著者
高橋 有里 武田 利明
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.257-265, 2015 (Released:2016-04-01)
参考文献数
19
被引用文献数
3

精神科領域で使用される筋肉内注射製剤に起因する硬結に関し,看護師の経験と患者への思いを明らかにすることを目的に,質問紙調査および聞き取り調査を行った.その結果,つぎのことが明らかになった. 多くの看護師が硬結を経験しており,処置上の不都合を自覚,また,患者の困っていた様子を感じていた.硬結の性状は,薬剤の種類による特徴があり,特に油性の持効性注射剤に起因する硬結が大きく重症であった.看護師は,硬結に対しさまざまなケアを行っていたが,対峙する内容や,わからない,何もしていないとの回答もあった.自身が行っているケアによる硬結の改善の兆候は感じられていなかった.看護師は硬結が発生した患者に対し,同情や自責の念,専門職としての責務を自覚しつつも,有効性を実感できるケアを提供できておらず,硬結予防や硬結ケアに対し確かな方法を求めていた.
著者
炭谷 正太郎 渡邉 順子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.81-86, 2016-04-20 (Released:2016-06-06)
参考文献数
8

新人看護師 (以下FN) の血管確保技術に対するベテラン看護師 (以下VN) の教示内容をもとに技術の要素を抽出し,血管確保の成否にかかわる技術を可視化した. FN21名による留置針を用いた血管確保を実践したあと,VN5名によるFNに対する教育的介入を実施した.教育的介入場面の録画から逐語録を作成し,VNにより教示された技術内容ごとに,A (Antecedent:先行条件),B (Behavior:行動),C (Consequence:結果) に分類した.先行条件であるVNの教示内容をもとに血管確保の成否にかかわる技術の要素を抽出し,血管確保技術の開始から終了までをJIS規格 (JISX0121-1986) に準じアルゴリズムによって可視化した.その結果,FNが留置針を血管内に刺入を果たし血液の逆流を確認してから内針を抜去する間に技術的課題が判明した.FNが自己の技術を客観視し,FNの技術を正確に振り返るためには本アルゴリズムの活用は有効と考える.
著者
佐久間 愛里 髙橋 由紀 大江 佳織 北島 元治 吉田 和美 松田 たみ子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.80-89, 2018 (Released:2018-08-20)
参考文献数
23

本研究は, 心疾患患者のセルフケアの拡大に向けてより安全な自己清拭動作の方法を開発するため, 心臓の負荷状態と自己清拭動作の継続時間との関係を明らかにすることを目的として行った. 実験は, 健康な成人男性10名を対象とし, 60度のベッド拳上座位で両上肢・胸腹部位の自己清拭動作を行い, 実施前・中・後を通して心拍数・血圧・分時酸素摂取量 (VO2) を測定し, 心筋酸素消費量 (DP) を算出した. 各部位を拭く回数は往復5回と往復10回とし, 50回/分の速さで実施した. その結果, 動作中に心拍数・DP・VO2は有意に増加を認め, VO2においては継続時間に伴い増加傾向を示し, 低強度の活動であっても継続時間に伴い心臓への負荷が大きくなることが明らかとなった. さらに, 動作中は呼吸循環動態や代謝が高まることから, 心疾患患者への安全な自己清拭の実施において, 心拍数を目安に心臓への負荷状態を考慮するとともにケアの継続時間を検討する必要性が示唆された.
著者
沼田 祐子 角濱 春美 大久保 暢子 早瀬 良 佐々木 杏子 三上 れつ 菱沼 典子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.95-103, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
24

根拠のある新しい看護技術の普及は看護にとって喫緊の課題である. この課題に対し, イノベーションという言葉がしばしば用いられるが, その意味するところはあいまいである. そこで本研究は, 根拠のある新しい看護技術の普及戦略モデルを構築するために, 現在の日本の看護における「イノベーション」の概念を明らかにすることを目的とした. 研究方法はRodgers (2000) の概念分析の手法を用い, 「イノベーション」「看護」を含む和文献15件を分析した. その結果, 日本の看護におけるイノベーションの先行要件は, 問題の存在に気づき, 解決するために新しい技術を採用する過程であり, その過程に作用する要因があった. 属性は既存の看護技術や行動様式にとり替わる根拠に基づく技術の内容であり, その技術が組織に取り入れられることが一次的帰結, 取り入れた技術の施行による成果が二次的帰結であった. 看護におけるイノベーションは, 先行要件から帰結まで, 新しい看護技術の普及過程を示すものであり, 普及に影響する要因を含むものであった.
著者
工藤 由紀子 武田 利明
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.64-71, 2013-08-20 (Released:2016-07-08)
参考文献数
18
被引用文献数
1

