著者
小豆畑 康児 川名 秀忠 東 守洋 東 和彦 若新 英史 大矢 佳寛 佐野 文子 亀井 克彦 張ケ谷 健一
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 第49回 日本医真菌学会総会 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
pp.176, 2005 (Released:2005-09-07)

症例は 70 歳の米国人男性。来日前から中耳炎と難聴があり、来日後は咳、発熱が続いていた。某院に通院、その後、入院していたが、症状が悪化し、千葉大学医学部付属病院に転院した。血尿・蛋白尿が出現し、C-ANCA も陽性だったことから Wegener 肉芽腫症の診断がなされ Cyclophosphamide 及びステロイドによる治療が行われた。治療開始から約一ヵ月後、胸水の出現とその増加があり、上肺野には斑状影を認めた。胸水培養より特定できない真菌が検出されたため、千葉大学真菌医学研究センターにおいて精査したところ、血清抗体価、PCR、DNA シークエンスなどから Coccidioides immitis と判明した。これに対し、抗真菌薬による治療を行ったが、肺症状の悪化と低酸素血症が続いた。その後、全身状態も悪化し、胸水の出現から約一ヶ月半で死亡した。千葉大学において病理解剖が実施され、検索の結果、肺・肝臓・脾臓に内生胞子を充満したコクシジオイデスの球状体が見られた。
著者
西本 勝太郎 西本 勝太郎
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.103-111, 2006-04-30
被引用文献数
28 45

日本医真菌学会・疫学調査委員会による2002年度の皮膚真菌症調査成績を報告した. 方法および調査項目は前2回 (1991~1992, 1996~1997) に準じ, 全国に分布した皮膚科外来14施設において, 調査用紙にしたがった検索をおこない, 結果を集計した.<br>1. 全施設をあわせた年間の総患者数 (その年における新患数) は72,660名であった.<br>2. 疾患別では皮膚糸状菌症 (全病型を合わせて7,994例) が最も多く, ついで皮膚カンジダ症, 癜風を含むその他の疾患群であった.<br>3. 皮膚糸状菌症の病型別では, 多い順に足白癬4,813例 (男2,439, 女2,374), ついで爪白癬2,123例 (男1,093, 女1,030), 体部白癬497例 (男281, 女216), 股部白癬299例 (男249, 女50), 手白癬248例 (男144, 女104), 頭部白癬・ケルスス禿瘡14例 (男6, 女8) の順であった.<br>4. 足白癬・爪白癬は夏期に, また人口比では主として高齢者に多くみられ, 特に爪白癬は年を追って増加する傾向が見られていた.<br>5. 原因菌別では<i>Trichophyton rubrum</i> が最も多く分離され, 病型別では, 足白癬で<i>T. rubrum</i> 1,431株対<i>Trichophyton mentagrophytes</i> 829株以外, 手白癬, 体部白癬, 股部白癬, 爪白癬で分離株数の約90%は<i>T. rubrum</i> によるものであった. <i>Microsporum canis</i> は16株と減少し, <i>Trichophyton tonsurans</i> が12株分離された.<br>6. 皮膚カンジダ症は755症例が見られ, 間擦疹が347例で最も多く, ついで指間びらん (103例), おむつ部カンジダ症 (102例) の順であった. いずれも高齢者に, 局所の日和見感染として発症した例が多かった.<br>7. 癜風・マラセチア感染症その他を含め220例が見られたが, 施設ごとの症例は少なくまた偏りがあり, 施設や性別などで特徴的な所見は出なかった.
著者
西村 和子
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.385-391, 1994-11-15 (Released:2009-12-18)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

コロンビア,ベネズエラ,ブラジルおよび中国において採集された土壌,腐植植物より病原性黒色真菌の分離が試みられた結果,南米3ヶ国の試料よりFonsecaea pedrosoi, Exophiala spp., Cladosporium trichoidesが少数,E. spiniferaとPhialophora verrucosaが相当数分離された.ベネズエラのC.carrioniiによるクロモミコーシス多発地帯ファルコン州からは特徴的にC.carrioniiが腐植植物から分離された.中国の試料はC.carrionii感染の多発地帯である山東省で収集されたが,本菌種は分離されなかった.しかしながら,F.pedrosoiが少数,P.verrucosaが多数,両アメリカ大陸以外では初めてE.spiniferaが,また新たな病原性黒色真菌としてVeronaea botryosaが相当数分離された.一方,日本の浴室環境にはもっぱらExophiala属菌が分布していた.
著者
Junya Ninomiya Atsuhiro Nakabayashi Ryota Higuchi Iwao Takiuchi
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.189-191, 2002-07-30 (Released:2009-12-21)
参考文献数
8
被引用文献数
5 9

