著者
田邉 晴山
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.679-684, 2022-08-31 (Released:2022-08-31)
参考文献数
8

背景:オンラインメディカルコントロール体制には,24時間いつでも(常時性),直ちに(迅速性),適切な(適切性)指示,指導・助言がなされる体制が求められている。目的:オンラインMCの常時性,迅速性,適切性について実状を調査する。方法:消防本部もしくは地域メディカルコントロール協議会の9地域で調査を行った。救急業務において,特定行為実施のためのオンラインMCを受けることを目的に,救急救命士が,携帯電話などの発信ボタンを押した全発信(連続する50件)を対象とした。結果:地域ごとに50件のデータ,9地域450件のデータが収集できた。常時性について,発信がMC医にまでつながったものが445件(98.9%)であった。迅速性について,発信ボタンを押してからMC医につながるまでの時間は,1分未満が414件(93.0%)であった。結論:9地域におけるオンラインMC体制の常時性,迅速性,適切性に関する調査結果を報告した。
著者
原 正浩 長山 英太郎 印藤 昌智 森出 智晴 菩提寺 浩 坂東 敬介 稲童丸 将人 岡本 征仁
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.578-583, 2018-08-31 (Released:2018-09-01)
参考文献数
12

目的:病院前救護における脳内酸素飽和度(tissue oxygen index。以下,TOI)の上昇に影響を与える要因を明らかにする。方法:2015年9月1日〜2016年1月31日の間,心肺停止傷病者に対しNIRO-CCR1を用いてTOIを測定した。結果:データが取得できた109症例でTOI上昇を従属変数としたロジスティック回帰分析を行い,「発症目撃あり,応急手当あり,気管挿管あり,薬剤(アドレナリン)投与あり,医師同乗あり,胸骨圧迫交代あり,胸骨圧迫比率」は1より大きなオッズ比を示し,「男性,心原性,初期波形VF,除細動あり」は1を下回るオッズ比であったが,いずれも統計学的に有意な結果とはならなかった。結論:TOIに与える要因として気管挿管やアドレナリン投与にTOIを上昇させる可能性があり,除細動に胸骨圧迫中断を反映してTOI上昇が得られにくい可能性が示唆されたが統計学的に有意な結果とはならなかった。TOIに与える影響やその先にある心拍再開の期待値などを確立するためには,さらなる臨床研究が望まれる。
著者
原 正浩 上村 修二 大西 浩文
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.827-836, 2022-10-31 (Released:2022-10-31)
参考文献数
13

目的:ウツタイン統計データから,院外心肺機能停止症例の社会復帰率の都道府県間格差に影響を与える地域要因を明らかにする。方法:2006年4月1日〜2015年12月31日の全国ウツタインデータから分析を行った。結果:都道府県における社会復帰率が中央値の6.8%以上と中央値未満の2群で社会復帰率高値群・低値群を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行い,バイスタンダーによる心肺蘇生法実施率(オッズ比:1.194)および覚知から傷病者接触までの平均時間(オッズ比:0.015)が選択され,ともに有意な結果となった。決定木分析においても,もっとも重要な要因は覚知から傷病者接触までの平均時間(カットオフ値:8.95分)であり,次に重要な要因はバイスタンダーによる心肺蘇生法実施率(カットオフ値:51.05%)となった。結論:覚知から傷病者接触までの時間の短縮とBS-CPR実施率の向上に地域で取り組むことは社会復帰率向上につながる可能性が示唆された。
著者
小野 裕美 髙橋 誠一 上田 華穂 徳井 沙帆 千賀 大輝 猿谷 倫史 安齋 勝人 園田 健一郎 安藤 陽児
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.505-512, 2023-08-31 (Released:2023-08-31)
参考文献数
8

目的:病院派遣型救急ワークステーションの病院実習における実習指導体制の構築を図るため教育プログラムを改訂した。方法:病院実習の教育プログラム改訂前後において,実習担当者別に救急隊員の病院実習教育項目の実施数の変化や内容,また医師同乗出動の動画を使用した振り返りの有用性を検討した。結果:教育プログラム改訂後,担当者別では救命ICU看護師,認定看護師やフライトナースなど専門性の高い看護師の教育項目実施数に加えて,総実施数も増加した。医師同乗出動における動画を使用した振り返りでは,医師は救急隊の患者状態の評価や情報把握などについて高く評価していた。結論:教育プログラムの改訂によって,教育項目の総実施数の増加だけでなく,救急隊員の希望した救命ICUでの実施数の増加,また,医師同乗出動における動画を使用した振り返りにより,救急隊員の客観的な活動の把握が可能となり有用性が示唆された。
著者
小野寺 誠 後藤 沙由里 関根 萌 鈴木 光子 菅谷 一樹 大山 亜紗美 全田 吏栄 鈴木 剛 塚田 泰彦 伊関 憲
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.633-640, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
23

