著者
神田 奈緒子
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.137-142, 2004
被引用文献数
4

アトピー性皮膚炎患者の治療に抗真菌薬が有効であることが報告されている.アトピー性皮膚炎患者および健常者の末梢血T細胞の抗CD3,CD28抗体刺激によるTh1,Th2サイトカイン産生に対する抗真菌薬の作用について検討した.抗CD3,CD28抗体で刺激したT細胞のIL-4,IL-5の放出量はアトピー性皮膚炎患者では健常者と比較して高かった.アゾール系抗真菌薬ケトコナゾール,イトラコナゾール,ミコナゾール,非アゾール系抗真菌薬テルビナフィン,トルナフタートはアトピー性皮膚炎患者および健常者T細胞のIL-4,IL-5の放出を抑制したが,IFN-γ,IL-2の放出は抑制しなかった.アゾール系抗真菌薬は非アゾール系抗真菌薬より強力な抑制作用を示した.これらの抗真菌薬はJurkat T細胞においてIL-4, IL-5 promoter活性を抑制した.cAMPアナログは抗真菌薬のIL-4,IL-5産生抑制作用を解除した.抗CD3,CD28抗体刺激によりT細胞内のcAMP濃度は一過性に増加し,抗真菌薬はこのcAMPの増加を抑制した.アゾール系抗真菌薬はcAMPを産生するacenylate cyclaseを抑制し,非アゾール系抗真菌薬はcAMPを分解するcyclic nucleotide phosphodiesterase活性を増強した.抗真菌薬はcAMPシグナルの抑制を介してT細胞のIL-4,IL-5産生を抑制し,アトピー性皮膚炎患者のTh2偏位を是正すると考えられる.
著者
石橋 芳雄
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.147-149, 2009-07-30
被引用文献数
3

<I>Malassezia</I> は皮膚の常在真菌であるが,癜風,マラセチア毛胞炎,脂漏性皮膚炎などの皮膚疾患にも関連しており,さらに<I>M. globosa</I> と<I>M. restricta</I> はアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis;AD)の増悪因子の一つとして注目されている.<I>Malassezia</I> の皮膚定着とADとの関連性を解明するため,この2菌種について主要アレルゲンの同定を試みるとともに,表皮ケラチノサイトのサイトカイン応答に及ぼす影響について解析した.AD患者血清IgEと反応する<I>Malassezia</I> 抗原を検索した結果,<I>M. globosa</I> の42 kDa,PI 4.8のタンパクが主要アレルゲンとして検出された.さらにプロテオーム解析により,この抗原はheat-shock protein 70(hsp70)ファミリータンパクの分解産物であることが明らかになった.表皮ケラチノサイトのサイトカイン応答に及ぼす影響については,ヒトケラチノサイトに<I>M. globosa</I> を暴露した場合,IL-5,IL-10,IL-13などのTh2型サイトカインの分泌が認められた.また,<I>M. restricta</I> 刺激ではTh2型サイトカインであるIL-4のみの分泌が認められた.これらの結果は,<I>M. globosa</I> と<I>M. restricta</I> は単にアレルゲンとして作用するだけでなく,ヒトケラチノサイトに対してそれぞれ異なるTh2型サイトカイン応答を誘導することを示しており,それぞれのサイトカインが相乗的に作用することによりTh2免疫応答の誘導を介したアトピー性皮膚炎の増悪に関与している可能性が示唆された.
著者
藤広 満智子
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.46, 2006