We report a case of seborrheic blepharitis treated with oral itraconazole during a short period. Direct examination using Parker KOH revealed numerous hyphae and spores of Malassezia in the scale. Low-dose itraconazole pulse therapy (200 mg daily, 7 days a month) was quite effective. This is the second case in which we also observed a unique fungal conformation which looked like tinea versicolor. The evidence strongly suggests that Malassezia is one of the major causative agents of Seborrheic Blepharitis.
著者
矢口 貴志 滝澤 香代子 田口 英昭 田中 玲子 窪田 規 窪田 宜昭 窪田 正昭 福島 和貴
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.97-100, 2007 (Released:2007-09-26)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

銀は, 古くから細菌などの微生物に対して抗菌作用を有することが知られており, 食器をはじめ歯科用充填材などに用いられている. 今回, ナノ銀粒子を静電吸着させたコラーゲン水解ペプチド (GX-95) の病原真菌を中心とした真菌に対する抗真菌活性について検討した. その結果, 検討したすべての菌種に対し, 抗真菌活性を有することが明らかとなった. 最小発育阻止濃度 (MIC) は, fluconazole, itraconazole, flucytosine 耐性株を含めたCandida albicans に対して0.25-3.1μg/ml, Cryptococcus neoformans に対して0.05-0.2μg/ml, Aspergillus fumigatus に対して0.025-0.4μg/ml, Trichophyton rubrum に対し0.4μg/ml, Cladophialophora carrionii に対して0.05μg/ml などとなり, GX-95は幅広く強い抗真菌活性を示した.
著者
小林 めぐみ 早出 恵里 高橋 栄里 助川 のぞみ 清 佳浩 伊藤 弥生
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.217-220, 2008-07-30

71歳女性の高度に変形,肥厚した爪カンジダ症の1例を報告する.初診,2006年4月5日.基礎疾患に糖尿病,慢性関節リウマチなどあり.ステロイド長期内服中.初診時,両3,4指爪甲は爪郭から1/3のところで横に断裂し,爪甲下角質増殖を認めた.KOH直接検鏡にて仮性菌糸と桑実型の胞子を検出.病理組織では爪甲中にGrocott染色,PAS染色いずれも無数の菌要素を認めた.ATG寒天培地による培養の結果,<I>Candida albicans</I> が分離され,PCRを用いた非培養法でも<I>C. albicans</I> のみ検出され,爪カンジダ症と診断した.同年4月8日よりフルコナゾール100 mg/dayの連日投与を開始.治療開始8週間後には,後爪郭から末梢に向かい2mm程度正常な爪甲を認めた.治療開始14週間後には,爪甲の混濁,肥厚,色調ともに著明に改善した.同年7月25日多臓器不全のため死亡した.
著者
秋山 一男
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.149-155, 2000-07-30
被引用文献数
1 6

ダニ,花粉,ペットとともに真菌は気管支喘息の原因アレルゲンとして重要な位置づけがなされているが,実地臨床の場での診断においては必ずしも容易ではない.原因アレルゲン確定のスクリーニングとして実施される皮膚テストにおける即時型陽性アレルゲンに対する血中IgE抗体の陽性頻度はダニ,花粉等に比べると低く,さらに粘膜アトピー反応検索の手段としての眼反応,吸入誘発反応の陽性頻度はさらに低い.最近はこれまでの屋外飛散真菌相のみならず屋内真菌のアレルゲンとしての意義についても検討されている.多数の抗原決定基を有する真菌の抗原分析により主要アレルゲンを決定することは容易ではない.我々は気管支喘息の原因アレルゲンとしてのヒト皮膚,粘膜常在真菌である<i>Candida albicans</i>(<i>C.alb</i>)が分泌する酸性プロテアーゼ(CAAP)及び細胞壁構成多糖体マンナン(Mn)のアレルゲンとしての役割を検討した.CAAPに対するIgE抗体陽性患者は<i>C.alb</i>による末梢血白血球ヒスタミン遊離反応,結膜誘発反応が陽性を示し,CAAPは<i>C.alb</i>による粘膜アトピー反応の重要なアレルゲンであることが示唆された.Mnは各種真菌アレルゲン間の交叉反応に関与するアレルゲンではあるが,粘膜アトピー反応への関与は少ない.一方,<i>C.alb</i>に対するIgG抗体は,Mnに対する抗体と考えられる.難治性喘息と非難治性喘息では各種<i>C.alb</i>関連抗原へのIgG抗体価には差はなかった.人体常在真菌である<i>C.alb</i>は内因型喘息の病態機序に関わる可能性が示唆されている.
著者
望月 隆 田邉 洋 若狭 麻子 河崎 昌子 安澤 数史 石崎 宏
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.57-61, 2006-04-30
被引用文献数
3 7