日本では看護師が患者の発熱時に腋窩や鼠径部等への複数クーリングを行うことが多いが,その効果については根拠が乏しい.今回,複数クーリングが患者の深部温,血圧,心拍変動に及ぼす影響について明らかにすることを目的に,患者3名の事例検討を行った.複数クーリングの必要性を決断したときの腋窩温は38.0~38.3℃であった.複数クーリングの方法は病棟で普段行われている後頭部,両腋窩の3点クーリングとした.その結果,1名は深部温が低下し,HFがやや上昇,収縮期 ・ 拡張期血圧,心拍数,LF/HFは変動が少なく安定していた.この事例の深部温の低下は複数クーリングによって解熱が図られたのではなく,発熱後の体温の下降期を示している可能性が推察された.また2名については深部温の低下が認められず,そのうち1名は拡張期血圧の低下,心拍数の増加がみられ,もう1名は収縮期 ・ 拡張期血圧の上昇,心拍数の大きな変動がみられた.
著者
武田 利明
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.66-70, 2004-04-30 (Released:2016-10-25)
参考文献数
13
被引用文献数
3

筋肉内注射用薬剤が皮下組織に投与された場合の組織傷害性の有無について, 実験動物を用い検討した. 使用薬剤として, 筋注用製剤である硫酸カナマイシン, 硫酸ストレプトマイシン, アタラックス-P, アスドリンの4剤を選択した. 動物の種差による生体反応の特性や違いについても考察できるように, ラットとウサギの2種類の動物を実験に供した. 投与部位を除毛した後, 筋肉内および皮下組織に薬剤を投与し, 肉眼的検査と組織学的検査を実施した. その結果, 硫酸カナマイシンあるいは硫酸ストレプトマイシンを皮下組織または筋肉内に投与した場合, いずれの投与部位においても限局性で軽度な組織傷害が認められた. 一方, アタラックス-Pあるいはアスドリンを投与した筋肉内には重篤な炎症巣が認められ, 皮下組織では, 疎な組織内を薬剤が拡散し広範囲に潰瘍が認められた. このような傷害像は, ラットとウサギの両者に認められたことから, ヒトにおいても同様の組織傷害が認められる可能性が高いと考えられた. また, アタラックス-Pとアスドリンについては, いずれにもベンジルアルコールが添加物として含まれており, 特にこの添加物を含む筋注用製剤については, 確実に筋肉内に投与することが重要であると考えられた.
著者
生山 笑
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.43-47, 2008-09-05 (Released:2016-10-25)
参考文献数
5
著者
原 明子 川北 敬美 四谷 淳子 道重 文子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.133-138, 2019

 本研究の目的は, 被採血時に失敗された経験の有無に分け, 血管の深さと血管断面積との関係, 目視可否について明らかにすることである. 20歳以上の女子学生10名20肢を対象に, 被採血時の失敗経験無し群と被採血時の失敗経験有り群に分け両上肢の駆血前後の皮膚表面から血管までの距離, 血管径, 血管断面積, 目視による血管確認を行った.その結果, 皮膚表面から血管までの距離が2.1mm未満, 血管断面積が10.2mm²以上の血管をもつ上肢では, 被採血時の失敗経験無し群は20肢中12肢,被採血時の失敗経験有り群は20肢中1肢であった. これに対し, 皮膚表面から血管までの距離が2.1mm以上, 血管断面積が10.2mm²未満の血管をもつ上肢では, 被採血時の失敗経験無し群は20肢中1肢, 被採血時の失敗経験有り群は20肢中12肢であった. 被採血時の失敗経験有り群は, 皮膚表面から血管の深さは深く, 血管断面積も小さい割合が多いこと, また, 目視による可視化ができない割合も高いことから, 血管の選定が難しいと考えられ, 採血が失敗される要因であることが示唆された.
著者
吉良 いずみ
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.90-97, 2012-04-20 (Released:2016-07-08)
参考文献数
75

