著者
新見 京子 新見 昌一
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.57-66, 2009-04-30
参考文献数
79
被引用文献数
2 5

真菌の細胞壁骨格多糖 &beta; &ndash; 1,3 &ndash; グルカンの合成を阻害するエキノキャンディン(キャディン)系抗真菌薬は,<I>Candida</I>や<I>Aspergillus</I>に対して高い抗菌活性を示し,ヒトに対する副作用も少ないことから深在性真菌症の治療における重要な選択肢となっている.アゾール薬に比べて耐性菌出現の問題は少なく,発売から数年を経ても低感受性菌分離の報告は欧米を中心に散見されるに過ぎない.しかし,その報告例は徐々に増加している.低感受性株のほとんどは<I>C. albicans</I>であるが,<I>C. glabrata</I>,<I>C. krusei</I>,<I>C. tropicalis</I>でも見られ,これらの株はキャンディンに対する感受性が100倍近く低下し,膜画分中の &beta; &ndash; 1,3 &ndash; グルカン合成酵素もキャンディン耐性を示す.耐性との強い関係が示唆されているのは,この酵素の触媒サブユニットをコードする遺伝子<I>FKS</I>のエキノキャンディン耐性領域(Ech<SUP>R</SUP>)と呼ばれる部分のアミノ酸置換である.しかし,アミノ酸置換がどのように耐性とかかわっているか,詳細は不明である.一方,キャンディンは真菌のストレス応答を惹起し,それにかかわるネットワーク特にcell wall integrity伝達経路と呼ばれるシグナル経路が働くことによって,薬剤に対して寛容の状態となる.真菌の細胞壁合成酵素はヒトにはないタンパクであり,有望な薬剤の標的分子である.今後より幅広い抗菌スペクトルをもつ細胞壁合成阻害薬を開発するには,耐性機構の解明と標的分子の構造解析が必要であろう.
著者
深澤 万左友
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.229-231, 2005
被引用文献数
3

リポソーマルアムホテリシンB(AmBisome&trade;)は,現在でも深在性真菌症治療の"gold standard"とされているアムホテリシンB(AMPH-B)の抗真菌活性を維持しつつ副作用を低減させたDDS(Drug Delivery System)製剤である.母剤のAMPH-Bは,アスペルギルス,カンジダなど幅広い抗真菌スペクトラムを有し,殺菌的に作用する.その作用機作はAMPH-Bが真菌細胞膜のエルゴステロールに吸着し,細胞膜の透過性を高め細胞質成分を漏出させることである.一方,AMPH-Bはヒト細胞膜のコレステロールへの親和性が低く真菌細胞ほど強い影響を与えないが,この選択毒性は完全でないため臨床では重篤な腎毒性等が発現し,その使用には十分な注意が必要である.<br>本剤は単層リポソーム構造を有し,投与後も血流中にほとんどフリーのAMPH-Bを放出することなく感染組織にリポソームのまま運ばれ効果を示す.AMPH-B既存製剤(ファンギゾン&trade;)と同様の<i>in vitro</i>抗真菌活性ならびに動物実験での<i>in vivo</i>効果を示し,海外臨床試験でも同様の高い治療効果が認められている.それと同時に,リポソーム化に伴う薬物動態特性の改善や動物細胞への傷害性や反応性の著しい低減によって,毒性の軽減,特に腎臓に対する副作用や投与時における発熱,さむけ/悪寒などの頻度および程度が軽減された.
著者
深澤 万左友
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.229-231, 2005-10-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
8
被引用文献数
2 3

リポソーマルアムホテリシンB(AmBisome™)は,現在でも深在性真菌症治療の“gold standard”とされているアムホテリシンB(AMPH-B)の抗真菌活性を維持しつつ副作用を低減させたDDS(Drug Delivery System)製剤である.母剤のAMPH-Bは,アスペルギルス,カンジダなど幅広い抗真菌スペクトラムを有し,殺菌的に作用する.その作用機作はAMPH-Bが真菌細胞膜のエルゴステロールに吸着し,細胞膜の透過性を高め細胞質成分を漏出させることである.一方,AMPH-Bはヒト細胞膜のコレステロールへの親和性が低く真菌細胞ほど強い影響を与えないが,この選択毒性は完全でないため臨床では重篤な腎毒性等が発現し,その使用には十分な注意が必要である.本剤は単層リポソーム構造を有し,投与後も血流中にほとんどフリーのAMPH-Bを放出することなく感染組織にリポソームのまま運ばれ効果を示す.AMPH-B既存製剤(ファンギゾン™)と同様のin vitro抗真菌活性ならびに動物実験でのin vivo効果を示し,海外臨床試験でも同様の高い治療効果が認められている.それと同時に,リポソーム化に伴う薬物動態特性の改善や動物細胞への傷害性や反応性の著しい低減によって,毒性の軽減,特に腎臓に対する副作用や投与時における発熱,さむけ/悪寒などの頻度および程度が軽減された.
著者
新見 京子 新見 昌一
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.057-066, 2009 (Released:2009-05-11)
参考文献数
80
被引用文献数
5 5

