著者
松尾 亮太
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.253-258, 2011 (Released:2011-11-08)
参考文献数
47

哺乳類の脳は,ひとたび損傷を受けると再生することが非常に難しく,また脳の構成要素であるニューロンは,最終分化を果たしていて細胞周期は停止した状態である。一方、軟体動物腹足類であるナメクジの中枢神経組織は、損傷や欠損を受けても自発的に構造レベル、機能レベルでの回復を遂げることができる。例えば触角は,切断を受けてもそこに含まれる神経組織を含めてほぼ完全に再生することができる。同時に,大小二対存在する触角は,互いに機能レベルでの冗長性も有している。また,脳の左右に一対存在し,高次嗅覚機能を担っている前脳葉と呼ばれる部位は,損傷や欠損を被った際,自発的に組織レベル,機能レベルでの回復を遂げることができる。そして前脳葉自体も,常に左右いずれか片方ずつが機能するという,ある種の機能的冗長性を有している。さらに,ナメクジのニューロンは,物質合成能を高める必要がある場合には自身のゲノムDNA量を増やすことさえできる。本稿では,こういった,我々哺乳類には到底不可能な,さまざまな離れ業を示すナメクジの神経組織について紹介する。
著者
八木 光晴 及川 信
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.68-72, 2008 (Released:2008-05-22)
参考文献数
38
被引用文献数
4 2

Body size is one of the most important axes to understand a large biodiversity. An amazing diversity in body mass of lives ranges over about 21 orders of magnitude, from a tiny bacteria such as Mycoplasma weighing 10-13g to a giant Sequoia tree weighing 109g. As a consequence of this variation, nearly all the structures and functions of organisms are constrained with body size, from the molecular, cellular and whole-organism levels to the ecological and evolutionary dynamics. These relationships are well described by the allometric equation. In this note, we introduce backgrounds to focus on some important correlates and consequences of body size, in particular on energy metabolism at the level of individual organism. Metabolism of an individual organism reflects the energy and material transformations that are used for both the maintenance of existing structure and the production of new biomass. Although body size is a primary determinant for metabolic rates, metabolism-body size relationships, in particular within species, i.e., the ontogenetic changes of metabolism with growth have not been well established in many species. The metabolic scaling in biology still keeps an intriguing and enduring problems.
著者
吉岡 伸也
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.86-95, 2008 (Released:2008-10-16)
参考文献数
46
被引用文献数
1 1

青いモルフォチョウを代表例とする構造色, その輝きは古くから科学者達の注目を集めてきた。光学顕微鏡で詳しい観察がされた時代の後, 20世紀中頃に電子顕微鏡が開発されると構造色研究は大きく進展した。輝きの背後にある緻密な微細構造が次々と明らかにされたのである。その構造には波長サイズの周期性が見られたため, 光の波としての性質である“干渉”が, 波長選択的な反射に寄与していることが確かになった。しかし, 自然界の構造色は, 微細構造だけで語ることはできない。もっと大きなサイズの形状や色素の併用など, 総合的な発色の工夫を生物は持っているのである。蝶や蛾の鮮やかな翅の発色の仕組みを紹介しながら, 構造色研究の現状と今後の方向性について考えてみたい。
著者
小泉 修
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.278-287, 1999-12-31 (Released:2011-03-14)
参考文献数
33
被引用文献数
1
著者
吉田 将之
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.317-325, 2011 (Released:2012-01-11)
参考文献数
60

恐怖や不安は,動物の生命存続のためになくてはならない情動であり,様々な情動のうちでも比較的研究が進んでいる。魚類における恐怖や不安の神経機構を調べる上で,それらの情動を再現し,定量的に計測するための有効な方法が不可欠である。最近,従来の動物心理学的な手法に,エソロジカルな考え方も取り入れた魚類の不安の定量化法が導入されつつある。代表的な例のひとつが「新奇環境テスト」であり,これは不安を惹起するような新しい環境(水槽)に魚が遭遇したとき,どのように対処するかを定量的に観察する方法である。もう一つが明暗(白黒背景)選好性テストであり,背景が暗いほうが安心するという魚の習性を利用した不安の定量法である。一方,恐怖については,古典的恐怖条件付けや回避条件付けなどの手法で定量化できるほか,警報物質や捕食者に対する生得的な恐怖反応を利用する方法も開発されている。これらの恐怖・不安定量化法を利用して,情動のメカニズムに関する行動神経科学的,生物医学的研究が進められている。 魚類は多様な環境に適応放散しているが,そのごく一部が研究対象となっているにすぎない。今後,興味深い不安・恐怖行動を示す魚種が発見され,情動メカニズムの進化の解明に寄与することを期待する。
著者
朝野 維起
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.106-114, 2013-09-20 (Released:2013-10-24)
参考文献数
54
被引用文献数
1