グリセリン浣腸は,近年実施に伴う有害事象の要因や技術の根拠を問い直す動きがある.日本におけるグリセリン浣腸の研究内容の動向を知り,現状の課題と今後の展望について検討する必要があると考え文献検討を行った.医学中央雑誌 web版 1983~2011年で「 (浣腸 andグリセリン) or (グリセリン浣腸) 」として検索した結果 62文献が得られた.研究内容と年代別の動向を検討したところ,グリセリン浣腸実施場面には「基礎教育における技術演習」「検査前処置」「実験室」「術前処置」「治療」「分娩前処置」「便通調整」「臨床現場」があった.また,有害事象の要因やグリセリンの作用機序に関する研究が進められ,実施方法や看護技術テキストの記載内容,安全な実施方法も継続して検討されていた.グリセリン浣腸は実施の必要性が検討され実施数が減少し他の方法に代替される傾向があるが,安全な実施方法や有用性は早急に提示される必要がある.
著者
堀 美保 三浦 真弘 荒尾 博美 原田 千鶴 島田 達生
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.20-28, 2009-06-05 (Released:2016-08-25)
参考文献数
21
被引用文献数
2

皮神経は静脈注射時において損傷する恐れがある. 本研究では, 顕微鏡を用いてヒト上肢の局所解剖を行い皮静脈と皮神経の関係を調べた. 本検索には解剖体 6 体 7 肢を用いた. 皮静脈は, 皮下脂肪が少ない個体では表皮から約 1 ~ 2 mm に位置しており, 皮下脂肪が多い個体では表皮から 5 ~ 10 mm の深い位置に位置していた. 内側前腕皮神経の 2 つの枝は尺側皮静脈の内側, 背面もしくは側方を近接して走行していた. 尺側皮静脈と肘正中皮静脈は, 内側前腕皮神経の側面, 背面を走行していた. 外側前腕皮神経の 2 枝は, 橈側皮静脈の両側を伴行する特徴を見出した. 1 つもしくは 2 つの枝は,内側前腕皮神経か外側前腕皮神経のどちらか一方が肘正中皮静脈に分岐していた. 皮神経は, 尺側皮静脈において多く, 肘正中皮静脈で最も少なかった. 皮静脈と皮神経の位置的関係を正確に知ることは安全な静脈注射技術を獲得するうえで重要な情報であると考える.
著者
宍戸 穂 矢野 理香
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.172-182, 2016-08-20 (Released:2016-09-30)
参考文献数
45

本研究の目的は, 清拭方法, 研究デザイン, 測定方法とそれらに基づく効果にどのような特徴があるかということに焦点をあて, 清拭に関する国内外の先行研究の内容と動向を明らかにすることである. Cooperの統合的文献レビューの方法を参考に行った. 国内文献は医学中央雑誌web版, 海外文献はCINAHL web版およびPub Medを用いて, 「清拭」をキーワードとし, 文献検索を行った結果, 24件の国内文献と9件の海外文献が分析の対象となった. 国内では, 主に健康成人を対象とした新たな清拭方法の検討, 海外では患者を対象に他の清潔援助と比較した清拭の有効性の検証がされていた. 清拭が心身に及ぼす影響として, 清浄度および角質水分量が上昇するが, 皮膚表面温度は清拭方法によって異なること, 対象者の不安や不快を緩和する可能性があることが明らかとなった. しかし, 測定に使用した器具が異なることや尺度が統一されていないため, 清拭方法による効果の差違や主観的評価と客観的評価の関連については明らかになっているとは言えなかった.
著者
小林 しのぶ 金子 有紀子 柳 奈津子 小板橋 喜久代
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.27-33, 2010-12-20 (Released:2016-08-25)
参考文献数
17

本研究の目的は,リラクセーション外来受診者の特性および外来でのリラクセーション技法実施の効果を明らかにすることである.A病院リラクセーション外来受診者113名 (49.0±13.5歳) を対象に主訴,受診理由,ストレス状態を調査した.また,受診者113名の延べ378回のリラクセーション技法実施前後に血圧,脈拍,リラックス尺度を測定した.その結果,精神的健康診断パターン検査 (MHP-1) から,受診者は高いストレス状態にあることが確認された.また,8割近い受診者が精神的訴えを抱え受診することが明らかになった.受診理由は「心身の安定を図りたい」が最も多く,受診者の7割以上があげた.リラクセーション技法実施前後の比較では,実施後に血圧と脈拍数が有意に低下し (p<0.001),主観的指標のリラックス尺度得点は実施後に有意な上昇が認められ (p<0.001),リラクセーション技法により,心身両面からリラックス反応が得られた可能性が示唆された.
著者
前田 耕助 習田 明裕
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.61-70, 2018