真菌の細胞壁骨格多糖 β – 1,3 – グルカンの合成を阻害するエキノキャンディン(キャディン)系抗真菌薬は,CandidaやAspergillusに対して高い抗菌活性を示し,ヒトに対する副作用も少ないことから深在性真菌症の治療における重要な選択肢となっている.アゾール薬に比べて耐性菌出現の問題は少なく,発売から数年を経ても低感受性菌分離の報告は欧米を中心に散見されるに過ぎない.しかし,その報告例は徐々に増加している.低感受性株のほとんどはC. albicansであるが,C. glabrata,C. krusei,C. tropicalisでも見られ,これらの株はキャンディンに対する感受性が100倍近く低下し,膜画分中の β – 1,3 – グルカン合成酵素もキャンディン耐性を示す.耐性との強い関係が示唆されているのは,この酵素の触媒サブユニットをコードする遺伝子FKSのエキノキャンディン耐性領域(EchR)と呼ばれる部分のアミノ酸置換である.しかし,アミノ酸置換がどのように耐性とかかわっているか,詳細は不明である.一方,キャンディンは真菌のストレス応答を惹起し,それにかかわるネットワーク特にcell wall integrity伝達経路と呼ばれるシグナル経路が働くことによって,薬剤に対して寛容の状態となる.真菌の細胞壁合成酵素はヒトにはないタンパクであり,有望な薬剤の標的分子である.今後より幅広い抗菌スペクトルをもつ細胞壁合成阻害薬を開発するには,耐性機構の解明と標的分子の構造解析が必要であろう.
著者
望月 隆
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.14, 2005

<I>Trichophyton</I> (<I>T.</I>) <I>tonsurans</I> 感染症は 1990 年初頭から北アメリカ各地、スエーデン、韓国、ドイツなどの格闘技愛好者の間に流行している。本邦においては 2001 年から培養で本菌によることが確認された集団発生例が報告されたが、おそらく 1995 年頃以前から当初レスリング部員、その後柔道部員の間で集団発生が始まっていたと考えられる。昨年の本学会においては、本症の発生状況を明らかにするためにシンポジウムが行われ、本症が高等学校、大学などの柔道、レスリング競技者を中心にすでに全国的に蔓延していること、当初強豪校を中心としていた感染の範囲が拡大していること、家族への二次感染例があること、一般への拡散はいまだ確認されていないことなどが明らかになった。したがって、今後は効果的な治療、予防策の提案が急務と考えられる。現在のところ本症の診断、治療のガイドラインとしては「柔道選手の皮膚真菌症 ブラシ検査・治療・予防のガイドライン」(比留間政太郎他 編集室なるにあ 2003 年 9 月)、ならびに「<I>Trichophyton tonsurans</I> 感染症の診断・治療・予防のガイドライン2004」(<I>T. tonsurans</I> 感染症対策委員会編 順天堂大学医学部皮膚科学教室 2004 年 6 月)が提示されている。今回は一高等学校柔道部を対象としたヘアブラシによるサンプリングを通じて、ヘアブラシ法を行うタイミング、特に乱取りを含む稽古の前後でのヘアブラシ法の所見の変化、そして稽古直前の抗真菌剤外用のヘアブラシ法への影響についてのデータを添えつつ、ガイドラインの紹介を行う。(共同研究者:田邉 洋、河崎昌子、安澤数史、若狭麻子、石崎康子)
著者
安部 茂 山口 英世
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.77-81, 2000-04-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
27
被引用文献数
5 5

真菌感染症の中でカンジダ症とアスペルギルス症に焦点を絞り生体防御機構についての最近の研究の進展を概説した.特に,感染過程において,真菌が存在する生理的条件によって生体防御機序が異なってくることから,ここでは,真菌が1)粘膜上で,外分泌液中にある場合,2)血液循環がある組織中に侵入した場合,3)血流の制限された感染部位にある場合に分けて,それぞれの主な防御機構について考察を加えた.
著者
時松 一成
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.26, 2007

