, different dose of lipid), the tumor cell uptake of ADR was examined. The high entrapped amount of ADR demonstrated the usefulness in the tumor cell uptake of the ADR liposome in vitro. The cell uptake of the liposome depended on additional amount of ADR and liposomal lipid. Next, using ADR contained liposome and irinotecan contained liposome, its usefulness on tumor cell uptake by the polyethyleneglycol (PEG) modification of the surface on the liposome in vitro examined. In both liposome, PEG modification of the surface on the liposome facilitated the initial rate of the liposome uptake into the tumor cell. We have considered that this facilitation was attributed to the lipo-hydrophilic property of PEG and the fixed aqueous layer around the liposome. Therefore, PEG modification of the surface on the liposome, prevents the adhesion of serum opsonine and avoids reticuloendothelial system, does not inhibit tumor cell uptake rather facilitates. From the results of dextran sulfate contained liposome, it is expected that these liposome passed through the membrane of the tumor cell. Therefore, a higher entrapped amount of antitumor agents in the liposome and PEG modification have been confirmed to be beneficial in the tumor cell uptake.
著者
佐塚 泰之 廣津 祥代 宮城島 惇夫 野澤 靖夫 広田 貞雄
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.193-198, 1997-05-10 (Released:2009-01-21)
参考文献数
15

The lipid composition, particle diameter and dose have been reported to affect the liposomal uptake in the tumor. However, effects of encapsulation amount of drugs in liposomes on the uptakes have scarecely been reported either in vitro or in vivo. In this study, we examined the uptake of liposomes containing CPT-11 by Ehrlich ascites carcinoma in vitro changing the encapsulation amount of CPT-11, and also the tissue distribution of liposomal CPT-11 in vivo with mice. After the addition of high concentration as CPT-11, the uptakes in the tumor cell by liposomes was about 1/3 of that by the solution in vitro. However, after the addition of same level as tissue distribution of CPT-11 in vivo, there is no difference on CPT-11 uptakes between liposome and solution. Thus lipid satulation in the tumor cells was observed by increasing liposomes in the medium. For a definite dose, the decrease of CPT-11 amount in the liposomes reduced the uptake in the tumor cell. Therefore, we thought that the uptake of liposomes in the tumor cell depended on lipid amount of liposomes. The increase of CPT-11 amount in the liposomes enhanced CPT-11 concentration in the serum, liver and tumor after administration of liposomal CPT-11 to the mice. An enhanced antitumor activity was expected from the result of SN-38 concentration in the tumor.
著者
田上 辰秋 尾関 哲也
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.432-438, 2016-12-25 (Released:2017-02-25)
参考文献数
50
被引用文献数
1 1

肺を介して薬物を全身に送達する経路(いわゆる経肺投与経路)は、比較的分子量の大きい薬物(タンパク質など)においても適用可能であることから、バイオ医薬品の新しい投与経路として、DDS技術の開発が行われてきた。本稿では、最近注目されているインスリン吸入製剤について紹介を行う。Afrezza®(MannKind社)は、2014年米国FDAにおいて認可された超速効型のインスリンの粉末吸入製剤である。Technosphere技術という特殊な粒子化技術により、肺胞領域への高い薬物送達効率と、肺胞到達後の早い溶解性・吸収性を得ることに成功している。Dance-501(Dance Biopharm社)は、インスリン溶液の吸入製剤である(Phase 2)。インスリンを含むバイオ医薬品の吸入剤は、注射を必要としない患者に優しい剤形として、その普及が期待されている。
著者
道券 一浩 桧垣 恵 東海林 洋子 嶋田 甚五郎 西岡 久寿樹 水島 裕
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.257-261, 1993-07-10 (Released:2009-02-23)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

Antisense oligonucleotide hold great promise as potential therapeutic agents for inhibiting the expression of undesirable genes specifically. Whereas, interleukin-1β(IL-1β) play a key role in the inflammation and the developing of rheumatoid arthritis(RA). To block the IL-1β production by antisense DNA method, we synthesized antisense oligonucleot ides (20mers)with ph osphoroth ioate linkages targeting the human IL-1β mRNA. These antisense oligonucleotides were tested for inhibition of IL-1β production in LPS-stimulated human peripheral blood mononuclear cells from healthy volunteer and primary synobiocytes from patients with RA. These cells were cultured with each oligonucleotide and total IL-1β contents were measured by using ELISA system. Antisense oligonucleotides inhibited the production of IL-1β in both cells in a dose-dependent manner.
著者
北島 康雄
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug delivery system (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.424-432, 2007-07-10
参考文献数
27
被引用文献数
2

皮膚の水・空気環境バリア機能に関して最も重要な構造は,角質細胞間にある脂質多重層構造である.これを恒常的に構築する細胞が表皮ケラチノサイトであり,その最終分化細胞の角質細胞は強靱な細胞シート構造を保ち,脂質多重層を柔軟に強く保持している.そのために,ケラチノサイトは細胞内にはケラチン中間径線維とデスモソーム,アドヘレンスジャンクション(Jnc),タイトJnc,ギャップJncなどの細胞接着構造を発達させている.その分子変異や機能異常は角化異常とバリア機能不全をきたす.これらの分子の制御はDDSの制御につながる.