著者
増田 健幸 中田 雅也 岡田 早苗 保井 久子
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 = Journal of Japan Society for Lactic Acid Bacteria (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.42-49, 2010-03-15
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

すんき漬から分離された乳酸菌の中にIgE産生を抑制する菌株が多数存在した。その中の1菌株(<i>Pediococcus pentosaceus</i> Sn26株(Sn26))は、経口投与により血中の卵白アルブミン(OVA)特異的IgEを減少させ、 OVAで誘導されるアレルギー性下痢症を有意に抑制した。このメカニズムを解析するために誘導組織である腸管パイエル板細胞及び実効組織である腸管粘膜固有層リンパ細胞の免疫応答性を調べた。その結果、Sn26の経口投与は、パイエル板細胞の1型ヘルパーT細胞(Th1)型サイトカイン産生能を上昇させ、Th1/ 2型ヘルパーT細胞(Th2)バランスを改善させ、総IgE産生能を減少させた。さらに、腸管粘膜固有層リンパ細胞のTh2型サイトカイン産生能を減少させ、OVA特異的IgE産生能を低下させた。以上のことから、経口投与されたSn26は、パイエル板に取り込まれた後、Th1/Th2バランスの改善を介して腸管粘膜でのIgE産生を抑制し、下痢発症を抑制することが推測された。
著者
中根 大介 西坂 崇之
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.10-16, 2020

<p>生命にとって動きは本質的である。多くのバクテリアは、べん毛という繊維構造を使って水中を自由自在に泳ぐことができる。一方、このような優雅な運動様式を持たずに動き回るものもたくさん存在する。この不思議な生体運動は、多種多様なバクテリアにおいて観察されており、多くの研究者を魅了してきた。しかし、べん毛を使わずに、一体どのようにバクテリアが動くのか、そして推進力を発生する装置は何なのか、こういった点について不明のままであった。ところが、この 10-20 年の間に顕微鏡の可視化技術が発達することで、バクテリア個体やそこに含まれる運動装置の動きや構造を詳細に観察できるようになり、これらの運動メカニズムの理解は飛躍的に進展した。本総説では、「スパイダーマン」のように「糸」の伸縮による動きまわる仕組み、「キャタピラ」のように膜表面の流れを使って這う仕組み、「ドリル戦車」のように高粘性環境を潜りながら動く仕組みなど、バクテリアという小さな生命体が独自に発達させた生体運動様式について解説し、我々が得た最新の知見について紹介する。</p>
著者
畠山 誉史 田中 尚人 佐藤 英一 内村 泰 岡田 早苗
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.49-54, 2011
被引用文献数
1

植物質発酵食品から分離された乳酸菌(<i>Lactobacillus plantarum</i> SNJ81, <i>Lb. fermentum</i> SNA41, <i>Lb. </i><i>parabuchneri</i> SNC91, <i>Lb. delbrueckii</i> SNK64, and <i>Leuconostoc mesenteroides</i> subsp.<i> mesenteroides </i>10D-2)の食品由来の変異原物質における吸着能を検証した。食品由来の変異原物質は肉や魚のこげなどから検出されるヘテロサイクリックアミン(2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo [4,5-b] pyridine (PhIP), 2-amino-3,8-dimethylimidazo [4,5-f] quinoxaline (MeIQx), 2-amino-9H-pyrydo [2,3-b] indole (AαC),3-amino-1,4-dimethyl-5H-pyrido [4,3-b] indole (Trp-P-1) and 2-amino-3,4-dimethylimidazo [4,5-f] quinoline(MeIQ))を用いた。乳酸菌のヘテロサイクリックアミン吸着能は様々であった。使用したヘテロサイクリックアミンの中で、Trp-P-1 が最も高く吸着された。そして死菌体に同等の吸着能を有しており、さらには人工消化液存在下でも吸着能を有していた。乳酸菌の変異原物質吸着に関する研究のほとんどは乳由来の乳酸菌を用いた報告である。本研究では、新規分離原として植物質発酵食品であるすんきに着目し、これまで検証されて来なかった植物質由来の乳酸菌を用いて高い変異原物質吸着能を有することが明らかとなった。
著者
木元 広実
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.69-78, 2018-07-02 (Released:2020-01-11)
参考文献数
79