目的:福島市における救急搬送困難事案の推移および原因をコロナ禍発生前後で調査した。方法:2019年度〜2021年度の間に福島市内で発生した照会回数5回以上の救急搬送困難事案を対象に,年度別に発生数,事故種別,照会時間帯(平日日勤帯,平日夜間帯,土日祝日),医療機関の断り理由を検討した。結果:発生数は71件/82件/193件と2021年度で有意(p<0.001)に増加していた。事故種別検討では一般負傷が19 年度と比較して2021年度で有意(p<0.001)に多く,照会時間帯別にみると平日日勤帯の割合が2019年度と比較して2021年度で有意(p<0.001)に多かった。断り理由別では「ベッド満床」が2021年度で,2019年度, 2020年度と比較して有意(それぞれp<0.001,p<0.001)に多かった。結論:コロナ禍では需要と供給の両輪に対応可能な救急搬送システムを立案し,回復期・慢性期施設を含めた地域連携を構築することが重要と思われた。
著者
谷村 洋輔 坪井 重樹
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.665-668, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
10

症例は50歳代女性,家族歴なし。5,6年前から自然に軽快する腹痛を何度か自覚し,原因不明の腹膜炎と発熱で近医から発熱外来へ紹介された。腹部全体に腹膜刺激症状を認め血液検査で炎症反応の上昇を示すものの,その他の項目や画像検査で異常は指摘できなかった。 繰り返す症状のエピソードから,家族性地中海熱(familial Mediterranean fever,以下FMFと略す)を疑った。その後も同様の症状を繰り返すことから,FMFと臨床診断し専門機関に紹介した。関連遺伝子のMEFV遺伝子異常が同定され,FMFと確定診断した。コルヒチンの内服を開始し,発作の頻度,程度ともに著明に改善した。繰り返す発熱や腹膜炎・胸膜炎を呈する症例では,FMFを鑑別にあげる必要がある。
著者
入江 仁 青柳 有沙 杉山 佳奈 石澤 義也 花田 裕之
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.661-664, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
10

意識障害の原因が消毒用エタノールの誤飲であった高齢者の症例を経験した。患者は92歳,女性。既往歴に認知症があり施設に入所中であった。嘔吐,意識障害,ショック状態を呈し救急搬送された。施設職員より本人の部屋にある手指消毒用エタノールの容器の蓋が外され,内容量が減った状態で枕元に置かれていたと申告があった。血中エタノール濃度は300mg/dL以上(当院測定上限)であり,誤飲による急性エタノール中毒と診断し,即日入院とした。第2病日に血中エタノール濃度は189mg/dLまで低下し,意識レベルも改善したため,第5病日に他院へ転院とした。新型コロナウイルス感染症を契機に手指消毒薬はきわめて身近な存在となったが,一般的に用いられている消毒用エタノール溶液は濃度が80%程度であり,誤飲により意識障害などの中毒症状で受診に至る可能性があることを認識しておく必要がある。また,認知症を有する高齢者が誤飲しないための対策が必要である。
著者
安田 康晴 佐々木 広一
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.641-648, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
14

目的:救急現場用感染防止衣の除菌・洗浄方法と交換時期について検討すること。方法:ナイロン系をオゾン除菌(4カ月使用想定)と洗濯機で市販洗剤を用いた洗濯後に自然乾燥(50回)させ,耐水・ウイルスバリア性をASTM・JIS,繊維断面を電子顕微鏡で,除菌剤別噴霧を3カ月間の実使用で,不織布を乾燥機で乾燥させ,それぞれ繊維劣化を確認した。結果:オゾン除菌と洗濯後の繊維劣化は有孔膜フィルムナイロン系で認められたが,無孔膜フィルムでは認められなかった。除菌剤別噴霧の繊維劣化は塩素系除菌剤で,不織布製で乾燥機による乾燥で毛羽立ちや毛玉が認められた。結論:ナイロン系・不織布製とも,洗浄は洗濯機で塩素系以外の市販洗剤を用いた洗濯後に自然乾燥させる。除菌はオゾンと塩素系除菌剤は繊維劣化を生じるため繊維劣化が生じない除菌剤を噴霧する。交換は感染防止衣に亀裂や破損,毛玉,毛羽立ちが,不織布製は汚染が認められた場合とする。
著者
小林 諭史 隅 浩紀 福田 吉治 秋枝 一基 三宅 康史
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.628-632, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
10