演者は流行が確認された2002年より、東海地方の皮膚科医に協力を呼びかけ、疑わしい患者の病巣の鱗屑や毛を貼り付けたセロテープを郵送してもらい、患者の早期発見に努めてきた。その結果58例の検体が集まり、うち41例から <I>T.tonsurans</I> が分離された。そのうちわけは、男性36例、女性5例、高校生30例、中学生以下6例、大学生以上5例であった。競技別ではレスリング21例、柔道19例、柔道部員の母親1例と、レスリングが多いのが東海地方の特徴と思われた。またそのプロトコールにより、1)部内に患者がなく対外試合で感染したケースでは1週間後に発症する。2)再発の多いケースは高校3年間に4回発症を繰り返した。3)頭部白癬は丸刈りにして初めて気づく。4)体部から採取したセロテープに毛内に寄生した胞子を認めた。5)1ヶ月テルビナフィンを内服した後でも培養は陽性になる。6)柔道場の畳に長時間正座した後の下腿の病巣から分離されたのは <I>T.rubrum</I> であった。7)セロテープに貼り付けた毛は1年7か月後に培養できる。という情報を得ることができた。
著者
楠原 正洋
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.213-217, 2009 (Released:2009-11-27)
参考文献数
11
被引用文献数
2 3

スポロトリコーシスは健常人におこる慢性の感染性肉芽腫であり,診断には病理組織検査と真菌培養による菌の同定が必要である.補助的にはスポロトリキン反応も有用であるが,疑陰性もあるので注意を必要とする.治療薬として第一にはヨウ化カリウム薬の内服が安価かつ効果的であるが,消化器系の副作用や,施設によっては入手困難なこともあり,次いでイトラコナゾール,塩酸テルビナフィンが選択肢となる.その他局所温熱療法も有効である.黒色真菌による深在性皮膚感染症は,菌の寄生形態によりクロモブラストミコーシスとフェオヒフォミコーシスに大別するのが一般的になりつつあるが,本邦では前者をクロモミコーシスと称する場合も多い.診療の際,クロモブラストミコーシスは鱗屑内の褐色胞子型菌要素を,フェオヒフォミコーシスは膿汁内の菌糸型を確認できるので,日々の診療での直接顕微鏡検査が重要である.菌の同定には形態学的手法と分子生物学的手法の両方が望ましい.治療では,脳転移などの重症化に注意し,確実な治療とその後の長期的な観察が重要である.症例ごとに手術療法の適応や菌種別の抗真菌薬の選択,温熱療法などとの組み合わせが必要となる.
著者
呂 耀卿
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.179-185, 1990
被引用文献数
2

発達した医療体制の下で,人々の寿命は延び,糖尿病・自己免疫病なども上手に管理されて,高年者を含む免疫力低下あるいは不全の人口が殖えつつある.従って真菌症を含めての感染症は減らず,稀な菌種による感染さえ見るようになった.この趨勢は台湾にも見られ,ここ三年間の数多い症例の中から,皮膚病変を伴う珍らしいと思われる9例を紹介する.全例とも皮膚科医の報告したものである.Penicilliosis marneffei; cutaneous protothecosis; phaeohyphomycosis: Exophiala jeanselmei 2例,Alternaria sp.1例;congenital cutaneous candidiasis; cutaneous fusariosis; cutaneous aspergillosis; pemphigus foliaceus with cryptococcemiaであり,それぞれの病歴・現症・臨床検査的及び病理組織学的所見・菌学的検査結果・治療及び経過を説明し,特にそれぞれの推察され得る免疫学的背景を可及的に探索した.菌学的に興味のあるのはPenicilliosisとProtothecosisで,殊にdimorphismのある<i>Penicillium marneffei</i>は報告例が30例足らずで,主に東南亜からである.<br>発病の基礎的原因としては糖尿病・紅斑性狼瘡・天疱瘡あるいはステロイドの長期使用が主であるが,単に高年あるいは幼弱で免疫力が弱いと考えられるのもある.<br>治療はそれぞれ異なった薬や方法を用いているが,面白いことに全例成功しており,これが諸家の参考になれば幸いである.
著者
五ノ井 透 ハナフィ アメド メーヤー ウィランド 三上 襄
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.78, 2008