筆者と共同研究者らは Lactococcus lactis subsp. cremoris H61 について、加熱処理をした菌体を老齢期に骨粗鬆症を発症する老化促進モデルマウスに投与すると、老化の進行に伴う大腿骨骨密度の減少の抑制や皮膚の劣化を軽減するなどの老化抑制作用を有することを見出した。ヒトにおいては、H61 株で製造したヨーグルトや加熱処理菌体の摂取による肌の状態の改善を報告している。本稿では H61 株の前述の機能について、詳しい作用、メカニズム解析の進捗状況に加え、今後の展開について述べる。
著者
渡辺 幸一
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 = Journal of Japan Society for Lactic Acid Bacteria (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.153-161, 2011-11-10
参考文献数
21
被引用文献数
1 5

何世紀にも渡ってモンゴルの遊牧民は非常に多種の伝統的発酵食品を作り続けている。モンゴルの伝統的なアイラグ(馬乳酒)は、馬乳を原料に固有の乳酸菌による発酵と酵母によるアルコール発酵とによって作られる。アイラグばかりでなくタラグ(ウシ、ヤク、ヤギあるいはラクダなどの家畜の乳で作られたヨーグルト)は古来からモンゴル人の栄養源として重要な役割を演じてきた。これまで、モンゴルの伝統的発酵乳のプロバイオティクスとしての有用性を評価する目的で多くの研究がある。本稿ではモンゴルの伝統的発酵乳のアイラグとタラグにおける乳酸菌と酵母の多様性について概説する。
著者
木下 英樹 渡辺 真通 齋藤 忠夫
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.78-88, 2008-06-15 (Released:2009-09-10)
参考文献数
40

プロバイオティック乳酸菌は、宿主に対する様々な有益な生理的効果が報告されている。とくに、ヒト消化管への付着は、それらの諸作用を十分に発揮するために非常に重要な要素である。当研究室において、消化管ムチンの末端に発現している「血液型抗原」を認識する「血液型抗原認識性乳酸菌」が発見され、A型認識性レクチン様タンパク質としてSlpAが同定された。一方、病原菌(ピロリ菌など)も血液型抗原を認識することが知られており、多くの病原菌で血液型と感染発症の関連性が注目されている。最近、当研究室では強固にヒト大腸粘液層に結合していたLactobacillus plantarum LA 318株の菌体表層にグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)を見いだし、本酵素が血液型AおよびB抗原に結合することを発見した。また、結合には特徴的な血液型三糖構造が重要であることが判明し、GAPDHのN-末端側半分のNAD binding domainが付着に関与している可能性が示された。プロバイオティック乳酸菌の中でも、血液型付着能の特に高い選抜された「血液型乳酸菌」の利用により、将来的には血液型病原菌の競合的阻害や排除だけでなく、血液型抗原を同一レセプターとする食中毒原因菌や特定の腸疾患原因菌の排除を通して、各種疾病の予防や治療にも役立てられる可能性を確信している。
著者
岡田 早苗
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.3-12, 2018-03-10 (Released:2019-04-20)
参考文献数
53

著者が乳酸菌研究を始めた当時(1972 年頃)、植物質を原料とする発酵食品や発酵物試料から乳酸菌を分離する際や乳酸菌を同定する上で欠かせなかった乳酸の旋光性決定に困難さがあり、乳酸菌研究は非常に時間がかかるものという時代であった。当時これらが要因となり、多数の乳酸菌株を一時期に取り扱うことが困難な時代であった。著者はこれらの点を改善し、発酵食品などに生息する乳酸菌を幅広く扱えるようにしたと同時に、日本を含む東~東南アジアの国々(地域)での様々な伝統発酵食品(ほとんどが植物質を原料とする)に関わる乳酸菌の分離と収集をしてきた。これらの研究の中で、植物質環境は多様であり、そしてそれぞれの環境の中にいる乳酸菌の株レベルでの個性も多様であることを経験してきた。植物質を原料とし、乳酸菌による発酵を加えた新しい食品を模索するとき、乳酸菌の株レベルの個性が重要であることを明確にしてきた。また研究を続ける中で難分離の乳酸菌にも遭遇し、新たな分離法も考案した。この総説では乳酸菌の株レベルでの個性が応用利用を図る際に重要であることも示した。
著者
鷺谷 敦廣
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.207-213, 2010
被引用文献数
4