自傷・自殺未遂の経験は将来の自殺死亡に関連する重要な単一の予測因子である。医療機関における自傷・自殺未遂の症例登録の仕組みが必要であることは,広く指摘されている。著者らは自傷および自殺未遂に関する全国的なレジストリシステム(JA-RSA)を開発した。2021年にプロトタイプ作成,2022年度より全国の救命救急センターに参加を依頼し,各共同研究機関で症例登録を開始した。JA-RSAの特徴は,わが国初の全国的かつ継続的な自殺未遂症例登録の取り組みであり,救命救急センターへ搬送された患者を対象としている。またJA-RSAは,実効的な自殺対策の施策検討や評価にも貢献することが期待される。登録が進むことで,自殺に至る危険因子や社会情勢の変化によるリスクの同定が可能になる。現在,約60の救命救急センターがJA-RSAに参加しているが,今後は全国約300のセンターの参画を目指し,自傷・自殺未遂の実態把握と積極的な自殺対策に活用していく予定である。
著者
佐々木 広一 安田 康晴
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.622-627, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
12

背景:近年,オゾンによる新型コロナウイルス不活化の研究が報告され,救急車内の環境表面などの殺菌のためオゾン発生器を導入する消防本部が増加している。しかし,救急車内でのオゾン拡散が均一となっているかは明らかにされていない。目的:救急車内のオゾン拡散状況を把握すること。方法:救急車内にオゾン発生器を設置し,救急車内の前部・中央部・後部でオゾン濃度を測定した。また,培養した細菌の死滅化を目視確認した。結果:オゾン濃度は各測定箇所での濃度差が認められ,機器が表示する濃度よりも,前部では低く,中央部と後部では高い濃度となった。菌の死滅化においても前部で残存が多く認められた。結論:有効CT値に未到達の箇所や過剰な濃度になっている箇所があり,車内拡散の不均一性が示唆された。殺菌できていない箇所がある可能性があり,オゾン殺菌によるメリット・デメリットを考慮し,効果的かつ安全性を確保したうえで適切に使用する必要がある。
著者
大西 新介 小野寺 良太 杉浦 岳 高橋 宏之 近藤 統 岡本 博之 大城 あき子 清水 隆文 森下 由香 奈良 理
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.469-474, 2019-06-30 (Released:2019-06-30)
参考文献数
8

目的:消防覚知段階の情報から墜落外傷のトリアージが可能か検討する。方法:2003年4月からの4年間に当院へ救急搬送された墜落外傷症例を導出コホート,検証コホートに分けて後方視的に調査した。まず墜落高の重症外傷(ISS≧25)予測能についてROC解析を行った。次に重症予測にかかわる因子の多変量解析を行い,スコアリングを作成し検証した。結果:導出コホート111例において墜落高の重症予測能はAUCが0.65であり,墜落高の閾値は4mとなった。多重ロジスティック解析では高所,高齢,受傷時の意識障害が独立した重症予測因子であった。それぞれの因子を1点としたスコアリングを用いるとAUCが0.76となった。検証コホート128例においてもAUCは0.77であった。結論:墜落外傷においては,墜落高だけではなく高齢,受傷時の意識障害の情報を付加することでより正確なトリアージが可能となる。
著者
竹井 豊 安達 哲浩 長谷川 恵 大松 健太郎 山内 一 神藏 貴久
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.105-109, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
9
被引用文献数
1

目的:初期評価は傷病者の処置などの優先順位を迅速に識別する重要な観察である。本研究では救急救命学科学生が呼吸・脈拍数を適切に識別できるのか確認した。方法:4年生大学救急救命学科学生105名を対象として,正常値(呼吸数12回/ 分,脈拍数80回/ 分)と異常値(呼吸数24回/ 分,脈拍数100回/ 分)に設定したシミュレータに対してモニター類を使用せず,それぞれ「遅い」「正常」「速い」の3分類で評価させた。結果:ほとんどの学生が異常所見を正しく識別できた反面,35%の学生が正常を正常と識別できなかった(呼吸12回/ 分:遅い38人・速い2人,脈拍80回/ 分:遅い8人・速い28人)。正常呼吸を正常と識別できた学生の所要時間は中央値で12秒(25-75% 信頼区間:10-16),できなかった学生は9.5秒(7-14.8)であった(p=0.007)。結論:正常呼吸・脈拍を正常と識別できない学生が35%にも上った。バイタルサイン測定の精度は高められなければならない。
著者
田口 裕紀子 城丸 瑞恵 澄川 真珠子 成松 英智
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.481-492, 2019-06-30 (Released:2019-06-30)
参考文献数
18