深在性トリコスポロン症は、<I>Trichosporon asahii</I>によって起こる重篤な日和見感染症であるが確立された診断法や治療法はない。また、<I>T. asahii</I>は夏型過敏性肺炎の原因真菌でもありシックハウス症候群の一つとしても注目されている。同一の菌種が一方では重篤な感染症を引き起こし、もう一方ではアレルギー反応を惹起するという興味深い真菌であるが、その要因には生体と真菌の接触の結果生じる真菌の形態や形質変化と、生体側の免疫応答の変化が関与していることを我々は明らかにしてきた。生体との接触でおきる最も大きな変化は、グルクロノキシロマンナン抗原量の増加であり、この結果、<I>Trichosporon</I>は生体からの免疫能を回避し、生体環境に順応して潜伏し、宿主の免疫能が低下すると播種性感染症へと進展するこが予想される。<BR>このセミナーでは、環境に常在する真菌が、ヒトとのかかわり合いの結果、どのように変化して、様々な病態、すなわち、過敏性肺炎や日和見感染症を発現するのか、そのメカニズムについて解説し、さらに、最近の全国の疫学調査の結果から明らかになってきている、本症の発症に地域性はあるのか、新しい抗真菌薬が開発された今日、以前と比べ本症の死亡率は改善されたのか、以前から問題とされているブレイクスルー感染症があるのか、血清β―グルカン値が上昇するのか、<I>Trichosporon</I>の薬剤感受性に変化が生じているのか、など、臨床上の重要な問題点にも迫る。
著者
時松 一成 門田 淳一
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.155-159, 2006-07-31
参考文献数
20
被引用文献数
1

2002年に発売開始されたミカファンギンや2005年に発売開始されたボリコナゾールは, アスペルギルス属に対して抗真菌活性を有する薬剤である. 欧米における大規模臨床試験の結果, ボリコナゾールは, アムホテリシンBに比べ, 侵襲性肺アスペルギルス症に対し優れた有効性を有し, ミカファンギンと同じキャンディン系抗真菌薬であるカプソファンギンは, 好中球減少期における発熱に対し有効性を示した.<br>このように, 今後, ますますアスペルギルス症に対する治療薬剤の選択肢は増加し, その治療方法も大きく変化すると予想される一方, 薬剤選択の多様性から生じる臨床現場の混乱を避けるため, 新たな標準的治療法の確立が望まれる.<br>本稿では, 新規抗真菌薬をめぐる問題として, non-<i>fumigatus Aspergillus</i> の中でも最近増加が懸念されている<i>Aspergillus terreus</i> 感染症に対する新規抗真菌薬の有用性と, 新規抗真菌薬使用下に発生するブレイクスルー感染について記述した.
著者
矢口 貴志 田中 玲子 西村 和子 宇田川 俊一
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.51, 2005

2004 年,de Hoog 等が ITS 領域の系統解析で <I>Fonsecaea</I> 属を <I>F. pedrosoi</I> と新規提唱の <I>F. monophora</I> に分け,伝統的な分類における <I>F. pedrosoi</I> と <I>F. compacta</I> とは一致しないと報告した.そこで,当センター保存の臨床および食品由来の <I>Fonsecaea</I> 属に含まれる菌株について ITS 領域の塩基配列を決定し,既存のデータと合わせ系統解析を実施した.その結果,2 つの主要なグループに分かれ,日本産の分離菌は <I>F. monophora</I> と同じグループに類別された.このグループは,<I>F. pedrosoi</I>,<I>F. compacta</I> の代表株とは系統的にはっきりした違いを示し,de Hoog 等の" B タイプ",Tanabe 等の ITS-RFLP 解析による"タイプ 2 "にほぼ一致した.さらにこのグループは 2 つのサブグループに分かれ,その 1 つに日本産の菌株がすべて含まれ,もう一方のグループに南米由来の株が含まれていた.この結果は,日本産の <I>F. pedrosoi</I> が de Hoog らが示した <I>F. monophora</I> であることを示唆している.しかし,ITS 領域のみの結果から断定することは控えて,さらに複数の遺伝子解析の実施結果から判断したいと考える.
著者
杉田 隆
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.37, 2008

