著者
長橋 聡
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.88-98, 2013-03-20 (Released:2017-07-28)

本研究ではVygotskyのごっこ遊び論をもとに,そこに空間構成という観点を加えて,幼児のごっこ遊びを分析した。S市内の保育施設をフィールドとして観察を行い,そこで2か月にわたって行われた協同的なごっこ遊び「病院ごっこ」の生成過程を検討した。同時に,子どもたちが「病院ごっこ」の遊びのために遊び空間を積木などで作っていく過程も微視的に分析した。初期の「病院ごっこ」には役の分担やストーリー性はみられなかったが,子どもたちが遊びの中で新しいモノを加えたり,「病院」内の空間構成を作り変えていったことによって,「病院ごっこ」での活動は複雑でストーリー性を伴ったものになっていき,子どもたちは「病院ごっこ」の遊びのシナリオのための役を演じるようになっていった。このことから,子どもたちが協同的な遊びでストーリー性のある行為展開をすることと,道具を使って「病院」としての遊び空間を作っていくこととは相互規定的な関係になっていることを議論した。
著者
松田 文子 田中 昭太郎 原 和秀 松田 伯彦
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.134-143, 1995-12-10 (Released:2017-07-20)

27名の児童が, 小学1年生から小学6年生まで, 毎年1回約30分, 時間, 距離, 速さの間の関係概念 (速さ=距離/時間) の形成過程を具体的操作を通して調べる縦断的研究に参加した。この児童達が小学5年生になって算数「速さ」を学習したとき, このような実験に参加しなかった児童と比較して好成績をあげたことから, その原因が探られ, そしてそれに基づいて, 一般に大変理解度が低いと言われている算数「速さ」の授業改善について, 若干の提言が試みられた。すなわち, (1) 文部省指導要領及び指導書の算数編におけるように, 異種の2つの量の割合として速さを提え, 単位時間当たりの道のりで表される, とするのではなく, 時間, 距離, 速さ, それぞれを1つの関係概念を形成する対等な3つの量として, それぞれに秒, m, m/秒, という計量単位を導入すること。 (2) 速さについての計量的な操作に入る前に, 具体的操作を通して等速直線運動を実感させ, (a) 時間, 距離, 速さの関係概念の論理構造と, (b) 同じ速さで走るということは, 時間や距離が異なっていても速さが同じなのだという速さの同値性に関する論理構造を, しっかり構成しておくこと。
著者
小川 真人 高橋 登
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.85-94, 2012-03-20 (Released:2017-07-27)

本研究では,「心の理論」とふり遊び,役割遊びの関係について実験的に検討した。モジュール説が想定するようにふりと「心の理論」が同一のメカニズムで説明可能であるとすれば,ふり遊びと心の理論との間に直接の関連が見られるであろうし,理論説やシミュレーション説が妥当であるとすれば,その間に直接の関連は見られないであろう。ただし,シミュレーション説による説明が妥当なものであるとすれば,ふり遊びは役割遊びを可能にすることを通じて「心の理論」の獲得を助けるであろう。本研究では,実験1において誤信念課題を実施し,あわせてふり遊びと役割遊びの課題を実施することで,「心の理論」とふり遊び,役割遊びの間の関係を実験的に検討し,実験2では,短期縦断的にふり遊びと役割遊びを子ども達に経験させ,それが子どもたちの「心の理論」獲得を助けることになるのか検討した。結果,実験1ではふり遊びと「心の理論」の関連は見られず,役割遊びにおいてのみ「心の理論」との関連が見られた。また,ふり遊びと役割遊びにおいても関連が見られた。さらに実験2ではふり遊び訓練の効果は見られず,役割遊びを訓練的に行うことで「心の理論」課題の得点が高くなった。本研究では,ふりにおける物の見立てや,現実とふりの区別と「心の理論」との関連は見られず,役割遊びにおいて他者の視点に立ち,そこで他者の感情や行動を考えることが「心の理論」と関連すると考えられた。
著者
秋田 喜代美 無藤 隆 藤岡 真貴子 安見 克夫
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.58-68, 1995-07-15 (Released:2017-07-20)

本研究は幼稚園年長, 年中, 年少児計129名に絵本を読んでもらう課題と内容の理解を問う質問を実施し, 課題の遂行を横断的比較と1年間の3期の縦断的比較によって検討したものである。その結果, 絵を見て話すことから文字を読むことへの変化は, かなもじ清音を約半数習得した頃から起こり, 文字を読む反応の初期には文字を指さすなどの補助的方略を用いる者が一部みられるが, これは読みの熟達と共に消失すること, 拾い読みから文節読みへと移行するにつれ話の筋の理解がよりできるようになること, ただし文字を読むようになっても挿し絵からも情報を得ていることが明かとなった。また文字は読めても縦書きの本を左から読む者がおり, この誤りは必ずしも読字数の少ない者に発現するわけではないことから, 本を読めるためには文字に関する知識のみではなく, 読書に関する慣習的な手続き的知識の習得が必要であり, 文宇知識と慣習的知識は独立に習得されることが示唆された。
著者
永瀬 開 田中 真理
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.35-45, 2015 (Released:2017-03-20)
参考文献数
23