<i>Lactobacillus acidophilus</i> L-92 株 (以下、L-92 株)は抗アレルギー効果の高い乳酸菌として選抜された。そしてこれまでに、L-92 株は、花粉症、通年性アレルギー性鼻炎、およびアトピー性皮膚炎といったアレルギー疾患の症状改善に有効であることが示されている。また、L-92 株は、乳酸菌の抗アレルギーメカニズムとしてよく知られているTh1/Th2 バランスの改善のほか、活性化T 細胞へのアポトーシス誘導や制御性T 細胞の誘導など、複数のメカニズムを介して抗アレルギー作用を示すことが明らかになってきた。本稿では、これまでに明らかになったL-92 株のヒトに対する抗アレルギー作用とそのメカニズムについて紹介する。
著者
五十君 靜信
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.101-105, 1998-03-31 (Released:2012-09-24)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1
著者
平岡 吏佳子 宇田 勲 仲野 翔太 霜村 典宏 會見 忠則
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.196-203, 2016-11-18 (Released:2017-12-02)
参考文献数
18

植物由来乳酸菌の胃酸耐性機構を明らかにすることを目的に、植物由来胃酸耐性乳酸菌 Lactobacillus plantarum FSCM2-12、 NBRC 109604、 NBRC 101975、及び胃酸感受性乳酸菌 Lactobacillus brevis FSCT-2 を用いて、その胃酸耐性と形態学的特徴との関係を調べた。 L. plantarum FSCM2-12 の人工胃液耐性試験において、炭素源としてグルコース、フルクトースまたはスクロースを添加した培地では、平均生残率が 70% 以上であったが、グリセロールを添加した培地や炭素源を加えない培地では、著しく生残率が低下した。 L. plantarum FSCM2-12 のバイオフィルム形成は観察されなかったが、 Hiss 染色により莢膜陽性で、透過型電子顕微鏡観察でも明瞭な莢膜が観察できた。さらに、莢膜の厚さと胃酸耐性との間には顕著な正の相関が見られ、グルコース、フルクトース、スクロースを炭素源とした場合において、厚い莢膜を形成し、 70% 以上の平均生残率を示した。 L. plantarum NBRC 109604 と L. plantarum NBRC 101975 においても、 L. plantarum FSCM2-12 と同様に高い胃酸耐性と厚い莢膜が観察されたことから、厚い莢膜を形成したことが、高い生残率の要因と考えられた。
著者
岡田 信彦
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.27-35, 2010 (Released:2010-09-29)
参考文献数
45
被引用文献数
1

細菌は、増殖の定常期状態やアミノ酸・糖などの栄養が枯渇した環境あるいは酸化的ストレスなどのストレス環境下では、緊縮応答 (stringent response) によってこれらの環境変化に適応し、生存を可能にする。緊縮応答時には、細胞内にguanosine-3,5-tetraphosphate(ppGpp)が蓄積し、これが種々の遺伝子の転写活性を調節する遺伝子発現 mediatorとして機能する。大腸菌において、ppGpp は RNA合成の抑制および定常期シグマ因子(RpoS)の細胞内蓄積を促進し、結果として細胞内の代謝やDNA合成を抑制する。大腸菌や Salmonellaでは、ppGpp は2つの遺伝子、relA および spoT にコードされる ppGpp 合成酵素により合成される。Salmonella のように宿主細胞内で増殖できる細胞内寄生細菌にとって、宿主細胞内環境は栄養分が制限されるだけでなく、生体防御反応による種々のストレスも加わり、生存に不利な環境条件であることから、緊縮応答は、細胞内環境に適応するために重要な応答機構として機能するものと予想される。本稿では、ネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)において、ppGpp により遺伝子発現調節される緊縮応答タンパク質をプロテオーム解析により網羅的に同定し、さらに、ppGppに発現制御される新規病原因子を同定したので紹介する。
著者
岸野 重信 小川 順
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.58-65, 2017-06-26 (Released:2018-08-31)
参考文献数
15
被引用文献数
1