&emsp;足部への異なる温度刺激が前頭前野の脳血流量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした. 健常成人25名の足部に40℃, 16℃, 30℃の温度刺激を180秒間実施し, 近赤外分光法による左右の前頭前野の脳血流量の変化と温度の感じ方, 気持ちよさの主観的評価を行った. 結果, 左前頭前野の群内比較では, 40℃の温度刺激は安静時にくらべて温度刺激開始から120秒で脳血流変化量が増加し (<i>P</i><0.05), 群間比較では, 開始から60秒と120秒で40℃の温度刺激は16℃の温度刺激にくらべて大きかった (<i>P</i><0.05). 一方右前頭前野は変化を認めなかった. 主観的指標では, 40℃は「温かい」感覚刺激で「快感情」を伴い, 16℃は「冷たい」感覚刺激で「快ではない感情」を伴った. これらより足部への「温かい」感覚刺激による「快感情」は, 「冷たい」感覚刺激による「快ではない感情」より左前頭前野の脳血流量を増加させるが, 右前頭前野の脳血流量に変化を及ぼさないことが明らかとなった.
著者
松島 正起 角濱 春美
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.14-22, 2020-04-20 (Released:2020-04-20)
参考文献数
36

本研究の目的は, 看護師の注視と認知に関する先行研究の結果を, 扱われている観察場面をもとに整理し, 看護師の認知を妨げるバリアが認知心理学における認知過程のどこに, どのような要因から生じるのか検討することである. 看護師の認知を妨げるバリアには, 「何を観察すべきか分からないと観察すべき箇所を注視できない」「行為に関する情報に多くの注意が配分されると周辺情報を注視できない, または周辺情報を注視しても認知できない」「知識, 経験がないと, 観察すべき箇所を注視しても認知できない」が考えられた. 観察場面には患者周囲環境と危険認知, 看護行為中があったが, 患者が不快な状態への看護師の注視と認知を明らかにした研究はなかった. 今後の課題として, 患者の不快への看護師の注視と認知について調査する必要がある.
著者
新井 直子 砂見 緩子 高橋 幸子 斉藤 倫代 伊藤 文子 加藤 志保子 堀内 裕子 寺山 範子 後藤 一雄
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.26-32, 2018 (Released:2018-04-20)
参考文献数
11

臨床現場では, 手洗い後に手を拭いたペーパータオルで洗面カウンター表面環境の水滴を拭き取る行為が日常的にみられる. 本研究では水滴拭き取り行為による手指の汚染の可能性を, ATP (Adenosine Tri Phosphate : アデノシン三リン酸) を用いて検証することを目的とした. 対象は看護学生および教職員13名とし, 無菌手袋を装着した状態で, 流水手洗い後にペーパータオルで洗面カウンター表面環境の水滴を拭き取る前後の手袋表面 (手掌・指先・指間) のATPを測定し, 拭き取り前後のATPの比較, 拭き取り後のATPと実験環境のATP, 使用したペーパータオルに関する関連を検討した. その結果, 手掌・指先・指間いずれも拭き取り後にATPが有意に増加し, 洗面カウンター表面環境の水滴を拭き取る行為は, 手指の汚染を引き起こす可能性を示唆した. 手袋表面と測定環境のATPおよびペーパータオル枚数に相関は認めなかった. 本結果は, 手洗い後の水滴拭き取り行為に注意喚起を促すものである.
著者
鶴木 恭子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.50-55, 2010-12-20 (Released:2016-08-25)
参考文献数
5
被引用文献数
2