背景・目的:プレホスピタルケアは救急患者の転帰を左右するため,救急救命士には資格取得前から取得後も病院実習が義務づけられている。実習項目は看護から習得できるものが多く,指導医師の不足などから看護師が実習指導に携わる施設は多い。そこで看護師による救急救命士の病院実習指導の現状を明らかにするため質問紙調査を行った。方法:救急救命士の病院実習指導に携わる全国の救命救急センターに勤務する看護師490名に質問紙調査を実施。結果:実習教育プログラムがない,または不明確と認識している者は63.8%,実習の説明を受けていない者は69.2%であった。また,救急やプレホスピタルに関する資格・経験がない者は実習指導について十分に把握していない傾向にあった。考察:救急救命士の病院実習の充実化のためには,指導に携わる看護師が実習目標や指導内容を把握できるような体制整備や臨床経験の少ない者への支援など実習指導体制構築の必要性が示唆された。
著者
岩下 具美 前田 保瑛 髙橋 詩乃 岡田 まゆみ 三山 浩 島田 遼太郎 栁谷 信之
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.24-30, 2023-02-28 (Released:2023-02-28)
参考文献数
16

背景:救急救命士が行う医行為の質を担保する体制として病院実習(実習)がある。 救急隊の生涯教育にかかわる長野赤十字病院救命救急センター(以下,センターと略す)の取り組みを報告する。改変前:対象はセンターを管内とする消防本部(本部)のみであった。実習は1日当たり1名を受け入れ,主な項目は静脈路確保であった。救急隊を対象とする勉強会(勉強会)は夕方に年2〜3回不定期に開催していた。改変後:対象は,実習が地域メディカルコントロール協議会に属する全3本部,勉強会はセンターが担当する医療圏にある全5本部とした。実習は1日当たり2〜3名/本部を受け入れ,救急車現場出動時の医師搭乗,他隊搬送事案の見学,救急科入院患者検討会の参加などを新規項目に加えた。病院救命士を調整役とした。勉強会は日勤帯に毎月定時開催とした。結語:実習・勉強会の刷新は救急隊活動の質向上と消防本部間格差の均等化に寄与した。
著者
長島 公之
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.773-780, 2021-12-28 (Released:2021-12-28)
参考文献数
15

今般,法改正により救急救命士の業務場所が医療機関の救急外来まで拡大され,院内でのMC等に関する研修を受けることが義務づけられる方向である。日本医師会は,相当程度の教育・研修体制とMCが必須であり,需給見通しに基づく養成の視点も重要であることを表明している。今回,これまでの検討経緯と人口変動に関する資料より,業務場所の拡大に伴う教育とMC体制について考察を行った。これまで病院前救護体制を担う職種として制度設計,養成されてきた救急救命士が,医師や看護師等多様な職種が就業する医療機関内で業務を行っていくためには,日々のMCや研修を通してチーム医療の一員となることが求められる。また,超高齢社会,少子化による人口減少社会が進展し,地域医療構想による病床機能の分化,地域包括ケアシステムの構築が進められているなか,医療機関救急救命士に対するMCと研修にも院内外の連携の視点が取り入れられることが重要である。
著者
坂脇 園子 武山 佳洋 坂脇 英志 俵 敏弘 岡本 博之
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.759-770, 2020-12-28 (Released:2020-12-28)
参考文献数
9

背景:救急救命士の生涯教育充実のため,北海道は独自に指導的救急救命士制度を平成24年に創設し,道南圏は平成26年に運用を開始した。目的:指導的救急救命士が生涯教育に及ぼした効果を検討する。方法:5年間の救急活動内容,生涯教育時間,指導時間を検討項目とし後方視的に検討した。また,アンケート調査を行い教育効果・課題を検討した。結果:指導的救急救命士は24名養成され,各消防本部に1〜6名が配置された。救急救命士による静脈路確保数,薬剤投与回数は大幅に増加した。消防本部内の指導時間は約7時間/ 年(救命士1人当たり)であり,生涯教育時間は増加傾向にあった。アンケート調査では,消防本部内研修や病院実習がより充実したという声が多かったが,課題についても明らかとなった。考察:救急活動の改善,生涯教育時間の増加や内容の充実化が示唆され,今後も本制度を指導者養成制度として活用したいと考える。
著者
柴橋 慶多 坂井 豪 杉山 和宏 濱邊 祐一
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.788-793, 2020-12-28 (Released:2020-12-28)
参考文献数
13