マイクロサテライトは、ゲノム上に存在する数塩基単位の繰り返し配列であり、集団遺伝学やDNA鑑定において遺伝子マーカーとして用いられている。世界の各国で採取された100株あまりの<I>Cryptococcus neoformans</I> var. <I>grubii</I> (serotype A) のマイクロサテライト多型を解析し、地域による菌の分布の多様性について明らかにした。すでに公表されているH99株ゲノム配列を基に、15の典型的なマイクロサテライト部位をランダムに選択して塩基配列を解読した結果、3つの部位で2~3塩基の繰り返し配列が7~13回と異なる回数繰り返される、マイクロサテライト多型が観察された。残りの12ヶ所には多型は観察されなかった。見つけたゲノム上の3ヶ所の多型を用いて世界各国で採取された菌株をタイプ分けしたところ、日本-中国-台湾に共通する型、タイ国に特有の型、ヨーロッパ-エジプトに共通する型などを識別することができた。また、ベネズエラ-コスタリカ-ブラジルなどの中南米の各国には、多くの型が混在していることが明らかとなった。 今回多型が存在することが明らかとなった3つの部位を含め、<I>Cryptococcus neoformans</I> のマイクロサテライト多型の解析は、菌の伝播経路、感染経路の解析や地域多様性の解析、さらには、菌種の解析にも有用であると結論した。
著者
安部 茂
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.227-231, 2004
被引用文献数
7

老人における口腔カンジダ症,および吸入ステロイドの使用に伴う咽頭・食道カンジダ症は,患者が非常に多い疾患であり,しかも一部の患者では難治性となる.これら粘膜カンジダ症は,主として常在菌である<i>Candida albicans</i>が,宿主の低下した防御能をくぐり抜け,感染が成立する感染症である.鵞口瘡がこれら口腔咽頭カンジダ症の一般的な状態であり,舌,咽頭などに偽膜性の白苔を生じる.私達は新たにマウス口腔カンジダ症および咽頭カンジダ症のモデルを作成した.これら動物モデルは,口腔カンジダ症では,クロルプロマジンをマウスに投予することで,<i>C.albicans</i>の口腔内への菌の定着が容易におこるのみでなく,舌白苔などの症状を示し,その数値化が可能となるものである.すでにこの口腔カンジダ症モデルで,ウシラクトフェリン,クローブ,植物精油の経口投与により防御効果が得られており,その免疫学的機序も一部明らかにされてきている.さらに,アゾール系抗真菌剤に耐性を示す<i>Candida albicans</i>による本感染症に対しても植物精油が有効なこと,また,ヒト唾液が感染防御に働くことも明らかにされつつある.
著者
比留間 政太郎
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.36, 2005

足白癬が難治である理由として、治療開始 1 から 2 週間後に、かゆみなどの軽減に伴い治療を中断し、再発を繰り返すためといえる。足白癬の治療効果促進のためには、患者コンプライアンスを向上させ、治療期間を短縮しても十分な効果を示す薬剤の開発が求められる。ルリコナゾールは、新規イミダゾール系抗真菌剤で、広域な抗真菌スペクトルと強力な抗真菌活性をもち、皮膚角層中で優れた薬物貯留性を示す。本薬の臨床試験は、外用抗真菌剤臨床評価法(日本医真菌学会)に基ずき、従来の薬剤塗布期間(4 週間)を半分に短縮して試験を実施した。第 III 相臨床試験では、ルリコナゾールクリーム 1% は 2 週間の薬剤塗布で対照薬(1% ビホナゾールクリーム)の 4 週間塗布に対して、真菌学的効果(76.1%)及び皮膚症状改善度(91.5%)の非劣性が検証され、塗布開始 2 週後の真菌培養成績では、対照薬に対して有意に高い消失率を示した。また、一般臨床試験、比較試験の短期間塗布試験でも、本クリームは、白癬及び皮膚カンジダ症・癜風に対して有効であり、液剤もクリームとの同等の臨床効果が得られた。副作用発現率は 2.5% であり、主なものは軽微な皮膚炎であった。ルリコナゾールクリーム 1%・液 1% は治療期間を短縮させ、患者コンプライアンスの向上が期待できる新しい外用抗真菌薬である。
著者
田嶋 磨美 天谷 美里 杉田 隆 西川 朱實 坪井 良治
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.193-196, 2005
被引用文献数
7