最新の疫学解析から、近年の深在性真菌症の特徴が明らかにされた。すなわち、1) カンジダ症とアスペルギルス症患者数の逆転、2) カンジダ症の原因菌が<i>C. albicans</i>からnon-<i>albicnas</i> spp.に、また3) 重篤型の比率が上昇していることがあげられる。この様な真菌症の変遷や起因菌の多様化には使用される抗真菌薬とも大きな関わりがある。アゾール薬にみるように、広域スペクトル化や活性の増強と薬剤そのものも進化している。一方で、接合菌症やトリコスポロン症は、ある種の薬剤の使用によるブレークスルー感染症として認識されるようになった。新興真菌症は一般に治療困難であるが、その診断には菌学的同定法の進歩が大きく貢献していることは言うまでもない。新規抗真菌薬の登場や環境の変化により新たな感染症が登場したり、あるいは頻度が変化したりと深在性真菌症そのものも変遷していく。本セミナーでは、各種疫学情報をレビューしながら深在性真菌症の過去、現在、未来を議論してみたい。
著者
荒谷 康昭
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.22, 2005

ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は主に好中球のみに存在し、単球にわずかに検出されるほかには MPO を保持している組織は同定されていない。感染等によって活性化した好中球は、NADPH オキシダーゼにより酸素からスーパーオキシド(O<SUB>2</SUB><SUP>-</SUP>)を、次いで O<SUB>2</SUB><SUP>-</SUP> から過酸化水素(H<SUB>2</SUB>O<SUB>2</SUB>)を産生する。さらに、MPO により H<SUB>2</SUB>O<SUB>2</SUB> と塩素イオンから次亜塩素酸(HOCl)が産生される。ヒトの単離好中球を用いた試験管内実験では、MPO 欠損好中球は殺菌能の低下が認められる。しかし、我が国では 40,000 人に 1 人、欧米では 2,000 から 4,000 人に 1 人の頻度で存在しているといわれる MPO 欠損患者の大半は健康な生活を営んでおり、時にカンジダ菌に易感染性を示す傾向が認められるに過ぎない。すなわち、個体の真菌感染防御における MPO の役割はいまだ明確ではない。そこで、MPO のノックアウトマウス [MPO (-/-) マウス] を作製して、このマウスの真菌易感染性を解析した。<BR> MPO (-/-) マウスは、クリーンな飼育環境下では何ら異常を示さない。ところが、<I>Candida albicans</I> を鼻腔内投与すると、野生型マウスはまったく死亡しなかったのに対し、MPO (-/-) マウスは感染後 5 日目までに重度の肺炎を起こして大半が死亡した。さらに、<I>Aspergillus fumigatus</I>、<I>Candida tropicalis</I>、および <I>Trichosporon asahii</I> を感染させた 2 日後の肺における殺菌能も、野生型マウスに比べて有意に低下していた。また、<I>Cryptococcus neoformans</I> に対する MPO (-/-) マウスの感染防御能の低下は、感染後 1 週間を経過してから顕著に現れた。すなわち、MPO はこれらの真菌に対する生体防御に重要な役割を担っていることが示された。次に、MPO (-/-)マウスの <I>C. albicans</I> に対する易感染性を NADPH-オキシダーゼのノックアウトマウス (CGD マウス) と比較した。CGD マウスの感染重篤度は、投与した菌量依存的に増大した。一方、MPO (-/-) マウスは、低量の菌を投与すると野生型マウスと同程度の軽度な感染しか示さなかったにもかかわらず、高量を投与すると CGD マウスに匹敵する重篤な感染症状を示した。すなわち、MPO は多量の菌が感染した際の生体防御機構として、NADPH オキシダーゼと同等の重要性を有していることが明らかとなった。<BR>共同研究者:倉 文明<SUP>1</SUP>,渡辺治雄<SUP>1</SUP>,高野幸枝<SUP>2</SUP>,鈴木和男<SUP>2</SUP>,小山秀機<SUP>3</SUP><BR> (<SUP>1</SUP>国立感染研・細菌,<SUP>2</SUP>国立感染研・生物活性,<SUP>3</SUP>横浜市大・木原研)
著者
鈴木 孝仁 岩口 伸一
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.61, 2006