食品成分の代謝には、宿主の代謝のみならず、腸内細菌による代謝が少なからず関わっている。したがって、腸内細菌による食品成分の代謝を把握し、代謝産物が健康に与える影響を評価することが、健康維持のためにも重要である。本総説では、脂質、特に不飽和脂肪酸の代謝に関する最近の知見について紹介する。食用油脂に広く含まれているリノール酸が腸内細菌の代表でもある乳酸菌により飽和化される新規な代謝が見出され、水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸、共役脂肪酸などが代謝中間体として存在し、さらにこれらの代謝中間体が宿主組織において腸内細菌依存的に存在することが明らかとなった。また、これらの代謝中間体が、脂質代謝改善作用、抗糖尿病作用、腸管上皮バリア保護機能、抗炎症作用、抗酸化作用など、様々な生理機能を有することも見出している。これらの知見は、腸内細菌の脂肪酸代謝に依存して生成する特異な脂肪酸が、宿主の健康に何らかの影響を与えている可能性を示している。さらに、様々な不飽和脂肪酸代謝に関わる乳酸菌由来酵素群を活用することにより、様々な修飾脂肪酸を生産することが可能となることから、今後さらなる機能性脂肪酸開発が期待される。
著者
佐々木 泰子
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.167-175, 2016-11-18 (Released:2017-12-02)
参考文献数
28

乳酸菌の遺伝子操作が本格化したのは 1980 年代後半であり、乳酸菌独自のベクターの探索に始まり、染色体への組み込みベクターの開発、さらに乳酸菌の特徴である“food-grade”な安全マーカー・ベクター・挿入遺伝子などが開発されて大いに進展した。 21 世紀に入りゲノム時代に突入すると、重要な産業株のゲノム解析が始まり、ゲノム情報を利用したトランスクリプトーム・プロテオーム・メタボローム研究が活発化した。ポストゲノム研究によって乳酸菌全体の代謝やストレス応答を鳥瞰的に捉えることが初めて可能となった。その後オーム解析の対象は単菌から複合系へと進展を見せ、発酵食品や腸内菌叢を構成する菌のメタ解析が行われ、 30 年前とはケタ違いの情報の蓄積が得られている。筆者は 1987 年にヨーグルト発酵を担う乳酸菌の研究を開始して上記の乳酸菌研究の時代の流れそのものと向き合ってきた。格段の進展が認められる乳酸菌研究であるが、その一方で未だに遺伝子操作が出来ない菌も多い。特に発酵食品に使用されてきた乳酸菌産業株は、外来遺伝子の攻撃に強い株が繰り返し選抜されてきた結果、形質転換が困難になったと推定される。以上 30 年の筆者らの研究の流れを紹介してみたい。
著者
西山 啓太 向井 孝夫
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.176-186, 2016-11-18 (Released:2017-12-02)
参考文献数
64
被引用文献数
1

Lactobacillus 属や Bifidobacterium 属は、哺乳類の消化管に生息する共生細菌である。非運動性のこれらの細菌にとって、宿主腸粘膜への付着は、流動的な腸内環境で定着を有利にする生存戦略のひとつであると考えられる。近年、 Lactobacillus 属や Bifidobacterium 属の遺伝子ツールや解析技術が確かなものとなり、菌体表層のアドヘシンを介した宿主腸粘膜との相互作用が分子レベルで明らかにされてきた。本総説では、近年研究が進んでいる Sortase 依存性の表層タンパク質である Mucus-binding proteins(MucBPs)と線毛に着目し、これらを介した Lactobacillus 属や Bifidobacterium 属の腸粘膜への付着性に関わる分子機構について、我々の研究成果を交えながら述べたい。さらに、 Lactobacillus 属の付着特性を利用した病原細菌の感染予防に関する取り組みについても紹介したい。
著者
大橋 雄二
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.118-124, 2006 (Released:2011-06-14)
参考文献数
62
被引用文献数
3 3