<i>Trichophyton</i> (<i>T</i>.) <i>tonsurans</i> 感染症の集団発生例への対処法として近年ブラシ検査を用いた診断・治療のガイドラインが作成され, 本症に対する対応が効果的に行われるようになってきた. このブラシ検査に影響があると考えられる要素のいくつかについて, 高等学校柔道部員を対象に検討した. その結果, ブラシ検査は十分な指導のもとに行うこと, 練習後は付着による偽陽性者が出るので練習前に行うこと, ブラシ検査は抗真菌剤の外用直後は陰性化していることが明らかになった. また, 練習前の抗真菌剤外用による菌の付着の防止効果は約3時間の練習に対しては不十分であることも判明した.<br>分子疫学的検討では, 当科に保存してあった全国各地からの臨床分離株198株についてNTS領域のPCR-RFLP分析を行った. その結果, 格闘技由来株に2つの分子型が認められ, 流行が2つの分子型の菌に起因することが明らかになった.
著者
菅波 盛雄 廣瀬 伸良 白木 祐美 比留間 政太郎 池田 志斈
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.319-324, 2006-10-31
被引用文献数
11 17

<i>Trichophyton tonsurans</i> 感染症は, 高校, 大学生の柔道・レスリング選手を中心に拡大していることは知られているが, 中学校柔道選手へも感染が拡大しているか否かは不明である. 本研究では, 平成17年度の全国中学校柔道大会において調査を行った. 対象は全参加1,039名のうち, 本調査の検査に同意した男子218名, 女子278名の計496名であった. 調査は質問紙法とhairbrush法を用いた. 結果は, 496例中45例 (9.1%) がhairbrush法陽性で, 1陽性例あたりの陽性ブラシ棘の集落数は1~126集落 (平均36.1±48.9) であった. 陽性例が多いのは, (1) 男子選手, (2) 他校および高校, 近隣の道場などで頻繁に練習を行う者, (3) 友人に体部白癬「有り」との回答をした者, (4) 体部白癬既往「有り」との回答をした者であった. また, (1) 体重の軽いクラスの者, (2) 戦績上位入賞者, (3) 関東と九州地区在住者に陽性例が多い傾向があった. 次にhairbrush法で陽性であった45名に検査結果を通知し, 治療を受けるように指示した. 3ヶ月後のhairbrush法再検査では, ブラシを返却した者は45例中33例 (ブラシは返却してきたが未治療9例を含む) であった. 治療による菌の陰性化率は, ミコナゾールシャンプー治療群では12例中12例 (100%) で, 経口抗真菌剤治療群では12例中6例 (50.0%) であった. 以上より, 中学生柔道選手における<i>T. tonsurans</i> 感染者が確認された (9.1%) ことより, 本症の感染拡大の阻止が急務であると考えられた.
著者
篠田 英和 西本 勝太郎 望月 隆
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.305-309, 2008-10-30
参考文献数
9
被引用文献数
5 7

2007年度に佐賀県で開催された全国高等学校総合体育大会における,柔道競技者の<I>Trichophyton tonsurans</I>(<I>T. tonsurans</I>)感染症を目的としたhair brush sampling法(HB法,スパイク90本)による検診を行った.競技参加者951名の中で検診希望者487名(男265名,女222名)を対象とした.陽性率の高い地域は九州21%(73名中15名),東北17%(77名中13名),近畿16%(89名中14名),中部13%(89名中12名)であった.さらにHB法でコロニー数30個以上の強陽性者は九州4名,東北4名,中部2名,近畿2名でありHB法陽性率の高い4地域と一致した.アンケート調査の回答では<I>T. tonsurans</I>感染の存在を90%は知っており,HB法検診の経験者は11%であった.37%(486名中178名)は検診結果の報告を不要と回答した.HB法検診の経験が少ない理由としては,皮膚科医によるHB法検診がまだ充分浸透していないことや,HB法などによって<I>T. tonsurans</I>感染者が判明し,試合への参加が制限されることを懸念するためHB法検診への参加に消極的であることなどが考えられた.したがって監督指導者に対する<I>T. tonsurans</I>感染症の啓発も重要であるが,我々皮膚科医も自主的に学校や団体に赴き,HB法などを用いた検診を積極的に行うべきである.検診結果報告不要の理由として,検診結果が監督や仲間に公表される危惧をあげる選手も多く,このことがHB法検診への不参加につながっていることが推測され,結果報告時の個人情報の取り扱いには充分なる配慮が必要と考えた.