黒〜茶系色素であるメラニンは,地球上の生物に極めてありふれた存在である。髪の毛や鱗・皮膚など,我々脊椎動物の体色形成に関わるほか,植物や原生動物でも黒色色素の合成が観察される。また,本総説で説明する昆虫について見てみると,アリやクロアゲハ・カブトムシなどの色からも明らかなように,メラニンの合成は特に珍しいものではない。しかし,種々の生物がつくるメラニンは,一見すると同じ物体であるかの様に見えつつも,個々の生物に特有の合成経路・合成酵素が存在する。つまり,進化の過程に於いてそれぞれの生き物が独自にメラニン合成能を発達・進化させてきたと考えられる。この総説では昆虫のメラニン合成系について論ずるが,特に我々が直接目にする「昆虫の体そのもの」である外骨格内の酵素群について説明する。ドーパやドーパミンなどのフェノール性基質の酸化反応を触媒する含銅酵素を中心に,それらの基質合成系などにも触れる。また,ヒトなどとの違いについて説明するとともに,その進化学的な意義について議論したい。
著者
定本 久世 高橋 宏暢
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.131-134, 2012-09-20 (Released:2012-10-17)
参考文献数
11

本技術ノートでは,次世代シーケンサーを用いた非モデル動物の全トランスクリプトーム解析について説明する。これまで,非モデル動物のように参照となるゲノムDNA情報がない場合,次世代シーケンサーの配列データを貼り合わせて長い配列情報を得ることが難しかった。また,代表機種であるIllumina社シーケンサーでは,他社機種に比べて安価で大量の配列データが得られるものの,シーケンスデータの配列長が短い。これら技術,費用の両問題により,次世代シーケンサーによる非モデル動物のトランスクリプトーム解析はなかなか進んでこなかった。最近になり,トランスクリプトームデータ解析に特化した,参照配列を必要としない配列貼り合わせ(de novo assembly)プログラムが複数発表されている。我々は,Illumina社シーケンサーとこれらのプログラムを用いて非モデル動物組織のde novoシーケンス,トランスクリプトーム解析を行い,良好な結果を得た。これらの結果を含めて一連のde novoトランスクリプトーム解析手法を紹介したい。
著者
早川 昌志 洲崎 敏伸
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.108-115, 2016-09-29 (Released:2016-10-17)
参考文献数
64

ミドリゾウリムシは,共生クロレラと呼ばれる単細胞緑藻類を細胞内共生させている繊毛虫類の一種である。ミドリゾウリムシは,共生クロレラを除去する「白化」と,共生クロレラの「再共生」が容易に行えることから,細胞内共生研究における有用なモデル生物であり,以下のように多くの研究がなされている。ミドリゾウリムシには,宿主由来の共生クロレラのみだけでなく,別株や別種の宿主に由来する共生クロレラや,自由生活性の藻類,さらには酵母や細菌などの微生物も共生させることができる。共生クロレラに特徴的な生理学的特性として,外液が酸性の条件で細胞外にマルトースを放出する性質がある。共生クロレラはPV膜と呼ばれる生体膜によって近接して包まれており,PV膜の内部が酸性環境に維持されていると考えられており,共生と関連したクロレラからの糖の放出システムが構築されていることが予想されている。PV膜には宿主ミトコンドリアが密着・融合しており,細胞内共生において何らかの役割を果たしている可能性がある。ミドリゾウリムシは分子生物学的な研究は遅れているが,比較トランスクリプトーム解析などが行われており,共生と関連して発現が変動する遺伝子も報告されている。
著者
安東 宏徳
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.45-53, 2018-04-13 (Released:2018-04-27)
参考文献数
27