本稿では自閉症スペクトラム障害(ASD)児・者におけるユーモア体験の特性について,構造的不適合の評価と刺激の精緻化の視点から,思春期・青年期のASD児・者19名と定型発達児・者46名を対象に検討した。検討の結果,定型発達児・者において概念レベルの構造的不適合とスキーマレベルの構造的不適合との間でユーモア体験の強さに差が見られたのに対して,ASD児・者において概念レベルの構造的不適合とスキーマレベルの構造的不適合との間でユーモア体験の強さに差は見られないことが明らかになった。この結果の背景として,ASD児・者における弱い中枢性統合の特徴による概念レベルの構造的不適合の評価の困難さ,スキーマレベルの構造的不適合における因果関係の自発的な推測,それぞれの構造的不適合における刺激の精緻化のしやすさの影響があることが考えられた。また刺激の精緻化については,ASD児・者は定型発達児・者に比べてスキーマレベルの構造的不適合において非社会的な情報に関する推測を多く行うことが明らかになった。
著者
鈴木 亜由美
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.193-202, 2005-08-10 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
2

本研究では, 幼児の自己調整機能の自己抑制的側面と自己主張的側面に注目し, 実験課題と仮想課題の2つを用いて, 両課題における反応の関連とその発達的変化を検討したものである。4〜6歳児101名を対象として, 魅力的なおもちゃに対する誘惑抵抗状況を自己抑制状況, 「後でこのおもちゃで遊ぼうね」という約束を忘れ去られてしまう状況を自己主張状況と設定し, それらの状況での被験児の行動を観察した。また, その状況下で自己抑制するか自己主張するかという認知が実際の行動に及ぼす影響を調べるために, 仮想的な対人葛藤状況における反応を同時に測定した。その結果, 仮想課題では年齢とともに状況に一致した反応を選択する子どもが増加するのに対し, 実験課題で状況に一致した行動をとる被験児の数には年齢差が見られなかった。また, 仮想課題と実験課題で一貫して状況に一致した反応を示す子どもは自己抑制状況では年齢とともに増加する傾向が見られたものの, 自己主張状況では年齢差が見られないことがわかった。自己主張状況では仮想課題で状況に一致した反応を選択する被験児でさえも, 実験課題では実際に自己主張することが難しいという可能性が示唆された。
著者
上野 直樹
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.399-407, 2011-12-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
1

この論文では,ソフトウェアにおけるオープンソースを中心に野火的活動における社会的なつながりのあり方を「オブジェクト中心の社会性」および有形,無形の資源の「交換形態」に焦点を当てて明らかにする。また,こうした作業を行った上で,学習を見る観点の再定式化を試みる。ここで言う野火的な活動とは,分散的でローカルな活動やコミュニティが,野火のように,同時に至る所に形成され,ひろがり,相互につながって行く活動をさしている。野火的な活動は,Wikipediaの編集やLinux開発の例に見られるように,制度的な組織や地域コミュニティを超えて多くの人々が協調して何かを生み出すピアプロダクションという形で行われている。しかし,野火的な活動は,インターネットに限定されるものではなく,例えば,赤十字,スケートボーディングや地域における街づくりのための市民活動といったものの中にも見いだすことができる。また,「オブジェクト中心の社会性」とは,社会的ネットワークは,人々だけから構成されているのではなく,むしろ,共有するオブジェクトによって媒介されたものだという理論的観点である。
著者
畠山 美穂 山崎 晃
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.284-293, 2003-12-05 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
1

本研究の目的は,以下に示す4つの点を検討することにある。1つめは,幼児期に見られる攻撃・拒否的行動が,いじめとしての3つの要素(①加害者の人数,②攻撃・拒否的行動の継続性,③被害者の精神的苦痛)をもつかどうかについて検討すること。 2つめは,いじめ場面に見られる幼児の仲間関係について検討すること。3つめは,いじめとしての性質をもつと判断された攻撃・拒否的行動のエピソードの記述からいじめの様態について検討すること。4つめは,いじめに対する保育者の対応について検討することである。観察対象児は,幼稚園年長児34名(男児16名・女児18名)であり,観察期間は1年間であった。観察方法は参与観察法が用いられ,分析方法はエピソード分析とネットワーク分析を採用した。その結果,特定の女児に対して行われた攻撃・拒否的行動が,いじめとしての3つの要素を満たしたことから,幼死期にもいじめとしての性質をもつ行動が見られることが明らかにされた。そして,いじめを発見するためには,保盲者が子どもの発する微妙なサインに対して敏感になる必要があることが示唆された。
著者
芦澤 清音 浜谷 直人 田中 浩司
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.252-263, 2008
被引用文献数
2

