著者
吉田 茂利 大畑 映利子 増田 健幸 岡田 早苗 宮崎 洋二 山下 哲郎 保井 久子
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.214-220, 2010-11-10 (Released:2014-09-12)
参考文献数
16
被引用文献数
5

徳島県の伝統的な乳酸発酵茶である阿波晩茶から分離された熱処理Lactobacillus plantarum FG4-4 株(FG4-4)の抗アレルギー作用及びそのメカニズム解析を行った。アトピー性皮膚炎モデルマウスであるNC/Nga マウスを0.05% FG4-4 添加餌群(0.05% 群)、0.5%FG4-4 添加餌群(0.5% 群)と、FG4-4 無添加餌群(cont 群)の3 群に分けた。餌投与開始15 日後に塩化ピクリル(PiCl)を用いて初回免疫を、その4 日後より、週1 回の塗布により連続免疫を行った。経時的に皮膚症状のスコアと耳介部の肥厚及び血中総IgE 量を測定した。その結果、血清中総IgE 量、皮膚スコア及び耳介部の肥厚は0.05% 群及び0.5% 群で有意に抑制された。また、89 日目に解剖し、脾臓及びパイエル板細胞培養を行い、その上清中のサイトカイン及びIgE 抗体量をELISA 法にて測定した。その結果、FG4-4 投与群(0.05% 群及び0.5% 群)の脾臓及びパイエル板細胞においてIgE 産生能は有意に抑制され、Th1 型サイトカイン(IL-12 及びIFN-γ)産生能は有意に増加した。さらにパイエル板細胞においてTh2 型サイトカイン(IL-4)産生能の有意な減少が認められた。また、FG4-4 投与両群の脾臓及びパイエル板細胞においてIL-10 産生能の有意な増加、IL-17 産生能の有意な抑制が確認された。これらの結果から、FG4-4 の経口摂取はTh1/Th2 バランスを改善し、IgE 産生を抑制することによって抗アレルギー作用を有することが示唆された。さらに、FG4-4は制御性T 細胞の亢進及びTh17 細胞の抑制を誘導し、アトピー性皮膚炎を軽減する事も示唆された。
著者
大田 達郎 寺田 朋子 清水 謙多郎 門田 幸二
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.167-175, 2017-11-10 (Released:2018-12-15)
参考文献数
25

次世代シーケンサー(以下、NGS)データの解析手段は多様である。本連載ではこれまでキーボード入力をベースとしたコマンドライン環境での解析手段を中心に解説してきたが、マウス操作をベースとした GUI 環境での NGS 解析手段の需要も根強い。第 11 回は、GUI 環境でのデータ解析手段として特に海外で広く普及している Galaxy を解説する。Galaxy はウェブブラウザを起動して各種解析を行うため、位置づけとしてはウェブツールである。しかしながら、ワークフローやヒストリー管理といった独特の用語および GUI 画面(見栄え)ゆえ、慣れるまでが大変であることもまた事実である。本稿では、Galaxy の概要、公共サーバの基本的な利用法について述べる。ウェブサイト(R で)塩基配列解析(URL: http://www.iu.a.u-tokyo.ac.jp/~kadota/r_seq.html)中に本連載をまとめた項目(URL: http://www.iu.a.u-tokyo.ac.jp/~kadota/r_seq.html#about_book_JSLAB)が存在する。ウェブ資料(以下、W)や関連ウェブサイトなどを効率的に活用してほしい。
著者
鈴木 健一朗
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.49-59, 2000-12-01 (Released:2012-09-24)
参考文献数
46