潮間帯や浅海域に生息する海産生物の多くは,月齢に同調して産卵する。これらの動物は,月周期もしくは半月周期で生殖を繰り返すが,そのリズムの調節機構は現在のところほとんどわかっていない。我々はこれまで,日本各地の海岸で潮汐サイクルに依存しながら新月と満月の日に産卵するクサフグを用いて,その半月周性の産卵リズムの調節機構について研究してきた。フィールドの産卵回遊行動調査や水槽内行動実験,視床下部-下垂体系のホルモンの遺伝子発現解析,メラトニンの分泌やメラトニン受容体遺伝子の発現解析,概日時計遺伝子の解析など,さまざまな分子生理生態学的なアプローチを行ってきた結果,クサフグが生息環境の違いに応じて異なる産卵リズムを持つことや産卵期には内因性の半月周リズムを持つこと,また,半月周リズムを作る時計機構や生殖関連神経ホルモンの周期的発現調節には,クリプトクロームとメラトニンが関与していることがわかってきた。また,クサフグの松果体や間脳では,メラトニン受容体遺伝子が約15時間周期のウルトラディアン発現をすることが明らかになり,クサフグは概日時計と共に,概潮汐時計に関連する新規の時計を持つ可能性がある。概日時計と概潮汐時計があれば,半月周リズムを発振することができる。
著者
酒井 正樹
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.135-150, 2012-09-20 (Released:2012-10-17)
参考文献数
10
被引用文献数
1

今回はニューロンにおける活動電位の伝導をとりあげる。ここでいう伝導とは,軸索起始部で発生した活動電位が,減衰することなく高速で軸索を伝わって行くことである。伝導のしくみについては,活動電位のしくみがわかっておれば,それなりに理解できる。ただし,十分納得しようとすると実はそれほど簡単ではない。それは,伝導には静止電位や活動電位であまり問題にならなかった空間という要素があるからだ。活動電位の発生では,電位変化は球形の細胞膜全域で同時均等に起こっているものとして扱えた。だから,電位の時間的変化だけに注目しておればそれでよかった。また,イオンの電気的作用についてみても,細胞膜を挟んだ近接領域おそらくナノメータ(10–9m)オーダーの範囲でよかった。これに対し,伝導では活動電位の空間的ひろがりを考えねばならない。そのひろがりは,細い軸索の長軸方向に沿ってミリメートルからセンチメートルオーダーにもなる。そして,そのひろがりにおける電位の時間的変化が問題となるのである。このように時間と空間という2つのパラメーターが同居していると,一方のことを考えていると他方のことを無視してしまいやすい。また,伝導においては,電位の変化速度も問題になってくる。さらに,電流の速度と,電流を運ぶ荷電体の速度は別物であるという“電気の常識”も知っておく必要がある。ここでは,前2回の講義を受けているとの前提で話をすすめていくが,一般解説書にあるような事実の紹介はなるべく避けてイメージによる直感的理解をめざす。今回も,コラムについては読みとばしていただいて結構である。
著者
岩田 勝哉
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.184-192, 1998-09-30 (Released:2011-03-14)
参考文献数
57
被引用文献数
2
著者
下澤 楯夫
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.153-164, 2006-08-20 (Released:2007-10-05)
参考文献数
19

Part 6. Entropy cost of information in living neuron is estimated to be very close to the thermodynamic limit at 0.7kB per bit of information. Parallel transmission and principle of summation average with stochastic sampling is explained as the essential way of adaptation under the inevitable thermal noise. Theoretical arguments on Maxwell's demon and the negative entropy principle of information or the irreversibility of measurement are explained. Origin of life and the evolution of life are discussed from the information theoretic standpoint, in reference to the actual values of rate of information and the energy threshold of living cell.
著者
齋藤 茂
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.259-266, 2011 (Released:2011-11-08)
参考文献数
43

動物は環境温度を正確に感知して行動や生理的な応答により順応している。そのため温度感覚は適応進化においても重要な役割を担ってきたと考えられる。温度受容体はtransient receptor potential(TRP)遺伝子ファミリーに含まれる温度感受性チャネルである。進化過程で温度感受性TRPチャネルに生じた変化は温度感覚に直接的な影響を与えるため,これらの遺伝子の進化過程を調べることは適応的な役割を解明する上で欠かせない。筆者らは,温度感受性TRPチャネル遺伝子を複数の脊椎動物種のゲノム配列データから収集し,分子系統解析を行い遺伝子レパートリーの多様性およびその進化過程を明らかにしてきた。また,機能の進化過程を推定するために,哺乳類から系統的に離れた両生類であるニシツメガエルからTRPV3をクローニングし電気生理学的な手法による機能解析を行った。ニシツメガエルTRPV3は温度感受性が哺乳類のものと大きく異なり,進化過程でその機能を柔軟に変化させてきたことを明らかにした。本稿では,脊椎動物の温度感受性TRPチャネルの遺伝子と機能の進化について最近の知見を紹介する。
著者
松野 あきら
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.54-61, 2010 (Released:2011-04-27)
参考文献数
39