本研究は,ある自治体における発達臨床コンサルテーション理論(浜谷,2005)に基づいて行った巡回相談を対象として,幼稚園への巡回相談の支援機能と構造を明らかにし,支援モデルを提示することを目的とした。その際,保育園への巡回相談を参照しながら,幼稚園と保育園の支援ニーズの違いによって,支援機能にどのような違いがあるかを明らかにし,その違いによる支援のあり方を考察した。研究1で,教諭らへのインタビューによる巡回相談の評価をもとに33項目からなる質問紙を作成した。教諭等の巡回相談に対する評価を因子分析した結果(N=110),「保育方針」「関心意欲」「対象児理解」「保護者理解」「協力」の5つの支援機能が見出され,幼稚園独自の機能と保育園と共通の機能が明らかになった。研究2で,典型的な一事例に関して,担任らと園長に対して行ったグループインタビューを分析し,対象児理解に基づく関心意欲の高まり,及び,園内協力体制の形成が幼稚園巡回相談の支援構造の中核をなし,それを支援する相談員の専門性が考察された。
著者
田口 雅徳
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.206-215, 2001-11-15 (Released:2017-07-20)

本研究では,幼児の描画特性である知的リアリズム反応の原囚として,知っている情報を伝えようとする子どもの積極的意図があると仮定し,その検討をおこなった。被験児は4歳から6歳までの幼児169名であった。被験児の描画対象に関する知識量を操作するため,描画的に描画対象である人形について描く部分(背面)しか見せない条件(部分条件)と,人形の全体を見せる条件(全体条件)の2条件を設定した。描画時にはどの被験児にも人形の背面側を呈示し,それを見えているとおりに描くよう教示した。結果から,5歳児においては全体条件より部分条件の方が見えどおりの描画が多いことが示された。また,見えどおりの描画は,部分条件では加齢にともない増加する傾向が見られ,一方,全体条件では4歳から5歳にかけて減少し5歳から6歳にかけて増加した。さらに,見えどおりではない描画反応を,対象固有の情報が反映されているかどうかという観点から2カテゴリに分類し,その発達的変化を検討した。その結果,4歳児では対象の標準型を描く反応が多く,加齢に伴い対象固有の情報を伝達するようなコミュニケーション型の描画反応が多くなった。これらの結果から,5歳児以降では,描画対象固有の情報を考慮し,それを描こうとするために,知的リアリズムによる描画が生じているのではないかと考察された。
著者
平井 誠也 竹中 郁子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.144-154, 1995-12-10 (Released:2017-07-20)

本研究は, 子どもにおける描面行動の発達的変化を明らかにしようとする試みである。4歳児, 5歳児, 6歳児, 7歳児, 8歳児, 9歳児とも, それぞれ同一の3種類の課題を与えられた。最初は一組のカードの中から, 彼らが最も円筒形を表していると思う線画を選択することであり, 第二は, 彼らが最も描きたいと思う円筒形を表した線画を選択することであり, 最後は, 円筒形をクレヨン (幼児) または鉛筆 (児童) で描くことであった。3種類の課題のうち, 認知課題は最も簡単な課題であり, 5歳から6歳にかけて急激な発達を示した。次に困難だったのは構想課題であり, 6歳から7歳で急激な発達があった。描画課題は最も困難で, 9歳児の30%しか遠近画法によって円筒型を描画することができないことが示された。幼児および児童の円筒形の描画が認知一構想 (プランニング) 一描画の3つの過程を中心として, その関係が分析され, 発達的に考察された。
著者
平井 美佳 神前 裕子 長谷川 麻衣 高橋 惠子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.56-69, 2015 (Released:2017-03-20)
参考文献数
34