目的:東京消防庁が交通外傷患者のトリアージに活用している「観察カード」記載項目の陽性的中率を評価する。方法:2013〜2016年の間に当救命救急センターに搬送された15歳以上の交通外傷患者を対象とした。重症判断理由を後方視的に調査し,実際の重症度と対照して観察カード各項目の陽性的中率を算出した。結果:801例が解析対象となった。生理学的または解剖学的異常に基づいてそれぞれ268例と49例が重症と判断され,陽性的中率はそれぞれ62%と47%であった。受傷機転に基づいて重症と判断された484例の陽性的中率は17%であった。陽性的中率は受傷機転によって異なり,「車の横転」,「車の高度損傷」,「救出に20分以上を要した」の的中率は12%未満であった。結語:受傷機転に基づく交通外傷患者重症判断の陽性的中率には各項目間に差がある。病院前トリアージ基準の妥当性を検証すべく,さらなる調査研究が求められる。
著者
西 大樹 清水 光治 矢敷 和也
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.782-788, 2022-10-31 (Released:2022-10-31)
参考文献数
11

目的:病院前救護の場において,救急救命士の経験数など,静脈路確保成功に影響を与える因子を明らかにする。方法:白山野々市広域消防本部の2013年4月〜2019年3月までの7年間で静脈路確保が実施された1,141件を対象とした。結果:年齢,心停止有無,実施場所,留置針口径,救急救命士経験年数,年間静脈路確保経験回数が静脈路確保成功に影響を与えていた。また,救急救命士経験年数3年以下と比較して4年以上,年間経験回数14回以下と比較して15回以上の成功率が有意に高かった。結論:本研究から救急救命士経験年数と年間静脈路確保経験回数が病院前救護における救急救命士の静脈路確保成功に影響していると明らかになった。また,今回の研究内容が当消防本部と同規模で病院研修カリキュラムの再構築を考えておられる方々の一助になれば幸いである。
著者
石川 幸司 林 裕子 山本 道代
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.489-496, 2023-08-31 (Released:2023-08-31)
参考文献数
17

背景:看護師は実際の急変場面で落ち着いて実践することが困難であると指摘されている。目的:本研究の目的は,救急領域のジェネラリスト看護師を対象に急変対応時に生じる生理的・心理的な生体反応を明らかにすることである。方法:シミュレータで急変場面を再現し,急変対応時に生じる生体反応として自律神経活動,脳波,唾液アミラーゼ,バイタルサイン,心理的反応(STAI)を測定した。データは安静期,実践期間を急変に気づくまで,気づいてから終了までの期間に分類して比較検討した。結果:副交感神経活動HFは,安静期から実践期間,終了まで有意な変化は認められなかった。一方,交感神経活動LF/HFは安静期に比べ,実験開始0.9から急変に気づくまでの期間で3.6と有意に上昇し(p=0.003),急変に気づいてから1.2へ低下した。心理的反応に変化はなかった。結論:ジェネラリスト看護師の急変対応は,交感神経の活性化を認めたが,急変と認識した後も落ち着いて対応していた。
著者
清水 健太郎 北村 哲久 前田 達也 小倉 裕司 嶋津 岳士
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.473-479, 2023-08-31 (Released:2023-08-31)
参考文献数
23

背景:高齢者の救急搬送におけるDNAR(do not attempt resuscitation)の影響を地域網羅的に検討した報告はほとんどない。方法:大阪市消防局の救急搬送記録を用いて,救急隊が医療機関を選定した65歳以上の心停止症例1,933例を対象に検討した。三次医療機関への搬送の有無を目的変数とし,年齢,初期心電図波形,発生場所,DNARなどを説明変数として多変量解析を行った。結果:心停止症例1,933例において,DNARの保持率は8.3%であった。DNARの有無は三次医療機関への搬送選定に関して有意差があった(DNAR有8.1% vs 無45.5%,p<0.05)。発生場所が老人ホームの372件に関しても同様に有意差があった(DNAR有7.2% vs 無33.0%,p<0.05)。三次医療機関への搬送を目的変数として多変量解析を行うと,年齢,初期心電図波形,発生場所,普段の生活状況,DNARに統計学的有意差があった。とくに,DNAR有のオッズ比は0.157(95%信頼区間(0.088-0.282)であった。考察:高齢者心停止症例の救急搬送時には,DNARに対する意思表明が三次医療機関への搬送を有意に減少させていた。心停止症例に対し適切な医療を提供するために,アドバンス・ケア・プランニング,地域と救急医療機関とのより密接な連携が重要と推察された。