<i>Malassezia</i>は脂質要求性の皮膚常在菌で,癜風,脂漏性皮膚炎やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の発症に関与していることが指摘されている.今回,我々はアカツキ病の3例を経験したので,その鱗屑痂皮に含まれる<i>Malassezia</i>の菌相を解析し,健常人,アトピー性皮膚炎患者と比較検討した.症例1は,両上下眼瞼部,症例2は左鼠径ヘルニア手術瘢痕部,症例3は頭頂部のアカツキ病であった.それぞれ,病変部鱗屑からNested PCRを用いた非培養法にて<i>Malassezia</i> DNAを検出した.症例1及び3はともに,<i>M.obtusa</i>と<i>M.slooffiae</i>が検出され,症例2は<i>M.slooffiae</i>のみが検出された.健常人皮膚からは,<i>M.globosa</i>,<i>M.restricta</i>および<i>M.sympodialis</i>が高頻度に検出されのに対し,今回アカツキ病で分離された2菌種は比較的稀で,病態との関連性が示唆された.
著者
藤広 満智子
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.191-195, 2008-07-30
参考文献数
17
被引用文献数
3 3

<I>Trichophyton tonsurans</I> 感染症は,東海地方では2000年秋に岐阜県で第1例が確認され,急速に広がっている.このタイプの白癬はKOH鏡検だけでなく,真菌培養がその診断に必要である.著者はセロファン粘着テープを真菌検査に用いることを推奨し,この5年間に東海地方の皮膚科医からテープ検体を郵送してもらい,この感染症を診断している.75例すべてKOH法陽性で,うち61例から<I>T. tonsurans</I> が得られた.その内訳は,男54例,女7例,競技別では柔道32例(52%),レスリング24例(39%),相撲2例,家族・友人3例であった.年齢別では高校生46例(75%),大学生・成人9例(15%),中学生以下6例(10%),ほとんどの症例で顔面,頚部,頭部に病巣を認め,手の爪白癬例の高校レスリング部員例もあった.体部白癬からの検体の数枚に,生毛内に寄生する菌糸が認められた.今回の流行では報告されている患者は氷山の一角と考えられる.私たちは岐阜県柔道協会の医科学委員と協力し,啓蒙に努め,大会前のブラシ検査などの要望にもこたえられる体制を作りつつある.今後このシステムを継続し,<I>T. tonsurans</I> の水際での蔓延防止に役立てたいと考えている.
著者
明見 能成
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.225-228, 2009 (Released:2009-11-27)
参考文献数
7
被引用文献数
3 3

近年non-albicans Candida 属のカンジダ血症に占める割合が増加している.当院においても1996年から2007年の間に経験したカンジダ血症58例のうち36例はnon-albicans Candida 属による症例であった.non-albicans カンジダ血症のリスクファクターとして抗真菌剤投与の既往を検討した結果,non-albicans 症例では36例全例とも,C. albicans 真菌血症では22例中18例と,non-albicans カンジダ血症でフルコナゾール(FLCZ)使用例が多い傾向が認められた.一般にnon-albicans Candida 属菌種は,カンジダ症に第一選択抗真菌剤とされているFLCZに対する感受性から,FLCZ感受性菌であるC. tropicalis,C. parapsilosis,C. guilliermondii と,FLCZに低感受性を示すC. glabrata,C. krusei に分けられる.今回,われわれが検討した36例のnon-albicans Candida 属株の抗真菌剤感受性試験でも同様の傾向が認められた.しかしながら,C. guilliermondii はFLCZ感受性菌であるがMIC値が高い傾向を示した.また,non-albicans Candida 属に有効とされるミカファンギンに対して,C. parapsilosis とC. guilliermondii はMIC値が高い傾向を示した.
著者
藤広 満智子
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.25-32, 1994-01-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
20
被引用文献数
2 3