本研究は,重曹を清拭時の清拭剤として使用した場合,温湯清拭に比べて皮脂を除去する効果はあるのかについてと,発赤や.痒感など皮膚への影響を明らかにする目的で行った.被験者は女子学生14名である.重曹をお湯に溶かし,そのお湯に浸したタオルを絞り前腕を清拭し,pH,角質水分量,発赤の観察,アンケート調査を実施した.対照群として,もう片方の前腕には温湯清拭を行い同項目の測定を行った.その結果,重曹清拭が温湯清拭よりも皮脂を除去できるかどうかについては明らかにすることはできなかった.しかし,清拭後の皮膚が弱酸性に戻りやすい清拭剤になる可能性があることがわかった.発赤と.痒感については1例の出現もなかった.今回の結果は,重曹を用いた清拭は皮脂を除去できないと断定できるものではなく,皮膚pHの結果から推測すると重曹の作用を皮膚に与えることができなかったためではないかと考える.このため,今後は重曹の作用を皮膚に与えられる絞り方など方法を検討し,重曹清拭の影響を明らかにしていきたい.
著者
中野 元 四十竹 美千代 西条 寿夫 堀 悦郎
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.43-53, 2020-08-20 (Released:2020-08-20)
参考文献数
30

手浴による自律神経反応および中枢神経反応を調べる目的で, 対象者を交感神経優位群と副交感神経優位群に分けて検討した. 自律神経反応は心拍変動解析により, 中枢神経反応は近赤外分光法を用いた脳血行動態により前頭葉の活動を調べた. 健常成人男女20名を対象とし, 38℃で5分間の手浴実験および対照実験を行った. その結果, 交感神経優位群では, 手浴により交感神経活動が低下し, 副交感神経活動が亢進した. また, 主観的な気分の変化として, 手浴によりリラックス感が上昇していた. 一方, 副交感神経優位群では, 手浴により交感神経活動が亢進し, 副交感神経活動は低下した. 手浴による中枢神経系の反応として, 副交感神経優位群では背外側前頭前野および前頭極の活動が亢進した. また, 対照実験でみられた副交感神経優位群における活気の低下が, 手浴により抑制されていた. 以上のことから, 手浴は中枢神経系を介して自律神経および主観的気分のバランスを整える可能性が考えられる.
著者
能登 裕子 村木 里志
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.97-107, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
19

本研究は, 車いすの段差乗り上げ時の介助操作の容易性向上, 介助負担の軽減を目的とし, ティッピングレバーの形状と位置を比較検討した. 介助者は高齢女性15名とした. 形状3条件, 位置6条件 (高さ2条件, 長さ3条件) のレバーを用いて, レバー踏み込み動作時の足底圧, 筋活動, 姿勢角および主観評価を計測し, 介助負担と操作の容易性を評価した. 形状条件では, 平坦型が円筒型にくらべ踏み込み面積の増加とともに踏み込みやすさが向上した. 位置条件では, 高さ2条件とも標準長さ+40mm以上のレバー条件にて, 踏み込み位置が踵側で行われるとともに筋活動の減少傾向を示した. また, 高さが低い条件では, 股関節と膝関節が伸展する傾向があった. 一方で, 車いすの速度と乗車者の乗り心地には変化がみられなかった. 以上の結果から, 踏み込み面の平坦化と標準長さ+40mm長さのレバーは, 乗車者の乗り心地を低下させることなく, 介助者の操作の容易性を高めることが示唆された.
著者
細野 恵子 井垣 通人
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.4-9, 2012-01-15 (Released:2016-08-01)
参考文献数
15

蒸気温熱シートによる湿熱加温が健康な若年女性の排尿回数および QOLに与える影響を明らかにする目的で,健康な若年女性 50名を対象に,1日の排尿回数を調査し,排尿回数が 7回/日以上の 15名を対象として,蒸気温熱シートを 3日間 (対照期 3日) 貼付 (腰部適用 7名,下腹部適用 8名 ; 平均貼付時間 9.3 ± 1.9/日) し,排尿回数とQOL,バイタルサインの変化を測定した.その結果,腰部あるいは下腹部への湿熱加温により,排尿回数の有意な減少を認めた.QOL (MOS36-Item Short-Form Health Survey-v2 ; SF-36v2) の変化では有意な改善は認められなかったが,下位尺度「日常役割機能 (精神) において改善傾向が認められた.38~40℃の穏やかな湿熱加温は自律神経活動を刺激し,交感神経活動の抑制あるいは副交感神経活動の亢進を促すことが報告されており,本試験においても湿熱加温による自律神経活動の変化が排尿回数の有意な変化および QOLの改善をもたらす可能性が示唆された.