本研究は,わが国の未就学児に必須な養育環境とは何かについて,人々の持つ素朴信念を検討し,相対的貧困の指標とされる社会的必需品を考える一助とすることを目的とした。研究1では,先行研究を検討し,専門家および未就学児の親の意見を加味して40項目から成る「乳幼児に必須な養育環境リスト(What Children Need List:WCNリスト)」を作成した。未就学児の母親484名を協力者として,自分の子どもの養育環境の充足の程度を確認したところ,37項目で合意基準(50%以上)を超え,また,主観的経済状態を統制した上でも養育環境が充たされているほど子どもの発達が良好であるという関連が見出され,WCNリストの妥当性が確認された。研究2では,WCNリストを用いて未就学児の親503名(2a),性別と居住地域を人口動態に合わせた全国の市民1,000名(2b),および,未就学児のひとり親74名(2c)を協力者として,「現在の日本の子どもが健康に育つために必要である」と考える程度について尋ねた。その結果,合意基準を超えた項目は,2a~2cのそれぞれで19項目,9項目,30項目とサンプルにより異なり,特に未就学児を養育している当事者である,女性である,年代が若いことが合意を促進する要因であることが明らかになった。この結果について,本研究の限界と将来の課題を論じた。
著者
大芦 治 岡崎 奈美子 山崎 久美子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.41-51, 1996

本研究は, 虚血性心疾患の危険因子として知られるタイプA行動パターンの発達モデルを検討しようというものである。検証したモデルは, 両親の有名大学を志向する社会・文化的な価値観が子どもに対して学習, 進学に関する過干渉, 過保護を主とした養育態度を生起させ, それが, 子どものタイプA行動パターンの発達を促進するというものである。被験者は, 大学生(子ども)とその両親である。子ども側には, タイプA行動パターンに関する質問紙を, 両親側には有名大学を志向する価値観の質問紙, 養育態度に関する質問紙をそれぞれ実施した。結果はパス解析を用いて分析された。仮定されたモデルはほぼ支持されたが, 子どもが男子の場合と女子の場合で若干差がみられた。すなわち, 男子では母親からの影響が, 女子では父親からの影響がそれぞれ大きかった。この性による違いを考察する中で, 本研究で扱った進学や教育に関する要因以外に様々な社会・文化的な要因が介在することが予想され, 今後に検討課題を残すこととなった。
著者
日潟 淳子 齋藤 誠一
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.109-119, 2007-08-10 (Released:2017-07-27)

青年期は時間的展望の獲得期とされ,自己の人生に対して時間的な視野が広がるが,それと同時に現実と非現実が分化し,未来に対しては期待とともに不安も抱くことが示唆されている。本研究では高校生と大学生を対象に,過去,現在,未来に対する時間的展望の様相と精神的健康との関係をとらえ,青年が心理的に安定した状態で時間的展望の獲得を促す要因を検討することを目的とした。その結果,高校生,大学生ともに過去,現在,未来に対してポジティブな時間的展望を持つ者は精神的健康度が高かった。しかし,未来に対する時間的態度においては違いが見られ高校生では未来のみにポジティブな態度を示している者は精神的健康度が低かったのに対して,大学生では低くはなかった。高校生と大学生では未来を志向することに対する心理的影響が異なることが示唆された。また,過去,現在,未来に対してポジティブな時間的展望をもっている者は,過去,現在,未来の出来事をバランスよく想起しており,過去の出来事へのとらえ直しや,未来の出来事に対して現実的な認知を行っている様子が見られ青年期が心理的に安定した状態で時間的展望を抱く要因として自己の過去,現在,未来におけるライフイベントに対する関与の強さと的確な認知をしていることが示唆された。
著者
島 義弘 上嶋 菜摘 小林 邦江 小原 倫子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.36-43, 2012-03-20 (Released:2017-07-27)

母親は母子相互作用において,子どもへの関わりを決定する際に多様な情報を使用していることが示されている。本研究では,母親が使用する情報が母親自身の内的作業モデルによってどのように異なるのかを検討した。第1子が9ヶ月の母親29名を対象として,質問紙調査と自子以外の乳児が映った映像を刺激として用いた面接調査を実施した。質問紙では,"不安"と"回避"の2次元の内的作業モデルを測定した。映像刺激は3ヶ月児と9ヶ月児が映った15秒のビデオクリップ各5つであり,これらを視聴した後に何に着目して子どもへの関わりを決定するのかを尋ねた。母親の回答を「乳児の情動」「乳児の行動」「母親の主観性」「育児経験」「周囲の環境」の5カテゴリーに分類した上で,内的作業モデル("不安"と"回避"の2因子)を説明変数とした回帰分析を行ったところ,3ヶ月児のビデオクリップに対しては,"不安"が高いほど,また"回避"が低いほど「乳児の行動」への言及が多かった。一方,9月見のビデオクリップに対しては"不安"が高いほど「乳児の情動」への言及が多く,"回避"が高いほど「母親の主観性」に基づいた言及が多くなる傾向が認められた。以上の結果から,母親自身の内的作業モデルの違いによって母親が使用する情報は異なり,"不安"が高いほど乳児に起因した情報を多く使用し,"回避"が高いほど乳児に起因した情報から注意を背ける傾向があることが示された。