病院環境から白癬菌の分離を試み,その分離菌について検討した.検体の採取にはセロファン粘着テープを用い,Actidione,chloramphenicol添加ペプトンぶどう糖寒天平板培地上で培養を行った.その結果,外来患者用スリッパ,水治療法室更衣室マット,浴室の床,足拭きマットなどからTrichophyton mentagrophytes 98集落(89.9%),Trichophyton rubrum 6集落(5.5%),Microsporum canis 5集落(4.6%),Trichophyton sp. 1集落(0.9%)の計110集落の白癬菌が分離された.分離された集落数を平板数で割った数値で検討したところ,水治療法室更衣室マットと病棟浴室の床,マットが白癬菌に強く汚染されていた.また病院内での白癬菌感染の可能性を,1986年1月から1990年12月までの5年間に,入院リハビリ中に発症したと考えられた足白癬患者11人を対象に検討した.リハビリ開始から足白癬発症までの期間は7日から120日,平均45.9日であった.基礎疾患は脳血管障害3人,整形外科疾患8人であり,片麻痺の患者3人は麻痺側に病巣が認められた.菌種別患者数はT.mentagrophytes 7人,T.rubrum 1人,T.mentagrophytesとT.rubrumの連続感染2人,菌種不明1人であった.したがって公共の環境から高頻度に分類されるT.mentagrophytesは,感染源となっている可能性が高いと考えられた.
著者
佐野 文子 伊藤 桂子 宮治 誠 香本 頴利 小川 浩也 亀井 克彦
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 第49回 日本医真菌学会総会 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
pp.124, 2005 (Released:2005-09-07)

抗真菌活性をもつ漢方生薬としてオウバク末,キキョウ根末,センキュウ末,クレンピ末,オウゴン末を含む 17 種の漢方生薬配合薬(新中森獣医散®,中森製薬株式会社,宮崎県)は元来動物の消化器疾患の治療を目的とする薬剤であったが,粉末を当量の水とまぜてペースト状にし,Trichophyton verrucosum に感染しているウシの皮膚に連日 4 日間塗布したところ著効し,治療開始後 15 日以内に鱗屑の脱落を観察,1 ヶ月後には発毛し,治癒したという報告がある.そこで今回,人獣共通真菌症原因菌に対するこの配合薬の in vitro での抗真菌作用を調べた.配合薬のエキスは濃い褐色のため液体培地による希釈法が応用できないため,平板培地における集落の直径を測定する方法で検討した.配合薬 0.1,0.3,1.0,3.0,10.0%(V/W)の割合で添加した 1/10 サブロー平板培地に皮膚糸状菌 6 菌種 9 株,日和見真菌症原因菌 7 菌種 9 株を 1 点平板中央に接種して,25℃ もしくは 35℃ で 2 ないし 6 週間培養し,集落の直径を薬剤無添加培地と比較した結果,T. verrucosum, T. mentagrophytes,T. rubrum, T. tonsurans, Microsporum canis, Histoplasma capsulatum, Cryptococcus neoformans, Malassezia pachydermatis には 0.3-1.0% 濃度で発育抑制もしくは発育阻止効果を認めた.一方,Candida albicans, Alternaria alternata, Schizophillum commune, T, mentagrophytes var. erinacei および M. gypseum では 3-10% 薬剤添加培地での発育抑制効果を認めたが,Aspergillus fumigatus には効果を示さなかった.本配合薬は T. verrucosum に対する発育抑制ならびに阻止効果は大であり,外用薬としてウシの皮膚糸状菌症に有効であることが in vitro での活性からも証明できた.また多くの人獣共通真菌症原因菌種にも有効であった.
著者
木内 哲也
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.289-292, 2006-10-31

我が国でも実質臓器移植における感染症が議論される機会が増えているが, 腎臓移植以外の領域での臨床経験期間はまだ短く, 生体臓器移植の経験も肝臓を除くと極めて限られている. 臓器移植患者における深在性真菌症のリスクは, 移植される臓器の種類や免疫抑制の強さばかりでなく, 移植時の臓器不全に伴う免疫不全状態や感染歴に大きく依存しており, 手術因子や術後の侵襲因子と併せて総合的に, かつ経時的にリスクを評価する必要がある. こうしたリスク評価の上に立った予防処置に加え, さらに臨床症状・画像情報・監視培養・血清学的指標を定量化して先制治療が開始されることが望ましい. 臓器毒性が低く治療効果の高い新しい抗真菌薬の出現に伴って治療の概念も変化していく可能性がある一方で, 安易な印象的先制治療開始の傾向もみられている. 欧米で得られた知見をそのまま我が国の臓器移植医療に適用できるかどうかはまだ疑問であり, 我が国における診断・疫学・危険因子, さらに抗真菌薬の予防的・先制治療的使用の基準を求めるためには, 広範な情報の集積が必要である.
著者
光武 耕太郎
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.167-169, 2006-07-31
被引用文献数
1