プロバイオティクスは多くの保健効果を持つ。その効果は腸内細菌叢とその活性を改善することによりもたらされる。摂取したプロバイオティック乳酸菌と常在腸内細菌の間には共生や競合関係が存在し、その結果、乳酸菌数の増加など腸内細菌叢、腸内環境が改善されると推察される。常在腸内細菌叢はその形成過程において様々な要因を受け、各個人により異なる。腸内細菌叢が個人により異なることは、摂取したプロバイオティック乳酸菌と常在腸内細菌の関係が各個人で異なることを示し、腸内細菌叢の違いによりプロバイオティクス摂取によってもたらされる保健効果に個人差が生じると考えられる。常在腸内細菌はプロバイオティクスの保健効果に影響する重要な要因の一つである。
著者
岡田 早苗
出版者
日本乳酸菌学会誌
雑誌
日本乳酸菌学会誌 = Journal of Japan Society for Lactic Acid Bacteria (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.23-36, 2002-06-01
参考文献数
58
被引用文献数
5 14

Plant origin Lactic Acid Bacteria (POLAB), lactic acid bacteria associated with the fermentation of plant-materials, are discussed in this paper.<BR>If we mention about dairy fermented foods, we automatically think of yogurt, cheese, and LAB drink. These fermented foods were originated from Europe and West Asia, and mainly produced from milk which fermented by lactic acid bacteria (LAB). The author called &ldquo;dairy LAB&rdquo; for L AB concerning in the dairy fermented foods. The beneficially of dairy LAB for human health have been studied intensively in Europe and America.<BR>Whereas, in Japanese traditional fermented foods, plant origin are almost used as the raw materials. The well known fermented foods, such as Sake (alcohol beverage from rice), Miso (soybe an paste), and Shoyu (soy-sauce) are made from rice and soybeans. In the three mentioned above fermented foods, beside of molds and yeasts, LAB (L. sakei and Leuc. mesenteroides, Tetragenoco c cus halophilus) have also participate in the fermentation. Tsukemono (fermented vegetab les with salt), which consumed daily in various parts of Japan, LAB (L. plantarum, L. brevis, Leu. mesenteroides, etc. ) mainly have an important role for souring vegetables. Tsukemono is known as a food to promote Japanese health from long time ago. Moreover, as peculiar fermented drink, Awa-banch a and Goishi-cha (fermented tea leaves without salt in a big tub for ten days) produced in mountain area of Shikoku Island (Japan) were known as healthy foods in this area. It is recorded that large amount of Awa-bancha and Goishi-cha were consumed for long time in Japan. From the recent our researches, it is interesting that only L. plantarum equipped with DAP-peptidoglycan in cell wall participate in th e fermentation of these tea leaves because they can survive from tannic acids containing in the leave s. However, LAB equipped with Lys-peptidoglycan in cell wall unable to survive in this condition.<BR>In conclusion, traditionally, Japanese did not have any dairy fermented foods, but only had p lant materials fermented foods which benefit for health for long time. Therefore, the author empha s ize that &ldquo;plant origin lactic acid bacteria&rdquo;, which are associated with the fermentation of plant materials, have been important role for human health.<BR>The author consider following distinguish char a c teristics of POLAB<BR>-Compare with dairy LAB, POLAB are able to grow in environment with poor nutrition.<BR>-POLAB are able to survive from various inhibitory compounds produced by micr o o rganisms inhabit in plants.<BR>POL A B are useful for probiotics, the fermentation of agriculture biomass to collect lactic acid, and the biopreservative of raw-eating vegetables.
著者
遠藤 明仁 Leon M.T. Dicks
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.152-159, 2008 (Released:2010-09-29)
参考文献数
52
被引用文献数
2 2