生物を研究材料に使うとき,その分類学的な位置は,結果の生物間の比較のためだけでなく,研究成果の評価や,権利の範囲にも影響を与える重要な要素である。生物種を常に固定された学名で呼ぶことができたら,利用者にとっては便利であろう。しかし,分類学は生物の真の類縁関係や進化の過程を追求し,新しい体系を構築してする科学である。したがって同じ生物がひとつの論文を境にして名称を一変してしまうこともあり,困惑を生むことも少なくない。分類学には真実追究の科学であると同時にもう一つの役割がある。多くの分類学者がそれぞれ勝手な学名や体系を使っていたら,それは学問に何も貢献しないばかりか,分類学者の単なる道楽として見向きもされないであろう。そこで,命名規約という共通のルールに則って分類学の成果が発表され,その分類体系は生物学者に広く理解を得るものでなければならない。本解説では,乳酸菌の分類に例を取って,国際細菌命名規約の仕組みと現在の問題点を紹介する。
著者
是則 有希 Jiahui Jiang 中山 二郎
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.24-34, 2012-03-15 (Released:2015-01-06)
参考文献数
15
被引用文献数
2

16S rRNA遺伝子配列解析に基づくピロシークェンス法は、腸内細菌叢の群集構造をシークェンスレベルでプロファイル化できる点で非常に有用である。この系では、細菌の16S rRNA遺伝子を網羅的かつ偏りなく増幅させ、かつその断片から有効的に系統分類情報が得られるユニバーサルプライマーと、得られたバッチシークェンスデータを菌叢データに忠実に変換するアルゴリズムの設計が重要である。本稿では、その現状と問題点を中心に議論する。
著者
宮下 美香* 中川 恭好 鈴木 健一朗
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.77-85, 2012-07-01 (Released:2015-01-06)
参考文献数
32
被引用文献数
2

年間を通じて高い気温と湿度が保たれるタイ王国では食材が豊富なこともあり、様々な発酵食品が存在しており、タイ料理の独特の風味や旨味に欠かせないものとなっている。これら発酵食品には乳酸菌が生息することが知られていて、風味や旨味の付与、また高温多湿における食品の保存に重要な役割を担っている。本稿では、様々なタイの発酵食品とそこに生息する乳酸菌の多様性について、著者のこれまでの調査結果を交えて概説する。
著者
山田 拓司
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.87-92, 2016-06-26 (Released:2017-07-15)
参考文献数
18

ヒト腸内環境研究は、腸内細菌由来の遺伝子配列を用いたメタゲノム解析や、低分子化合物を網羅するメタボローム解析を基盤としたビッグデータ解析の時代となっている。生み出される大量の遺伝子配列データに対して、それらがどのような機能を持つかを類推すること、すなわち、機能アノテーションには KEGG や COG といったリファレンスとなるデータベースを用いる。近年のライフサイエンスにおいてこれらのリファレンスデータベースは欠かすことのできない要素であり、格納されているデータの正確性と、その継続的な更新および新規データ蓄積が、新たに生産される配列データに価値を与える。本総説においては、メタゲノム配列解析、そして遺伝子機能アノテーションのためのデータベース、代謝機能データベースを紹介する。腸内細菌メタゲノムデータは数多くの新規遺伝子を含むため、KEGG や COG などの既存パスウェイデータベース、オーソログデータベースでは対応することができない場合が多い。この問題の解決を目指し、メタゲノム配列由来の新規の配列データに対応するために筆者らのグループが開発したデータベースも併せて紹介する。
著者
片山 高嶺
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.17-24, 2016-03-15 (Released:2017-04-26)
参考文献数
50

ビフィズス菌はヒト腸内の常在菌であり、プロバイオティクスとして広く認知されている。母乳栄養児の腸管ではビフィズス菌優勢な腸内細菌叢が形成されることが古くから知られており、それには人乳に含まれるオリゴ糖成分が関与していると言われてきたが、その詳細を分子レベルで推考するほどの情報は全くなかった。我々の研究グループは 10 年ほど前に、ビフィズス菌がヒト由来の糖質に作用する特異的な酵素を有していることを発見し、そのことがきっかけでヒトとビフィズス菌の共生を考えるようになった。本総説では、その歴史的背景を踏まえながら、ビフィズス菌が有する母乳オリゴ糖分解酵素について紹介する。母乳オリゴ糖は、ヒトとビフィズス菌という分類学上の「界」を超えた生物同士を結びつけた共生因子といえる。
著者
森永 康 平山 悟 古川 壮一
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.101-108, 2015-06-29 (Released:2016-07-29)
参考文献数
30