Van der Walt(1967)が記載したsexually active strainに相当する<I>Candida</I> <I>albicans</I> NUM51株では、接合型遺伝子<I>MTLa</I>および<I>MTL</I>&alpha;が異型接合状態で存在し、二倍体と四倍体の細胞が培養中に混在する。クローン化された優性なミコフェノリック酸耐性遺伝子と<I>MTL&alpha;2</I>とから<I>MTL&alpha;2:MPA<SUP>R</SUP></I>ブラスターを作成し、<I>MTL</I>a遺伝子破壊株B1を得た。B1株では、培養中の細胞は二倍体から構成されるようになり、核相の変換を伴うsexually activeの形質が失われた。また、ソルボース培地上で<I>MTL</I>&alpha;が座乗する5番染色体の一方を喪失させたTN1株でも同様にsexually activeの形質が失われたことから、核相を変換するsexually activeの形質には接合型遺伝子の異型接合性が必要であることが判明した。また、接合型遺伝子座における異型接合性が失われたこれらの変異株では、カザミノ酸―グルコース培地での菌糸形成能が失われることも判明した。これらの事実から、<I>C. albicans</I> 接合型遺伝子には形態形成における多面的な制御に関わっている可能性が示唆された。非会員共同研究者:竹内まり子, 中西典子(奈良女子大・理・生物科学)
著者
森下 宣明 二宮 淳也 清 佳浩 滝内 石夫
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.269-271, 2003-10-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
12
被引用文献数
13 15

我々は健常人の踵の角質を用いて皮膚糸状菌の侵入に関する要因として温度,湿度,外傷の影響についてこれまで検討してきた.皮膚糸状菌が角質に侵入するためには,至適発育温度である27℃よりも体表温度に近い35℃の方が早く,湿度は90%以上であることが必要である.しかし,外傷部では早期に侵入し,特に湿度90~100%では,0.5日で侵入が始まり,また,湿度80%でさえも1日で侵入が観察された.しかし日常生活で足底に皮膚糸状菌が付着しても足白癬を発症する可能性は低いと思われる.そこで角質に菌を侵入させた後,洗浄することで菌を除去することが可能か検討した.温度は35℃とし,家で靴下を履いている場合(湿度100%16時間,湿度90%8時間)と裸足の場合(湿度100%16時間,湿度80%8時間)に分けた.前者では,洗浄前では何れの菌株とも1日で角質内に侵入し,洗浄しても菌を除去することができなかった.後者でも,洗浄前では1日で角質内に侵入が認められたが,洗浄によりほとんどの菌が除去されていた.足白癬を予防するには,足の湿度を低く保つこと,連日の足底・趾間の洗浄が必要と考えられ,この何れか或いは両者を怠ることで足白癬の発症の可能性が高まるものと思われた.
著者
高橋 英雄 高橋 広志 高橋 容子 鎗田 響子 猪股 智夫 佐野 文子 西村 和子 亀井 克彦
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.152, 2005

2005 年 9 月 1 日より輸入動物の検疫体制が整う予定であるが,すでに輸入された動物が保菌している病原体は世代を超えて感染が広がっている.今回,国内の動物園で繁殖し飼育されている 5 ヶ月齢のカナダヤマアラシに <I>Arthroderma benhamiae</I> による脱毛が発症した.同居している母個体はカナダ,父個体はアメリカ合衆国から輸入されたもので,無症状であったが,同菌種を保菌していた.分離菌株は当該獣より 4 株,母獣より 5 株,父獣より 2 株分離され,いずれも形態,rRNA 遺伝子の ITS 領域の配列,<I>A. benhamiae</I> Americano-European race との交配成立から同種と同定した.11 株のうち 42℃ で生育可能であった株は母由来 1 株,ITS 領域の配列は母由来 2 種,他は 1 種で GenBank 登録配列とは一致せず,RAPD バンドパターンも複数種確認した.この家族内感染は国内未確認の遺伝子型をした <I>A. benhamiae</I> 複数株によるものであった.なお,同動物園ではふれあい動物園を併設していることから,飼育しているげっ歯目および食虫目動物 33 頭について皮毛を培養したが,本菌種は分離されなかった.<I>A. benhamiae</I> によるヒト感染は命に関わる疾患ではないが,この家族内保菌・感染はすでに輸入された個体が我が国に無い病原体を保持し,それを次世代に伝播している一例である.他の真菌,原虫,細菌,ウイルスによる感染症も同様な状況が推測されるため,人と動物の共通感染症の予防にはすでに輸入された動物にも細心の注意が必要である.
著者
時松 一成 辛島 礼子 山形 英司 山上 由理子 永井 寛之 門田 淳一 那須 勝
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.181-186, 2003
被引用文献数
1 10