ある種の平滑筋は1度収縮すると,その後ほとんどエネルギー消費をしないで収縮したままの状態を保つことができる特殊な筋収縮をする。このような収縮はキャッチ収縮と呼ばれ,キャッチ収縮を引き起こす機構をキャッチ機構と呼ぶ。キャッチ機構の研究には色々なアプローチが試みられており,現在では,生化学的および分子生物学的手法でキャッチ状態を解除する機構までもが明らかにされている。少し過去にさかのぼると,キャッチ筋の太いフィラメントに含まれるパラミオシンとキャッチ機構との関係が注目されたが,細胞内での構造的な証拠が得られなかった。しかしながら,多種多様の閉殻筋平滑筋のキャッチ筋には,直径が50-60nm以上の太いフィラメントが含まれているのが観察される。これらのフィラメントが直接キャッチ機構に関与していることはなさそうだが,今後の生化学や分子生物学の研究で,このフィラメントの重要性が再確認される日が来るだろうと思われる。
著者
後藤 彩子
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.150-157, 2018-12-25 (Released:2019-01-21)
参考文献数
50

社会性膜翅目昆虫(アリ,ハチ)では,女王は羽化後まもない時期にしか交尾しないため,この時に受け取った精子を体内の受精嚢という袋状の構造の中に寿命が続く限り貯蔵する。アリ科の多くの種の女王の寿命は10年以上と,昆虫としては例外的に長いため,精子貯蔵期間も極端に長い。他のハチ類と比較して,アリ科の受精嚢は非常に巨大で構造も特殊であることから,精子貯蔵に重要な機能をもっていると予想できる。女王アリの受精嚢内に貯蔵されている精子は不動化されていることから,精子は代謝が抑えられ,休眠状態を保っていると考えられる。貯蔵後5年経過した精子でも,受精嚢の外に出すとべん毛運動をはじめることから,核が収納されている頭部のみならず尾部に到るまで,女王は精子の機能を損なうことなく貯蔵していると言える。アリの精子形態は他の種と大きな差は見られないものの,酸化されにくさなどの細胞学的な性質は全くの不明であるため,今後の研究が進むことを期待している。また,受精嚢で高発現している遺伝子も特定されており,精子貯蔵に関与すると予想していた抗酸化酵素や受精嚢内環境に影響するイオンや糖のトランスポーターをコードする遺伝子のほか,具体的な機能は不明だが,発現量が極めて多い遺伝子も見つかった。今後はこれらの分子がどのように精子の生理状態や生存に影響するかを明らかにする必要がある。
著者
山下 茂樹
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.25-32, 1995-03-15 (Released:2011-03-14)
参考文献数
44
著者
保 智己 川野 絵美
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.185-194, 2004-12-31 (Released:2011-03-14)
参考文献数
45
被引用文献数
1 1
著者
服部 淳彦
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.2-11, 2017-03-29 (Released:2017-04-11)
参考文献数
30

エイジングに伴って,様々な器官に衰えが生じることは避けられない。特に,睡眠障害や記憶力の低下,骨粗鬆症による骨折などは,高齢者のQOL(Quality of Life)低下につながり,その予防や改善策は喫緊の課題である。メラトニンは松果体から夜間にのみ分泌される「夜の時刻情報の伝達物質」であるが,その分泌量は加齢とともに激減する。近年,メラトニンは松果体以外の様々な器官においても合成されること,フリーラジカルや活性酸素を消去する抗酸化物質としての性質を併せ持つことが明らかとなった。そこで,この加齢に伴って減少するメラトニンを補充するという長期投与実験がなされ,マウスやラットでは寿命を延ばすことが報告されている。ヒトでも,閉経後骨粗鬆症の進行を抑制し,アルツハイマー病に対しても通常の治療薬との併用ではあるが,進行を抑制することが報告され,一段とアンチ(ウェル)エイジング効果に期待が集まりつつある。最近我々は,メラトニンの学習・記憶増強作用が,メラトニンの脳内代産物であるN-acetyl-5-methoxykynuramine (AMK)の長期記憶誘導作用に起因していることを見出し(特願2016-42875),老化によって長期記憶形成力が低下したマウスやコオロギにおいて,AMKの単回投与が記憶力の有意な改善をもたらすことを明らかにした。また,我々が見つけたメラトニンの破骨細胞(骨溶解)抑制作用を期待して,国際宇宙ステーション「きぼう」実験棟において実験を行い,宇宙でもメラトニンが破骨細胞を抑制することを確認した。