伝統発酵食品福山酢は、その発酵過程に、麹菌、酵母、乳酸菌、酢酸菌が関与し、糖化、嫌気的アルコール発酵と好気的酢酸発酵が自然に進行する。それは東アジアで生まれた最も原始的な発酵様式であり、自然環境で起こっている炭水化物代謝を模したとも言えるものである。我々は、福山酢の製造工程から分離した乳酸菌と酵母及び酢酸菌の異種間相互作用を研究することを目的として、共培養系でのバイオフィルム形成について検討してきた。その結果、乳酸菌と酵母が共存すると細胞同士の接着により両細胞が組み込まれた特異な複合バイオフィルムが培養容器底部の固液界面に形成されることや、乳酸菌と酢酸菌が共存すると培養液の気液界面に形成される酢酸菌のバイオフィルム(ペリクル)が顕著に増加することを見出した。さらに詳細に相互作用を調べてみると、これら3種の発酵微生物の共存系は、それぞれの菌が機能分担することで、栄養欠乏や酸化ストレス、外敵侵入などのさまざまな生存リスクに対応可能なきわめて巧妙な共生系であることが分かってきた。本稿では、こうした伝統発酵に見出した発酵微生物の共生系の特徴について、我々の成果を中心に紹介し、そこからうかがい知ることができる発酵微生物の進化についても論じてみたい。
著者
岸 和正 小谷 吉史 山平 聡子 戸羽 正道 岡松 洋 三原 修一 鶴田 容子 竹原 美沙 赤星 亜朱香 南 久則
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.132-137, 2006 (Released:2011-06-14)
参考文献数
19
被引用文献数
6 10

本研究では植物発酵食品由来の乳酸菌Lactobacillus plantarum ONRIC b0240株(以下L.p.b0240)の21日間継続摂取が健康成人女性の唾液及び糞便総IgA量に及ぼす影響を検討した。被験者は水摂取群(対照)、L.p.b0240(2x109 CFU)摂取群、L.p.b0240(2x1010 CFU)摂取群に割り付けた。唾液総IgA増加量は、2x109 CFU摂取群、2x10l0 CFU摂取群ともに上昇し、21日間摂取では水摂取群に比べ統計学的に有意に高値を示した。糞便総IgA増加量は、個々のばらつきが大きかったために有意差は認められなかったが、2x109 CFU摂取群、2x1010 CFU摂取群はいずれも21日間摂取により高値を示した。なお、被験物摂取による副作用は認められなかった。以上のことから、L.p.b0240の継続摂取は粘膜免疫を高め、生体防御に寄与することが示唆された。
著者
森地 敏樹
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.71-75, 1998-03-31 (Released:2012-09-24)
被引用文献数
1
著者
小野 浩 中山 二郎
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.3-12, 2014-03-17 (Released:2015-07-02)
参考文献数
30

発酵食品中には乳酸菌をはじめとする様々な細菌類が存在していることが知られている。近年、次世代シーケンサーを用いた菌叢解析法が発酵食品の細菌叢解析にも利用されるようになり、これまで見ることができなかったフローラの深部に焦点を当てることが可能となってきた。本稿では著者らの糠床の菌叢解析の研究を中心にピロタグ法を用いた発酵食品の細菌叢解析の有効性について述べる。
著者
横田 篤
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.87-94, 2010 (Released:2012-04-01)
参考文献数
39

胆汁酸ストレスはプロバイオティクスとして投与された乳酸菌やビフィズス菌が体験する最も強力な消化管内ストレスであると言っても過言ではない。近年の機能ゲノム学的な解析により、これらの細菌の胆汁酸ストレス応答の全体像は、一段と明確になりつつある。本稿ではこれらの知見を概観し、それらの中でも特に重要となる細胞膜に対する胆汁酸の作用と細菌側の応答を中心に解説した。