<i>Trichosporon</i>属は易感染性宿主に発症する致死的な日和見感染症の起炎真菌の一つとして注目されている.深在性トリコスポロン症を惹起する菌種は最近の分離学的な再考の結果<i>T. asahii, T. mucoides</i>とされた.大分医科大学第二内科において過去20年間に13例の深在性トリコスポロン症を経験した.本症は抗癌化学療法を施行された血液悪性疾患患者において白血球の減少期に発症,重篤な臨床経過をとることが多い.我々は<i>T. asahii</i>と<i>T. mucoides</i>に特異性を認めるPCRプライマーを設定し,トリコスポロン症患者の保存血清を用いてPCR法を検討した結果,患者の血清中から<i>Trichosporon</i>のDNAが高率に,しかも血液培養陽性になる数日から数週前から検出されることを明らかにした.またマウスモデルにおける治療研究ではコロニー刺激因子(G-CSF)とフルコナゾールの併用療法が最も効果的であった.さらに新たなマウスモデルでの検討では,血液培養陰性にもかかわらず血清PCRが陽性を示す潜在的トリコスポロン血症ともいうべき状態が存在することが明らかになった.この時期における早期治療開始が深在性トリコスポロン症の感染制御には重要であると思われる.
著者
Arunaloke Chakrabarti Shiv Sekhar Chatterjee MR Shivaprakash
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.165-172, 2008 (Released:2008-08-09)
参考文献数
78
被引用文献数
38 62

In recent years fungi have been flourishing in immunocompromised patients of tertiary care centers. The data on the burden of opportunistic mycoses in India is not clear though the climate in this country is well suited for a wide variety of fungal infections. There are very few good diagnostic mycology laboratories and clinicians are still not aware of the emerging trends. Within the limited data available, an increased incidence of invasive candidiasis, aspergillosis, and zygomycosis are reported. The emergence of fungal rhinosinusitis, penicilliosis marneffei and zygomycosis due to Apophysomyces elegans is unique in the Indian scenario. Invasive candidiasis is the most common opportunistic mycosis. The global change in spectrum of Candida species is also observed in India; however, the higher prevalence of candidemia due to Candida tropicalis instead of C. glabrata or C. parapsilosis is interesting. Invasive aspergillosis is the second contender. Though due to difficulty in antemortem diagnosis the exact prevalence of this disease is not known, high prevalence is expected in Indian hospitals where construction activities continue in the hospital vicinity without a proper impervious barrier. The other opportunistic mycosis, invasive zygomycosis is an important concern as the world's highest number of cases of this disease is reported from India. The infection is commonly observed in patients with uncontrolled diabetes mellitus. Though antiretroviral therapy in AIDS patients has been introduced in most Indian hospitals, no decline in the incidence of cryptococcosis and penicilliosis has yet been observed. Thus there is need of good diagnostic mycology laboratories, rapid diagnosis, and refinement of antifungal strategies in India.
著者
笠井 達也
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.5-9, 2006 (Released:2007-07-27)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

国立仙台病院皮膚科に於ける1968年以降30年間の皮膚真菌症の集計をもとにして, 皮膚真菌症の推移を検討した. 本統計の詳細は既に報告してあるので, ここでは経時的な推移に主眼をおいて論じた. 皮膚真菌症全体としては1970年代前半に急増後はほぼ平均した値が維持されているが, 病型別に見ると, 足白癬と爪白癬は増加, 体部白癬と股部白癬は減少傾向が顕著である. 手白癬は比較的変動が少なく, 少しずつ減少, 頭部白癬も全体としては少数ながら, 期間の中期にやや増加した後, 後期には減少傾向にある. 年齢分布の推移を見ると, 足白癬, 爪白癬では分布のピークが5年毎に5歳ずつ高齢側に移動すると共に, 分布曲線の山が広くなだらかとなり, 若年層の罹患の減少傾向を見る. 股部白癬では当初の若年層の山が後半全く消失して, 高齢側の低く広い分布に変わっている. 体部白癬でも同様の傾向が見られる. 皮膚カンジダ症は乳児寄生菌性紅斑の急増に伴い1970年代前半に顕著に増加した後, 急減. カンジダ性間擦疹も同時に増加後は, 余り減らないままに推移している. カンジダ性爪囲爪炎と指間びらんは女性に圧倒的に多いが, 近年やや減少傾向にある. 非定型疹も減少している. 癜風は終始ほぼ変動がない. スポロトリコーシスは20例, 深在性の皮膚アスペルギルス症と黒色真菌症は各1例観察された.