Lactobacillus属細菌は発酵食品や動物消化管など幅広い環境に生息している細菌群であり、それらが持つ有益な働きから、乳酸菌の発酵食品や宿主の健康への影響を研究する上で、非常に重要な細菌群の一つである。現在、Lactobacillus属は 100 種以上の膨大な数の菌種で構成されており、それらの菌種は系統的に多岐に渡っている。前述の通り、Lactobacillus属細菌は産業にとって非常に重要な細菌群であるため、Lactobacillus属の系統的関係を扱った総説はこれまでに多くある。しかし、近年では毎年 10 菌種程度がLactobacillus属の新菌種として提案されているため、最新のLactobacillus属菌種の系統樹は、種間の系統関係の正しい把握のために大きな意味をもつ。更に、膨大なLactobacillus属の中には、通常言われているようなLactobacillus属の特徴と大きく異なる非典型的な特徴を持つ菌種も報告されているが、これらはこれまでの総説では全く扱われていない。そこで本総説では、Lactobacillus属菌種の最新の系統的位置関係とともに、特定の菌種のみが持つ非典型的な特徴について概説した。
著者
Haruki Kitazawa Takeshi Shimosato Masanori Tohno Tadao Saito
出版者
Japan Society for Lactic Acid Bacteria
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.11-20, 2005-06-01 (Released:2012-09-24)
参考文献数
61
被引用文献数
5 6

Many works on the biological functions of dairy lactic acid bacteria (LAB) have contributed to the application of LAB in functional foods and supplements in the global market. More recently, the new term “immunobiotics”, has been proposed to identify probiotic bacteria that promote health through activation of intestinal immunity from those with strictly local immunity, and expected for an appropriate evolutionary development. We have studied specific effector molecules and their receptor targets. Recently, we found that immunostimulatory AT oligonucleotide (AT-ODN), but not CpG ODN, from Lactobacillus gasseri JCM 1131T triggered. immune responses via Toll-like receptor 9 (TLR9), which has been identified as a particular receptor for bacterial DNA containing the specific sequence pattern of unmethylated CpG dinucleotide. Through the discovery of TLR9, possible molecular mechanisms in immune responses through bacterial DNA have been rapidly revealed in mice. Recently, we found that ATODN from Lactobacillus gasseri, possibly induces immunoactivation in Peyer's patches (Pps)via TLR9. We demonstrated that TLR9 is a receptor for not only CpG but also for non-CpG AT ODN as a result of the induction of nuclear factor-κB (NF-κB) activation by gene reporter assay. This review describes our recent study on the immunostimulatory activity of LAB via TLRs, especially TLR 9 and 2 and discuss future trends in the development of “Immunobiotic Foods” through intestinal immunoregulation mediated by “Immunobiotic” LAB via TLRs.
著者
室岡 義勝 山下 光雄
出版者
日本乳酸菌学会誌
雑誌
日本乳酸菌学会誌 = Journal of Japan Society for Lactic Acid Bacteria (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.72-79, 2003-12-01
参考文献数
25
被引用文献数
2

フィリピンの発酵食品「Burong Isda」よりデンプン分解能を有する乳酸菌を分離し,<I>Lactobacillusplplantarum</I>Ll37と命名した。このL137株は,15種類のプラスミドを保持し,その一部を欠失した株は,アミラーゼ分解能を失った。熱殺菌したL137株は他の乳酸菌株と比べ, 顕著にIL-12およびinter feron-γを誘導し,anti-casein IgEを抑制した。これは,乳酸菌がアレルギー脱感作する可能性をIL-12レベルで示した最初の報告である。また,L137株は移植ガン抑制作用を持ち,IL-12誘導と相関性があることが示された。この乳酸菌の有効利用を目的として,発現ベクターの開発をした。この過程で,脂肪酸合成の第1段階であるアセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子群の<I>acc</I>オペロンを発見し,乳酸菌の脂肪酸要求の特徴を明らかにした。乳酸菌由来<I>acc</I>や<I>ldh</I>プロモーターを利用して,コレステロール酸化酵素遣伝子およびダニアレルゲン遺伝子の発現に成功した。<BR>この様に,乳酸菌に新機能を付与することにより,コレステロール分解を促進する株あるいは,アレルギーの減感作に役立つなど,高機能プロバイオティクス細菌を創生する糸口が得られた。