臓器移植領域における深在性真菌症は, 発生頻度は低くても治療は容易でなく, とくにアスペルギルス症は依然として死亡率が高い. 移植領域では抗真菌薬の予防投与・先制攻撃的治療・経験的治療が重要視されるが, その基準は必ずしも明確ではない. 新規抗真菌薬の登場もふまえて, 今後, 薬剤の位置づけと選択方法が示されていくであろう.

1 0 0 0 OA 脂漏性皮膚炎

著者
清 佳浩 中林 淳浩
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.73-77, 1999-04-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
25

脂漏性皮膚炎の発症には,皮脂の異常,内分泌異常,ビタミン代謝異常,癜風菌などの感染,環境因子,ストレスなど様々な因子が関与しているとされている.近年,これら因子のうち癜風菌が注目を集めている,癜風菌は,現在7菌種に分類されているが,各菌種の役割,病原性はまだ確定していない.今回,脂漏性皮膚炎の診断,鑑別診断,検査,直接検鏡,風菌の培養結果,治療について述べた.Parker-KOH染色を用いた直接検鏡で,脂漏性皮膚炎病巣中に認められる胞子には,球型と卵型があった.健常人の総皮脂量に関しては,男性で皮脂の高値例が多く,胞子数も男性に有意に多く認められた.胞子数と皮脂の間には,相関関係は見られなかった.脂漏性皮膚炎の顔面の病巣からMalassezia globosa, Malassezia furfurを多く検出した.抗真菌剤は菌要素陽性例の約80%で有効以上.抗真菌剤使用例のうち著効例ではすべて胞子数が減少した.抗真菌剤による治療は,ステロイドに比べて再発率が低かった.今後,脂漏性皮膚炎に対し,ステロイドに比べて局所副作用が少なく,再発しにくい抗真菌剤がより広く用いられるようになることを期待する.
著者
佐藤 一朗 槇村 浩一 蓮見 弥生 西山 彌生 内田 勝久 山口 英世
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 第52回 日本医真菌学会総会・学術集会 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
pp.73, 2008 (Released:2009-03-06)

【目的】真菌症は免疫力の低下した患者にとって重篤な症状を起こす病害である。そのため、免疫力の低下した患者における微生物叢とその薬剤耐性を定期的に把握する必要がある。我々は外来患者の外耳道から新規Candida属酵母を得たので報告する。【材料および方法】国内病院での外来患者の外耳道から採取した耳漏スメアを分離源とした。純粋分離菌株の26S rDNA D1/D2領域(26S)および ITS1+5.8S rDNA+ITS2領域(ITS)を用いた分子系統分類を行った。そのほかの試験項目はThe Yeasts 4th edに順じた。【結果および考察】純粋分離菌JCM15448株は26Sの相同性がCandida haemulonii CBS5149T とは85.7%、C. pseudohaemulonii CBS10099Tとは83.0%であった。ITSはそれぞれ84.9、81.4%であり、系統樹ではCandida属に分類されたが同一な種は認められなかった。本菌株は42℃およびビタミンフリー培地で生育陽性であり、Candida属としては特徴的な培養性質を示した。その他の培養性質から本菌株はグループ VI(イノシトール・硝酸カリウム・エリスリトール陰性、40℃陽性)に分類された。本グループはC. albicansをはじめ病原性が報告されている種が複数属しているが、本菌株の病原性は不明である。ボリコナゾール・イトラコナゾール・フルコナゾール・フルシトシンに対する感受性は既知の種と差が認められなかった。これらの結果から本菌株をCandida属の新種と判断した。